Fate/boogif night


メッセージ一覧

1: もりす (2004/03/16 02:45:26)


「―――――――――Anfang(セット)」


月光が生み出す薄闇にぼうっと浮かぶ影から声が発せられた。


「・・・告げる
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら応えよ」


夜更けの衛宮邸は土蔵の中。
朗々と紡がれる魔術詠唱。
それは空気を切り裂き空間を震わせた。


「誓いを此処に―――」


轟々と大気が唸り、鋭利な金属音のような耳鳴りが襲ってくる。
大源(マナ)が激しく逆巻きながら集中・増大していく。


「我は常世総ての善と成す者、
 我は常世総ての悪を敷く者」


床に施された魔方陣が強い光を発している。
明滅を繰り返す光が、その間隔をどんどん短く激しくしていきながら世界を塗り替えていく。


「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」


強烈な光が一点に集束し、マナが強大な重力に押し潰されていく。
空間が歪み、稲光のようなものが縦横無尽に駆け巡る。
魔方陣の上に、今正に何かが出現しようとしていた。
呪文を詠唱し続けてきた影は、その魔術師然としたフード付マントを荒れ狂ったマナの影響で生
じた強風にはためかせながら毅然とその現象を見据える。
その口が最後の言の葉を紡ぐべく大きく開けられた。


「来たれ、天秤の守り手よ―――――――――!」


閃光が視界を奪い去り。
衝撃が体の内外を強かに打ち据え。
心には名状し難い戦慄が走った。
刹那に感じたそれらがやはり一瞬にして過ぎ去った後。
茫洋とした、捉えどころのない感覚があたりを支配するなか、清らかで力強い、凛呼とした声が
遥か遠くから、だけど心が触れ合うほど近くから聞こえてきた。


「―――問おう。貴方が私のマスターか」


・・・一陣の風が吹きぬけた。
重苦しい沈黙が辺りを包む。
気まずい雰囲気がじんわりと侵食していく。
だっていうのにその声の主。この場の状況を作り出している張本人であるところの金糸の髪に翠
の瞳をした騎士の姿の少女は気付くことなく言葉を続ける。


「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。マスター、指示を」


その強固な意志の宿った瞳を確りと向けながら、その言葉を信じるならば先程の召喚魔術によっ
て現れたらしい、いなかったハズの少女騎士は躊躇いもなく言ってくる。
返答できない。
彼女の言っていることは良く解っているし、その行動にも間違いはない。
だけど返事を返すことはできず、ただ沈黙するしかない。


「・・・・・・? あの・・・」


少女がはじめてその表情に戸惑いを浮かべ、こちらを伺ってくる。
―――それがトドメだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっ」

「?」

「はぁ・・・」


疲れたような溜息が洩れてしまう。
おもわず視線を逸らしてしまった。
そして――――――




「あの
「うわぁ−――――−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――――――――――ん!!!」




少女の声は悲痛な叫びに掻き消された。
ビックリした美少女というちょっとしたレアなものを視界の端に、泣きながら土蔵を逃げるよう
に飛び出していく人物を見やる。
小さくなっていくその背中とバサバサとはためくマントが哀愁漂っている。
さすがに無視できなかったのだろう、出現してからはじめてソイツに視線をむけた少女ともう遠
くにあるその姿を見比べてしまう。


俺―――衛宮士郎は去っていく親友の間桐慎二のその背になんともいえない微笑を投げることし
かできなかった・・・・・・・・・

























 





































































































 


























2: もりす (2004/03/16 14:46:29)


「・・・これは、一体・・・」


黄金と翠の少女騎士―――セイバーが問い掛けてくる。
事態が掴めないのだろう。その表情は困惑気味だ。


「あ、うん・・・。なんていうか、その・・・」


口篭もる。
だが状況を、完全では全然ないが一応把握しているのはこの場に自分ひとり。
ならば目の前で戸惑っている少女に説明するのは俺の仕事だろう。


「―――よし。えっと、セイバー、さん? 単刀直入に言うと、君を召喚したのは俺じゃない」


あ。目を白黒させてる。
瞬きも凄いし口もぽか〜んと半開きになってるな。
んむ。グッジョブだ。


「・・・それはどういう事です。貴方はわたしのマスターではないのですか!?」


眉なんか顰めて訊ねてくるセイバーさん。その表情も魅力的。
なんて感想浮かべながら自分の左手の甲を見る。
彼女の視線もそこに向けられてくるのが解った。


「いや、令呪(コマンド・スペル)がこうして浮かび上がっているんだから俺がセイバーさんのマスターっていうそれはそうなんだと思う。けど、召喚したのは慎二―――間桐慎二っていう俺の親友なんだ」
「マトウ、シンジ?」
「そう慎二。さっきそこから飛び出してったヤツ。あいつが召喚したんだよ」


指差す方には開け放たれた土蔵の扉。
夜風がスッと流れ込み、俺とセイバーさんを撫でる。


「先程の黒マントの御仁が私を召喚した者・・・」
「そうなんだ。で、俺はというと場所を貸しただけの、たんなる傍観者というか野次馬という
か・・・そんなもん、のハズだったんだけどね・・・」


