その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その7 Mセイバー他 傾シリアス


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1: kouji (2004/03/11 11:29:09)

21士郎視点

「おかしい」

「あぁ、そうだな」

柳洞寺の山門の前で、俺達は首を傾げていた

「まぁ、手間が省けてよかったんじゃない?
案外ランサーあたりが片づけてたのかもよ」

キャスターの方も片付いててくれると楽よね、とか言いつつ遠坂が山門を開く

しかしてそこには、

「ほう、誰かと思ったらセイバーではないか」

金色の騎士が一人立っていた

「アーチャー、何故お前が現界している?」

驚いた顔でセイバーが問う

「ふん、十年ぶりの再会で第一声がそれか」

さして不服な様子でもなく、かといってその言葉に満足をしたわけでもなく
金色の騎士は呟いた

「我の下した決定を忘れたわけではなかろう?
あぁ、そうか、お前にとっては昨日のことだったか」

傲慢な態度でそいつは言った

セイバーはこいつをアーチャーだと言った、
そしてこいつはセイバーに十年ぶりだといった

「お前、前回の聖杯戦争のサーヴァントなのか?」

「ふん、無礼者め……八つ裂きにしてやっても良いが
セイバーをつれてきた礼だ、特別に不問にしてやるぞ雑種」

俺の疑問に見下すような視線を、ようやく向けて、そいつは言った

「ここで連れて行くのも良いが、まだアレが開かんからな
用意が出来ていないなら整えておけ、近いうちに迎えに行くぞセイバー」

そう言ってやつは姿を消した

三人の間で知らず安堵のため息が出る
あいつは強い、ひょっとしたらバーサーカーなんて目じゃないくらいに……

その後、キャスターを探して柳洞寺をうろついてみたものの
発見できず、恐らくはやつに倒されたのではないか、と結論付け、
俺たちは帰路についた


22凛視点

さて、その翌日

私は、居間でイリヤスフィールの相手をしていた
士郎とセイバーはデート中

昨日の夜に出会った謎のサーヴァント
十年前の生き残りにして、正体不明の英雄、セイバー曰く、クラスはアーチャー

十年前の戦いで最後まで残ったサーヴァントであったがセイバーはその正体を知らないらしい
彼女が言うには

「あの騎士の武器は余りに多く、出自も多種多様すぎます
だからこそ、惜しげもなく武器を飛ばす戦いをしながらも、
その正体をつかませなかったのでしょうが」

との事だそうな

それにしても、豪華なヤツよね、

鎧は金ぴかで、世界中の武器を持ってて、挙句の果てにはトコトン偉そう

あぁ、なんかお金にも不自由してなさそうな気がする、うらやましい

で、さらに言うと、あいつ、前の聖杯戦争のときにセイバーを口説いたとかどうとか
なんか、にべもなくスパーンと斬って捨てたらしいんだけどねセイバー自身は、

ま、あの調子だと、人の意見なんか聞かないでしょうけど

「リン」

「なによ?」

考え事をしていたらイリヤスフィールのほうから声をかけてきた

「リンは何を触媒にサーヴァントを召喚したの?」

「えっ? 触媒って何よ、召喚の魔法陣ならちゃんと組んだわよ?」

そりゃあ変な英霊だったけどね、儀式そのものは用意だけはちゃんとしてたんだから

「呆れた、散々シロウのこと馬鹿にしといて自分だってそうじゃない、
いい? サーヴァントは英霊だけど、その英霊を呼ぶには
ちゃんと英霊に関係した触媒を持ってやるのがただしいのよ」

「う、……悪かったわね」

イリヤスフィールに諭されてしまった
彼女曰く、バーサーカーはあの岩の塊みたいな剣で呼び出されたし、
前回セイバーを呼ぶ際にはアインツベルンが用意した剣の鞘が使われたそうな

「だとすると、今回士郎がセイバーを召喚できたのもその鞘のお陰よね?
でも、そんなもの土蔵にも無かったわよ?」

そうなのだ、そんなものがあればセイバーが真っ先に気づいているはず
彼女ゆかりの鞘なんて、それこそ一つしかないんだから

「そんなの解るわけないわ、シロウにでも聞いてみたら?」

にべも無く一蹴された、まぁ、仕方ない、二人が帰ってきたら問い詰めよう
…………それにしても遅いな二人とも、今頃何処かで『休んで』いたりして……

「ただいま戻りました」

そんなことを考えていたら玄関の方からセイバーの声が聞こえてきた
士郎の声は聞こえない、まさかセイバーだけ帰ってきたとか?

