その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その1〜4 傾:シリアス


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1: kouji (2004/03/11 14:09:22)

1士郎視点
ライダーとの戦いを終えた翌日、俺は、買出しに商店街にやってきた
セイバーは今到底戦える状態じゃない、宝具を使ったお陰で魔力は底をつき、
今にも消えそうな体をかろうじて留めているだけらしい

「結局、俺のせいってコトだよな」

ため息と供にそうつぶやく
どうしようもないとは言え
俺に力があれば、せめて、ちゃんとした形で契約できていればこんなことにはならなかっただろうに

「む? 衛宮、どうした? 買い物か?」

と、声をかけてきたのは、知り合いの柳洞一成だった、

「あぁ、昨日からこっち……」

セイバーが倒れて、と言いかけて口ごもる
一成は柳洞寺に住んでいる
そして、柳洞寺は今、他のサーバントとマスターが陣取っている
あのアサシンは兎も角、セイバーが戦えない状態だなんてばれたら俺の命はない
遠坂は兎も角、アーチャーのやつには借りを作りたくない
何故かは解らないが、あいつとは意見が合わない
アレは多分、その、考え方の根っこが違うんだろうな

「どうした衛宮?」

一成が不振そうに俺を見る
半端なところで言葉を切ったので怪しまれたか?

「いや、スマン、口止めされているので、聞かないでくれるとありがたい」

「ふむ、それはここ数日の欠席と関係があるのか?
例えばセイバーさんと何かあったとか?」

う、結構鋭いな一成

「そうだと言えばそうだが、口止めされているのでこれ以上は言えないぞ」

「いや、別に問題はない、…………これの役目はお前を足止めすることなのだから」

「?!」

突然、口調が変わると一成は俺につかみかかってきた

セイバーとの鍛錬のお陰か咄嗟に避けられたが、
これはまさか……

「だれだ、柳洞寺にいるやつだろう!! 姿を見せろ!!」

まさか無関係のやつを人形に使うとは思わなかった
まて、今こいつ、足止めとか言わなかったか?
まさか……


2アーチャー視点
カランカラン、カラン
私がその音を聞いたのは、部屋でそれをしているときだった

「アーチャー今の音は?」

「この家の結界だ、警報機の役にしかたたんが」

無いよりマシだ、さて、

「どうやら、今のうちにこの足手まといを始末しに来たらしい」

部屋の真ん中にしかれた布団に寝ている人物を見下ろして言う
傍から見れば小柄な西洋人の少女にしか見えんだろう
が、ここに寝ているのは人にして人にあらず、盟約の元に世界にこの身を捧ぐ為、
無限ともいえる時の狭間を死の間際に彷徨う事を余儀なくされた騎士の王だ
現在その身は未熟なる魔術使いの無様な制約の元、不自由な使い魔に身をやつし、
その男の無様さゆえに、その身を存在させることもままならぬ身である

「気配が多いな、使い魔でも使役しているのか、
だとすればキャスターか」

舌打ちし、双剣を手に立ち上がる
磨耗した記憶をたどる、確か、キャスターはまだ動かなかったと思うが?
何かが変わったと言うことか、なら私の目的を達する機会も来るやも知れん

「凛、ここに居ろ、私が始末をつけてくる」

「解ったわアーチャー、……たくっ、士郎のヤツ、何処で油売ってんのよ」

「知らん」

ここにいない騎士王の主を罵倒する
同感だが仕方あるまい、あの男は狂人の主にとらわれているはずだ
さて、騎士王が目覚める前にあの魔女を叩くとするか


3士郎視点
追いすがる一成を振り払い、家へと全力疾走する
今のセイバーは無力だ、襲われればひとたまりもない
遠坂とアーチャーが居る筈だが、セイバーを護りながら他のサーバントと戦えるとは思えない
……と言うより、アーチャーのヤツ、下手すると平気でセイバーを楯にしかねない
上手くいえないし、あいつのことは良く知らないが、
そういうことをしでかしてもおかしくないヤツの様な気がする
……遠坂がどう反応するかは兎も角

「エミヤシロウ」

「?!!」

声をかけられて、いや、その声に驚いて俺はたたらを踏んだ
その声には聞き覚えがある、
だが、それはあってはならない、
それを認めるということは、
今、こうしている間も、
苦しんでいるセイバーの、
彼女のあの苦しみが、
何の意味もなかったのだと、
身をなげうって俺のためにしてくれたことが、無意味だったと認めることになる
だと言うのに、
現実は随分と残酷なようだ
目の前には、紫の髪をした長身の女が立っていた
長い髪、目を覆う枷、額に刻まれた刻印
サーバント ライダー
それを見て、その身に傷一つないことを確認して
一気に体が熱くなった