失礼だけど苦笑してしまった。だって他にとれる態度が思い付かなかったんだから。
ふたたび落ちる沈黙。
思考を巡らしている風なセイバーさん。
が、それも直ぐに終わったらしく顔を真っ直ぐに向けてくる。
彼女のその瞳は俺の瞳を捕らえて離さない。


「では貴方は聖杯戦争の事やサーヴァントについて何も知らないのですか?」
「? いやそんなことはないぞ。慎二から大雑把だけど聞かされたし、死んだおやじ(切嗣)も前回の聖杯戦争に参加してたってその時の武勇伝を語ってくれてたし」


大法螺臭い話だったけどな。


「それなら貴方には聖杯で叶えたい願いはありますか?
 あるならばその願いを叶えるためにマスターとして聖杯戦争に参加する意志はありますか?」


真摯な態度でセイバーさんは俺に訊いてきた。
だから俺も真面目に返事をする。


「聖杯に叶えてもらいたいなんて願いは無い。・・・だけどもとから聖杯戦争には積極的に関わっていくつもりだったから、この状況は願ってもない事なんだ。マスターとして参加する意志があるかって問われるなら答えはひとつ。有る、だ」


力強く応えた。
そうだ。俺は最初から聖杯戦争に大きく関わる気だった。
ただマスターになる方法。サーヴァントを召喚し、契約する方法がまったく解らなかったから別
の手段を考えていただけ。
失敗なのか偶然なのかあるいは予定通りなのかは知らないがこのチャンスを棒に振るほど馬鹿じ
ゃない。
眼前にはセイバーさん。
セイバーのクラスは最優と謳われるサーヴァント。
俺には身に余る幸運。
彼女とならば俺の目的を達成することも可能だ。すくなくとも達成できる可能性は滅茶苦茶高ま
る。手放すなんて愚の骨頂。
だから彼女がなにかを言うまえに言葉を続けた。


「だが俺の目的は”聖杯の破壊”だ。壊れた願望機をこの手でスクラップにして二度とあんなこ
と起こさせない。冬木の戦争はこの衛宮士郎が終わらせてやるんだ」


嘘吐けないよなぁ〜〜〜やっぱり。
目を見開いて俺を見つめるセイバーさんに続ける。


「サーヴァントは聖杯に願いを叶えてもらうかわりに使い魔としてマスターと呼ばれる魔術師に使役されているって聞いた。だから俺の目的はセイバーさんにとっては許せないものだってわかっているんだ」
「・・・」
「英霊でありながら人に従属してまでも叶えたいっていう願い。その重さは俺なんかの理解なんて到底及ばないものだろうってのは想像できる。マスターの資格をもった相手が選りにもよってその願いを冒涜するような輩なんだから遣ってられないともおもう」
「・・・」
「セイバーさんはすぐにでも契約を解除してもっと相応しいマスターと再契約したいだろうと。とんでもない事を考えてる俺に呆れ果て、あるいは叩きのめしたいと考えているかもしれない」
「・・・」
「だから恥知らずな事だって解っている――」
「・・・」
「頼める義理なんてこれっぽっち無いことぐらい解っているんだっ」
「・・・」
「それでもっ。俺はセイバーさんに共に聖杯戦争を戦って欲しい! パートナーになって貰いたい。一緒に―――っ」


ヒ−トアップしているのが自分でもわかる。
なんていうかセイバーさんの無言のプレッシャーに負けて抑制が効かないのだ。
どうしようもなくテンパッている。
後の展開なんて知らん。てか考える余裕ナシって状況。
でも言いたい事は全部言っちまおう。
あとは野となれ山となれだ。


なんて完全に追い込まれていた。
背水の俺のその耳に。


くす


と、楽しげな鈴の音が聞こえてきた。
実は緊張で焦点が全然合ってなかった自分の目を音のした方へと合わせてみる。
最初に映ったのは差し出された手。
次には童女のような微笑み。
綺麗な瞳が俺を真っ直ぐ見つめている。
声がきこえた。


「これより我が剣は貴方と共にあり、
 貴方の運命は私と共にある。」


それは確かにセイバーさんの声。
ハッキリとした口調で彼女は歌う。


「ここに契約は完了した―――
 共にこの戦争を勝ち抜き、黒き聖杯を我等の手で破壊しましょう」


信じられない。だけど神聖不可侵なそれは誓いの言葉。
静かに。けれど世界にむけた声高らかな意志表示。
俺の目的を知って。それでもセイバーさんは共に戦うといったのだ。
正規の手順を踏んでいない衛宮士郎をマスターと認めてくれたのだ。
だから俺も確りと差し出された手を握る。
嬉しさを隠す事無く伝える。


「俺は衛宮士郎。これからよろしくお願いします、セイバー」
「エミヤシロウ・・・こちらこそお願いする、シロウ。
 ――――――――――――――――――――――――わたしのマスター」


信頼と親愛。
真心の篭もったセイバーの言葉に、思わず心がふるえてしまった。











































































































































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