「氷花。」
「甘い甘い。」
地面に花が咲いたように四方八方に向けて氷が生えていく。
鬼呑子はその氷の間を縫うようにかわしていく。
「そこです。」
草薙は両手に持っていてたクナイを鬼呑子めがけて投げつける。
「当たらないよう〜。」
更にそれさえもかわしていく。
「爆散。」
氷が一気に弾けてその破片が飛び散る。
「あはははははは、危ない危ない。」
鬼呑子は飛んでくる破片を全て素手で叩き落していく。
「放雷。」
突如地面から雷が飛び出てきて鬼呑子めがけて飛んでいく。
「濁流。」
何もなかったはずの空中から突如滝のような水が落ちてきて雷を全てかき消した。
「水で雷を防いだだと?」
「水にも色々あるんだよ。 今のは水圧を極限まで高めた水なんだ。 同じエネルギー思ったもの同士をぶつければ相殺されるだろう?」
「草薙、コイツの相手は俺ひとりにやらせてくれ。」
「何故です?」
「コイツとはここに来る途中にケリを付けることが出来なかった。 だから今ここでケリを付ける。」
「わかりました。 ですが貴方が危険と判断したら助太刀に入ります、よろしいですね。」
「ああ。」
「本当に一対一でいいの? 僕は二人でもいいんだよ。」
「構わん。 行くぞ、――――――散氷。」
辺りに細かい氷が飛散する。
光がもっと強ければきらきらと輝いているだろう。
「うわぁ、綺麗だね〜。 でも綺麗なだけじゃ僕は倒せないよ。」
「雷氷月下。」
突然強烈な閃光が突き抜けた。
「濁流。」
先程同じように鬼呑子は高水圧の水を繰り出す。
光が収まった時に目の前にあったのは跪く鬼呑子だった
「うっ、なかなかやるね。 まさかこの僕が傷を負うとは。」
「今のは先程のお前の言葉を借りるなら極限まで強くした雷だ。 前もって空気中に散布した氷の粒子が電気を伝えただけだ。 例え一方向に水の壁があろうとも無意味だ。」
「なるほど、考えたね。 ・・・それじゃあちょっと本気出すね。」
鬼呑子が手を上に挙げる。
すると地面から水が沸いてきて鬼呑子の回りを渦巻いていく。
「それじゃあ行くよ。 覚悟はいいかい、・・・・・・水龍。」
今まで渦巻いていた水が一斉に襲い掛かってくる。
斜め前に跳んでそれをかわし鬼呑子との距離を詰める。
「雷火。」
「甘いよ。」
術が完成する前に後ろに衝撃を受けてそのまま飛ばされた。
飛ばされた先には鬼呑子が待ち受けている。
「それ。」
飛んできた自分にタイミングを合わせて腹に正拳突きをくらった。
「ガハッ。」
思った以上に鬼呑子の拳は重く、予想以上のダメージを受けた。
「くっ、・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ。」
「ふふふ、もう息切れしてるようじゃ僕には勝てないよ。」
「これで終わりだね。 バイバイ、中々おもしろかったよ。」
「ハッ。」
鬼呑子の足元にクナイが刺さる。
「次は君が相手かい?」
「貴方はここで倒します。」
「君ごときできるかな〜。」
「飛翔燕舞。」
ドスドスドス
鬼呑子は何が起こったか理解できていない。
それもそのはず、全くの死角から突然クナイが飛んできたのだから。
「クッ、今のは・・・一体。」
「念のため言っておきますが私から逃げれると思わないでください。 それと先程のように水で防御しても無駄ですので。」
「言うねぇ〜。 それって余裕?」
「いえ、事実です。」
「いいよ。 それじゃあ僕との実力の差ってやつを教えてあげる。」
そう言って両腕を抱きかかえた。
すると足元から水流が立ち上り両腕を包み込んだ。
ちょうど水が腕を渦巻いていてプロテクターのようになっている。
