日常の終焉と裏切り そして・・・ 後編
「あちゃ〜、遅くなっちゃったな〜」
時刻はもう十二時を過ぎているだろう。あたしは誰もいない道をひとりで歩いていた。
道場に着いたのは部活を終えて約三十分後位だった、先生から荷物を預かるまでは良かったがその後、先生や師範代に頼まれついつい練習に参加してしまったのだ、その後も道場の掃除を手伝ったのでこんな夜遅くになってしまったのだ。
「まぁ、先生が家の方には連絡してくれたから心配は無いか」
あたしは片手で持っている、布に包まれている細長い形状をしたその預かり物をもてあそびながら歩いた。
ぞくっ。
「っ・・・?」
不意に背筋が凍りついた。
辺りを見回すが回りには何も見当たらない。
しかし、悪寒はとどまるどころかますます強くなっていく。
「一体、何が起きたっていうの?」
バサバサバサバサ。
「―――――――!」
あたしは上の方から聞こえてきた音にビクッ、と反応した。
何事かと上を見上げると何百とういう鳥が空を飛んでいたのだ。
「びっくりさせないでよ、も〜」
あたしは安心したが依然悪寒は続いている。
しかも、鳥たちがある一定の方向から来ている事に気付いた。
怖いもの見たさでその方向を見る。
「あそこは確か・・・柳洞寺のある所よね?」
そう、鳥達はうちの学園の生徒会長の実家である寺の方から飛んで来ている。
「・・・・・・」
確かめに行くか否か、考えてみる。
悪寒はいまだに続いている。もし、アソコへ行ってしまったら取り返しも付かないことが待ち構えているかもしれない。
ふと、手にしているものを見た。コレがあれば大丈夫かもしれない。
あたしはソレを握り締めながら走り出した。
柳洞寺に向かって。
interlude2−3
「アサシン」
キャスターは柳洞寺の山門に姿を現し、自分のサーヴァントであるアサシンを呼ぶ。
「一体何のようだ、キャスター」
「――――――!」
キャスターが振り返ると既に実体化したアサシンが立っていた。
「・・・先程、最後のサーヴァントが召喚されたようです。ここの護りは任せましたよ、アサシン」
彼女は何とか驚きを飲み込むと用件を告げた、アサシンは感情の無い目をキャスターに向け。
「今のお前は本物かキャスター?」
「そうよ?、それがなんなの」
訝しげながらも答えるキャスター。
「それは・・・」
「?」
アサシンはこれから行う事で最も重要な事を聞き。確認が取れた事で迷いが晴れ、一気に。
「・・・・安心したっ」
「!」
突進した。
アサシンは一瞬でキャスターとの間合いを詰め、必殺の技を繰り出した。
ザシュッ。
腫瘍を発動される間も与えず、キャスターを切り刻んだ。
バサバサバサバサ。
洩れてしまった殺気を感じ、一部の鳥が目を覚まし、空に飛び出していく。
「鳥には迷惑をかけてしまったな」
驚きが感染し、次々と飛び出していく鳥達にアサシンは軽く詫びる。
ドンッ、と音が鳴り、直後アサシンが吹き飛ぶ。
「な・・・がっ、ごぶっ」
アサシンは訳も分からず木に叩け付けられた。
「――――ぐっ」
無意識に腹に手を押さえると、まるで内側から破裂したかのように大きく抉れていた。
(何故だ、キャスターが死ねば発動しないのではなかったのか?)
朦朧とする意識で考えているアサシンに、クスクスという笑い声が聞こえてきた。
「な――――?」
声が聞こえて来た方を見るとアサシンの思考は停止した。
「死人でも見たような顔をしていますね。アサシン」
アサシンの視線の先には無傷のままこちらを見ているキャスターがいる。
「な、何故だ・・・先ほどのは影だったのか?」
咳き込みながらキャスターに問い詰めるアサシン。
「いいえ、本当に私自身でしたわよ・・・・それよりも」
キャスターは殺意を込めた視線でアサシンを見る。
「よくも奴隷の分際で逆らってくれましたね。少々惜しいですが・・・もう消えなさい」
アサシンに向かって死刑宣告を告げる。
「!」
キャスターが念を送り込むよりも早くアサシンは動き出した。
「――――――!」
全身が内側から爆発していく体で先程と同じ速さで駆け込み、キャスターを斬るべく長刀を一閃する。
アサシンはキャスターを斬る直前、刀を握っている手首が爆発し手元が狂った。
キャスターは間一髪で直撃を避けたが、彼(アサシン)の令呪が刻まれた腕を切り落とされ、わき腹も深手を負った。
「痛ぅ・・・そのまま消えてしまうがいいわ」
叫びつつキャスターは姿を消した、恐らく柳洞寺に非難したのであろう。
アサシンは突っ込んだ速度のまま受身も取れず地面に叩きつけられた。と同時に愛刀を手放してしまった。
「ぐっ・・・・」
仰向けに倒れ、アサシンは空を見つめた。
(契約は切れたが・・・・さて、後はどうする)
