夢を見ている。
黄金の朝焼け。微笑む彼女。在りし日の幻想。
後悔は無い。未練も無い。ただ、想う気持ちは在る。
言葉もなく、ただ見つめ合う。夢だと分かっているから。
そして、夢から覚めた。
錬剣の魔術使い・第一話
聖杯戦争から五年。高校卒業から四年。俺事衛宮士郎は、久し振りに故郷に戻ってきていた。高校卒業後すぐ、旅に出た。切嗣のように世界を廻って見ようと思っていたからだ。「正義の味方」になるためにも、必要だと思えたからでもある。
この意思を表明した際、当然の事ながら、
「駄目ーーーーーーー!!!そんなの、お姉ちゃんは許しません!!!どうしてもというなら、私の屍を乗り越えて行きなさい!!!」
「反対です!!!この街にいても、一人前にはなれます!!!せめて、あと一年、待ってください!!!」
「ダメダメダメダメーーーーー!!!私を一人ぼっちにするのは許さないんだから!!!人形にしてでも行かさないんだから!!!」
三者三様に引き止められた。挫けそうになったものの、俺も退く訳にはいかない。誠心誠意、説得して、全員の了承を得た。三ヶ月掛かったけど。
そして、旅に出るために、三つの約束を課せられた。
一、年に二、三度必ず帰ってくること。
一、出来得る限り、電話か、手紙を出すこと。
一、旅先で女の子にちょっかい出さないこと。
最後の約束には、何故か、遠坂まで乗り出してきた。なんでさ。
この実質二つの約束を胸に、俺は旅に出た。色んな所に行った。色んな事があった。聖杯戦争に劣るどころか、勝るような波乱の四年間。その波乱の日々に一区切りを付け、九ヶ月ぶりに、懐かしの我が家に帰還したのが、昨日一月三十一日。トラとしろいこあくまに強力なタックルで迎えられたのだった。
微睡みの海を俺は泳いでいた。久し振りの心穏やかな睡眠。尚且つ、布団で眠れるのも久し振りの二乗と言った所だ。冬木の冬がいかに過ごし易いとは言え、朝はやはり寒い。俺は掛け布団を引き寄せた。
ふにゅ。
布団に有り得ない擬音。正常に作動しない頭で、手探りで布団を確かめた。
ふにふにゅ。
さらさらー。
弾力のある柔らかさ。絹糸のような手触り。人肌の温かさ。人肌?
微睡みの海から緊急浮上。目を開けると、
「んにゅ〜。」
と可愛らしい寝言を発する銀髪の少女が、掛け布団よろしく俺の上で寝ていた。なるほど、人肌な訳だ。うん、現状把握完了。
「だああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
何で!?昨日、俺は間違い無く一人で寝たはず!何で、イリヤが俺の布団に!?
「何事ですか!?シロウ!?」
と俺の悲鳴(?)を聞きつけて、スパーンと襖を開けて部屋に入ってきたイリヤ付きのメイド、セラ。その瞬間、硬直したが。もちろん俺も。
同じ布団に居る男女。僅かに乱れた着衣。そして、朝ゆえの、
「シロウ、立派。」
セラの肩越しに部屋をのぞいた、もう一人のイリヤ付きのメイド、リーズリットの言葉通りの身体変化。うわーい、無実なのに、問答無用に有罪決定だー。
と、問題の中心に居る少女が、目を擦りながら体を起こす。そして、俺を認めると、寝ぼけ眼もどこへやら、満面の笑顔で、
「おはよう、シロウ!」
元気一杯挨拶してくれた。
現在、衛宮家に住んでるのは、イリヤとセラ、リーズリットの三人だ。俺が旅に出るとき、家の管理をどうするかという話になった。藤ねえが名乗り出たが、家が「トラの穴」になる恐れがあるので却下。結局、切嗣の実の娘であるイリヤ−聖杯戦争後、明らかになった−に託し、後見人を雷画爺さんに頼んだ。俺がいない以上藤ねえも反対できず、イリヤの世話をするために城からやって来たセラ、リーズリットの三人で暮らしている。
「まったく、驚かさないでくれよな、イリヤ。寿命が縮んだぞ。」
すでに、セラとリーズリットが用意してくれていた朝食を食べながら、しろいこあくまに抗議する。ちなみに、メニューは、オレンジリキュールで香り付けたフレンチトースト。後味がさっぱりしてて旨い。
「あら、悪いのはシロウよ。たまにしか帰ってこないんだから、少しでも一緒に居る時間が欲しいの。」
なんて、いじめっ子の表情で受け流すあくまっ子。
「まあ、今回は結構長くこっちに居るから、それで勘弁してくれ。」
パンと手を合わせ、頭を下げる。
「ホントに〜?前みたく書き置き残して居なくなったりしない?」
「しない、しない。」
「それならよろしい。あ〜あ。学校サボろうかしら。」
