「行ったわね。」
「お嬢様、命の心配は御座いませんでした。」
「そう、それじゃあ他の人達も先に連れて行って。」
「かしこまりました。」
「さてと、貴方が七夜志貴君ね。」
「え? ああ。」
「私は明朝月雨、現明朝家当主よ。 色々と話したい事があるでしょうから連いてきて。」
「あ、ああ、判った。」
正直今の現状がよく判らない。
突然現れたかと思えば白狐は逃げ出すし自分は明朝の党首と言っている。
果たして目の前の女性はみかたなのだろうかとも思えるが本能的に理解できた。
目の前の人物は危険ではない、と。
雪之が言ってた山の頂上で急に立ち止まった。
「あそこが明朝の里よ。」
よくみると木々の間から僅かだが木造建築らしき物が見える。
だがどれもよく周りに擬態していて目を凝らさなければ見逃してしまいそうだ。
「もう少しだから行きましょう。」
「ああ。」
下りは登りと違って思ったよりも楽だった。
山を降りるとそこは一見ただの森だが木の上に家が作られている。
木々に梯子なんて物はなく所々に切込みが入っている。
あそこに足を架けて昇るのだろう、切り込みの切り口はすごく古い。
「連いて来て、私の家はこっちだから。」
そのまま木々の家の間を抜けて行くと今までの木々とは比べ物にはならない巨木が現れた。
それは樹齢何千年か想像も出来ないほどの巨木だ。
木のてっぺんは見上げても木の葉で見通せない。
「ここよ。 あっ、一応聞いておくけど昇れるでしょう?」
「ああ、問題無いよ。」
「そう、ならいいわ。」
そう言うとあっという間に木を登って上の家のついてしまった。
あっけにとられて見上げていると
「何してるの? 早く上がってらっしゃい。」
「あ、ああ。」
木に目をやるとさっきみた木と同じように所々に切り込みがある。
その切込みを目で追っていくと切り込みの間隔がさっきの木と違いかなり広く取られている。
「よし。」
一つ目の切り込みは調度眼の高さにある。
木に両手をついて深呼吸した。
上を見上げると明朝がこちらを見下ろしている。
そして目を切り込みに戻すと一気に跳んだ。
足を切り込みに引っ掛けて思いっきり蹴る。
次々にそれを繰り返して上に登っていく。
思ったよりも楽に登れている。
これも幼い頃の特訓の賜物だろう。
気がつけば木の上にあった家についていた。
「来たわね、中へどうぞ。」
そういって中へ誘われる。
下から見たのと違って思っていたよりも家は大きかった。
木の上に作られているだけあって床は全て木の板が張り巡らされているだけだ。
だが造りはかなり立派で普通の家となんら変わらない。
ギシギシと音を立てながら歩いていくと前から黒い着流しを着た女性がやってきた。
年齢は察するに俺よりも少し上って所だろうか。
明朝の前まで来るといきなり跪いて頭を下げた。
「お帰りなさいませ。」
「首尾は?」
「はっ、捜索範囲を広げていますが未だ何も。」
「そう、・・・・・・下がっていいわよ。」
「はっ。」
着流しの女性は音もなく立ち上がるとそのまま来たのと反対方向に歩いていった。
「やっぱり一筋縄じゃいかないか。」
「なにが?」
「暗夜の居所よ。 私達もずっと捜しているけど未だ見つからないのよ。」
「そうか。 ところでさ・・・」
「貴方の妹さんとその連れは今治療室にいるから心配しないで。」
「そ、そう。」
何で言おうとしたことが判ったんだろう。
「さ、着いたわ。 ここよ、入って。」
そう言って立ち止まったのはまあ、一言で言うなら大広間って所だろうか。
よく時代劇とかでお殿様とかがいる部屋と言えば判るだろうか。
呆気にとられて立ち尽くしていると明朝はお殿様が座ってそうな場所まで行くとそこに座った。
「どうしたの、そんなところに立っていて。」
「いや、なんかすごいなって思って。」
「お嬢様、如何いたしましょうか?」
「うわっ!」
突然後ろから声がしたと思ったらさっきとはまた別の黒い着流しの女性が立っていた。
これでも人の気配は結構判る方なのに全然判らなかった。
つまりそれだけ訓練されてるって事なのだろう。
「暗夜に関する資料を在るだけ持ってきてちょうだい。」
