錬剣の魔術使い・第一話 (M:士郎 傾:ほのぼの


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1: 福岡博多 (2004/03/15 20:14:48)

 夢を見ている。
 黄金の朝焼け。微笑む彼女。在りし日の幻想。
 後悔は無い。未練も無い。ただ、想う気持ちは在る。
 言葉もなく、ただ見つめ合う。夢だと分かっているから。
 そして、夢から覚めた。




 錬剣の魔術使い・第一話



 聖杯戦争から五年。高校卒業から四年。俺事衛宮士郎は、久し振りに故郷に戻ってきていた。高校卒業後すぐ、旅に出た。切嗣のように世界を廻って見ようと思っていたからだ。「正義の味方」になるためにも、必要だと思えたからでもある。
 この意思を表明した際、当然の事ながら、

 「駄目ーーーーーーー!!!そんなの、お姉ちゃんは許しません!!!どうしてもというなら、私の屍を乗り越えて行きなさい!!!」
 「反対です!!!この街にいても、一人前にはなれます!!!せめて、あと一年、待ってください!!!」
 「ダメダメダメダメーーーーー!!!私を一人ぼっちにするのは許さないんだから!!!人形にしてでも行かさないんだから!!!」

 三者三様に引き止められた。挫けそうになったものの、俺も退く訳にはいかない。誠心誠意、説得して、全員の了承を得た。三ヶ月掛かったけど。
 そして、旅に出るために、三つの約束を課せられた。

 一、年に二、三度必ず帰ってくること。
 一、出来得る限り、電話か、手紙を出すこと。
 一、旅先で女の子にちょっかい出さないこと。

 最後の約束には、何故か、遠坂まで乗り出してきた。なんでさ。
 この実質二つの約束を胸に、俺は旅に出た。色んな所に行った。色んな事があった。聖杯戦争に劣るどころか、勝るような波乱の四年間。その波乱の日々に一区切りを付け、九ヶ月ぶりに、懐かしの我が家に帰還したのが、昨日一月三十一日。トラとしろいこあくまに強力なタックルで迎えられたのだった。



 微睡みの海を俺は泳いでいた。久し振りの心穏やかな睡眠。尚且つ、布団で眠れるのも久し振りの二乗と言った所だ。冬木の冬がいかに過ごし易いとは言え、朝はやはり寒い。俺は掛け布団を引き寄せた。

 ふにゅ。

 布団に有り得ない擬音。正常に作動しない頭で、手探りで布団を確かめた。

 ふにふにゅ。
 さらさらー。

 弾力のある柔らかさ。絹糸のような手触り。人肌の温かさ。人肌?
 微睡みの海から緊急浮上。目を開けると、

 「んにゅ〜。」

 と可愛らしい寝言を発する銀髪の少女が、掛け布団よろしく俺の上で寝ていた。なるほど、人肌な訳だ。うん、現状把握完了。

 「だああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 何で!?昨日、俺は間違い無く一人で寝たはず!何で、イリヤが俺の布団に!?

 「何事ですか!?シロウ!?」
 
 と俺の悲鳴(?)を聞きつけて、スパーンと襖を開けて部屋に入ってきたイリヤ付きのメイド、セラ。その瞬間、硬直したが。もちろん俺も。
 同じ布団に居る男女。僅かに乱れた着衣。そして、朝ゆえの、

 「シロウ、立派。」

 セラの肩越しに部屋をのぞいた、もう一人のイリヤ付きのメイド、リーズリットの言葉通りの身体変化。うわーい、無実なのに、問答無用に有罪決定だー。
 と、問題の中心に居る少女が、目を擦りながら体を起こす。そして、俺を認めると、寝ぼけ眼もどこへやら、満面の笑顔で、

 「おはよう、シロウ!」

 元気一杯挨拶してくれた。


 現在、衛宮家に住んでるのは、イリヤとセラ、リーズリットの三人だ。俺が旅に出るとき、家の管理をどうするかという話になった。藤ねえが名乗り出たが、家が「トラの穴」になる恐れがあるので却下。結局、切嗣の実の娘であるイリヤ−聖杯戦争後、明らかになった−に託し、後見人を雷画爺さんに頼んだ。俺がいない以上藤ねえも反対できず、イリヤの世話をするために城からやって来たセラ、リーズリットの三人で暮らしている。

 「まったく、驚かさないでくれよな、イリヤ。寿命が縮んだぞ。」

 すでに、セラとリーズリットが用意してくれていた朝食を食べながら、しろいこあくまに抗議する。ちなみに、メニューは、オレンジリキュールで香り付けたフレンチトースト。後味がさっぱりしてて旨い。