イリヤは今、穂群原学園に通っている。聖杯戦争の後、イリヤが二週間程失踪した事がある。あの時は大騒ぎになったものだ。何でも、封印指定された人形遣いをたずねていたそうだ。郊外の城にあった価値の高い品物と引き換えに、人間の体となんら遜色の無い素体を手に入れたとのこと。同じホムンクルスだったメイドの二人も同じく。
と言う訳で、今、イリヤは、何とか高校生に見えなくもない位には成長している。ちなみに部活は弓道部。藤ねえに聞いた話じゃ遠坂以来の学園のアイドルらしい。
「駄目だぞ、イリヤ。そんなことしたら、藤ねえも真似するだろ。教師がサボるのは良くな い。って、そういえば藤ねえは?来ないけど。」
昨日の事を思い出す。イリヤと同レベルで俺にくっつくXX歳。あれで良く教師がやれるものだ。
「タイガは、今日は職員会議があるのよ。でも確かに、私が学校に居ないと分かったら、授業中だろうと帰ってきそうよね。しょーがないか。」
とイリヤが立ち上がり、玄関へと歩いていく。俺もセラ、リーズリットと共に見送りにいく。
「それじゃ、いってくるわ、シロウ。セラ、リズ、シロウが逃げないようにしっかり監視しててね。」
「かしこまりました。」
「うん、まかせて。」
信用無いなー。しょうがないけど。
「イリヤ、晩飯何が良い?腕によりを掛けて作るからさ。あんまり苛めないでくれよ。」
「そうね、じゃあ今日は、ハンバーグ。それと一週間私のリクエストに答えてくれたら、許し てあげる。」
「了解。じゃ待ってるからな。」
「うん。それじゃあ、いってきま〜す!」
「「「いってらっしゃい。」」」
イリヤが登校した後、家事をしたり、二人に挟まれて、マウント深山商店街に買い物に行き、道行く人の剣呑な視線を感じたり、鍛錬をしたりと、久し振りの穏やかな日常を満喫した。
そして夕方、リクエストのハンバーグの仕込をしていると、
「ただいまー!シロウ、ちゃんといる!?」
なんて、信用度ゼロなんだなーと落ち込ませるような台詞と共に、イリヤが帰ってきた。
「おかえり、ちゃんといるよ。はあ、俺ってそんなに信用ないのか?」
「あら、信用に値すること、シロウ、してたかしら。」
「む。」
「心配ばかりさせてるんだから、これくらい我慢しなさい。」
「はあ、分かったよ。それじゃ信用を得る為に、とびきり美味しく作ろうかな。」
「うん、楽しみにしてるわ、シロウ。」
「私も、楽しみ。」
「お嬢様、先にお着替えになってください。」
「もう、せっかくシロウと二人きりと思ったのにー。」
「イリヤ、ずるい。」
「リーズリット!お嬢様に対して、失礼よ!さあ、お嬢様、手を洗って、お着替えください。」
なんて三人の会話を背に受けながら、ハンバーグを捏ねていると、
ピンポ〜ン。
呼び鈴が鳴る。
「誰かでてくれ。今手が離せないから。」
と背後に声を掛ける。
「じゃ、わたしがでる。」
と玄関に向かうイリヤを、セラが引き止める。
「お嬢様は、先にお着替えになってください。私が出ますから。」
玄関に向かうセラ。
「もう。それじゃ着替えてくるね、シロウ。」
自室に向かうイリヤ。
「ずず〜。」
いつの間にかお茶を飲んでるリーズリット。
コネコネ。
無心で、ハンバーグを捏ねる俺。
しばらくして、居間にセラが戻ってくる。気配は二人。お客かな?
「セラ、お客さんか?」
ハンバーグを捏ねる作業を一旦止め、居間に入る。と、セラに続いて居間に入ってきた人物と目が合った。
五年前、憧れていた女の子。猫被りに落胆するも、本質を知って、それまで以上に魅力的に感じた女の子。だが、今は、トレードマークだったツインテールを下ろし、細かな刺繍の入った上品な紅のブラウス、黒のロングスカートを着こなしたその姿は、思わず呆然としてしまうぐらい、魅力的な「女性」だった。
見惚れていたと気づかれないように、一瞬で再起動を果たし、湧き上がる懐かしさを笑顔に換えて、
「久し振り、遠坂。四年振りだな。元気にしてたか?」
かつての戦友を迎えた。
あとがき:妄想もとい想像を形に代える苦しみを、現在、噛み締めております。他に投稿なさっている方々に尊敬の念を抱かずに居れませんな。イヤマジで。まだまだ、駄文の域を脱出できませんが、生暖かい目で見守ってください。ちなみに、設定は、セイバートゥルー後、凛の外見は、桜トゥルーのバージョンをご想像ください。イリヤは背が140代になったぐらいで体型には余り変化なしという事で、イリヤファンの方ご勘弁ください。