「かしこまりました。」
またその女性も音もなく去っていった。
するとこんどはまた別の女性が入ってきてお盆の上にお茶が乗っている。
そのまま明朝の前まで歩いていって一度お盆を置いてから明朝の後ろの押入れから座布団を出すとそれを明朝の前に置いた。
そして同じ押入れから卓袱台を出すとそれをその前においた。
「座って。」
明朝にいわれてそこまで歩いていく。
座布団に座ると湯飲みを俺の前においてお茶を入れてくれた。
「ありがとう御座います。」
お礼を言うと何も言わずに一礼して明朝の所に行って同じようにお茶を入れ二言三言何か話しかけて部屋を出て行った。
「さて、まずここに来た理由を話してもらえるかしら。」
「あ、ええっと、暗夜を退治するのに力を貸して欲しくて、それでここに・・・。」
「何故貴方たちが暗夜を倒す必要があるの?」
「それは、・・・・・・・・・俺の大切な人が暗夜に狙われているから。」
「遠野秋葉の事ね。」
「 ! 何で知ってるんだ。」
「これでも暗夜に関する情報は殆ど抑えてるわよ。」
「なら話は早いな、力を貸してくれないか。」
「それは構わないわよ、私個人としても暗夜には用があるから。」
「なら急いで戻らないと。」
「遠野秋葉が危険にさらされるから?」
「ああ。」
「残念ながらもう遅いわよ。 今連絡があって遠野家が襲撃を受けて遠野秋葉が連れ去られたって。」
「 !? 秋葉が・・・・・・」
「ええ、私達も全力で暗夜を捜しているけど未だ何の進展もないわ。」
「明朝さん、雪之達をお願いできますか?」
「落ち着きなさい、貴方一人で何が出来るの? 当てもなく捜した所で見付るなら私達がとっくに見つけてるわよ。」
「解かってる。 けど、それでもじっとしてられないんだ。」
「全く、貴方の一族は変わらないわね。 貴方の妹といい貴方の父親といい考えるより早く動く人だから。」
「親父が?」
「ええ、まだ私が六つの時だったけど貴方の父親に会った事があるのよ。 貴方の父親といったら私達が効率的な計画を提示しているのにそれを全く無視して一人で突っ走るんだもの。」
「血は争えないって訳か。」
「そういうことね。 ともかく今の貴方にできることは暗夜について知ること。 無闇やたらに動き回った所で暗夜が見つかるわけでもないわ。」
「・・・・・・解かった。」
「お嬢様、失礼します。」
調度よくさっき資料を持ってくるように頼んだ人が他に二・三人後ろに連れて両手一杯に古そうなぶ厚い本を持って立っていた。
音もなく卓袱台まで歩いてきて静かにその本を置いていく。
辛うじて“退魔記”と読める。
そして本の中心には対極紋の下半分だけが書いてあった。
まるでそれは人魂の様にも見えた。
本を置くと女性は一人残して部屋を後にした。
残った一人は部屋の壁際に立っている。
「それが暗夜について唯一真実が述べられている資料よ。」
「真実が述べられている?」
「ええ、七頭目の家にも一応暗夜についての資料はあるけどそれは全て偽りよ。」
「何で資料に嘘を書いたんだ?」
「暗夜という家計が特殊なものだったからよ。」
「それだけで?」
「暗夜の出生には秘密があるのよ。 このことは深く詮索しない方が身のためね。」
「・・・・・・ふうん。 その秘密とやらはこれには載ってるのか?」
「それだけは載っていないわ。」
「じゃあどんなことが載ってるんだ?」
「そうね、明朝と暗夜が発現させた能力についてとか明朝と暗夜の歴史についてとかかしらね。 一応それでも七頭目の資料には載っていないのよ。」
「これ、見せてもらってもいいか。」
「ごゆっくりどうぞ。」
とりあえず目の前にはA4サイズの百科事典といっても通りそうなぐらい分厚い本が10冊以上積んである。
一番手前にあったのを手にとって見る。
ズシリ、と見た目以上の重量に驚きながらも表紙をめくってみる。
するとそこから既に文字の羅列が並んでいて軽い頭痛を覚えながらパラパラと読んでいく。
内容を頭で完全に理解しないでも文字の羅列から何が書いてあるかは大体理解できる。
! と、今何か気になる字が目に入り頁を戻す。