「遅かったわね、……ってどうしたの二人とも?!」

玄関へ行くと、いかにも満身創痍な士郎と、血で汚れたセイバーが立っていた
セイバーは取りあえず無事
士郎のほうも、意識はないみたいだけど、
例の自然治癒のお陰で傷の方は気にするほどじゃないらしい

「それで、何があったの?」

とりあえず、士郎を部屋に寝かせてから、居間へ移動してセイバーに説明を求める

「アーチャーと戦いました」

セイバーの答えは簡潔でわかりやすい

「アーチャーって、あの金ぴかのこと?」

「はい、私はほとんどなすすべも無く、彼に破れ、士郎も傷を負いました
宝具も通じず、なすすべも無く膝をついた私を、それでも士郎は護ろうとしてくれました」

俯いて、セイバーは語りだした

士郎に連れられて、新都の町を回ったこと、私の勧めた店で昼食をとったこと
ファンシーショップで長いこと粘ったこと、

士郎に告白されて、それを拒絶したこと

そして、アーチャーの襲撃

「ギルガメッシュ? ってメソポタミヤの半神半人の英雄のこと?
あぁ、なんか納得したわ」

セイバーの宝具さえ上回る宝具を有し、その財宝にはあらゆる武器の原型を持つ英雄王

バーサーカーすら一撃で倒したセイバーの「勝利すべき黄金の剣」
それですら、あの男の所有物「太陽剣グラム」によって打ち砕かれた

もともと、かの選定の剣は、ヴォルスング王の大樹に刺さったこの剣を原型としている上に、
グラムには竜殺しの特性がある

対セイバー戦においてこれほど強力な武器も無い

士郎にとって最強のカードはなすすべも無く破壊された

その様を、セイバーは見ていることしか出来なかった

傷つき、倒れ、膝を屈し、護るべき主が傷つく様を呆然と見ていた

「私は士郎に傷ついて欲しくなかった、私はただのサーヴァントです
敗れ去った今、おとなしく消えるのが正しい、そう思いました」

それでもセイバーを護るため士郎は立った

「そうね、ま、士郎がゆがんでるのは確かね、
でも士郎らしいわよ『俺にはセイバー以上に欲しいものなんか無い』なんて直球じゃない」

十年前のあの火事に巻き込まれたあの日から、彼が『衛宮士郎』になってから、
彼の生き方は歪なものになった

彼にとって、自分は救うべきもの、護るべきものには入らない
どんな他切なものとも比較できない秤そのもの

それを失った人間は、きっと幸せになることも、幸せを分けることも出来ない

でも、士郎の中の空席には、今、彼女がいる

「『自分の命が一番大事だったとしても変わらない、
きっとそれ以上にセイバーはキレイなんだ。
お前に代わるものなんて、俺の中には一つも無い』
そう言って、士郎はアンタに謝ったんでしょ?
アイツは本気よ、ただセイバーを大切に思って、それを実行しただけ」

そしてその思いは形となってあの英雄王を追い払った
つまりはこれは、そういうこと


23セイバー視点

一夜明けて、もはや昼過ぎ
いつの間にか姿を消していた士郎を思いながら一人縁側で空を仰ぐ

「ごめん、俺、セイバーが一番好きだ」

そう言って、彼は傷だらけの体でギルガメッシュに挑んでいった

「士郎は、私の鞘だった」

確信する、彼は、遠い昔に失われた、私の剣の、いや、私自身の鞘

余りに危うく、余りにも悲壮なその生き方

女として、彼の隣に居続けることは許されない、
それでも、彼の行く先に、少しでも、幸あらんことを願わずにはいられない

「セイバー、士郎何処行ったか知らない?」

唐突に、リンが私に話しかけてきた

がばっと立ち上がって振り返る

「な、何ですか、凛、私は決して士郎の軍門に下ったわけでは」

何かとっさのことだったので訳のわからないことを答えてしまっている気がする

「そう? ま、それはそうとして」

私の慌てぶりが面白かったのか、士郎をからかうときと同じ、何かを含んだ笑いを暫く見せた後
リンは口を開いた

曰く、ランサーのマスターは、既に殺されている
確認してはいないものの、その住居には大量の血痕と、
切り落とされた左腕だけが残されていたそうなので、まず、間違いない
ただし、それが行われたのは私が士郎に召喚されるよりも前
だとすると、ランサーは私とであった、いや、リンと出会う以前にマスターを失っていることになる