「覚悟はいい?」
水が段々と形作っていく。
それは鍵爪の形をしているがあくまで水である。
いわば水の鍵爪といったところか。
水が完全に武器を形作った所で鬼呑子は戦闘態勢に入った。
腰を低く落としていて腕は自然に下げている。
恐らく一瞬で距離はゼロにされる。
だがそれでも問題ない。
「それは私の台詞です。」
同時に駆け出した。
予想通り一瞬で距離をゼロにされもはや目の前にいる。
だが予想通りなので簡単に対処できる。
袖に隠していたクナイを腕を振るった勢いで投げつける。
だがそれを左手で払いのけて右手の一撃を構えている。
地面を強く蹴って真上から懐のやや大きめのクナイを全て投げ下ろした。
当然のように両手でそれらを防ごうとしたが、
ドスドスドス
「なっ、・・・バカな。」
クナイは鬼呑子の体中に刺さっていて、傷口から凍り付いていっている。
アレには術法が施してあり刺さった箇所から凍結する効果がある。
「何故だ。 僕はちゃんと受け止めたのに!」
「確かに、普通の人間が投げたクナイなら貴方の鍵爪に全て弾かれていたでしょう。 ですが生憎私は普通でない力を持っているので。」
「なるほど、それが君の能力か。 浅神って子も使っていたね、アレはモノを捻じ曲げる力だった。 じゃあ君の力は一体・・・」
「知ってどうするのですか?」
「君の力が解れば対処法も思いつくだろう?」
「それは無意味です。 私の能力には貴方では対処できません。」
「 !? なるほど、どうやらその通りのようだね。 まさかこんなになってるなんて・・・」
そう、既に鬼呑子は死地にいるのだ。
周りには見えないが何千何万という数のクナイが鬼呑子に矛先を向けている。
無論いつでも飛ばせるようにしてある。
「さすがにこれを全部かわすものさばくのも無理だね。 まいったな〜、まだここで死ぬわけにはいかないんだけどな。」
「最初に言ったでしょう? 貴方はここで終わりだと。」
「ふふふ、さぁて、・・・・・・どうしようかな?」
鬼呑子が何か仕掛けようとした時、
「もういいぞ、行くぞ。」
そんな声が聞こえてきた。
「時間がないので最初から本気で行くぞ。」
「おもしれぇ、やってみやがれ。」
「言われるまでもない。」
辺りを殺気が渦まいているのが肌で感じられる。
「霊魔、油断すんなよ。」
「はい。」
体がピリピリと痛む。
これも全て鈴丸の殺気だ。
今まで相手にしてきた奴らでもここまで強い殺気は初めてだ。
「開樹束縛。」
鈴丸がそう呟くのが聞こえた。
「気をつけろ、何かしてくるぞ。」
辺りに注意を払うが何も変化はない。
「お前らはもう捕らえられている。」
「えっ?」
突如地面が揺れた。
突然の事で体制を崩してしまった。
慌ててバランスをとろうとした時地面から木の根が飛び出してきて体に巻きついてきた。
「曲がれ。」
自分の体に絡み付いてきた木に向けて魔眼を発動するがまるで効果がない。
「無駄だ。 その木を殺すにはここら一体の植物を殺しつくさねばならん。」
「どういうことだ?」
「お前らが知ることではない。 そのまま樹木の養分となるがいい。」
体に巻きついてる木から棘が出てきて体に食い込む。
体中所々傷が出来てそこから血を吸われている。
それと同時に体中から力が抜けていく。
「これは、・・・」
「しっかりしろ、霊魔。 コイツは体力を奪うと同時に精神に介入してくる。」
「精神に?」
「ああ、そうだ。 コイツに吸い尽くされたら精神崩壊して帰ってこれねぇぞ。」
「でもどうすれば。 コイツら魔眼がきかないみたいで。」
「しょうがねぇ。 霊魔、ちょっと眼瞑ってろ。」
