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「やはり、シロウの作ってくれた料理には敵いませんね」
ここは飛行機の中。
機内食を食べ終えてデザートの容器を開けながら、セイバーは一息吐くとそう言った。
・・・俺の分までちょっとくすねたくせに。
「ははは、ここはエコノミーなのでな。ファーストクラスまでいけば無駄に豪華だが」
「ならば、帰りはそれにしましょう。シロウ」
「うむ。そうすると良い。ところでセイバー君、差し入れだ。受け取りたまえ」
「ああ、感謝します」
「ちょっと待てい。セイバー」
いつの間にか俺の隣に老紳士が座っている。
いつもの俺なら思いっきり突っ込みを入れるところだが、なんかもうこの人なら何でも有りだからな。
「――どうしてここに居るんですか?大師父」
「・・・うむ?転移(わた)って来た」
「んなこったろーと思いました。・・・じゃなくて、何をしに来たんですか」
俺の隣からセイバーに飴玉をころころと渡す人物は『宝石』のゼルレッチ。俺は大師父と呼んでいる。
遠坂の師匠で、遠坂の魔術師としての目標。
俺の、『正義の味方』としての目標。
とんでもない力を持つバケモノと、人の身でありながら、頼まれた訳でもないのにすっげー闘いを繰り広げて封じたとんでもない魔法使い。(我ながら頭悪そうな表現だ)
封じたものの、相打ちに死徒にされ完全勝利とはいかなかったが、魔術師の中の生きる――いや、『死に続ける』伝説。
・・・セイバーにお菓子を渡す姿は、孫を可愛がる好々爺にしか見えないが。
セイバーも大師父にはなついている。餌付け――もとい、食べ物をくれる人はみんな良い人だと思ってるんじゃなかろうかと俺は思う。
アーサー王を食事に招いて毒殺すれば一発だったかもしれない。危ないところだった。
「君も神経質な男だな。見たまえ、セイバー君を。少しも動じたところはない。流石は王、と言うべきか」
違うんです大師父。セイバーは飴玉も貰って今デザートしか見てません。たぶん、俺が耳から血を流して転がりまわっても気にしないでしょう。
「まあ、用があるから来たのだが」
ひょい、と懐から封筒を取り出して俺に渡す。
・・・手紙、だろうか。『アルクェイドへ』と書かれている。
「今日は君が居ないからリン君に尋ねところ、君は日本に、しかも遠野の屋敷に行くそうではないか」
この人には俺の固有結界のことまで知られている。
こんな協会の偉い人にバレて、すわ封印指定かと俺も遠坂も覚悟したが、『封印指定が怖くて魔術師がやっていられるかね?私は気に食わん奴にしか嫌がらせをせんのだよ』と片目を瞑って笑われた。
それ以来俺とも親しくしていて、たまに魔術の練習にも付き合ってもらっている。
最初は『なぜあんな半人前も良いとこの未熟者が宝石の指導を受けてるんだ』と嫌がらせも受けたが、俺を助手にした公開処k・・・じゃない、実験で『あいつは弟子と言うより、むしろ玩具に近い』との意見で落ち着いている。
・・・否定できる材料は全くないのだが。
「実はその近くに私の・・・そうだな、孫、みたいなものが居てな」
「ええっ!?お孫さんが居るんですか?」
何歳だよ。
「『みたいなもの』と言ったろうが。血は繋がっておらん」
「はあ」
「そいつにそれを届けてほしい」
やっぱり手紙だった。
「かまいませんけど、住所は・・・?」
「いや、遠野の屋敷にいれば必ず会う。その時に渡してくれれば良い」
「解りました。でも、どうして御自分で会いに行かれないのですか?」
「ふふ、何度か行ってみたが、そこのお手伝いさんがメールで言うには一番面白くなるのは私が退出した後らしくてな」
「メール?」
「メル友だ」
メル友・・・・・・。
メールを打つ『宝石』が吃驚なのか、『宝石』とメル友のお手伝いさんが吃驚なのか。
「そこで士郎君、君にはこれも持って行ってもらいたい」
絶句しているうちに渡されたのは大きな宝石。
「使い方は解るかね?」
「待ってください、ええと・・・」
解析は俺の十八番。眼を閉じ、宝石に触れて、魔力を流す。
「・・・3Dで映すビデオカメラ、みたいなものですかね?」
「その通り。流石だな」
満足そうに頷くと「それで、手紙を読んだ後の騒ぎを映してきてくれ」
「そんなに凄いことが書かれてあるんですか?これは」
・・・途中で爆発しねえだろうな、これ。
「いやいや、離れて暮らす孫を気遣う普通の手紙だ。くくく、だがあの屋敷では爆弾となる。・・・いいかね、くれぐれもそれは屋敷に家族が揃っている時に渡してほしい」
魔術師ってのはみんな快楽主義なのだろうか。
怖い。
「受取人はアルクェイド・ブリュンスタッド。金髪で、女で、紅い眼だ」
「ブリュンスタッド・・・?」
どこかで聞いた気がする。遠坂が何か真剣な表情で――。
「おや、セイバー君は寝てしまったようだな?」
「え?」
視線を移すとセイバーは俺の肩にもたれて寝入っていた。食欲の後は睡眠欲か。
しかしいつもの引き締まった表情も良いが、こういう無防備な顔もなかなか・・・。
じゃなくて。
「それでは私もそろそろ失礼させてもらおうか。リン君を置いてきてしまったしな」
「ああ、大師父、ちょっと待ってください。ブリュンスタッドって――」
セイバーから顔を移すと、そこには、誰も。
「・・・来る時も帰る時も唐突ですね、大師父」
気になる事が在るものの、まあ良い。思い出せないんなら大したこともないだろう。
日本まで後6時間。
それまで俺も眠ることにするか。
セイバーの頭を軽く撫でて、少し寄りかかり、眼を閉じた。
――俺はこの決断を後悔する事になる。
《こんな事して続けないと怒られちゃいますよね?》
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はい、タイトルに偽りなしですね(土下座)。
『次はありそでなかったメイド服セイバーだっ!』の部分は見なかったことにしてください。
そろそろ「さっさと遠野家の奴らと絡まんかい!」って意見が出てきそうです。許してください。ほんとに。マジで。
とにかく、次は遠野家編に入ります。
ご期待下さい。・・・いや、やっぱしないでください。(笑)
それでは。」