「ねぇ、セイバー、マスターって聖杯戦争が終わってもサーヴァントと令呪があれば、
ずっとマスターなの?」

「恐らくは、……リン、まさか?」

私の問いにリンは頷きをもって答えた

ランサーを使って、敵対するサーヴァントの情報を集め、
その後に自身の本当のサーヴァントで敵を倒す

加えて、今残っているのは3人とは言え
ライダーの実力などあの男には通じないだろう

「まったく、あの『影』だけでも厄介だって言うのに」

リンが事態を分析し、そう言う

「リン、士郎が何処に行ったか解りませんか?」

「う〜ん、ひょっとして言峰のところかな?
昨日も行ってたみたいだし、桜の見舞いでもしてるんじゃない?」

士郎が、あの教会に?

「リン、教会の神父は前回の聖杯戦争に参加していたと言っていましたね?」

「うん、そうだけど?」

ダンッ!!

気がつくと私は堀の上に飛び乗っていた

「セイバー?!」

「リン、迂闊でした、ギルガメッシュが現れた段階で、進言しておくべきだった
…………キリツグは前の聖杯戦争で、マスターを倒すことで勝利を収めた
そのキリツグがしとめ損ねたのは唯一人、
アーチャーのマスターだけだった」

そして、前回そのクラスに居たのは…………

私は、皆まで言わず協会に向かって駆け出していた


24

その少し前、

キンッ!!
                       カンッ!!
         カキッ!!

教会の前で、ランサーはソレと対峙していた

「はっ、この程度かよアサシン、まがいモンの方がよっぽど強かったぜ?」

投擲される黒塗りの短剣をはじきつつランサーは相手にそういった
白い髑髏面をかぶった暗殺者は答えない

もともと、アサシンのサーヴァントは
「ハサン=ザーバッハ」という不特定多数にして誰でもない存在である
誰でもないがゆえに、その真名に意味は無く、あえて言うなら総称に近い

個人における「ハサン=ザーバッハ」の伝説が存在しない以上、
英霊とは言い切れず、ゆえにサーヴァントとしての能力は最下級とも言われる

「どうしたよ、この程度じゃ、セイバー相手の準備運動にすらなりゃしねぇぞ」

ランサーとて油断している訳ではない
相手の宝具が何かまだ解らないのだ、
ひょっとしたらこの状況を覆すものかもしれない

だからこそ、興味がある、
あのいけ好かない男が始めて最初から殺すことを許可したのだ
ただのごみ掃除で終わってしまったのでは面白くない

だというのに挑発に乗るどころか、手持ちのナイフも使い切ったらしい

(やれやれ、まさか本気でこれで終わりじゃなかろうな?)

だとしたらそれこそ拍子抜けだ、ただの腰抜け用の使い魔では無いか
こんなヤツまで含めて『サーヴァント』とひとくくりにされるのはソレこそ我慢ならない

苦々しく、彼が思った、まさにその時

ドドドドドドドドドドド!!

轟音を響かせて大量の『剣』が頭上から降り注いだ
自身の持つ『矢除けの加護』と技量で凌ぎきる

アサシンは今ので死んでしまったようだ

「ちっ、誰だかしらねぇが、詰まらねぇ横槍入れやがって」

舌打ちし、辺りを見回す

そこへ、

「『矢除けの加護』か、お陰で手元が狂ったな」

先ほどの『剣』の主が姿を現した

その姿に確かにランサーは見覚えがある、
だが、その男の姿はランサーの覚えているものとは別人だった

「さて、仕方が無い、この埋め合わせは自分でするか」

淡々とそう言って、男はランサーへと向き直る

「てめぇ、何の冗談だ、こいつは?」

口の端を吊り上げて笑う男に、ランサーは槍を向けて問いかけた









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