「さて狗鳥。 この落とし前はどうつけるきだい?」
暗い洞窟に声が響く。
そこは調度洞窟の最深部でドームのように広くなっている。
だいたい直径20メートルくらいの半球体をしている。
そしてその中心に狗鳥がひざまづいている。
両脇には鬼呑子と雷狼、鬼呑子の隣には鈴丸がひざまづいている。
その洞窟には七つの洞穴がありそれぞれ入り口からこの最深部に続く道となっている。
そして入り口とは反対側には調度祭壇のようなピラミッド上の台がある。
その上の影が狗鳥を見下している。
「申し訳ありません、暗夜様。」
「君がたかが人間ごときに遅れを取っているとは思っていないけど結果がこれじゃあ疑わしいものだね。」
「全くだ。 そもそも鈴丸、貴様が着いていながらこの様か。」
七つの道の一つ、最深部に向かって右端の道から人影が近づいてくる。
「申し訳御座いません、九蛇様。 全ては私の判断ミスが原因です。」
「怖れながら九蛇様。 狗鳥を追い込んだのは確かに人間でしたが狗鳥をあそこまで痛めつけたのはそのたかが人間ではございません。」
鈴丸が助け舟を出す。
「何? どういうことだ。」
「はい、それというのもまず狗鳥が封を切ることになったのは浅神霊魔という小僧のせいですが、狗鳥をあそこまで追い詰めたのはそれとは別の両儀式という輩です。」
「 !? 両儀・・・式・・・?」
祭壇上の影はどこか楽しそうに身を震わせている。
「クックック。 鬼呑子、それは本当かい?」
「はっ、間違いありません。」
「なるほど、まあ両儀相手じゃ仕方ないか。」
「この決着は必ず付けます。 ですから今一度私に機会を。」
「ふふふ、さぁて、どうしようかな。 九蛇、君はどうしたらいいと思う?」
「相手がいかに両儀と言えど負けは負けです。 やはりここは責任を取らせるべきでは。」
「ふむふむ、それも一理あるね。 けど今ここで手駒を失うわけには行かないんだ。 だから狗鳥、君にはもう一度だけチャンスをあげる。 ただし次はないよ。 鈴丸、鬼呑子、雷狼、狗鳥、そして雪那。 以下五名には七夜一行の相手をしてもらう。」
「ちょっとお待ちになって。」
九蛇が出て来たのとは反対側、最深部に向かって左端の道からまた誰かが近づいてくる。
「なんだい、白狐。」
「その仕事、私にやらせてくれないかしら?」
「なぜ?」
「七夜志貴に興味がありますの。」
「残念ながらそれは無理だ。 君をこっちから外す訳には行かないんだよ。」
「あら、それはなぜ? 私がこちらから外れる代わりに五人の中から私に見合う実力の物をこちらに引き抜けばいいでしょう?」
「ふむ、確かにそれでもいいかな? でもその場合そちらからは鈴丸と鬼呑子を引き抜かなきゃ釣り合わないな。」
「それで良くなくて?」
「う〜ん、そうだなぁ、・・・・・・・・・まぁいいか。 それで良いよ。」
「感謝しますわ。」
「白狐、その代わりに失敗は許されないよ。」
「解かってますわ。」
「くれぐれも言っておくけど君達の仕事は僕等が事を終えるまでの彼等の足止めだ。」
「殺してはいけませんの?」
「向こうの面子にもよるね。 七夜志貴、両儀式、この二人は殺しちゃダメだよ。」
「それ以外は殺していいのかしら?」
「ああ、それ以外は君の好きにすればいい。」
「ふふふふふ、楽しみだわ。」
「さて、作戦まで後三十分だ。 絶対に失敗は許されない、いいね。」
「「「「「「「ハッ。」」」」」」」
「行け。」
同時に七つの影は跡形もなく消え去った。
「今夜はいい夜だ。 ・・・・・・・・・もう少しなんだ。 もう少しでアレが手に入る。」
「ここですね。」
「ここが遠野の家か。 無駄にでかいな。」
「決壊が施してあるがまだ弱いな。 御鏡、先に行ってろ。 俺はこれを強化してから行く。」
「解かった。 そんじゃ行きますか。」
御鏡さんが呼び鈴を押す。
ジリリリリリリ
