「なんだ、もう戦ってるの?開戦まで待てないなんて、わたしより
ずっと年上のなのに、2人共レディのたしなみってものがないんだから」
そこには、心底呆れたように肩をすくめる、
あの時助けられなかった少女と、少女を守るように立つ巨人が居た。
イリヤ―――ギルガメッシュに殺されてしまった、聖杯である少女。
そのサーヴァントであるバーサーカー。ヘラクレスは危険だ。
アレには絶対に勝てない、ダメージ判定がAに届かない攻撃を無効化し、
十一回の蘇生のストックを持つ、それが奴の宝具、『十二の試練』の力。
片手で抱えている凛をそっと降ろし、グラムを握る手に、再び力を込める。
ランサーもマスターである女性を庇うように立ち、臨戦態勢をとっている。
「待ちなさい。戦う気はないかはないからそんなにいきりたたないでくれない?」
またも、呆れたように肩をすくめるイリヤ。
その言葉と、その仕草に唖然としている、ランサーとそのマスター。
「では、何をしに来たのです?」
ランサーのマスターが冷たい声でイリヤに尋ねる。
「ただ、開戦前の戦いを止めにきただけよ。私の目的の妨げになるし」
―――離脱すべきだ。理性がそう告げている。凛も満身創痍だ。
イリヤは戦う気はないと言っているし、
ランサーの注意はバーサーカーに向かっている。
今なら簡単に離脱できるだろう。
けど、同時にイリヤと話をするべきだと考える自分がいる。
あの時、助けられなかったから、今回は絶対に助ける。それが、『正義の味方』
を目指した、英霊エミヤの生き方だ。これだけ死んでも曲げることはできない。
イリヤとは話し合えばきっとわかりあえる。そう思い、グラムの投影をやめ、
臨戦態勢を解く。
「ふーん、リンのセイバーは話のわかる紳士みたいね」
感心したようにこちらを見た後、不愉快そうに口を紡ぐ。
「で、そっちのランサーはやる気なわけ?」
―――氷のように冷たい、あの夜と、同じ目をしたイリヤがいた。
ランサーは無言で槍を構えたまま身体を沈める。
「やめなさい、ランサー。ここは引きます」
ランサーのマスターも不利と悟ったのか、ランサー止める。
面白くなさそうな顔して、舌打ちした後、ランサーは消える。
ランサーのマスターは、一瞬イリヤを睨んだ後、静かに撤退して行く。
イリヤはそれを見逃した後、―――あなた達は逃げないの?
なんて視線で問いかけてくる。
正直、イリヤの事はよく知らない。けど、やはり引けない。
話し合って、イリヤと戦う事は避けたい。だから、何か話さないと。
「セイバー、私達も引くわよ」
凛が苦々しい顔をしながらそう言って、公園から離れる。
渋々ながら、俺も凛の後に続く。
公園からでる前に、一度だけイリヤに振り返る。
「バーサーカーのマスター。君が来ていなければ、
私達は死んでいただろう。感謝している。――ありがとう」
嘘偽りの無い言葉を口にして。イリヤに頭を下げた後、再び凛を追う為に走り出した。
イリヤがそれを聞いて、どんな表情をしたか分からないが、
これをきっかけにイリヤと話せたらいいなと、素直にそう思った。
公園からでた後、凛がボロボロになっていた事に気づく。
うん、まあ、アレだ。なんと言うか、激しい戦いだったせいか、
衣服がボロボロで、所々から、肌が見えてしまったりするわけだ。
自分でも赤面していくのが、手に取るようにわかる。
その上、凛は戦いでよっぽど疲れたのか、
それとも、負けた事がよほどショックだったのか、
何時ものような余裕が無く、沈んだ顔をしている。
自分が、今どんな格好をしているのか、まったく気づいていない。
やばい。凛が俺に、申し訳なさそうな顔をしてるが、
こっちは恥ずかしくて、凛を直視することができない。
その格好で、外を歩かせるわけにはいかないので、
というより、むしろ絶対に嫌だ。仕方ないので着ていたコートを脱ぎ、
なるべく、凛を直視しないようにしながら、
背後から凛にそっと羽織らせる。
コートが無くても、冬木市は冬でも比較的暖かいので、
耐えられる寒さだ、それに、凛のあの格好を晒されるより一万倍マシだ。
二人で人通りのない、道路を歩いていく。
心なしか凛が早足になったので、それに合わせる。
まあ、寒くなったら、霊体になればいいんだしさ。
む、霊体になったほうがマスターに負担を掛けないでいいんだったけ?
戦闘で消耗してるだろうし、霊体になるかな。
凛の後ろを歩いていたが、霊体となり、凛の後ろを漂っていく。
「そういえば、セイバー。ランサーが急に消えたけど、アレって・・・」
凛が後ろを振り向いて、話しかけてくるが、固まっている。
「ああ、マスターの負担を減らすため、霊体に戻ったんだろうな」
「―――セイバー?何処にいるの?」
「君の目の前にいるが?」
む、もしかして霊体化したら、自分のマスターも見えないのか?
