誰もが寝静まる時間帯に志貴はふと目を覚ました。
季節は冬、布団の中で寝ていたいという誘惑を振り切り起きだしたのはなぜだろう?
志貴は何かに導かれるかのように居間に向かう。
そしてそこには見回りの途中なのだろうか、その足を止め外の風景に見入る琥珀がいた。
「琥珀さん、何を見ているんです?」
「志貴さん!?」
こんな時間に声をかけられると思っていなかったのだろう、琥珀は驚いた表情で志貴を見る。
「志貴さん、こんな夜中にどうしたんです?」
「俺は……なんか目が覚めちゃって。琥珀さんこそ」
「私は見回りですよ。ただ雪が降り出したのでついつい見入っちゃいました」
琥珀の言うとおり暗い空から真っ白な雪が降っていた。
「本当だ。どうりで寒いわけだ」
「志貴さん、何か暖かいものでも用意しましょうか?」
「うん、ありがとう」
琥珀が飲み物を準備しているあいだ、志貴はソファーに座り飽きずに雪を見つづける。
「志貴さん、どうぞ」
志貴にカップを渡した琥珀は志貴の隣に座り雪をまた見る。
そんな静かな雰囲気で志貴は口を開く。
「俺は結構、雪って好きなんだけど……琥珀さんは?」
「私はですねー、子供の時から好きでしたよ。人形にあった数少ない好きなものでした」
「……」
志貴にとっては何気ない会話のつもりだったのだが思わぬ返答に声がつまる。
琥珀はさらに話しつづける
「降り続く雪は何もかも白く塗りつぶしてくれて、人形でも最初からやり直せる世界をくれるんじゃないかと思ってました」
雪を見続ける琥珀の表情からなにも感情を読み取れない。
志貴にできたことはそんな琥珀の横顔を見ることだけだった。
「と言うのが以前の気持ちでした。志貴さんのおかげで変わっちゃいました」
いきなり調子を変えてくるりと振り向く。
「今では絶対にそんなことは思いませんよ。そんなことになったら志貴さんに会えないかもしれませんからね」
琥珀は笑顔で志貴を見る。
その笑顔は寒さを感じなくさせるくらい暖かなものだった。
「今でも雪は好きですけど、ただの風景として好きです。それに雪だけじゃありませんよ、どんどん好きなものは増えていってます。人形ではなく1人の人として好きな人達と一緒に見たものが私の大切なものになっていますから」
「そっか……。俺も好きなものが増えていってるよ」
志貴も笑顔を浮かべ琥珀を見る。
「この雪積もるかな?」
「この調子だと積もると思いますよ」
突然志貴が閃いたというふうに手をポンと叩く。
「それじゃ明日はみんなで雪遊びをしよう」
「雪遊びですか?」
「うん。また琥珀さんの好きなものを増やそうと思ってね」
「それでは私は腕によりをかけておしるこをつくりましょう。体が暖まりますよ」
「それは明日が楽しみだ」
「私もです」
「明日にそなえて寝ようかな。琥珀さんも、もう寝たら?」
「はい、そうします」
2人は居間をでてそれぞれの部屋へ戻っていく。
雪は振りつづけ、2人の願いがかなったかのように積もっていく。