重い呼び鈴の音がした後パタパタと駆けてくる音がする。
そして、
「どちら様でしょうか?」
ドア越しにそんな事を聞かれた。
一応警戒はしてるみたいだ。
「七頭目の者だが。」
「はい、少々お待ちください。」
またパタパタと駆けていく音がする。
暫らくしてからドアが開いた。
こちらを出迎えたのは以外にも七頭目の草薙消月だった。
「大丈夫です。 確かに七頭目で間違いありません。」
「そうですか、よかったです。 偽物だったらどうしようかと。」
草薙さんの後ろから出てきたのは、人のことは言えないが時代錯誤もいいとこの割烹着に前掛けという格好の、いかにも女中さんだった。
「おいおい、えらく信用されてねぇな。」
「当然です。 敵はどんな手で来るか解かりません。 一瞬の油断が命取りになりますから。 ・・・ところで巫浄は?」
「ああ、鋼岩なら今結界を張り直してるぜ。」
「そうですか、それでどうしてこんなに遅れてきたんですか。」
「それはだな、・・・・・・えっと・・・そう。 敵の襲撃を受けてだな・・・」
「迷ったんですね。」
「・・・いや、だから・・・」
「迷ったんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「浅神、どうなんですか。」
「迷いました。」
「はぁ、・・・貴方に連絡を入れたのは間違いでした。」
「五月蠅ぇ。 大体ここの位置が解かりづらいんだよ。」
「そんなことないと思いますが。」
「あの、みなさん。 立ち話もなんですから中へどうぞ。」
「・・・・・・そうですね、失礼しました。 その話は後でするとして、現状の説明からしたいので居間へ。」
女中さんを先頭に歩き出した直後突然女中さんが立ち止まって、
「申し遅れました。 私はここで働かせたいただいてる琥珀と申します。」
「へぇ、琥珀ちゃんね。 俺は御鏡消刃だ。」
「浅神霊魔です。」
一通り自己紹介が終わると歩き出した。
やたら大きなロビーを過ぎて階段の脇にあった大き目のドアの前で琥珀さんは立ち止まった。。
「どうぞ、こちらです。」
そう言ってドアを開ける。
中はこれまた無駄にだだっ広い空間で、内装や調度品は一体いくら賭けているか解からないくらい高価なものばかりだ。
そしてソファにはいかにもお嬢様という感じの人が行儀良く座っている。
と、
「貴方方が残りの七頭目の方々ですね。」
「ああ、そうだ。」
「初めまして、私は遠野家当主、遠野秋葉です。」
「ほう、お前が暗夜に狙われてるっつー奴か。」
「御鏡さん。」
「はいはい、すいませんでした。」
「それでは現状の説明からしたいと思います。 どうぞおかけになってください。」
言われて遠野秋葉の正面のソファに座る。
「琥珀、あの人たちを呼んできて。」
「はい。」
遠野秋葉に言われて琥珀さんはどこかへ駆けていく。
「今、残りの協力者を呼びに行かせたので少々お待ちください。」
暫らくして、
「お待たせしました。」
琥珀さんの後ろには金髪の美女と青髪の司祭と一人の少年が立っていた。
金髪の美女は非の打ち所がないくらい完璧なプロポーションでモデルのように綺麗だった。
ただ、普通の人間でないのは一目でわかる。
なぜならその眼の色は普通の人間ではありえない紅い色をしているからだ。
青髪の司祭はこれまた美人で金髪の美女に負けず劣らぬプロポーションをしている。
こちらはどうやら普通の人間のようだ。
瞳の色も青だし。
そして最後の少年はただ黒一色の着流しを着ていてまだ俺より少し下って感じだ。
コイツの眼は、・・・・・・
? 不思議だ。
こいつの目の色は色がない。
目は閉じられているが俺には視える。
普通黒い瞳といっても多少は他の色が混ざる物だ。
だがコイツの眼は混ざり毛のない黒だ。
光さえも吸収してしまいそうなほどの黒。
本当にコイツは人間だろうか?