それはやっかいだな。
と、言うか、この辺の事を全然説明してなかった気がする。
いや、てっきり知っているものだと思ったから。
とりあえず、実体化する。
幸い、人通りの少ない道路だし、いきなり実体化しても問題ないだろう。
凛が、いきなり消えたり、現れたりしてる俺を見て、若干驚いている。
――とりあえず、サーヴァントは霊体になれる、ってあたりから説明するかな。
凛の家に向かいながら、説明する。
一通り説明したら、霊体になっててくれと言われたので。
素直に霊体化して、凛の後を漂いながら、憑いていく。
・・・言い得て妙だな。
そして、ようやく帰宅。
凛は疲れているので一眠りすると言って、さっさと部屋に行ってしまった。
さて、自由な時間を得れたわけだが・・・・・・やる事がないな。
ギルガメッシュを探そうにも、まだ、夕方だ。こんな時間から戦闘は不味い。
俺にはランサーのマスターのように、結界を張る技術がないから。
仕方が無いので魔術の鍛錬でもしようと思ったが、
凛に負担を掛けることになると思ったのでやめる。
・・・イリヤの事でも考えるかな。
イリヤとは前回はロクに話すことはできなかったが。
凛が言うには、衛宮士郎に興味を持っていたらしい。
今は、一介のサーヴァントである俺と、まともに会話してくれるだろうか?
良い子だって事はわかってはいるが。・・・どうしたものかな。
結局、イリヤを説得する方法は思いつかないまま、夜になった。
疲れてる凛のために、食事の準備を始める。
凛の体調の事を考えると、軽いものの方が良さそうなので、
簡単に、軽いものを作って、凛が起きてくるのを待つ。
10分くらい待ったら、凛が起きてきた。
何か言いたげな表情で、こちらを見た後、
溜息を吐き、食卓に着く。
さて、メシでも食べながら、ギルガメッシュの対策を練らないとな。
で、食べようと思ったら。
「そういえばセイバー、あなた食事を取る必要あるの?」
なんて凛に聞かれた。
「いや、サーヴァントはマスターの魔力で現界している。
食事を取る必要性は、ほとんど無いだろう」
うん、確かにサーヴァントは、マスターの魔力で現界しているから。
食事を取る必要は無いな。アルトリアは、マスターである俺からの補給が
無かったから、食事を取ることで、魔力の生成をしていたわけだし。
これって、「金の無駄だから食うな」と言われてるんだろうか。
「そう、じゃあ、これからは食事抜きね」
やっぱりそうでした。
そういえば、赤い騎士が食卓に着いているのを見たことが無い。
思えば可哀想な事したなあ・・・
確かに食べる必要性が無いのは認めるが、
せっかく現界したと言うのに、なんか寂しい。
けど、凛は万年金欠で困ってたからなあ、少しでも節約したいんだろう。
ふう、凛の家計簿が赤くならないように、食べるのは諦めよう。
食事の最中、凛と「バーサーカーをどう倒すか」と、話し合ったが。
俺はバーサーカーを倒さずに、イリヤと和解できると信じてるので。
凛が話すのを一方的に話すのを聞いていたが、
「あんたも意見だしなさい」
と、言われてしまったので、
「相手が何処の英霊か知ることができれば、
勝機が見えてくるかもしれない、今は情報収集に力を注ぐべき」
と、正論を言っておいた。
さて、凛は食事が終わってら、
すぐに自室に戻り、魔力を回復させるために眠りについた。
現在、時刻は午後9時。
もう少し、時間が経ってから、ギルガメッシュを探しに行こう。
あいつが、今の所、俺の目的の最大の障害なのだから。
大丈夫、必勝の策はある。
時計が午後10時を告げる。凛によると俺が召喚された時には、
何故か1時間ずれていたらしいので、ちゃんと戻しておいた。
さて、凛を残して探索に行くのは、正直サーヴァントとしてどうかと思うが。
やはり、ギルガメッシュを探すことにする、アイツを放っておくのは危険だ。
アイツが、何時イリヤを襲いに行くかわからない。
危険の芽は、早いうちに刈り取る。
それに、過去で俺は、人の身でありながらも奴に勝利している。
無論、奴が俺を舐めていた事もあるだろうが、今は奴が万全の状態でも、
勝てる自信がある。何故ならこの身は、奴と同じく英霊なのだから。
意を決して、夜の街に飛び出す。霊体化された身体は、障害物をすり抜け、
教会まで、最短の道を最高速度で駆けていく。
―――が、大橋の所で、思わぬ敵と遭遇した。
あとがき
やはり全然話が進まないです。なんか完結に50話くらいかかりそうです。
あと、イリヤの目的の妨げにあるって発言ですが、サーヴァントが死にすぎると
イリヤが自我を保てないため、士郎やキリツグに復讐できないからです。
実際、3人。ライダー、アーチャー、バーサーカーの魂を取り込んだら、
昼間から眠いと、発言してたりしたんで。
また、士郎に興味があるたすぐには殺しはしません。
・・・我ながら自己解釈の多いSSだなあ。