ナンデオマエガヘイゼントココニイル

にらみつける俺へ向け、鎖のついた短剣を放つライダー
それは怒りに我を忘れた俺を…………
通り過ぎ、後ろに迫る一成を「拘束」した

「えっ?」

「サーバントも連れずに出歩くなど無防備にもほどがある!!
これではセイバーのみならずサクラが危惧するのも当然ですね」

そういうと憮然とした顔でライダーは俺を見た、
と言っても、目は見えないんで解らないんだけど
……うん?

「ちょっとまて、桜は無関係じゃなかったのか?」

「いえ、私のマスターは最初からサクラです、シンジには「偽臣の書」で従っていたに過ぎない」

「なっ……?! おい、それはどういうことだ!!?」

魔術師の家系は一子相伝じゃなかったのか?
俺のその疑問にライダーは嘆息しながら答えた

「アーチャーのマスターから聞いていませんか?
『シンジには魔術回路がない、マトウから魔術師は生まれない』と
もともとサクラはマトウの人間ではないのです、
本来の名はトオサカサクラ
マトウ―いえ、マキリの実験のために彼女はすべてを奪われたのです」

その声には、桜に対する気遣いと、マキリとか言うものに対する怒りがある

(あぁ、こいつは本気で桜のことを心配してくれてるんだ)

その顔を見て思わず安心してしまった

「って、それどころじゃないだろう!!」

叫んで走り出す

「どうしました? エミヤシロウ」

「どうもこうもない、一成は足止めだったんだ、
だとしたらもう、敵はセイバーたちを襲っているはず」

「相手は恐らくキャスターでしょう、セイバーが遅れを取るとは思えませんが?」

余裕で俺に並走しながらライダーは当然の疑問を口にした

「あぁ、そうだよ! 悪かったな、どうせ俺は遠坂や桜と違って
自分のサーバントに満足に魔力も供給できない半端者だよ!!」

あ、なんか今まずいこと言っちまった

「む、では今セイバーは?」

「あぁ、お前相手に宝具を使って今にも消えそうだよ」

隠し立てしてもしょうがない、やけっぱちで正直に言ってやった

「それで貴方はどうするつもりですか、エミヤシロウ?」

「どうもこうもない、セイバーは俺が護るって決めたんだ!!
だったらそのキャスターってヤツと戦うだけだ」

俺の答えに、ライダーは大仰にため息をつくと

「……無謀ですね、…………仕方ありません、サクラの命令もありますし、
セイバーに代わり私が貴方を護りましょう、
よろしいですね?」

「は?」

いや、申し出はありがたいんだが……

「手を貸してくれるのか?」

「はい、私がここに居るのはサクラからエミヤシロウを護るよう命じられたからです、
それに、貴方にはサクラの保護をお願いしたい、
マキリから連れ出しましたが、アレらはサクラを放置することはないでしょう、
交換条件としても、私が貴方に協力するのは当然だと思いますが?」

立ち止まってライダーの顔を見る
目隠しが邪魔で表情はよく分からないが
サクラを気づかう気持ちを信じてみても良いんじゃないだろうか
そう思った


4アーチャー視点
34体目の竜牙兵を始末し、庭へ降りると黒い影が立っていた
一瞬『アレ』を思い出しだが、どうやらキャスターのようだ

「無粋だな、家主に断りもないとは」

愛用の双剣を手に身構える
ヤツとの間に見える範囲で、まだ10体以上の竜牙兵がいる
面倒なことだ、庭ごと焼いてしまおうか?