そこを開いた時思わず凍りついた。
そこに書いてあったのは―――
“直視の魔眼”
この魔眼は歴代暗夜の中でも発現できたのは僅か六人だけという極めて希少な能力である。
能力者には万物に“線”と“点”が視え、線を引けば万物を解体し点を突けば万物を殺す事ができる。
またこの能力で殺すというのは存在の死ではなく意味としての死である。
この力は本来人間には理解できない物体の“死”を理解する為脳に計り知れない負担をかける。
又力を抑え込むには途轍もない精神力が必要でこの力の発現の有無の確認は幼少期に済ませなければ大変危険である。
またこの力は先天的なものと後天的なものとに分かれる。
先天的な物は最初から能力が“開いて”おり生まれた瞬間から点と線が視えるため能が防衛本能で自然に制御法を身に付ける場合が多いが後天的なものの場合開花する素質があるが“閉じて”いるため何らかの外的要因がなければ力を発現することはない。
後天的に能力を身につけている場合大抵の場合自らが命の危機に瀕した時に発現する場合が殆どである。
だが後天的に能力を身につけている場合それを判別することが出来ずに以前は幼少期に命の危機に瀕する状態を作り出し能力を持っているかどうか判別する傾向があったが今は廃止されている。
またこの能力は非常に根源に近い為危険である。
発現したとしてもそれを他言することは禁物である。
まるで自分の事のようだった。
九年前の夏。
青い空。
白い雲。
蝉の声が遠くに聞こえる中、いつまでも子供のままでいたいという幻想の終わり。
俺は死んだ。
そして眼が覚めた時から見えるようになったこの線と点。
どこまでも続く草原の中消えてしまいそうだった自分を救ってくれた一人の魔法使い。
その日から遠野志貴の人生は始まったんだと思う。
「どうしたの?」
ふと明朝の声で現実に戻された。
「いや、なんでもないよ。」
また頁をめくっていく。
途中何度か気になる所で目を留めてまた頁をめくる。
そんなことをただ延々と繰り返す。
どれくらいそうしていただろうか。
部屋に窓がないため外の様子はわからない。
その間明朝は飽きる事無くずっと俺を見ていた。
そうして五冊目に入って同じように頁を捲っていると何かを見つけた。
最初それが何かは判らなかった。
頁を戻していくとそれを見つけてしまった。
“繭糸”
この能力は暗夜、明朝の両家の間でも最も危険な能力で浄眼でなければ捕らえる事のできない糸を紡ぎだす力である。
この糸は直死の魔眼と同じく万物を切断することが出来るが“意味”を殺すことはできない。
元々は攻撃用ではなく自らを守る為の力だが戦闘に用いることもできる。
この能力は直死の魔眼よりも根源に近くに位置し歴代でもこの能力はたった二人しか発現していない。
また脳にかかる負担は直死の魔眼の比ではなく力の解放は持続できない。
この能力の有無の確認については直死の魔眼よりも容易で先天的なものしか確認されていないが制御方は無いものと思われる。
この能力については発現者が二人しかいない為これ以上の情報は無いが随時追加するものとする。
何故かこの部分が気になった。
それはどこかで視た事がある気がした。
「気付いた? それは、繭糸は七夜雪之の能力よ。 正直私も驚いてるわ。」
「それじゃあ雪之の能力はこんな物騒なものだって言うのか。」
「ええ、そういうことになるわね。 安心しなさい、とって食ったりはしないから。」
「別に、もしそうするなら君とは敵にならなきゃいけないだけだ。」
辺りの温度が急激に下がった気がした。
同時に壁際にいた女の人は身構えた。
「それは出来れば避けたい所ね。」
見れば明朝の首筋に冷や汗が見える。
身構えている女性も手が震えている。
そこでこの寒気が自分の殺気だと気付いた。
どうやら知らぬ間に殺気を出していたようだ。
ここ最近殺伐としているから殺気がコントロールできなくなっているらしい。
「ああ、出来れば俺も敵にはなりたくないんでね。」
体からはまだ殺気が僅かだが零れている。
気を紛らわせようとまた本に目を落とす。
そうしてやっと壁際の女性は構えを崩して元の姿勢になった。
