その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その8 Mセイバー他 傾シリアス


メッセージ一覧

1: kouji (2004/03/13 18:21:30)

25凛視点

「ちょっとセイバー!!
って、行っちゃったか」

ランサーのマスターを調べて、
その結果をセイバーに言ったとたん
セイバーは弾丸のように教会へ向かって走っていってしまった

「リン、迂闊でした、ギルガメッシュが現れた段階で、進言しておくべきだった
…………キリツグは前の聖杯戦争で、マスターを倒すことで勝利を収めた
そのキリツグがしとめ損ねたのは唯一人、
アーチャーのマスターだけだった」

士郎の養父、そして、私の父が参加し、
士郎が『衛宮士郎』になるきっかけを作った、十年前の聖杯戦争

ギルガメッシュはその時のアーチャー

衛宮切嗣はマスターを倒すことを最優先にして聖杯戦争を勝ち抜いた

彼が倒し損ねた、つまり、彼以外に生き残ったマスターは一人だけ

その男の名は―――

「ライダー! ライダーいる?!」

「リン、どうしました?」

すぐに私の目の前に長身の美女が姿を現す

「セイバーが叫んでいたようですが、何があったのですか?」

私の様子に気がついたのか、ライダーがそう聞いてくる

「例のサーヴァントよ、あの男、監督役とか言いつつ、
裏でとんでもないことやってくれたわ」

私の見たことと、セイバーの言葉を組み合わせて事態を説明する

「サクラとのつながりは切れていません、
まだ恐らくは無事でしょう」

「でも、時間の問題かもしれないわ、
私達も行くわよ」

「わかりました、ですがリン、その前に聞いておきたいことが有るんですが」

改まってライダーが言う

「なに? サクラたちの救出法?」

「いえ、昨夜のことです」

? 昨日ライダーに疑問に思われるようなことなんかしたかしら?

「昨夜、セイバーの報告を聞いている時なのですが、
リン、貴女の発言にはおかしな点がある」

「なにがよ?」

「リン、貴女は、セイバーに
『自分の命が一番大事だったとしても変わらない、
きっとそれ以上にセイバーはキレイなんだ。
お前に代わるものなんて、俺の中には一つも無い』
そう、シロウが言ったと言いましたが、
使い魔で監視していた訳でもないのに、どうして知っているのです?」

「え? それは…………」

はて? どうしてかしら?
セイバーはそんなことは一言も言ってないし、ライダーの言うとおり、
自分は監視なんかしていない

「そう言えばそうね?
私、なんで見てたみたいに…………?!」

みたいじゃない、体感したんだ、

思い出せ、どこだ? 私は何処でそれを見た?

記憶を探る、そう昔じゃない、でも、昨日今日じゃない
では何時だ? そう、アレは…………

「なんてこと! じゃぁアレは、私じゃなくて別の『遠坂凛』の物だったんだわ」

気がついてしまった、あぁ、どうしてもっと早く気づかなかったんだろう

「リン、どうしたのです?」

「説明は後、とにかく協会に行くわよ

私は、ライダーにそういうとまっすぐに教会へ向かって走り出した


26セイバー視点

ダンッ!!

と、大音を立てて教会の中へ飛び込む
礼拝堂を無視して、奥へと入る
中庭のさらに奥、建物の隙間に細い階段がある
令呪のつながりと直感が、

そこを降りろと告げる

躊躇なく階段を駆け下りる、駆け下りた先には小部屋があり、さらにその奥に―――

ミイラの群れが整然と並べられ、その真ん中に彼はいた
まっすぐに駆け寄る、呼吸、脈拍ともに正常、
心臓の位置にかすかに傷があるが、それもすぐに消えるだろう
士郎には「     」の加護があるのだから

ゾクッ!!

悪い予感がする、
敵がいる、などというのも生ぬるい
これは『死』だ
すぐ近くに『死』の塊がいる
『死』の呪いがいる

いけない、早く士郎をここから連れ出さないと

ここは、あの公園と同じ、

『衛宮士郎』にとって、とてもよくない場所だ

「あぁ、セイバーさん、早かったですね」

「……えっ?!」

そう、『死』の塊の中から声をかけられて、私は振り返った


27凛視点

サーヴァントのスピードは速い
走り出した直後、ライダーは私を抱き上げて一気に教会まで走りぬけた
その早いこと早いこと、
だてに敏捷性で1,2を争ってないなーって思ったり
教会の手前で下ろしてもらう、