「あら、貴方には用はないんだけれど」

影の中からローブを纏った女が現れる

「ふん、弱ったものの寝首しかかけん割には大口を叩く、
これなら、最初からそれしか出来んアサシンの方がマシと言うものだ」

踏み込みざま竜牙兵を1体砕く、
また数が増えているようだ、人海戦術は面倒なんだが
それだけに効果的か

「なっ! たかが弓兵が大口を」

激昂するキャスターに向けてさらに踏み込む
単純なヤツだ、プライドなど持つならそれに見合うやり方をすべきだろうに
貴様の狙いは読めている
アレを貴様に渡せるものか

「生憎だが貴様に目的は果たさせん、ここで消えてもらうぞ神代の魔女」

言いざま両手の剣を投擲、直線上の竜牙兵をどけると一気に踏み込む
無手での突進に意表を突かれながらも迎撃を試みるキャスター
ランクAの魔術弾をかわしつつ『それ』を呼び出す

「刺し穿つ死棘の槍」

魔槍ゲイ・ボルグ
一撃で心臓を穿つ呪いの槍
その昔、我身を刺し貫いた魔槍を解き放つ
だが、必殺の一撃は虚しく空を切った
ちっ、囮か

「アーチャー!!」

玄関の方から家主が大慌てで駆け込んできた
後ろにライダーを伴っているのが気にかかるが追求している暇はない

「出し抜かれた、急げ!!」

「解ってる!!」

私に怒鳴り返すと、衛宮士郎は自室へと飛び込んだ


5凛視点

「……リン?」

「セイバー立てる? 逃げるわよ!!」

外の音に気がついたのか、私とアーチャーの会話に目を覚ましたのか、
セイバーが私に声をかけてきた

「リン、シロウは?」

「知らないわよ、とにかくアーチャーがひきつけてる間にここから逃げるわよ、
で、士郎と合流、いい?」

自分よりマスターを気にする、サーヴァントの鑑みたいなセイバーの台詞に答えながら
身振りでセイバーをせきたってる
アーチャー一人じゃこの数しんどいだろうし、
ここに私たちがいたら宝具も使いにくいだろう

(アイツが持ってる宝具にもよるだろうけど)

士郎と合流と言うのは建前だ、
最悪、アーチャーがいなくなったときの戦力の確保
彼には悪いけど、私とセイバーの間で再誓約することも考えておくことにする
二人が了承するかは解らないけど、私なら正しい契約でセイバーを維持できる
それで士郎を護れるなら、彼女も文句は言うまい
もっとも、あいつが生きてたらだけど
まぁ、理想を言えば、アーチャーが敵を倒してくれて、
士郎がセイバーにちゃんと魔力を供給できればいいわけなんだけど

「リン…………申し訳ない」

立ち上がるセイバー、項垂れているのは、自分のふがいなさのせいか……
最高のサーバントでありながら、彼女は多くのハンデゆえに、その力を発揮できずにいる

半人前の魔術使いである衛宮士郎は彼女と誓約したものの、
魔力を供給できず、はては、わが身を省みずにサーヴァントを護る始末
正直、理解不能の謎の自己再生がなければとっくの昔に死んでいるだろう

お陰で彼女は、現界時に持っていた自身の魔力と、わずかに自分で生成できる魔力で
やり繰りしないといけない、

要は、ただ働きで貯金が目減りしている状況な訳だ
普通はマスターから魔力と言う給与が支払われるわけだけど
衛宮士郎はそれが出来ない、そして彼女の宝具――要は切り札は、
非常に燃費が悪い、無論それだけの効果のあってのものだけど
供給もとのないまま宝具を使った代償は、
かろうじて現界しているだけの今の彼女の姿であったりする

あぁ、なんてこと、なんてもったいないんだあの男は、

ののしりたいのは山々だけどココはひとまず退散しよう
そう思ってセイバーの手をとったところで

「見つけたわ」

目の前にローブをかぶった女が現れた

「ちっ」

発している魔力で解る
こいつは人間じゃなく、聖杯を欲して現れた魔術師の英霊、

キャスターのサーヴァント

大口叩いた自分のサーヴァントに文句を言いたくなったが
外の音を聞く限り、こいつの使い魔の相手で手がふさがってるみたいだ

ああもう、使い魔が使い間を従えるなんて反則じゃないの!!

「リン、私がひきつけている隙に逃げてください」

「そうしたいのは山々だけど、見逃してもらえそうもないのよね」

ポケットの中の宝石に手をかけながら答える
とにかくココから逃げないと、
ココでリタイアなんてしたくないし、
こっち二人なら兎も角、士郎とアーチャーが残ったなんて目も当てられない
あの二人は仲が悪い、とにかく悪い、
それが、考え方故なのか、性格故なのかは、解らないけど
あの二人で聖杯戦争を生き残るのは無理だろうと断言できるほどに