気にしないようにしてある程度読み飛ばしていく。
途中八雲の能力である影との同化についても書かれていた。
「貴方が今読んでいるのは暗夜と明朝で作り出した能力及び魔術についてね。 残りが全部暗夜と明朝の歴史が書いてあるわ。」
「・・・・・・・・・・・・」
明朝が指差したのは自分が読み終えたのと同じくらい積み重なった本の山だった。
「これ全部か?」
「ええ、全部よ。」
なんだか暗夜と戦う前に力尽きそうだ。
気を取り直して読んでいく。
そしてやっと最後の一頁というところでふとあることに気付いた。
「あれ?」
「どうしたの。」
「これここから破られてるぞ。」
「え?」
そう言って立ち上がってこっちにやって来て本を覗き込む。
「本当ね。 おかしいわね、これは私以外持ち出せないんだけど。」
「ここに何が書いてあったのか覚えてないのか?」
「さあ、暗夜と私の一族が作り出した能力か魔術だと思うけど。」
「そっか。」
そこでその本を読み終えた本の山に追加した。
そして改めて未だ手付かずの本の山を眺める。
「これって他のは何が書いてあるんだ?」
「そうね、主に明朝と暗夜についての歴史かしら。」
「これ全部にか?」
「ええ、明朝と暗夜って結構長く続いているらしくって。」
「結構ってレベルじゃないだろう、これは。」
「あら、そうでもないわよ。 それに書いてある内容なんて何月何日に当主が誰に替わった、だとか何処の一族と共同で何をした、だとか一族内での出来事ぐらいしか書いてないわよ。 しかもそれが延々と続いて大体一つの世代で十分の一くらい使ってるわよ。」
「なら君は五十一代目の当主って事?」
「正確には五十四代目よ。 五十一代目からは新しいのにつけてるの。」
「なるほど。」
「ところで七夜君。 貴方は暗夜についてどこまで知ってるの?」
「志貴でいいよ。」
「そう、なら私も月雨でいいわよ。」
「判った。」
「改めて聞くわね。 志貴、貴方は暗夜についてどんなことを知っているの?」
「そうだな、今の七頭目の先祖に当たるのが明朝と暗夜だって事と十二年前に暗夜が一人残して滅んでるって事ぐらいかな。」
「一人残して滅んだって言えば貴方の家も貴方たち兄妹を残して滅んでしまったわね。」
「昔のことさ。」
正直七夜の家が滅ぼされたから誰かを恨むという気にはなれなかった。
全く恨まないと言えば嘘になるかもしれないが自分の一族が殺されたという実感がないのだ。
「ごめんなさい、あの時私達がもっと早く駆けつけていればあんなことにはならなかったのに。」
「いいよ、気にしてないから。」
「あの後軋間紅魔は行方不明になって未だ消息不明なの。」
「軋間・・・紅魔・・・」
自分の一族の滅びる理由となった最大の原因。
遠野の分家の中でも色濃く魔の血を引いていて当主は必ず紅赤朱になると言われている。
八雲が言ってたっけ、『もし分家がいなけりゃ七夜だけでも防ぎきれたかもしれねえ』って。
と、そこである事に気付いた。
何故今まで気付かなかったのだろう。
考えてみればすぐにわかることだった。
「なあ、七夜に分家なんてないよな?」
「 ?! ・・・・・・・・・貴方本気で聞いてるの?」
「ああ。」
「はぁ、自分の一族の事も知らないの? いい、七夜はね他の血を一切混ぜずに代を重ねるごとに血を濃くしていったのよ。 その一族に分家なんてあると思う?」
「だよな。」
なら八雲が言っていたアレはなんだったのだろう。
単なる勘違いのわけはないだろう。
「何か気になることでもあるの?」
「ああ、前に八雲から七夜が滅びた理由を聞いた時に分家がいたからだって言われたんだ。」
「八雲が? ・・・・・・どいういう事かしら。」
「それを今考えてたんだ。」
「変ね、七頭目の間でも七夜が血を混ぜないことは有名なのよ。」
「後で直接本人に聞いてみるか。」
「一番手っ取り早い方法ね。 ・・・と、話が反れたわね。 暗夜がたった一人を除いて滅びた所まで話したわね。 滅びた理由については判ってないわ。 それに方法もね。」
「方法?」