そろそろ何か反応があってもいいはずだ、
当然、ライダーも警戒している

「……?!」

「どうしたの? ライダー……って?!」

教会の前庭は無残に破壊されていた
圧倒的な物量を撒き散らし、相手もろとも周囲を破壊する強引な戦い方
そんな姿が想像される

ふと気付くとライダーがあらぬ方向を向いている

「どうしたの?」

「いえ、赤い槍が見えたような気がしたのですが、気のせいのようです」

「そう、一応警戒しながら行きましょう、セイバーがいるから大丈夫、
とも言えないしね」

言いながら、前庭とは違う原因で壊されたと思われる扉をくぐる
その嵐はどうやら礼拝堂をまっすぐ突っ切っていったようだ
恐らくセイバーだろう

「あの子も、あれで結構豪快ね…………」

今はそれが目印になってくれるので助かるけど

中庭の向こうに見慣れない階段がある、

地下室の入り口らしい

嵐はここを降りて行ったようなので、
私もここを降りることにした

28

二人が降りた先、そこは地獄だった
祭壇のような小部屋の奥、そこは洞窟のようになっており、
ミイラの群れが整然と並べられていた

そしてそこには、
衛宮士郎とそのサーヴァント、セイバー
それと

「あぁ、姉さんとライダーも来たんですか」
「ふむ、丁度良い、では選定を始めるとしよう」

魔術刻印に良く似た何かを半身に浮き出させた間桐桜と
言峰綺礼がいた

「何のつもりなの言峰、説明してもらえるんでしょうね?」

「ふむ、のこ他サーヴァントはあと二体、つまりここにいる者たちだけになった
ライダーのマスターは衛宮士郎に聖杯を譲っても良いと言うのでな
もともと聖杯は形の無いものだ、何時、何処で、何を持って呼び出すか完成度は変わるが、
呼び出すだけであれば、この教会や、凛、お前の家にも資格はある、
しかも、予定外の事情のお陰で、現段階でも、十分に完成可能なほど魂が集まっていてな、
お前たちの“望み”をかなえるくらいは十分にあろう
望みがかなうのであれば無暗に殺しあう必要も無かろう?」

そういってセイバーに顔を向ける言峰

「たしかに、貴様の言い分は正しい、
だが、だとしたら貴様は何者だ? 貴様の目的は聖杯ではないのか?
それに、サクラのあの姿は一体?」

「私は選定役だと言っただろう。ふさわしい者がいれば喜んで聖杯は譲る。
マキリの娘については後で教えよう」

そう言うと、言峰は士郎に向き直った

「衛宮士郎、聖杯を譲るまえに、間桐桜が聞きたいことが有るそうだ」

「聞きたい事?」

足元がおぼつかないらしく、ふらふらとしながら立ち上がり、士郎は聞き返した
首をめぐらし、異様な姿と化した後輩を見る

「ネェ先輩、もし、十年前の火事が無かったらって思ったことありません?
ありますよね? だって、アレがなければこんなところで苦しい目に遭わずに済むんですよ?」

まっすぐに見つめる後輩の目に、いかなる魔術が込められていたのか
士郎の脳裏に十年前の光景がまざまざと蘇る

やめろ、と、口にこそ出さなかったが士郎は思った

いまさら意味は無い
いまさら思い返してみたところで、誰も救われるわけでもない

だから止めろ。

止めろ。

止めろ。止めろ。止めろ。

止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。………………!!!!

何もかもなくなった、全て無くした

周りは死体と瓦礫だらけで、歩いているのは自分だけ

だれも救いを求めなかったはずが無い

誰も声をかけなかったはずが無い

そう、自分は全てを無視して、自分の救いを求めて歩き続けた

その中で

見飽きるほどに死体を見

                          聞き飽きるほどに助けを求める声を聞き

だからこそ、為す術なく死んだ人がいるなら、

為す術のある限り生きなければいけない、そうでなければ嘘だと思った

救いを求める声を無視したのは、

謝ってしまったら、許しを請うのは、ただ楽な方に流れていくと思ったから

               そうして、一人だけ助かって
         知りたくも無いのに一人だけ助かったことを教えられて

見飽きるほどに死体を見

                          聞き飽きるほどに助けを求める声を聞いた
        
だから、その全てを、

背負いきれないぐらい重い荷物を、

背負えないのを承知の上で

                           あの場所に置き忘れてきた物達に出来る

あの場所で無視した全ての物に出来る

                                たった一つの償いだと信じて

「ねぇ、先輩、あの時、先輩のお父さんが聖杯を手に入れていたら、
こんな思いしなくて済んだんですよ?」

                                  アレをやり直す?

