その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その6 M士郎


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1: kouji (2004/03/10 17:44:40)

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     ざわり
                                    ザワリ
                   ざわり
ザワリ
                                         ざわり

「間―か、こんな――に―――」

                          「マスター―――」

ザワリ
                      ざわり
                 
                                   ザワリ

「これは――!!?」

                   ざわり
                   
         ザワリ

                 「…………メディア……」

グチャ
                             パクッ

             モグモグ
                     
                                     ゴクン

                  ゴチソウサマ

                              ザワリ

ざわり


17士郎視点

一夜明けた朝、俺は、廃屋の外でぼうっと空を見ていた
昨日は貴重な経験をした
うん、自分の人生において、あんなことは二度とおきないだろう

そういう意味では、非情にもったいない事だが
あれは封印しておこう
うん、

セイバーの肌は白かったとか、

遠坂の唇は柔らかかったとか、

セイバーが処女だったとか、

遠坂はユリの気が有ったとか、

………………ぜんぜん封印できてないって、オイ!!

いや、浮ついてる訳じゃない、と思う、
正直、この面子でバーサーカーに挑むわけだし
不安のほうが多いだろう、うん、

でも脳裏にセイバーの      が

って、いい加減落ち着け、俺

状況を整理しよう、昨日俺たちは

1、アーチャーでバーサーカーを足止めしつつイリヤの城から脱出した

2、無理やりイリヤの術を解いた反動と消耗から、俺とセイバーが力尽きた

3、城の周りの森にある廃屋にひとまず逃げ込んだ

4、遠坂の提案でセイバーに魔力を供給した

簡潔にするとこんな感じか、

うん、魔力供給の方法が問題だったけど

そもそも、進言したのはライダーだそうだ
遠坂はそれを言われたとき

「なんでそれに今まで思いつかなかったんだ」

って思ったらしいんだけど

いや、うん、健全な一男子としては、その、願っても無い状況だったんだろうけど……

うん、いい加減、考えるの止めよう、これじゃ何時までたっても堂々巡りだ

取りあえず、何か武器になるものでも用意するか……


18

戦いは、苛烈を極めた

セイバーを前面に押し出し、士郎は援護に回り、二人で足止めしたところを
凛が奇襲して止めを刺す

作戦は成功し、凛は捕まりながらもバーサーカーの首を吹き飛ばした

だが、巨人を倒すにはそれでは足りない

だから今、遠坂凛は死にかけていた

届かない、通じない、叩きのめされ満身創痍

魔術回路が動いているが『強化』程度では通じない

――現実で勝てないのなら想像の中で勝て
   自身が勝てないのなら勝てるものを幻想しろ

側ではセイバーが聖剣を抜こうとしている

「使うな、セイバー―――!!!」

それを全力で止めさせる

英霊を従える三つの絶対命令権、そのうちの一つをもって命じる

「な―――どうして、もうこれしかないではないですか、シロウ……!!」

セイバーが抗議の声を上げるが、エミヤシロウにそんなことをさせる気は無い

「くっ……」

力尽きたように膝を突くセイバー
無理に使おうとした聖剣の反動、今の彼女にアレは使えない

                   ならば、創れ
                常に最強のイメージを持って
          誰をも騙し、自分さえ騙しうる、最強の模造品を創造しろ                          
                  難しいはずは無い
                  もとよりこの身は
               ただそれだけに特化した魔術回路

立ち上がった少年の手には金色の剣が握られていた

一閃で巨人の腕を両断する
凛は助かった、だが剣は壊れた

それでは足りない、アレは不完全だ、本物であるならこの程度では壊れない
だからこそ、エミヤシロウは内に沈む、
そこに妥協は無く、そこに外敵は無く、
ゆえに

                  創造の理念を鑑定し
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製し
製作に及ぶ技術を模倣し
成長に至る経験に共感し
蓄積された年月を再現し
あらゆる工程を凌駕し尽くし

“投影開始”

ここに、幻想を結び剣となす

作り出された剣は二人の使い手によって、不沈たる巨人を滅ぼした

それは、『勝利すべき金色の剣』
選定の岩でアーサー王が引き抜いた、王を選定する剣
はるかな昔において失われたかつての王の剣
二度とは存在せぬ幻像

「だが、その幻想も侮れぬ、よもや、ただの一撃で、
この身を七度滅ぼすとは」

巨人は滅びた、だが、彼らには、巨人の主の処遇について口論する暇も、
疲れた体を休める暇も与えられなかった


19セイバー視点

バーサーカーは倒れた、イリヤスフィールは呆然としている
ここで敵である彼女を斬るのは容易いが、シロウがそれを許さなかった
彼曰く、バーサーカーを倒した今、彼女に害はない、と言うことだそうだ

これには私だけでなくリンも反対した
シロウはなれない大魔術のお陰で消耗し、
なおかつ、バーサーカーによって多大な傷を負っていたが
その意志を曲げる気は無いようだ

ザワリ、と

不可解な『影』が現れたのはそんな時だった

新手のサーヴァント?

