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「さあさあさあさあ!シロウ、行きますよ!」
「あはー、衛宮さん。女の子に恥をかかせてはいけませんよー」
「いや、ちょっと、待て! セイバー! 琥珀さんも焚き付けないで下さい!」
ずるずるずるずるー。
気分はドナドナ。
だが、このまま美味しく頂かれる訳にはいかない。
「セイバー、あの、さ。今日から働く使用人が、いきなり屋敷の中で行方不明なのはどうかと思わないか? まだご主人にも挨拶してないし……」
「あはー、大丈夫ですよー。私がきちんとご説明して差し上げますしー」
「貴女は黙ってて下さい!」
頼むから。
「今日は奇しくも『危険な日』です! シロウも存分に私のなかにせi「それ以上言うなあ!」を注ぎ込んでください!」
っだーーッ! なんで遠坂も藤ねえもルヴィアもセイバーも普段は落ち着いてるのに暴走すると見境が付かなくなるんだ!?
俺の周りはこんなのばっかりか!
「嫌だ、もう、もう倫敦に帰るーーーーッ!」
と、その時。
「ただいま、翡翠、琥珀さん」
「出迎えが無いなんて珍しいわね」
「やっほー。翡翠ー、琥珀ー、お茶ちょーだい」
「誰が貴女に茶など出しますか」
「むー、なによー、妹。私が頼んでるのは翡翠と琥珀よー」
「その主人は私です! それに、何度も言いますが妹と呼ばないで下さい!」
「こっちも何度も言うけどさ、私が志貴と結婚すれば――」
「寝言は寝てから言ってください!」
「まあまあ、二人とも……。お、レン、良い子にしてたかー?」
天の助けか、破滅の使者か。
どうやら、ご主人たちが到着したらしい。
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「兄さん、今日は一緒に帰りますよ」
放課後に帰り支度をしていると、秋葉がやってきた。
上級生の教室に、臆することなく乗り込んでくるとは流石は秋葉。
隣の有彦は「お、秋葉ちゃん、今日も可愛いねー」とかほざいている。
「はい、有り難うございます、乾先輩」と有彦に秋葉も返す。
少しは謙遜しろ。
「ん、今日は何かあるのか?」
そう聞くと秋葉は「やはり、覚えていませんでしたか」と、嘆息した。
「今日はシオンの紹介してくれた使用人の来る日でしょう?」
「ああ、そう言えばそうだったな……」
シオンが太鼓判を押して紹介した、凄腕の使用人。「彼は使用人、と言うよりも執事(dutler)ですね」とは彼女の弁。
「まったく、兄さんの首の上に乗っているのは帽子の台か何かですか?」
ぐわ。きつい、きついぞ、秋葉。
「お、覚えていなかった訳じゃない、ただ思い出せなかったんだ」
「屁理屈ですね」ずっぱりと切り捨てられた。
「遠野」
「……何だよ」
有彦が真剣な表情で、ちょっとへこんでる俺に呼びかけた。
「またお前の周りに女の子が増えるのか?」
『また』とはなんだ『また』とは。
「いや、今回は男の人らしい」
「いえ、シオンが言うには助手として女性が一人付いてくるらしいのですけど」
秋葉が口を挟む。初耳だ。
有彦は『嘆かわしい』とでも言いたげに眉を顰めた。
「ああ、またこの男の毒牙に一人の女性が……」
人聞きの悪いことを言うな。自分だってセブンちゃん囲っているくせに。
「あいつは違うって言ってんだろうがあぁぁぁぁ!」
「まだ何も言ってないだろ!」
俺と有彦のいつもの漫才に、
「いえ、その心配はないと思います。乾先輩」
秋葉がまた口を挟む。
「どういうことだい? 秋葉ちゃん」
「シオンが言うには助手の方は、衛宮さん――ああ、執事の方です――の『二号さん』らしいのです」
二号さん? 愛人?
「なるほど、こいつのフェロモンは恋人のいる人には作用しないからな」
「ええ、だからこそタチが悪いとも言えますが」
何か好き勝手言われてるぞ俺。フェロモンって何だ。
ということで、秋葉と一緒に校門を出る。
シエル先輩の茶道部へのお誘いは辞退させてもらった。
秋葉が怖かったから。
いったいどんな人が来るのだろう、と秋葉とあれこれ想像しながら歩いていると。
「あ、志貴しきー」
アルクェイドがやってきて
「えへへー」
俺の腕にぎゅう、と抱きついて
「あそぼー」と言った。
ああそうだなあそんな笑顔で言われたら断れないじゃないかまったく可愛い奴だようし明日は休みだしこいつと一緒にずっとむにゃむにゃすることにしようかああ秋葉翡翠と琥珀さんには有彦の家にでも行ってるってことにしておいてく――
「にいさん?」
WARNING!(ワーニンッ!ワーニンッ!)
「悪いな、アルクェイド。今日はうちに新しい人が来るんだ。ちょっとお前の相手はしてられない」
俺の危機感知能力が最大警報をあげる。危ないところだった。
「ええー」
むー、と頬を膨らませてアルクェイドは口を尖らせたが
「じゃあいいよ、私も着いてく」
あっさり言った。
「駄目です」秋葉。
「何でよ」アルクェイド。
「何ででもです」
「だから何でよ」
「だから――」
「二人ともいい加減にしないか」
「う……」「むー……」
「どうせあの屋敷にいるならアルクェイドにも会うんだ。窓から入ってくるところとか、門を飛び越えるところとかを見せるよりも、一緒に紹介した方がいいだろう?」
「それは……」
「何か志貴ひどいこと言ってない?」
「もう、錯乱しながら『辞めさせていただきます』って叫ぶ人の相手はしたくないんだよ!」
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遠野家につくと
「あら、翡翠が居ませんね。珍しい」
「あー、ほんとだー」
いつも立っている翡翠が見当たらない。
「衛宮さんがもう来てるのかな?」
そんなことを言い合いながら門をくぐる。
「ただいま、翡翠、琥珀さん」
「出迎えが無いなんて珍しいわね」
「やっほー、翡翠ー、琥珀ー、お茶ちょーだい」
「誰が貴女に茶など出しますか」
それから妹がどうだの結婚がどうだのお決まりの応酬が始まる。
それをいつものようにたしなめながら、俺はとことことやってきたレンを抱えた。
その時。
「嫌だ、もう、もう倫敦に帰るーーーーッ!」
そんな、売られていく子牛のような悲鳴が聞こえた。
……今回は最短記録更新かな?
それにしても、この悲鳴は聞き覚えがある。
しばし考えて。
――ああ、俺の悲鳴と似てるんだ。
何故か、そう、思った。
《いようし、出逢ったぁ!》
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やっと、やっとやりたかった事が始められます。
ひゃっほう。
次からはますます暴走気味にいくので宜しくお願いしますね。
それでは。」