「誰も死ななかった、誰も傷つかなかった、セイバーさんもアインツベルンも
先輩も、姉さんも、兄さんも、藤村先生も、ここにいる『モノ』たちも皆」

                               そんな都合のいい話、思わなかったかといえば嘘だろう

目が覚めれば、当たり前のように両親と笑い会える
そう信じて眠りについた夜が何度あっただろう
 
                              誰も傷つかない、何もおきなかった世界
があるならそれはどれほどの―――


            ――――でも、それは、本当の救いじゃない――――

「桜、それは違う、やり直しなんか出来ない、
死者は蘇らない、起きた事は戻せない
例え過去に戻ってやり直したって、そんなものは救いじゃない」

通り過ぎることしか出来なかった 

                             無慈悲に全て投げ捨てた

でも、そこにあった全てを犠牲にしてまで戻ったって意味なんか無い

「だから、いらない、俺は『衛宮士郎』を否定してまで自分の救いなんて要らない
その道が、間違ってなかったって、信じてる」

「―――そうか、つまり、おまえは」

「聖杯なんかいらない。俺は―――置き去りにしてきたものの為にも
自分を曲げることなんか出来ない」

例えその先に何も無くても、誰の許しももらえなくても、

                         借り物の願いだけを支えに歩いてきた

理解なんて求めてない
                          
                          いつか、誰からも忘れられるとしても

何一つ無い荒野に打ち捨てられたとしても

                 それが、衛宮士郎の答え


29凛視点

やり直しなんか出来ない、
死者は蘇らない、起きた事は戻せない
例え過去に戻ってやり直したって、そんなものは救いじゃない

                             俺は『衛宮士郎』を否定してまで
自分の救いなんて要らない

その道が、
間違ってなかったって、信じてる

置き去りにしてきたものの為にも、
自分を曲げることなんか出来ない」


           ―――それが、空っぽの心を、借り物の理想で埋めた男の答えだった

「士郎…………」

セイバーは言葉もなく立ち尽くし、
私は、『知っている』答えに、強く唇をかんでいた

「ではセイバー、君はどうだ?
前回、今回と二度も参加するのだ、
まさか君まで要らぬとは言うまい?」

立ち尽くすセイバーに言峰が問う

「……………………」

セイバーは答えない、それを肯定ととったのか

「ではセイバー、マスターを斬りたまえ、
その代わり、君に聖杯をささげよう」

言峰は、そう、セイバーに切り出した

「……………………」

「……………………」

「……………………」

長い沈黙が降りる
伏せられた顔の下、彼女の表情は読めない
その周りで、

桜が探るような、笑うような顔を見せ

言峰は無表情に待ち

士郎はまっすぐに彼女を見ていた

「……………………っ」

私は、その中で一人、セイバーではなく、士郎を見ていた
期待でもなく、信頼でもなく、
衛宮士郎は、ただ、セイバーの答えだけを待っていた

その、なんと歪なことだろう

普通の人間なら、こういう時は、相手に対し、
自分の答えへの賛同を含めた、期待を見せるはずだ

にもかかわらず、彼の目にはそれが無い

ただ、全てを受け入れて、彼女の心からの答えを待つ

やがて、

「…………聖杯は欲しい、でも、士郎は殺せない」

そう、セイバーは答えを出した

「じゃあ、どうするんです?」

答えを受けて桜が問う

「私の求めるものは、全て揃っていた、
―――初めから、求める必要など無かった、
ただ、私が気付かなかった、目をそむけていただけだった」

そこでセイバーは顔を上げ、まっすぐに桜と言峰をみかえした

「我が身を穢すことが聖杯をえる手段であるのなら、
今宵、ひと時の夢全てを賭けて、その存在を否定しよう」

“求め続けることこそが間違いであるのなら、そんな奇跡に用はない”

そう言って、セイバーは、士郎のために剣を取った

「仕方あるまい、では、間桐桜、聖杯は私の預かりとなるが、かまわないか?」

そういって、言峰は桜を振り返る
そして桜は、

「そうですね、それでいいですよ」

そう、頷いた

それと同時に、地下室の入り口を誰かが降りてくる
入り口を見ると、黄金の英雄王が立っていた


30士郎視点

「ギルガメッシュ…………」

状況は不利だった、
セイバー一人ではあいつに勝てず、ライダーの協力も、現状で受けれるとは思えない

「さて、折角開くのだ、
どうせならば、よりふさわしい場所で開くとしよう、
アーチャー、ここは任せるぞ」

地下道の階段を言峰と桜が上っていく
ライダーは一度だけ桜のほうを見たものの、
付いて行くつもりは無いようだ

「ほう、残るのか、ライダー?」

「サクラから受けた命令は解除されていない
私はエミヤシロウ護ることを最優先で行うよう指示されています」

きっぱりとライダーは言い切った

「ふん、雑種のお守りに身を投げ出すとは…………愚かな」

そんなライダーの答えを鼻で笑うと、
ギルガメッシュは自分の周囲に無数の剣を呼び出した

ハルペー、ダインスレフ、ヴァジュラ、デュランダル、カラドヴォルグ,etc,etc

その全てが本物であり、あらゆるものの原型であると、頭のどこかが告げていた

絶望が俺たちを支配する
例えライダーが手を貸してくれても、この剣の雨を防ぎきることなど不可能だろう

無造作に振り下ろされた手が、死刑宣告となった
セイバーと、ライダーが、それでも俺たちを護ろうとした、
その時

                  「投影、開始」

同じ剣の雨が、ギルガメッシュの剣を打ち消した


記事一覧へ戻る(I)