いや、むしろ、あの弓兵は聖杯戦争と無関係に衛宮士郎を殺しかねない

そんな気がする
そう思いながらジリジリと後退する
と、そこへ、

カシャカシャ

ガシャ

「げっ!!」

廊下に視線を送ると無数の使い魔に囲まれていた

万策尽きたな、ココでリタイアか…………

らしくないけど、みっともなく足掻いてみるとしましょうか

「       」

結論を言おう
勝負は一瞬でついた
私が何かをする間もないまま、私とセイバーはキャスターに弾き飛ばされていた
襖を突き破って隣部屋に転がる、
どうやら死ぬほどじゃなかったみたいだ
あ〜でもたてないや、

「くっ……リン」

本調子なら平然としていたであろうセイバーも無様に倒れている
あぁ、くそこれでホントにおしまいか…………

「さてっ…………」

そうほくそえみながら呟くと、キャスターは歪な短剣をとりだした
あれは恐らく宝具だろう、立つ事もままならない相手に
ワザワザ宝具を使うのもおかしな話だ
だとすればあの宝具には何か秘密が?
ヤバッ、もし想像どうりの物だとしたら、すごくヤバイ

その時

「そこまでだ、糞野郎」

正義の味方が現れた


6士郎視点

「そこまでだ、糞野郎」

ギリギリで、間に合ったらしい、
目の前では、ローブをかぶった知らない女が、
セイバーに奇妙な剣を突きたてようとしていた
こいつがキャスターか、

「ちっ、役たたずめ」

俺の足止めに使った一成のことだろう、短くののしると、キャスターは俺に向けて魔術を放つ

「喰らうか!!」

叫びながら転がりつつキャスターにけりを入れてやる

「ちっ!!」

セイバーからキャスターを引き離した
よし、上手くいった

「遠坂、大丈夫か?」

「えぇ、何とかね」

立ち上がった遠坂にセイバーを預け、キャスターと二人の間に立つ

「シロウ」

「遠坂、セイバーを頼む」

「ばか、アンタじゃサーヴァントに勝てるわけないじゃない」

「今のお前らよりマシだ」

言いながら、撃鉄を起こすイメージをくみ上げる
サーヴァントに勝てるわけない?

なら、勝てるものを用意するだけだ

勝てる力を作るだけだ

例えば、…………すべての誓約を破棄するもの、……すべての誓約を始まりに戻すもの
……令呪すら打ち消す歪な刃

…………目の前の魔女が持つ刃のような

そして
俺の手には、いつの間にか歪な短剣が握られていた


7凛視点

「「「な?」」」

私とセイバー、それにキャスターの声も重なった
士郎の手には、いつの間にか歪な剣が握られていた
それは、目の前の魔女が持つものと全く同じもの

「誓約破り、か、こんなの使われてたらやばかったな」

確かめるように短剣をふる
なんてインチキなヤツだ

「一体何者?」

キャスターの問いかけはこの場にいる全員のものだ

「何って、ただの半人前の魔術使いだよ、
どうしたキャスター、かかって来いよ」

ただの半人前? 冗談じゃない、
誰がそんなことが出来るか
投影魔術はないものを作り出す技術ではある
だけどそれはただの飾り、ものの形を真似ただけの、形だけのまがい物
そこには何の魔力も力もない
無い、ハズだ

「く、どうやら、ココは引いておいた方がよさそうね、
何をしてくるのかわからないまま相手したくないもの」

言うなりキャスターは姿を消した
あ、助かった、
外も静かになったみたいだ
アーチャーが戻ってくる

「大口たたいたわりに情けないわねアーチャー」

「ふむ、スマン、やつが策士であることを忘れていたようだ」

私の言葉が動揺している自分を誤魔化すためだと気づいたのか、
さらりと流すと、アーチャーは士郎の手の中のものを凝視した

「キャスターの宝具か、全く無茶をする」

「一寸アーチャー、アンタ士郎がやったことが解ってんの?」

「何、ただの『投影』だが? 凛、君が言っていたではないか、
“衛宮士郎の魔術はただの『投影』ではなく、何かの魔術が劣化したもの”だと」

そういったのは確かに私だ、でも何か腑に落ちない

“衛宮士郎の『投影』はただの『投影』ではない”

