※冒頭、「月姫読本」からネタを引っ張っています。未見の方、ご注意下さい。
「貴様の故郷が、3年前の『聖杯』の残滓で騒がしくなっている様だが」
「『聖杯』?『聖杯戦争』なら、俺が居た処とは離れてるから
『妹』達に影響はない筈。特に興味ないね」
「『聖骸布』が絡んでいてもか?」
「────────。」
「前回の『聖杯戦争』で死んだマスターの亡骸が、今回の肝でな。
そのマスター、人間でありながらその身に『強力な投影』の魔術回路を持ち、
戦闘中の負傷で欠けた肉体をサーヴァントの部品を移植して補ったらしい。
その際、英霊の魔力を抑える為に『聖骸布』を用いたとのことだ。
今回、『聖杯戦争』の生き残りからその情報が漏れたらしく、
その亡骸を入手する為に『協会』の連中が挙って日本に押し掛けている。
また、『聖骸布』が絡んでいるとなれば『教会』も動かざるを得まい。
貴様もよく知る『弓』を派遣したようだ。
『聖骸布』なら以前の『魔眼殺し』以上に『その力』を抑えられるだろう?
今の貴様の状態では、目を閉じ、包帯を巻こうとも『死線』が見えることがある筈だ」
「確かに、興味はそそられた。けど、行かないよ。
別に、『吸血鬼』達がこれ以上『アイツ』に関わって来なければ、
俺だって戦う必要もないのだから、『この力』もこれ以上には強くはならないと思う。
だったら、見えない生活に慣れた今、包帯も『聖骸布』も変わりない。
それに、俺なんかが日本に帰れば、何もしなくても、唯、俺が居るだけで
多分また誰かの血が流れる筈。自分の事だから解ってる。悲しくなるけど。
ついでに言えば、『先輩』とは1ヶ月前に
『アイツ』のとばっちりを受けて戦ったばかりだ。
しばらくは顔を合わせ辛いよ。」
「『元』騎士として言わせてもらうならば、
一切手を出さず、一方的にやられることを『戦う』とは言わぬ」
「────────。」
「しかし、まあ、そうすると少し早まってしまったようだな」
「何のことだよ?」
「いや、何。つい先程、貴様の大事な『姫』にこの事を話してな。
『聖骸布』の辺りで文字通り飛んで行ってしまったよ」
「────────!それを先に言え!!!!この『片刃』!」
「貴様にその名で呼ばれるとは光栄だよ。
ともかく、あの『姫』が出向くとなれば『騒がしくなる』では済まんだろうな。
と、まあ。これで貴様も懐かしき故郷に帰らざるを得ない訳だ。
結局、貴様の影響による流血は避けることは出来ない。なあ、『殺人貴』」
「その名で俺を呼ぶな『復讐騎』」
──冬木市深山町、衛宮邸──
『ただいまー』
玄関から声がする。新都に買い物に行っていた遠坂が帰ってきたようだ。
遠坂、居間に来て絶句。
「おかえり…」
棒立ちの遠坂に一言。
今は、声を掛ける事さえ辛いが、挨拶は大事。
「────────ナニコレ?あいつら、また来たの?」
疲れている。遠坂の疑問にYESと答えるのも辛い。
それでも、このままにしては置けないので、立ち上りながら遠坂に言う。
「とりあえず、話の前に片付けよう。
悪いけど、割れた硝子と真っ二つになった卓袱台を直して欲しい。
俺は使っていない部屋から代わりの畳と襖を持ってくるから。
ああ、障子紙も張り替えなきゃ。」
卓袱台は割れ、硝子も割れ、桜愛用の湯飲みも割れて。
襖は破れ、障子も破れ、畳もボロボロに破れて。
とにかく、藤ねぇが帰ってくる前にある程度まで済ましてしまわないと。
テレビと給湯ポット、それと藤ねぇが持ってきた
訳の解らない置物とかが無事なのは加護と云うより呪いだと思う。
寝込んでしまった桜はライダーに任せたまま、俺と遠坂は片付けを始めた。
一時間後、ようやく見られるようになった居間で遠坂と向かい合う。
「で、今回も『身体』を探しに魔術師が来たのね。」
紅茶を一口、飲んでから遠坂が口を開く。
「今日のは魔術師とは少し違うような気がしたけど、
結局は俺の『身体』が目当てだった。」
俺は煎茶。
相手の嗜好に合わせることさえ辛かった俺たちはそれぞれ別々にお茶を淹れた。
ん、少し熱すぎたか。
「いい加減、如何云う事なのか話して欲しいんだけどな。遠坂。」
そう、現在の衛宮邸は毎日のように魔術師が押しかけ、
「『身体』をヨコセ」
と、言っては、遠坂やライダーに返り討ちに遭う。この繰り返し。
最初の頃は「魔術師に求愛される気分は如何?」とか、
遠坂にからかわれたりもしていたが、
いい加減しつこいので先日、襲撃してきた魔術師を無力化したあと遠坂が詰問すると、
どうやら奴等は俺の今の『容器』ではなく『元の身体』が欲しいらしい。
「大体、何処から俺の身体が特殊だなんて噂が流れたんだよ?」
「おそらく、その今の身体を注文した人形の調律師から流れたんだと思う。
その身体を作るときに、なるべく以前と同じ生活が出来た方が良いと思って
『投影』の魔術回路とかを含めて、ある程度、士郎の情報は渡しちゃったから。
こんなに口が軽いとは思ってなかったのよ。
ロンドンに帰ったら真っ先に出向いてやるわ。」
遠坂、目が怖いよ。
「ただ、先日の魔術師が言ってた
「『エクスカリバー』の鞘が埋まっている」とか「『固有結界』の魔術回路」とか
噂に尾ひれが附いているのが問題ね。余計な奴等まで寄ってくるなんて」
「────────。」
『エクスカリバー』云々は何の事だか解らないけど、『固有結界』は本当だったり。
遠坂には言ってないけど……。噂って恐ろしい。
「今日の奴なんて更に変だったぞ。
何度、ライダーがブッ飛ばしても
「あの『身体』を手に入れて『さちこさま』の『すーる』になるんだ!!!」
とか言って、起き上がってくるんだから。
それで桜が怖がっちゃって、ライダーがキレて石化。」
「それが庭に転がっている醜いオブジェね。」
穢い物を見る目で遠坂が庭を見遣る。その目も怖いぞ。
「桜は寝込むし、もう散々だよ」
「今後も未だk────────」
──────────。
瞬間、
全ての知覚情報が途絶え、
全ての知覚情報が氾濫するこの感覚。
「遠坂!!」
「解ってる、結界が破られた!って、言うより消された。いいえ、消えたって感じ。」
「何だよ、ソレ!」
「強力な魔力の前に掻き消えたって感じ。って、この結界が?
どんな奴なのよ。あの『ミスブルー』や『傷んだ────────」
『こんにちは〜。誰か〜出て来てよ〜』
玄関から間延びした『白い』声が聞こえた────────
既に同じ内容のSSがありましたら御免なさい。
人形の設定がよく解ってませんが、魂の容器と解釈しております。
とりあえず妄想は此処まで。続きはありません。