士郎の世界
"Look up the Sun from underside"
夢に見るのはあの十年前の火災。
その聖杯戦争の結末は酷く無様で滑稽なものだった。
燃える家と、空気と、人と。あらゆる物を呑み込んでそびえたつ黒い孔。
自分というものが希薄で、ともすればそれさえも消えていきそうなぐらいに朧。
だからこそシロウという人間はそこで何もかも失ったのだ。
人間らしいものを全部。
喜びや、怒りや悲しみ。希望絶望失望。生きているという自覚まで、なにから全部。
でもその後には、エミヤキリツグという男に助けられたエミヤシロウという人間がいるはずなのだ。
だからおかしい。
その場所にあるはずは無いのに。
こんなところには来るはずは無いのに。
大体、エミヤシロウは助けられたのだ。だからこんな場所にいつまでもいるのはおかしい。
だったら、ここにいるのはいったい何者だろう?
その丘には無数の墓標。
ある男が辿り着く地獄。
沈黙を守る剣の群れは、ただ錆びながら朽ちていくだけだ。
その下にはいったい何が埋葬されているのだろう?
通り過ぎていくたくさんの人影。
何処かへ消え失せていく誰かの理想と現実。
それは少年のようであり、青年のようであり、騎士のようであり、老人のようであった。
一つ、また一つ。波に飲まれるように消えていく。
世界という海の底。光も届かない海底で何も思うこともなくただ蓄積されていくある男の末路。
一人、また一人。誰も彼もが届かずに、その道の途中で力尽きる。
体は剣で。
血潮は鉄で。
心は硝子で。
いくら自身を硬く熱い鉄で固めようとその芯鉄が硝子では脆く崩れるのは道理。
いくら刃を磨こうと担い手が一人もいないのでは容易く挫けるのは当たり前。
幾たびの戦場を越えて不敗。
ただの一度も勝利は無く。
ただの一度も理解を求めず。
勝利も無ければ敗北も無い。
乾いた風に吹かれ、冷たい雨に打たれ、やがてつまづき泥に塗れ血に塗れ。それでも負けないと言えたところでその手になにが残るのか。
辿り着いたのは剣の丘。
見渡すかぎりの剣の墓標で孤独に一人、勝利に酔う。
その生涯に意味はなく。
きっと体は、無限の剣で出来ていた。
意味が無いのは当たり前。
最初からそんなもの、求めてさえいなかったのだから。
故に孤独。誰の理解もいらないし、理解される必要もない。
だったら。
その"裏側"にはいったい何が棲んでいるのだろう?
「だからさ。思うんだ、僕は」
案外、まともな奴がいてもおかしくは無い。
「十年以上…いや、ずっとずっと見てきたけど。やっぱりまともな道なんて一つも無かった」
そんなところになんて、まったく反対のヤツいるんだって。
「あの日からこのゴミ溜めのなかで見てきたけど結果はいつも同じ」
ああ、どんな路を歩いてもまったく同じだった。
「正直、僕には羨ましかったし腹立たしかった」
そうだろう。何せお前は何もしなかった。
「できることなら替わって欲しい。僕なら俺より私よりずっとうまくやれる」
そうだな。でもお前はもう失われてしまったんだ。
だから、これまでもこれからもそのずっと先も。絶対にコッチにはこれない。
「うん。分かってる。これはないモノねだりだ。だから僕は傍観に徹する」
そうしてくれ、でないと俺が「エミヤ」でなくなってしまう。
逆に。そうなったら今度はオマエがうまくやるんだろうけど。
「どうだろうね。僕はすっかり日和見主義になってしまったし、結果だってそれなりで満足してしまう。だからそれは希望を捨てることになるんだ」
だけど誰も哀しませずにやれるんだろう?
誰もが納得する結果に出来るんだろう?
「ああ、それだけは絶対に自身がある。少なくとも君達のようにはならない」
そうか…誰も彼もが気付かなかった。
「もうずっと昔に失われてしまった」
どこかには、ありえたかもしれない未来。
「物語の誰もが気にかけなかった」
あの日まで、確かに生きていた。シロウという名前のただの子供。
「士郎? 起きた?」
やっと目を覚ました。
太陽はもう真上に輝いているというのにいつまでも目を覚まさなかった不肖の弟子。
なにが彼をそこまで眠らせていたのかは知れないが、彼にはこれからやることが山ほどあるのだ。
家計のためにせいぜい身を粉にして働いてもらいましょう。
「ん…とお…さか?」
「さあさあ、しゃきっとしなさい。珍しいわよ? こんな時間まで寝てるなんて」
「そんなに長いこと寝てたのか…。うわ。もう正午じゃないか」
「そうよ。午後からルヴィアところでバイトがあるんでしょう?」
「ああ、そうだった。悪い。寝ぼけてるみたいだ。変な夢見たせいかな?」
「変な夢?」
「うん。でもどうでもいいことだから。そういえばセイバーは?」
「買い物にいってる。ご飯はもう出来てるから食べたら早く行きなさい。急がないと遅刻するわよ」
「ああ、それは不味いね」
とかなんとか言いながら、胡乱な目つきでやっとドアまで歩き始める。
なんだかフラフラとしていたが、まあそのうちしゃきっとするだろう。
と、ドアノブに手をかけたときこちらに振り返った。
まだちゃんと目が覚めていないのか、その目はやや虚ろだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「―凛」
酷く優しい声をかけられてドキリとする。
その声はどこか士郎じゃないみたいで本当に吃驚した。
何かを振り払うように頭を振って再び私に声をかける。
「お願いがあるんだ」
「…な、なに?」
ほとんど不意打ちみたいにかけられた声に動揺しながら尋ねる。
「君だけにはどうか考えて欲しい。そして忘れないで」
「……え?」
「確かに存在していたシロウという名前のただの子供を。僕を忘れないで」
「―――――!?」
「頼んだ。遠坂」
そうしてドアの向こうに消えてしまった。
シロウという子供? 一体何のことだろう?
そのまま私はしばらく呆然としていたままだった。
new pray was gone away.
say good-bye farawell wards.
but we remains not growing happy one.
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後書きという名の言い訳。
またやってしまいました。自己満SS。
わかっていながら同じ愚を冒すのはさすがにそろそろ改善という名の鞭を自身に入れたいところですが、それがままならないのが現状。
むうう。何とかせねば。
ところで今回のSS。
「十年前の火災以前のシロウはどんなのかな〜。ほら、月姫の琥珀さんエンドで触れた昔の志貴みたいに?」という電波を屋根の上で受信しまして。構想五分、製作一時間でそりゃあもう勢いに任せて暴走した結果がこれです。
あ、石投げないで。イタイイタイ。いや、正直スマンかった。話し合おう? な? きっとその方がお互い納得のいく…ゴフッ(+殴打音
ええっと…。精進します。喝。 真理州。