聖杯はきみへの・・・9
アーチャーの言葉に頷く。
食われている人がいるのに動かずにいるなんてこと、俺には出来ない。
「その選択の責任を負うのはお前だ。」
サーヴァントを探して町に出た。アーチャーは門を守っている。
隣にはランサー。遠坂は魔方陣の制作手伝いで手が離せないらしい。
大量に行方不明者がでたからだろう、異様なほど静かだ。
この町のどこかで活動しているサーヴァントは存在する。
自分をおとりにしてでも見つけ出す。
そして必ず倒す。
いくら探しても敵は見つからない。
焦りばかりが体を蝕む。
いったん寺に戻ることになった。
その途中。
「セイバー・・・。セイバーなのか?」
「・・・・・・・」
俺たちの前にいたのは間違いなくあのときのセイバーだった。
なにも考えられず足だけが前に進む。
響いたのは武器と武器とがぶつかりあう甲高い音。
「坊主を殺されると、嬢ちゃんに泣かれちまうんでな。」
セイバーの一撃をランサーが防いでいた。
あの剣は不可視。 ・・・間違いない。
俺が棒立ちになっている間にも、
ランサーとセイバーの間で神速の攻防が繰り広げられる。
様子見など不要、とランサーの槍が唸る。
一撃、一撃ごとにこの身まで響く魔力の波動。
セイバーは俺の問いに答えず沈黙のまま剣を振るう。
「セイバー、答えてくれ!」
「・・・シロウ。」
ランサーの槍を弾き、後ろに後退したセイバーが静かに呟いた。
そしてそのまま見えなくなった。
まさか人を襲っていたサーヴァントはセイバーだったのか?
なんでセイバーが現界しているんだ?
彼女はアヴァロンにいるんじゃなかったのか?
「坊主、帰るんじゃなかったのか?」
逃げたことに拍子抜けしたのか、やる気なさそうにランサーが言った。
「ああ。」
そうだ、とりあえず寺で考えよう。
アーチャーや遠坂にも聞いてみないとわからないことがあるだろう。
「セイバーがセイバーだった。」
「はぁ?」
「・・・・・・・・・・。」
遠坂は、訳がわからないと聞き返し。
アーチャーはその言葉に黙りこんだ。
そしてアーチャーは
「まさかセイバーが・・・。」
と一言、消えるように呟いたあと、
「いや、そのセイバーはおそらくお前の知っているセイバーではない。」
と宣言した。
なら二重矛盾。
彼女の存在は何だというのか?
「でも俺のこと知ってた、俺の名前を呼んだんだよ!」
「それはそうだろうよ。英霊アルトリアは確かに衛宮士郎と一度聖杯戦争を経験している。」
こいつ、何か知っている。
「だが俺の真名には気づいているだろう?」
俺とは違う時間軸において自らの理想を貫き、英霊になった俺自身。
「「まさか・・・」」
俺と遠坂の声が重なる。
「そうだ、彼女はおそらくお前とは別の時間軸において、
違う結末を迎えたセイバーだ。」
「英霊に時間的概念はない、お前と俺が別物であるように、
そのセイバーはお前の知っているセイバーじゃない。」
同じ英霊が呼ばれる今回の聖杯戦争の特殊性を考慮すれば
ありえない話じゃない。
彼女はセイバーだった。
「どうやらお客さんだぜ。」
今までラーメンをすすっていたランサーが言った。
それに反応するように部屋の電気が消える、
結界が反応したのだ。
外に出る。
そこには、倒したはずのバーサーカーがたたずんでいた。
圧倒的な魔力量、血の色に染まっている左腕。
そこにいたのは鬼だった。