キャスターは腕が切り落とされると直後に契約を切ったのであった。
重傷を負ったアサシンが魔力の補給が無くなった今、あと少しでこの世界から消えてしまうだろう。
死を覚悟し目を閉じるアサシン。
それから数秒もしない内にこちらに近付いてくる音が聞こえてきた。
interlude out
あたしは一気に階段を駆け上がる。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・・・」
悪寒は既に治まっているが、何故か呼ばれている気がしたのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・・・」
柳洞寺の前にある山門が見える所まで来た。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・・・!」
山門の端に倒れている人影を見つけた。
さらに力を振り絞り、急いで倒れこんでいる人影に近寄った。
「ハァ、だ、ハァ、大丈―――――!」
あたしは絶句した。
その人影は全身血だらけで仰向けになって倒れていたのだ。
まるで内側から破裂したかのように皮膚が外側に向けて大きくめくれていた、特にお腹の所が一番酷く骨が見えている。
「うっ・・・」
何より驚いたのは、そんな状態でもその人間は生きていた。
「ちょっ、ちょっと待ってて。今からすぐ救急車を呼んできてもらうから」
あたしは救急車を呼ぶべく寺の方へ向かおうとする。
「―――――――!」
あたしは急に足を掴まれた。驚いて振り向くと、動ける状態ではないはずのその人物が足を掴んでいた。
驚くあたしを他所に、その人物は足から上を触り始めた。
「い、いきなり、な、何してんだよ、このバカ」
あたしはその人物が男性と感覚で分かり、顔を赤らめながらも怒鳴る。
しかし、男性は何かを必死で探しているような真剣さで触っていることに気付いた。
「な、何かを探しているの?」
あたしは聞くが、男性は聞こえていないのか答えない。
男性はあたしが持っていたモノに触れた瞬間、彼を中心に風が吹き出した。
「な、何が起こったの?――――――――――!」
暴風に近い風を防ぐ為、両手で頭部を守る。
何が起こったのか分からず、目を凝らしながら男性を見るとあたしはまたも絶句した。
モノを手にした男性には通常では考えられない現象が起きていた。
傷が治っていくのだ。
まるで時間が逆回りしているかのように傷が塞がれていく。
「ふぅ、九死に一生とは、まさしくこの事を言うのであろうな」
風はいつの間にか止み、男性は先程までの怪我は無かったかのように悠然と立ち、呟いた。
「ね、ねぇ、あなた一体何者なの?」
あたしの問いを無視し、男性は歩き出す。
「ちょっ、ちょっとソレ、預かり物なんだから返してよ」
男性がいまだにソレを持っているのに気付き、慌てて止めに入るが。
「あれ?」
確かにあたしは彼の腕を掴むはずだった、なのに男性はその場所よりも少し横にいた。
「?」
あたしが不思議がっていると男性は歩みを止め、しゃがみ込むと有るものを拾い上げた。
「――――――――!」
あたしはもう何度目か判らないが、とにかく驚いた。
男性が拾ったのは日本刀だった、しかも普通では考えられないほどの長い刀身だった。
男性はその刀を背にある鞘に収めると、今度はあたしに近付いてきた。
あたしは男性に呑まれてしまい身動きが取れなくなる。
男性はあたしの目の前まで来て歩みを止めた。
あたしはそこで改めて男性を見た。
最初は動揺していて分からなかったが、男性はまだ二十代中頃の青年と思われるほど若い。しかも彼の姿はまるで侍のよう格好をしていた。
「まさか、美しい女人に助けられるとは私も運がいいらしいな」
男は笑みを浮かべてあたしに向かって言った。
「い、いきなり何言い出すんだあんたはー」
顔が熱くなっていくのを実感しながらも文句を言うあたし。
「なに、助けてもらった礼を述べたに過ぎん」
そんなあたしを見て、笑みを深めながら答えた。
「助けたって、あたしは何もしてないぞ?」
自分で言ったようにあたしは何もしていない、勝手に男が治っていったに過ぎない。
「ふむ・・・まずはそれを確かめるためにコレの包みを解いても良いかな?」
「あ、あぁ、別に構わないけど・・・」
男は未だに持っていた包みを眼前に差し出し提案した。
あたしはそれで謎が解けるならと思い、了承した。
男が包みを解くとほぉ、感嘆した。
「備前長船か・・・・」
男は呟く。
備前長船、一説では佐々木小次郎の愛刀とも言われている刀で、備前(岡山県南東部)の名工、長船長光(おさふねながみつ)が作り出した3尺(一尺は30cm)を超える大業物である。
「本物ではないが、さぞ腕前な刀匠が作ったのであろう、かなりの業物だな」