だが少なくとも協力者ということはこちら敵意はないということだから安心だ。
「これはこれは、まさか真祖の姫と第七司教がいるとはな。」
「へぇ、こんな極東の国にまで私の名前が知れ渡ってるとは思っても見なかったわ。」
「全くです。 貴方の名前が知れ渡ってるのは良いとして私の名まで知れ渡ってるとは。」
「知ってるんですか、御鏡さん。」
「知るも何も、こいつ等は俺らの敵と同業者さ。」
「敵と同業者?」
「ああ、まず金髪の女が真祖の姫君、アルクェイド・ブリュンスタッド。 全てを超越した存在だ。 んで、青髪のねぇーちゃんが埋葬機関第七位、弓のシエル。 ・・・・・・だよな。」
「その通りですが良くそこまでご存知ですね。」
「そりゃあ知ってるさ。 なんたって東西合わせてあそこまで好戦的な集団はあんたんとこぐらいだからな。」
「まあそれは言えてるわね。」
「否定はしませんが貴方は黙っててください。」
「とりあえず! 現状の説明からさせてもらいますが、まだ外にいらっしゃるんでしょう。 その人を待ちましょう。」
と、大声で遠野秋葉が遮った。
その時調度居間のドアが開いた。
「終わったぞ。」
「巫浄さん。 随分時間がかかりましたね。」
「ああ、何分広いものでな。」
「おっと、コイツは七頭目の一人、巫浄鋼岩だ。」
「お前が遠野秋葉か。」
「そうです。」
「なるほど、確かにあの遠野槙久の娘のようだな。」
「・・・・・・・・・」
「おい、鋼岩。」
「わかっている。」
「それでは揃った所で現状の説明をさせてもらいます。 まず・・・・・・・・・」
「何か他に聞きたいことはありますか?」
「いや、今ので現状は理解できた。 要するに今は雪之が帰ってくるまでここを死守すればいいわけだろ?」
「そういうことになります。」
「まあ、真祖の姫や第七司祭がいるんだから楽勝だろ。」
「でも気は抜かない方がいいですよ。」
「解かってるって。」
「遠野秋葉、一つ聞くことがあった。」
「なんですか。」
「その子は誰だ。」
「この子は七夜志由。 七夜志貴の弟です。」
「・・・・・・・・・そうか。」
「他にご質問は。」
「いや、無い。」
「それではこれで一時解散という形になります。」
「そうさせてもらおう。 さぁてと、琥珀ちゃん、部屋に案内してもらえる?」
「私もそうさせてもらおう。」
「それじゃあ俺も。」
「はい、かしこまりました。 ではこちらにどうぞ。」
そうして居間を後にした。
とりあえず俺たちは西館の一階に部屋が割り当てられていて、奥から御鏡さん、巫浄さん、俺という順番だ。
部屋の内装は高級ホテルの一室を思わせるほど豪華で如何に遠野が金持ちかが伺える。
「とりあえず寝とこ。」
ベッドに横になり天井を見つめる。
果たして自分の実力はこれからの相手に通じるのか?
もし通じなかったらそれまで、俺は死ぬことになる。
それでも構わない。
ただ、後々名を残すのだけは御免だ。
浅神霊魔のせいで失敗した、と名を残すのだけは。
拭いきれない不安から逃げるために眠りに落ちた。
はじめから読みたいのですが過去のログでうまくみれないのでもう一度投稿してもらえませんか?