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「でかいな……」
「……はい」
シオンの地図を頼りにたどり着いた遠野邸は、とんでもなかった。
空港に着いてからは電車でこの町までやってきた。
途中で、どっちが荷物を持つか、とか、駅弁の食べ比べ、とかセイバーと色々あったが、無事に着いて何よりなにより。
さっきから俺とセイバーは、この遠野の屋敷の大きさに圧倒されているところだ。
俺の家と遠坂の家とを足して割らずに3を掛けたくらいだろうか。
下手な高校の敷地以上の規模だ。
「流石は遠野グループ当主の屋敷だな」
「造りは違いますが、王宮のようです」
セイバーが言うと説得力がある。
しかし、いつまでも門の前に立っていてはいられない。
「よし、じゃあ、入ろうか」
「はい」
その前に一つ確認したいことが有った。
「……でも良いのか? セイバー。英霊、ていうか王様がメイドなんかやっても」
「王とは国のため、民のために奉仕するものです。少なくとも、私はそう思ってきました。サーヴァントになってもその対象が個人に変わるだけです。メイドになっても同じことだと思います」
「セイバーらしいな」
「リンの家でも掃除や、こまごまとした整理は私の仕事でした」
あいつ整理整頓が苦手だからな……。
「それに――」
「それに?」
「宴の後に酔いつぶれた騎士たちを寝床に放り込んで、その後の始末を朝までに終わらせていたのは誰だとお思いですか?」
使用人たちは怖がって近寄りませんでしたし、と付け加える。
「もしかして、セイバーが?」
こっくり。
「……伝説の影には一人の少女の尊い犠牲があった訳か。色んな意味で」
できれば知りたくなかったが。
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「あはー、ようこそいらっしゃいましたー。衛宮士郎さんと、ええと、助手のアルトリア・セイバーさん」
使用人の助手って何だ、とか思われてないだろうか。
にこにこと俺たちを迎えてくれたのは琥珀、と名乗ったお手伝いさん。その後ろで深々と頭を下げているメイドさんは、琥珀さんに「翡翠ちゃん」と呼ばれている。二人は双子の姉妹らしい。
顔はそっくりだが雰囲気は対照的である。
この屋敷の主人とその兄は今(遠野家当主は高校生らしい。吃驚だ)学校なので、先にこの二人と挨拶を交わす。
「急な仕事の依頼で申し訳ありませんでしたね」
「まったくです。何なんですか、あれは!」とは言わず。
「いえ、人手が足りずにお困りらしいですし、俺でよければ力になれるかと思いまして」
気さくに笑ってそう答える。
神様、嘘吐きの俺ですけど地獄には堕とさないで下さい。
「そう言って貰えるとありがたいですね」
「これから宜しくお願いします」
二人とも微笑んでそう答えてくれた。
「ところで」
「はい?」
挨拶も終わり、座って紅茶を飲みながら琥珀さんが質問してきた。
「衛宮さんとセイバーさんは、いったいどういったご関係で?」
翡翠さんもそれが聞きたかったのか頷いている。
やはり聞かれるか。助手、は駄目だろう。
「ええと、ちょっと複雑なんですが……」
「私が説明しましょう。シロウ」
出された紅茶を『シロウやリンに劣らない味です』と嬉しそうに飲んでいたセイバーがそう言った。
「私はシロウの――」
「衛宮さんの?」
「――二号です」
「…………」
「…………」
「…………」
三点リーダ四文字が三人分。
セイバーは「どうしたのですか?」と首を傾げている。
落ち着け、俺。いや、落ち着くな。慌てろ。
藤ねえも言っていた。『ピンチの時は、考えるよりも先に、突入した勢いのまま駆け抜けちゃいなさい』と。
「……セイバー。そのボキャブラリは、どこから入手してきたのかな?」
気分はおとうさん。
母親(遠坂)が居ない今、男親だけでこの事態に対処せねばなるまい。
「シロウに『主と僕』はやめろ、と言われたので悩んでいたところ、シオンに『ぴったりの言葉が有る』と教えていただきました。意味は教えてくれませんでしたが」
……あの、むらさきのまおうめ。うちの子に何教えてやがる。
やはり日本に来る前に決着をつけておくべきだった。
「それ、他の誰かにも言った?」
「ええ、それ以来誰かに聞かれるたびに」
人生って何だろう?
「…………」
「皆さんには大変納得していただいたので、これで良いと思っていましたが」
何かまずかったでしょうか、とセイバーはへこんでる俺にそう言った。
「……今度からは『家族です』って答えてくれないかな?」
俺のために。
って言うか! さっきまで良い感じだった琥珀さんと翡翠さんの眼が!
眼が……?
「あはー、志貴さんに比べればまだまだですよー。気にしちゃ駄目です」
「志貴さまに比べれば男の甲斐性です」
その「志貴さん」っていう人は何者なのだろう……?
会ってもいないのに、俺の心の師匠の一人に、着々と地位を築いている。
《つづきます!》
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はっははー。着いたは良いが、会ったのはヒスコハのみ。
なんか謝ってばっかりですけど、どうにも初心者なもので。
「初心者」を言い訳にしないくらいの力量が欲しいものです。
ちょっと書き方を変えてみました。せらえのさん、ご指導どうもです。
つぎはゼルレッチの仕掛けた「爆弾」が大炸裂ですッ!
……たぶん。
それでは。」