そう言ったのは確かに自分だけど、アーチャーは何か矛盾したことを言った気がする

「ぐっ……」

「シロウ!!」

二人の声に振り返ると、倒れかけた士郎をセイバーが支えたところだった
彼の手にはもう短剣は無い
額には脂汗を浮かべ、熱があるのか意識もはっきりとしていない

「チョット、士郎大丈夫?」

私も慌てて駆け寄る、無茶苦茶なことやったから魔術回路が焼ききれたかもしれない

「なに、少し神経が驚いているだけだ、見せてみろ」

言うなりアーチャーは士郎の背中に触れて何かを始めた

「こいつは魔術回路そのものが特殊でな、神経と一体化している、
今まで使っていなかった魔術回路を突然つないだので、
神経としての機能が麻痺したのだろう」

冷静に事態を説明するアーチャー

「アーチャーアンタなんでそんなこと知ってるのよ?」

「何、経験談だ、私も昔、同じような目にあってな、
…………さて衛宮士郎、説明してもらおうか?」

そう言いながら彼が指した先、そこには、

紫の髪をなびかせた、長身の美女が立っていた




「ライダー、何故貴女がここにいる?」

セイバーは問いかけながら疑問に思った

“このライダーは本当に同じサーヴァントか”と、

発している魔力量が桁違いだ、最初は自分が消耗している性だと思ったが、
アーチャーや凛の様子を見た限り、そうは思えない

「エミヤシロウとの取引です、セイバー、
私はマスターであるサクラの保護を彼に頼む代わりに、
貴女の代理を務めることを約束しました」

「む、それは違うぞライダー、桜を護るのは当然だし、
俺はむしろ、セイバーを護ってくれた方が助かる」

意識が回復したのか士郎が口を挟む

「シロウ、どういうことですか?
サクラとタイガは聖杯戦争とは無関係ではなかったのですか?」

桜達は士郎や凛にとって日常の象徴だ
それが解っているからこそ、巻き込まないように
彼女らを遠ざけた訳なのだから

「成る程ね、慎二のやつがどうやってサーヴァントを手に入れたのか不思議だったけど、
あの子から『借りて』使ってたわけか」

納得した、と凛が言った

「あの子も上手く隠蔽したものね、てっきり魔術回路の作り替えのせいで
役に立たないくらいに弱体化したのかと思ったけど、」

ため息をつくと、凛は一同に、桜が魔術師であり、自分の妹であることを説明した

「ライダー、話はこのくらいにして桜を連れてきてもらえるかしら?」

「えぇ、サクラはあの子に任せています、今呼びます」

言うなりライダーは天を仰ぎみた、すぐに白い光が空から降りてきた

「なるほど、幻想種にサクラを護らせていたわけですか」

セイバーが光を見ながら呟く
それが収まると、庭に天馬が立っていた
その背には馴染みの少女が乗せられている

「これって、ペガサス?」

「幻想種を使役できる英霊は多くない
ペガサスを使う君は、……そうか、
この国にはその姿はあまりメジャーではないからな、気付かんわけだ」

「えぇ、私の真名はメデゥーサ、ギリシャの女神アテナに追い立てられし魔女の末娘です」

アーチャーの言葉に頷き返すライダー

「セイバーの真名はもう解ってるし、これでライダーの真名も解った、
なぁ、遠坂、お前のサーヴァントって、何の英雄なんだ?」

「……知らない、悪いけど」

「あぁ、凛も人のことが言える様な召喚ではなかったからな、
生憎私は自分の真名が思いだせんのだ」

まぁ、そちら二人のような有名な英雄ではないだろう
と、アーチャーは答えながら桜に近づいた
一瞬、彼の顔に殺気に似た何かが浮かんだことに、
気がついたものは一人もいなかった


9セイバー視点

「あぁ、凛も人のことが言える様な召喚ではなかったからな、
生憎私は自分の真名が思いだせんのだ、
まぁ、そちら二人のような有名な英雄ではないだろう」

言いながら、アーチャーはサクラへと近づいた
彼はああ見えてなかなか気配りの効く人物だ、
正直なところあまり相性がよくないと思うことはあるものの
シロウに対してもときに厳しいながら気づかってくれるところがある
今回も、動けないシロウや私に代わり進んでサクラを―――

「何する気だよ、御前」

私の思考は、いつの間にかアーチャーの方へ向かっていたシロウの言葉により覆された

「何も知らんやつはのんきなものだな、この女はココで殺しておくべきだ」

あっさりとそう言うと、彼はその両手に双剣を構えていた

なぜ?