 「あら、悪いのはシロウよ。たまにしか帰ってこないんだから、少しでも一緒に居る時間が欲しいの。」

 なんて、いじめっ子の表情で受け流すあくまっ子。

 「まあ、今回は結構長くこっちに居るから、それで勘弁してくれ。」

 パンと手を合わせ、頭を下げる。

 「ホントに〜?前みたく書き置き残して居なくなったりしない?」

 「しない、しない。」

 「それならよろしい。あ〜あ。学校サボろうかしら。」

 イリヤは今、穂群原学園に通っている。聖杯戦争の後、イリヤが二週間程失踪した事がある。あの時は大騒ぎになったものだ。何でも、封印指定された人形遣いをたずねていたそうだ。郊外の城にあった価値の高い品物と引き換えに、人間の体となんら遜色の無い素体を手に入れたとのこと。同じホムンクルスだったメイドの二人も同じく。
 と言う訳で、今、イリヤは、何とか高校生に見えなくもない位には成長している。ちなみに部活は弓道部。藤ねえに聞いた話じゃ遠坂以来の学園のアイドルらしい。

 「駄目だぞ、イリヤ。そんなことしたら、藤ねえも真似するだろ。教師がサボるのは良くな い。って、そういえば藤ねえは?来ないけど。」

 昨日の事を思い出す。イリヤと同レベルで俺にくっつくXX歳。あれで良く教師がやれるものだ。

 「タイガは、今日は職員会議があるのよ。でも確かに、私が学校に居ないと分かったら、授業中だろうと帰ってきそうよね。しょーがないか。」

 とイリヤが立ち上がり、玄関へと歩いていく。俺もセラ、リーズリットと共に見送りにいく。

 「それじゃ、いってくるわ、シロウ。セラ、リズ、シロウが逃げないようにしっかり監視しててね。」

 「かしこまりました。」
 「うん、まかせて。」

 信用無いなー。しょうがないけど。

 「イリヤ、晩飯何が良い?腕によりを掛けて作るからさ。あんまり苛めないでくれよ。」

 「そうね、じゃあ今日は、ハンバーグ。それと一週間私のリクエストに答えてくれたら、許し てあげる。」

 「了解。じゃ待ってるからな。」

 「うん。それじゃあ、いってきま〜す!」

 「「「いってらっしゃい。」」」



 イリヤが登校した後、家事をしたり、二人に挟まれて、マウント深山商店街に買い物に行き、道行く人の剣呑な視線を感じたり、鍛錬をしたりと、久し振りの穏やかな日常を満喫した。
 そして夕方、リクエストのハンバーグの仕込をしていると、

 「ただいまー!シロウ、ちゃんといる!?」

 なんて、信用度ゼロなんだなーと落ち込ませるような台詞と共に、イリヤが帰ってきた。

 「おかえり、ちゃんといるよ。はあ、俺ってそんなに信用ないのか?」

 「あら、信用に値すること、シロウ、してたかしら。」

 「む。」

 「心配ばかりさせてるんだから、これくらい我慢しなさい。」

 「はあ、分かったよ。それじゃ信用を得る為に、とびきり美味しく作ろうかな。」

 「うん、楽しみにしてるわ、シロウ。」

 「私も、楽しみ。」

 「お嬢様、先にお着替えになってください。」

 「もう、せっかくシロウと二人きりと思ったのにー。」

 「イリヤ、ずるい。」

 「リーズリット!お嬢様に対して、失礼よ!さあ、お嬢様、手を洗って、お着替えください。」

 なんて三人の会話を背に受けながら、ハンバーグを捏ねていると、

 ピンポ〜ン。

 呼び鈴が鳴る。

 「誰かでてくれ。今手が離せないから。」

 と背後に声を掛ける。

 「じゃ、わたしがでる。」

 と玄関に向かうイリヤを、セラが引き止める。

 「お嬢様は、先にお着替えになってください。私が出ますから。」

 玄関に向かうセラ。

 「もう。それじゃ着替えてくるね、シロウ。」

 自室に向かうイリヤ。

 「ずず〜。」

 いつの間にかお茶を飲んでるリーズリット。

 コネコネ。

 無心で、ハンバーグを捏ねる俺。
 しばらくして、居間にセラが戻ってくる。気配は二人。お客かな?

 「セラ、お客さんか?」

 ハンバーグを捏ねる作業を一旦止め、居間に入る。と、セラに続いて居間に入ってきた人物と目が合った。
 五年前、憧れていた女の子。猫被りに落胆するも、本質を知って、それまで以上に魅力的に感じた女の子。だが、今は、トレードマークだったツインテールを下ろし、細かな刺繍の入った上品な紅のブラウス、黒のロングスカートを着こなしたその姿は、思わず呆然としてしまうぐらい、魅力的な「女性」だった。
 見惚れていたと気づかれないように、一瞬で再起動を果たし、湧き上がる懐かしさを笑顔に換えて、

 「久し振り、遠坂。四年振りだな。元気にしてたか?」

 かつての戦友を迎えた。






 あとがき:妄想もとい想像を形に代える苦しみを、現在、噛み締めております。他に投稿なさっている方々に尊敬の念を抱かずに居れませんな。イヤマジで。まだまだ、駄文の域を脱出できませんが、生暖かい目で見守ってください。ちなみに、設定は、セイバートゥルー後、凛の外見は、桜トゥルーのバージョンをご想像ください。イリヤは背が140代になったぐらいで体型には余り変化なしという事で、イリヤファンの方ご勘弁ください。
 


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