「え?」
「いいから早くしろ。」
「・・・わかりました。」
言われたとおり目を瞑る。
気配で御鏡さんがそれを確認したのが判る。
体には未だに棘が食い込んでいる。
が、次の瞬間まぶたの裏から閃光を見た。
眼を開けていたら今頃失明していただろう。
そして体を縛っていた植物が消え去っている。
「莫迦な。」
閃光が収まったのを確認して目を開けると跪く鈴丸と立ちすくむ御鏡の姿があった。
「貴様、何をした。」
「ふん、これから死ぬやつに話したところで意味は無ぇんじゃねぇか?」
「人間風情が調子に乗るな!」
地面がうねって植物が飛び出してくる。
しかも半端な数じゃない。
落ち着いてそれをかわすが何しろ数が数だ。
これでは鈴丸の側にいた御鏡さんはただではすまないだろう。
が、また辺りを閃光が包んだと思うと植物は一瞬で消え去った。
「解かったろう? お前がどんなに頑張ろうと俺には勝てねぇよ。」
「クックックックック。 貴様、今まで見せてきたのが俺の本気だと思ってるのか?」
「何?」
「今までのはこの姿での実力だ。 だが我等は平常時に力を押さえ込むために仮初の姿で活動する。 貴様らにはこれから俺の本気を見せてやる。」
鈴丸を中心に殺気が渦巻きだした。
「地獄を見せてやる。」
「おもしれぇ。 みせてみろや!」
二人がぶつかり合おうとした時
「もういいぞ、行くぞ。」
なんて場違いな声が聞こえた。
突然九蛇が止まったかと思ったらそんな声が聞こえてきた。
こえの方に眼を向けると頭のてっぺんから足の先まで届く長いフード付の真っ黒なコートを着た男が遠野秋葉を抱えて立っていた。
「秋葉さん!」
よびかけたが反応しない所から見て恐らく気を失っている。
「九蛇、鬼呑子、鈴丸。 遠野秋葉は捕獲したしもうここには用はない、行くよ。」
「ですがこやつらの始末は・・・」
「放って置きな、どうせ大した障害にはならないし。」
「ハッ。」
なるほど、コイツが暗夜か。
言われてみれば目で見ているからそこにいるのが判るが気配が全くない。
「貴方達、このまま返すと思っているの?」
「図に乗らない方がいいよ、真祖の姫君。 九蛇に負けているような実力でこの俺を止めれると思っているのか?」
「また決着つかなかったね〜。」
「逃げる気か、鬼呑子。」
「大丈夫大丈夫、だってまだ戦う機会はあるから。」
「御鏡といったな、・・・この勝負、預けておくぞ。」
「おもしれぇ、次は殺してやる。」
「さ、行こうか。 もうそんなに時間がない。 そろそろ白狐たちも事を終えているだろう。」
「 !? まさか遠野君達にも・・・」
「あっちは殺して来いって言ってあるから・・・・・・帰って来れないよ。」
「貴方、志貴に何かあったら殺すわよ。」
「だから君には無理だって。」
「その隙、貰った。」
いつの間にか巫浄さんが暗夜の後ろにいて秋葉さんを取り戻そうとしている。
咄嗟に黒鍵を暗夜めがけて投げつける。
アルクェイドも即興の空想具現化で援護する。
草薙さんも何時の間にやらクナイを投げつけている。
浅神君は歪曲の魔眼を使っている。
「甘いよ。」
暗夜はヒラリと巫浄さんをかわし黒鍵を素手で叩き落し空想具現化さえもかわしクナイは左手で受け止め魔眼の効果は魔術で打ち消された。
「全員がかりでその程度? なら君らは僕が考えていたよりも弱いね。 ・・・・・・九蛇。」
突如体に超重力がかかる。
そのまま倒れこんでしまった。
「クッ。」
あまりの重さに指一本動かせない。
「それじゃあ、バイバイ。」
闇が辺りを包んで消えていく。
超重力が開放され起き上がった時にはもうその場に暗夜達の姿は無かった。