否、そんなはずは無い

バーサーカーは倒れた、アーチャーも死んだ、ランサーは違う
キャスターでもない、アサシンとも別人、ライダーでもない

そして、セイバーは自分だ、七体のサーヴァント、その全てを知っている以上
目の前のそれを否定する

ではなんだアレは?

「やばい、なんかわかんないけど、ものすっごくやばいぞアレ」

「同感、形を持った『呪い』があるとすればあんなのかしらね」

シロウとリンが眉を潜めて言う

「ではどうしますか? 二人とも」

「逃げるぞ、多分、バーサーカーよりたちが悪い」

ふらつく足でイリヤスフィールの手をとってシロウが言う

「イリヤスフィールも連れて行くのですか?」

「当たり前だろ、ここに置いてったら死んじまうんだぞ?」

さも当然と言い放つ、

あぁ、シロウはそういう人でした、

と、納得して、『影』に目をやる
ザワザワと動きながら周囲のマナを取り込もうとしているようだ

さて、走って逃げたところで逃げ切れるだろうか?

その時、

「エミヤシロウ、無事ですか」

私たちの頭上からそう言う声が聞こえた


20士郎視点

何とか俺たちはライダーのお陰で脱出に成功した
桜のことが心配だったが、ライダー曰く、

「教会に預けた」

そうなので、一応の安心をしつつ、後で見舞いに行こうと決める
それを、

「しない方がいい」

とイリヤが言った

「なんでさ?」

「士郎、アレはね、壊れるしかないものなの、士郎にはどうすることも出来ないの」

無感情な声、でもそれは何かを拒むような声だった

「イリヤ、桜と遭った事ってあるのか?」

聖杯戦争を他人任せにして、こそこそ逃げ回ってるようにでも見えたんだろうか?

「私はマキリの紛い物なんか嫌いなの」

素っ気無く答えるイリヤ
紛い物か、まぁ、桜は養子だしな

「士郎、多分イリヤスフィールが言ってるのは、そういう意味じゃないと思う」

俺の考えが読めるのか遠坂が口を挟んだ
じゃあなんだ? そういえば遠坂、イリヤのことで何かに気づいたみたいだったけど

その次の日の事

「ところでリン、アーチャーは『アレ』のコト知ってたみたいだけど?」

と、唐突にイリヤが聞いてきた

「ホントか? イリヤ」

「うん、『アレ』を見たとたんバーサーカーのこと、ほったらかしにしたくらいだもの」

アイツ何者だったんだ?

「あ、でもサーヴァントって、本来英霊としてあっちこっちの時代に無差別に呼ばれるんだろ?
その過程で『アレ』と良く似たものに出会ったことがあるんじゃないか?」

「それは無いわ、『アレ』がサーヴァントに似た『何か』であることは、
士郎だってわかるでしょう?
サーヴァントシステムは冬木市特有のものだもの、むしろ私は、
『アレ』がアーチャーが桜を殺そうとした原因じゃないかと思う」

「オイ、遠坂、お前ひょっとして
「あの『影』を操ってるのは桜だ」とか言い出す気じゃないだろうな?」

「操ってる、と言う自覚が有るかどうかは分からないわね、
いい、士郎? もともと間桐―――いえ、マキリの魔術って言うのはね
『何かを奪う』魔術なのよ、多分今、桜は本人の自覚無しに『魔力不足』、
を補うつもりでいるんだわ」

実際には不足どころか溢れかえるぐらいになってるって言うのにね

っと遠坂は言う

うう、全く解らんぞオイ

「遠坂、もうチョット詳しく説明して欲しいんだが?」

「私だってまだ全部解ったわけじゃないわよ、ただなんとなくそう思っただけ」

遠坂は言いづらそうにそういって俺から顔を背けた


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