その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その9 Mセイバー他 傾シリアス


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1: kouji (2004/03/14 20:17:29)

31セイバー視点

                    「投影、開始」

聞き覚えのある声と供に現れた無数の剣が、
ギルガメッシュの剣を打ち払った

カツン―――
                ゆっくりとその男は階段を下ってきた
                                          ―――カツン
                コートを翻し、まっすぐに背筋を伸ばし
 ―――カツン
                   口元は皮肉気にゆがめられ 
                                          カツン―――
                 その鷹の目は、ただ、一人を見ていた

「…………アーチャー…………」

私の隣で、リンが呟くようにその男の名を、かつて自らが従えた、名も無き英雄の名を呼んだ

確かに、あの男なのだろう、

だが彼は、

褐色の肌をしていたはずだ                          病的なまでに白い肌と、
                  ドウシテソンナスガタヲシテイル
白銀の髪をしていたはずだ                              赤茶けた髪と
                  ドウシテソンナカオヲシテイル
赤いコートを着ていたはずだ                            黒いコートで、
                     ドウシテソンナニ
彼はそこに立っていた

「なぜ衛宮士郎に似ているのか、そう言いたげだなセイバー」

いつか見た、歪な既視感を思い出す
ソノサキヲイウナ
「簡単なことだ」
ソノサキヲイウナ
「『私』が『衛宮士郎』に似ているのではない」
ソノサキヲイウナ
「『私』に『衛宮士郎』が似ているのでもない」
ソノサキヲイウナ
「俺の名は『エミヤ』
――――『正義の味方』を求め、世界と誓約した、衛宮士郎自身だ」

その言葉に打ちのめされた

―――何故気付かなかったのか、
あれは、歪な既視感などではないと

唇を噛み、耐え切れずに彼から目をそらす

―――いや、きっと気付いていたのだ

それでも信じたくなかったのだ
彼が駆け抜けた先に挫折しかない事を、

―――現実を直視しすぎて、彼が壊れてしまうことを信じたくなかったのだ

余りにも悲壮な覚悟と願いを聞いたから、なおさら信じたくなかったのだ

「やっぱり、そうだったのね…………」

押し殺した声で、リンが言った

「リン、気付いていたのですか?」

「ここに来る少し前にね、だから士郎の答えも、セイバーの答えも、
解ってた」

私と士郎が互いの過去を夢で見たように、
リンもアーチャーの過去を見たというのだろうか

「あぁ、やはり『見て』いたのか、それらしいことを聞かれなかったから黙っていたのだが」

「夢の内容なんてあんまり覚えてないのよね、私って」

気まずそうに、アーチャーの言葉に答えるリン

そこへ、

「ふん、脱落者が何をしに戻ってきたか知らんが、
邪魔だぞアーチャー」

胡乱気な顔で静観していたギルガメッシュが口を開いた

「なんだ、まだ居たのか英雄王」

それを彼は、まるで初めてその存在に気がついたようにそう返した

「何だと――――」

「お前の御高説に付き合うのは面倒なのだがな…………
私一人で事は足りるだろう、お前の出る幕はないからさっさと言峰の所へでも帰れ」

呆然とした、それは、あの英雄王に対して余りにも強気な発言だった

「ほう、……雑種の成れの果ての分際で、この我を愚弄するか」

ギリッと奥歯をかむとギルガメッシュは、アーチャーに矛先を向けた

「愚弄とは心外だな、ただ邪魔だと言っただけだったのだが」

「よかろう、では、言うだけの物を見せてもらおうか!!」

ギルガメッシュの周りに剣が出現し、アーチャーを襲う

「気の短いやつめ、―――投影、開始」

一瞬にして出現した剣が、その全てを相殺する

その様子を尻目に、士郎たちに声をかける

「士郎、走れますか?」

「あぁ、大丈夫だ、遠坂とライダーは?」

「私は平気」

「私も問題ありません」

頷くと、私たちは出口へと駆け出した


32凛視点

教会を出て一息つく

「うわっ! なんだこりゃ?!」

地下室を出てから、士郎は目を丸くしっぱなしだった
まぁ、無理もないだろう

「ギルガメッシュと誰かがやりあった後かな、って思ったんだけど、
アーチャーの仕業って可能性も出てきたわね」

「恐らく相手はランサーでしょう、私が見たのは、消える寸前の彼の槍ではないかと」

ライダーが頷く、言峰は、ここに居る二人以外は、倒されたといっていたから間違いないだろう

「それって、俺がここに着てからセイバーが来るまでの間のことだよな?」

「そうですね、あの時は注意していませんでしたが」

士郎とセイバーがそう言う、彼の胸元には傷があるが、それもただの痕になっている

「そうね、セイバーに感謝しなさいよ、それ、彼女の鞘のお陰なんだから」

「それって、エクスカリバーの鞘のことか?
なんでそんなの―――」

言いかけて、思い当たることを思い出したのか、押し黙る士郎

「リンの言うとおりです、おそらくキリツグも鞘を触媒にして私を召喚したのでしょう、
私の自身には治癒魔術がある、ならばマスターの生存率を高める方が勝ち残れる確立も増える」