「ええ、方法よ。 少し考えたら判ることよ? 暗夜といえば魔にとって七夜以上に厄介な一族。 それをどうやって滅ぼすというの? 暗夜は七夜と違って魔術も使うし体術のレベルも一般人の傭兵程度でどうこうできるレベルじゃないわ。」
「確かに言われてみればそうだな。 七夜の時は軋間紅魔がいたけど、・・・・・・暗夜のときも軋間の家系の人間がいたとしたら?」
「確かに軋間紅魔は紅赤朱の中でも他に類を見ないほど強力だったわ。 けれどそれは軋間紅魔が異常なだけであって、軋間の家の皆が皆アレほどの化け物になるわけじゃないわ。 例えそうだったとしても暗夜の一族にたった一人で向かった所で返り討ちに合うだけね。 まあ、それが大勢いたなら話は違ってくるけど。」
「でもそれって軋間の当主が大勢いたってことになるだろ。 ってことはそんな事はないってことか。」
「これ以上暗夜が滅んだ理由を考えても無駄ね。 今まで散々調べて何も判らなかったことだし。 そうね、あと知っておかなきゃならない事って言ったら暗夜と明朝の関係かしら。 私たちは初代当主であった暗夜暗闇と明朝明光がそうだったように暗夜と明朝は当主も含めて必ず二人一組で行動するの。 大抵は体術を得意とする者と魔術を得意とする者が組むんだけど極稀にお互いに体術が得意な者同士で組んだり魔術が得意な者同士で組んだりもしたわ。 そもそも暗夜と明朝は幼少期に体術を中心に習得するか魔術を中心に習得するかを決めるのよ。」
「君はどっちを選んだんだ?」
「私は魔術を選んだわ。」
「それじゃあ君のパートナーは体術を・・・」
「七夜殿!」
今まで黙っていた壁際の女性は大声で俺の質問を遮った。
「お嬢様とて組むべき相手を失われておられます。 それをご考慮に入れた上でのご質問で?」
「あ、・・・・・・その、ごめん。 今のは俺に気遣いが足りなかったよ。」
「いいのよ、もうずっと前のことだし。」
「お嬢様、もう日も暮れて大分経ちます。 お客人にもそろそろお休みいただいては?」
「今どのくらい?」
「月が沈んで既に二、三時間は経っておりますが。」
「もうそんな時間なの? そうね。 七夜君、もう遅いから続きはまた明日ね。 部屋に案内してあげて。」
「かしこまりましたお嬢様。」
壁際の女性は明朝に一礼すると部屋の外へ出て行った。
それに続いて廊下に出ると先程の女性が待っていた。
「こちらです。」
そう言って廊下の奥へと歩き出す。
歩きながら辺りを見回す。
廊下に窓はなく一定間隔で襖がある。
それらは全て明りが点っているところから中で仕事でもしているのだろう。
廊下は歩いてみて気づいたがどうやら回廊のようになっているようだ。
さっきまでいた部屋は入り口から正反対ぐらいの距離はあっただろう。
今歩いている距離から察するに客間は入り口の側なのだろうか。
「こちらになります。」
いつの間にか一つの部屋の前まで着ていた。
案の定少し奥に入り口が見える。
それはさて置き部屋の中に目をやると想像通り八畳一間の和室だった。
内装は中央に机がありそこに座布団が向かい合わせに二枚置いてある。
その奥には襖があるが窓はない。
机の手前には既に布団がしいてありその上には着替えらしき寝巻きが置いてある。
右手には押入れがあり電灯ではなく柱に行燈が取り付けられている。
「何かご不満でも?」
「いえ、ありがたく使わせてもらいます。」
部屋に入ると「失礼します」と言い残して案内してくれた女性は立ち去っていった。
「寝るか。」
布団の上に置いてあった寝巻きに着替え布団に入る。
するとあっさりと眠気に襲われて眠りについた。
あとがき
今回は一度に書き上げてあった分全部アップしました。
おかげで次の更新がいつになるやら。
物語としては以前アップした分はもう通り過ぎました。
一応物語りは最終戦に向けて着々と動いています。
いまだ顔を出していないキャラなどもいますので是非そちらの方も楽しみにしていてください。
最近この掲示板はFateのばっかりで未だに月姫のをアップしているとなんだか一人浮いて見えます。
ですがこれが終わるまでめげずに頑張らせていただきます。
ではまた次のあとがきで。