「士郎の言う通りよ、アーチャー、納得の行く説明をしてくれる?」

私同様、疑問に思ったのだろう、リンがすぐに聞いてくれた

「凛、おかしいとは思わんか?
ここは住宅地で、今はさほど遅い時間ではない、
にもかかわらず、誰も先ほどからのことを問いただしに来ていない」

アーチャーはこちらを見ずにそう答える
ライダーは臨戦体制だ、私も多少のことは出来るだろう
いまだふらつく足を何とか押しとどめ、庭へと降りる
だが、確かにそうだ、この時間にアレだけの騒ぎが起きれば人も気づくし
先ほどの天馬の来訪など、いくら無関心な人間でも、気にならない方がおかしい
しかし、そうは言っても

「それがどうしたのです、まさか貴方は、サクラがやったとでも言うつもりですか?」

「その通りだセイバー、近所の家の幾つかを覗いてみろ、もぬけの殻になっているぞ」

「なっ?!」

言われてみれば、昨夜、新都へ向かう折に通った時、
家の明かりが随分と少なかったような気がする

「……証拠は、あるのか?」

「聞いても信じまいがな、……何せアレがそうだとわかっているのは俺一人だからな」

問い質すシロウに、含みのある言い方で答えるアーチャー
相変わらずの表情にも見えるが、それでいて何処かで見た別の人物の表情に見える

それが何故か、酷く歪んだ既視感のような気がした


10士郎視点

結局、アーチャーは引き下がったもののその理由を説明してはくれなかった
まぁ、期待はして無かったけど
取りあえず、桜を客間に寝かせてから、居間で今後の動向について話し合う

「キャスターは暫く動かんだろう、なら今の内にバーサーカーを始末すべきだ」

「セイバーが動ければね、どの道、今のところは様子見ね、
セイバーに魔力を補充する手があるなら別だけど」

こればっかりはねー、と、遠坂がさじを投げる
ちなみにセイバーは部屋で寝ている
もともとあまり回復していない所を、無理に立ち上がったこともあり、
桜を移動させた直後にバタン、と倒れてしまった
俺たちはその後も、あーでもない、こーでもないと論争した後、
それぞれに床についた

その翌日

俺は、商店街に来ていた
セイバーは寝てるし、遠坂は何か作業中、ライダーは桜についてる、
アーチャーは一緒に行動する気にはなれない
したがって一人だ
まぁ、後で遠坂に見つかって

「昨日の今日で何やってんのアンタはー!!」

とか言って怒られそうだけど
キャスターが動かないのならそう警戒しなくても大丈夫だろう
イリヤも「昼間は戦わない」って言ってたし

「シロウー!」

と、公園を通りがかったところで、白いお姫様に出くわしてしまった


11アーチャー視点

バン!!
と、音を立てて襖が開かれた

「どうした、セイバー」

屋根の上から降り、実体化する
どうやらセイバーは酷く慌てているようだ

「シロウがイリヤスフィールに捕まりました」

簡潔な答えが返ってきた

「あの男は反省が無いのか」

丸一日ずれか、やれやれ、

「あの馬鹿、昨日の今日で何やってんのよ!!」

セイバーの声が聞こえていたのか凛が怒鳴りながらこちらへやってきた

「まぁ、状況から考えて仕方なかろう、
昨日、衛宮士郎が買出しに行って買ってきた分では今日の夕食には足らん、
買い物に行くのは当然だな、
問題は一人で出たことだが、
セイバーはまともに立てる状況ではないし、
君は作業中だった、間桐桜とライダーは論外、
私はやつの付き添いなどする気は無い、
結果として、やつは一人で行くより無かったわけだ」

「もっともらしい様で、微妙にらしくない解説ありがとうアーチャー」

私の説明があまり御気に召さなかったようだ、
凛は不機嫌そうにこちらを見て言った

「凛、どうする?
この際見捨てるのも一つの選択肢だが?」

「そんな訳ないでしょう!!
セイバー、道案内頼むわ、アーチャー、しょうがないから打って出るわよ」

きっぱりと言い切ると、凛は自室へ戻った
恐らく宝石の準備だろう

「やれやれ、衛宮士郎は一体いくらの借金を作ることになるのだろうな」

ふと呟いた、
たしか、億単位だったような気がするが
さて、この衛宮士郎は、あの狂人に勝てるだろうか?


あとがき
次回はバーサーカー戦です、
一応セイバールートなのにアーチャー一人、微妙に凛ルート走ってますね
って、言うか桜殺す気かよ、お前
さぁ、無事ご都合主義な大団円まで到着できるのか
こう御期待

って言ってもそう簡単には終わらないんですけどね





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