「そういうことでしたか、ではそれがシロウのなかにあるのは?」

感心した、という表情でライダーが問う

「多分、そうしないと助けられなかったんだと思う、
十年前、俺は確かに死に掛けてたんだ」

そう、十年前、出現した聖杯によって引き起こされた大火災
衛宮士郎はそこで一度、全てを失った

「だとすると、―――そうか、そうだったんだ」

過去を振り返っていた士郎が、ふと、セイバーを振り返った

「どうしました、士郎?」

まっすぐな目で見つめられセイバーが困惑する
そんなセイバーを見つめて

「あぁ、気がついたんだ、俺は十年前のあの時から、ずっとセイバーに護られてたんだって」

衛宮士郎は

「切嗣だけじゃなかったんだ、十年前に俺を救ってくれたのは、
――――――ありがとうアルトリア、君のお陰で、俺はここに居ることが出来る」

そんなことを、臆面も無く、口にした

「…………士郎…………」

真っ赤になるセイバー、いや、この男は、

「こほんっ! 衛宮君、そういう台詞は、二人だけのときにしていただけないかしら?」

「同感です、士郎には周りの人間に対する配慮が少々不足しています」

周りで見ている人間ぐらい気にかけなさいっての、恥ずかしい
しかもセイバーのこと真名で呼んでたし

まったく、見てるこっちまで恥ずかしくなったじゃない


33

ガキイイイイイイイイインッ!!

宙に浮かんだ剣が互いにぶつかり合い、お互いを潰しあった

その数およそ34

いずれ劣らぬ名剣であり、逸話持つ魔剣、聖剣であるそれらは、悉く自分と同じ姿を持つ魔剣、
聖剣とぶつかり合い、砕け散っていった

ヒュゴッ!! 

ドスッ!!          
  ガツッ!!

その互いを砕きあう剣のぶつかり合いを超え、数本の剣がギルガメッシュに突き刺さった

「馬鹿なっ!!」

無限の財源を持ち、全ての剣のオリジナルの所有者である自分の剣が、
ただの紛い物、贋物である目の前の男の剣に敗れたというのか?

「おのれっ!!」

空中にさらに数十の剣を呼び出す、
だが、必勝の筈の剣の雨は、アーチャー、…………否、エミヤの体に届く前に
同じ剣によって悉く撃ち落され、さらに数本の剣が、彼の体を刺し貫いた

(何故だ? 何故我の剣がヤツごときの剣に負けねばならん?)

「どうした英雄王、これで御仕舞いか?」

傷一つ無く涼しい顔でエミヤはそう言った

「言わせておけば!! 消えろ雑種!!!」

先ほどの倍の数、もはや狭い地下室の天井を埋め尽くすほどの剣が、出現する

「やれやれ、では仕方ない」

そういうと供に、天井に浮かぶ剣を投影するエミヤ、

天井を埋めつくす、剣は互いを打ち消しあい、そして

「馬鹿な?!!」

ギルガメッシュは驚愕した、

先ほどの剣、その全てがそっくりそのまま残っている、

それだけなら、彼は驚きはしなかっただろう、
問題なのは、その矛先が“全て自分に向けられている”ことである

「それでは、そろそろ、望みどおり消えるとしよう、
ただし………………お前の方がだがな」

淡々とそういうと、エミヤはサッと腕を振り下ろした
振り下ろした腕に引かれ剣は、轟音を立てて、金色の鎧をさし貫いた

「がっ、はっ!!」

全身に突き刺さる刃、だが、その悉くが、急所を射抜く一撃でありながら、致命傷でもない一撃であった
ギルガメッシュが避けたのではない、エミヤが当てなかったのだ
それでも、両腕を完全につぶすには十分であったわけだが

「おのれ………………」

ギリっと、ギルガメッシュがはを噛締める

「何故だ? 何故、たかが贋物に過ぎん貴様の剣に、この我の剣が負けねばならん?!!」

目の前の男をにらみつけ、当然の疑問を口にする

「なに、種を明かせば簡単な話だ、
お前の『持っている剣』を十とすると、俺の『創る剣』は、せいぜいが八か九といった所だ」

当たり前だ、どれだけ優れた贋物であろうと十の物を真似る以上、
出来上がりが十以上になるはずが無い

「だがな英雄王、お前はただ持っているだけだが、俺は自分で作り出しているのだ、
ならワザワザ、一対一で戦わせる必要は無かろう?
十対八なら十の方が勝つのは道理だからな、此方は二本ずつ用意させてもらったと言うことだ、
これで八×二で十六、
お前と俺の用意できる剣の種類は確かに同じだが、
数であるなら、一本しかないオリジナルより、大量に作れる贋物の方が多いのは当然だからな
…………お前はさっさと乖離剣を使うべきだったのさ、
アレだけが俺の創りえない唯一の剣だったんだから」

そういうとエミヤは歩き出した
もはやギルガメッシュに用はない、死のうが足掻こうがあいつの勝手である
そして彼は、自分の目的のためだけに歩き出した


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