男は刀身や鞘を眺めてそう呟いた。
「それに未だ魔力を保有している、作られたのは百年以上前の物だな」
男は軽く見ただけで作られた年代まで当ててしまった。
感心するあたしを尻目に。
「それに、あの男が言った事を試すには丁度良い機会だ」
何かを呟くと、刀を包みに戻しあたしに返しつつ。
「そなたの名はなんと言う」
あたしの名前を聞いてきた。
「あ、あたしは美綴、美綴綾子よ」
「美綴、綾子・・・・では綾子」
名前を教えると、男はあたしの名前を呼び。
「私の主にならんか?」
「ハァ?」
訳が分からないことをいきなり提案してきた。
とりあえず彼に事情を聞くと、彼は自分の名や簡単にこの土地で行われようとしている聖杯戦争のの概要を語りだした。
最初は疑い半分で聞いていたが、彼が霊体になったのを見て彼が言っている事を信じ得ざるしか無かった。
「でも、その聖杯でほんとに願いが何でも叶うのかしら?」
あたしはアサシンに聞くと。
「それはわからん、だがこうして召喚される以上、聖杯が有ることは確かなことだ」
真面目に答えてくれるアサシン。
「・・・で、どうだ。我がマスターになる事に決心は付いたか?」
アサシンは聞いてきた。あたしの答えは、ほぼ決まっている。
アサシンが言うには普通、何も知らない一般人が聖杯戦争に関わると消されてしまうのが常であると聞いた。たとえ今アサシンと契約せず別れても、他の人物が彼のマスターになった場合、あたしは真っ先に殺されるらしい。ならば答えは。
「・・・・・判ったわアサシン。あなたと契約をするわ」
「そうか、それは良かった」
喜ぶアサシン。あたしは照れながら。
「じゃ、じゃあ、始めるわよ―――――――――我に従え!ならば我が命運、汝の身に預けよう・・・!」
先程、アサシンから教えてもらった契約の言葉を紡ぎながら、アサシンに右手を差し伸べるあたし。
「アサシンの名に懸け誓い受ける・・・・我が主として認めよう。綾子!」
アサシンは手を握り返し、あたしを彼の主として認めた。その瞬間、辺りが光に包まれる。
あまりの眩しさにしばらく目を瞑っていた。
「・・・綾子、もう目を開けても大丈夫だ」
アサシンの言葉に頷き、目を開ける。
「成功、した?」
「ああ、手を見るば解るはずだ」
言われた通り右手を見る。手の甲には、なにか印が刻まれていた。
「コレが令呪・・・」
「そうだ、まずは当面の問題を解決するため、早速だが一つ使ってもらうぞ」
「え、えぇ・・」
考える暇を与えず、アサシンは次を促した。
「強く想えばいいのよね」
「・・・その通りだ、早く頼む」
急かすアサシンに、内心苛立ちを覚えながらも行動を起こす。
「触媒をこの地から切り離し、この刀に宿れアサシン!」
手にした備前長船をアサシンに向け、強く念じながら言葉を紡ぐ。
「っ―――――!」
令呪を宿した右手の甲が一瞬輝き、軽い痛みを覚える。
見れば令呪の模様の一つが色を失っている。
「そ、そういえば成功したの」
あたしはアサシンに聞くべく前を見るが。
「あ、れ?」
アサシンは姿を消していた。
「ア、アサシン、何処に消えたの・・・返事をしなさい」
「此処だ」
「−−−−−!?」
すぐ近くでアサシンの声が聞こえるが辺りを見てもいる気配がない。
「姿を消しているんじゃ判らないわよ、何処にいるの?」
「そなたが手にしている物に宿(い)るのだが」
「え?」
アサシンは喜びをかみ殺した声であたしに呼びかける。
「まさかここまでうまく成功するとは、私も思わなかったぞ」
確かに声はあたしが手にしている備前長船から聞こえてくる。
「う、うまく成功したみたいね」
「ああ、その通りだ綾子」
「やったー、あたしって凄くない。ね、ね」
一人ではしゃぐあたしにアサシンは冷静に。
「・・・とりあえず、そろそろ此処を移動しないか」
アサシンに指摘され。
「そ、そうね」
あたしは恥ずかしさで顔を赤くしながら肯定する。
「そ、そうだアサシン」
「なんだ?」
あたしは名案を考え付いた。
「今から実体化して家まで連れてって」
「は・・・・・?」
あたしの名案に驚くアサシン。
「今日も部活があるんだから急いで帰って少しでも寝ないと大変なのよ、さぁ早く」
「綾子、そなたはサーヴァントを何だと思っているのかね」
呆れながらも律儀に実体化し、背中を見せるアサシン。
あたしは笑顔で背中に飛び乗り。
「さぁ、レッツ・ゴー」
背中からアサシンに掛け声を掛けた。
日常の終焉と裏切り そして・・・ 後編 了
さき越されたァァァ2。後日談として僕もアサシンのマスターに綾子を考えていたのに(キャスターは一成で)でも、凄い期待がもてる展開です。どのように綾子が聖杯戦争に絡むか非常に楽しみです。次回作お待ちしてます