見回りから帰ってきて支度を整え屋敷を後にした。
屋敷を後にしてもう十分くらいたっただろうか。
「それじゃあ雪之、道案内頼むぞ。」
「はい。 ここからなら半日程度で着くと思います。」
「半日か、往復で一日かかるって計算だな。 その間ここを死守しきれなければゲームオーバーか。」
「そうなるわね。 けれどその為にここには私たちの中でも選りすぐりを残すんじゃない。」
「そうだな、今は皆を信じるしかないな。」
「ともかく急いだ方がよさそうだな。」
屋敷を後にして三咲町から出ようとしたとき、
「ちょっと待って。」
「どうした雪之。」
「何かいるわ。」
言われて気配を探ってみる。
気配は四つ。
いずれも魔ではないが普通の人間ではない。
「どうする?」
「まず向こうに敵意があるのかどうかを確認します。」
「どうやって?」
「危険ですが近づく他ありません。」
「しょうがねぇ。 志貴、油断すんなよ。」
「ああ、わかってる。 でも一応気配は消した方がいい。」
「ええ、そのほうがいいでしょうね。 行きましょう。」
そうして気配を殺して近づいていった。
「なんかいるぞ。」
「ん、・・・・・・!? 三つか?」
「ああ、今気配を消した。」
「敵か?」
「でなければ気配など消さんだろう。」
「どうするんですか?」
「そんなの決まってる。」
「だな。」
「行くぞ。 霊魔、油断するなよ。」
そうして気配を殺して出迎える準備をした。
「気配が消えた。」
「ってことは敵に間違いないな。」
「どうする?」
「待ってな、俺が見て来る。」
「何言ってんだ。 一人で行かせられるわけないだろう?」
「忘れたのか? 俺の能力は影を操ることだぞ。 影と同化して様子を探るんだよ。」
「なんだそういうことか。 それでも油断するなよ。」
「ああ、ンじゃ行きますか。」
八雲の体が影に沈んでいく。
そして八雲の体が完全に影に飲み込まれたのを確認して気配に異変は無いか確認する。
特に異変は無い。
異変があったらすぐに動かなければならない。
ポケットから七ツ夜を取り出して眼鏡に手をかける。
眼鏡は外さずにそっと下にずらして線を見てみる。
確かにここからそう遠くない所の木の“線”が不自然に曲がっている。
―――あそこか
雪之に目配せする。
いつでも飛び出す準備は出来ている。
眼鏡はまだ外さなくても問題ないだろう。
だが事が起こってからでは間に合わない。
ので眼鏡には手を掛けておく。
だがそれは杞憂に終わった。
八雲は影に入るとすぐに移動した。
敵の側の木の影に入ると姿を確認した。
すると、
「なんだ、御鏡か。」
「 !? 八雲か。 驚かすなよ、敵かと思ったぞ。」
影から出ながら話を続ける。
「敵? お前ら襲われたのか?」
「ああ、両儀が着てくれてなかったら今頃どうなってたか。」
「両儀もいるのか?」
「ああ、おおーい、霊魔、鋼岩、両儀、相手は敵じゃなくて俺らと同じ七頭目だ。」
「八雲か、久しいな。」
「巫浄か、三年近くになるか?」
「ああ。」
「で、そっちが十八代当主、浅神霊魔か。 噂には聞いてるぜ。 いくら親父がもう力が残ってないとはいえいきなりガキに継がせるってことはそれなりの実力があるからだと聞いていたがその通りのようだな。」
「いえ、そんなことはありません。 買いかぶりすぎです。」
「それで、何でお前ら両儀と一緒なんだ? 確か両儀のいた街とお前らのいた街方角は全くの逆方向だったと思うんだが。」
「それは御鏡のせいだ。」
「なんだまた迷ったのか?」
「ああ、そのせいで見当違いの方向に出てしまってな。 そして襲撃を受けたというわけだ。」
「なるほど、ま、積もる話もあるだろうから、そういう話は七頭目の長の前で話そうぜ。」
「七夜もここにいるのか?」
「ああ、それも二人な。」
「二人?」
「七夜雪之の兄、七夜の正当なる後継者、七夜志貴さ。」
「ほう、あの七夜の息子か。」
「御託はいいから七頭目の長ってヤツのところに連れて行け。 俺はそのために着たんだから。」
「わかったって、こっちだ。」
少し歩いて、
「おーい、安心しろ、敵じゃなくて残りの七頭目だったぞ。」
今にも飛び出しそうな勢いで待っていたらそんな声が聞こえてきた。
「残りの七頭目?」
「とにかく降りてみましょう。」
「ああ。」
そう言って雪之は木から飛び降りる。
それに続いて地面に着地する。
するとそこには八雲の他に見たことも無い人が四人立っていた。
一人は三十代後半の男性ってとこだろうか、和服を着ているのは他の七頭目と変わらない。
髪は短く刈り込んでいて切れ長の眼が特徴的な顔立ちだ。
もう一人は二十代後半から三十代前半の男性ってとこだろう。
やっぱり和服を着こなしていて髪は後ろで束ねれるほど長い。
そして残りの二人は俺と同じか少し上って感じの人と、俺より少し下って感じの人だ。
見た目俺より少し上って感じの人はやっぱり和服を着ているが、その上から真っ赤な革のジャンバーを着ていて革の編み上げブーツを履いている。。
左腰には日本刀を差していて髪は肩の辺りで適当に切りそろえられていて切れ長の眼が印象的で男とも女とも取れる中世的な顔立ちだ。
もう一人の少し下って感じの人はこれまた和服をきていて髪は俺と同じくらいに伸ばしていてこれといった特徴が無い。
ただ男ということだけは確かだ。
「七夜は知らないだろうから紹介しとこう。 右から巫浄鋼岩、御鏡消矢、両儀式、そして浅神霊魔だ。 で、コイツが七夜志貴。 七夜の正当な後継者だ。」
「調度よかったわ、貴方たちにはすぐに遠野家に向かってもらうわ。 詳しい事情は草薙に聞いて。」
「待て、何処に行くんだ?」
「明朝の所よ。」
「明朝? それって暗夜って奴と一緒に退魔機関を作った奴か?」
「ええ、そうよ。」
「なら俺も連れて行け。」
「両儀、何勝手なこと言ってんだ。 それを決めるのは雪之だろう。」
「構わないわ。 残りは急いで、あまり時間が無いの。」
「解かりました。 くれぐれもお気をつけて。」
「ええ、それと巫浄、・・・・・・解かってるわよね?」
「ええ、仕事と私情は別問題ですから。」
「ならいいわ。 行きましょう。」
そうして俺らは両儀さんを加えた四人で明朝の所に向かうことになった。
「よろしく、両儀さん。」
右手を差し出しながら挨拶をする。」
「ああ。」
と、素っ気無く返され軽く握られすぐに離した。
「準備はいい、兄さん。」
「ああ、大丈夫だ。」
「なら飛ばしていきますよ。」
そう言って雪之は大きく跳躍した。
八雲と両儀さんがそれに続く。
俺も少し遅れてそれに続く。
はたから見れば信じられないほどの速度で移動していく。
この速さで行っても片道半日かかるらしい。
どれだけ離れているんだろう?
なんて不安に思いながら長野へ向けて出発した。