物事を整理するのは大切だろう。
そんな事を考えつつも、俺、桐生砌は学校への道を歩いていた。
桐生砌。
冬木の町でも閑静な深山町の一角に佇む典型的な日本家屋に従姉妹であり、保護者代わりでもあるリア=フィルト=メイガスと共に同居している。
歳は17、高校二年生。帰宅部所属。特定の友人は無し。
母がハーフだったので、自分はクォーターと言った所か。おそらくアイルランドやイギリス方面の血が入っていると記憶から推測する。
自分の記憶から推測するってのはどうかとも思いながら検証を続ける。
ここからが重要な所だ。
まず、前回の記憶からして、衛宮士郎の近くに桐生砌なんて人間が存在していた事実は無かった。
俺が覚えてないだけなんじゃ?と言われたらそれまでだが、そこは今問題ではない。
そう、桐生砌の記憶には、『衛宮士郎とは友人である』そういった類のものが残されている。
自分自身と友人だと言うのはヒトとしてかなりどうかとも思うが、それもまあ、しょうがの無い事だ。
そしてもう一つ重要な事。
桐生砌は魔術師ではない。
それはまあ普通の一般人ならば魔術師ではないだろうが、自分の意志で開ける回路が一つもないと言う事は、これから俺が行おうとしている行為にとっては最悪の状態である。
ただ、適度に肉体は鍛えてあったらしく、衛宮士郎(こう言うのはどこか釈然としないが)の体と比べても動きに遜色はないようだ。
さて、校門が見えてきた。
長々と自分を顧みて来たが、重要なのは『桐生砌であり、衛宮士郎でもある』と言った事だろうか。
ようするに、衛宮士郎の死によって欠けた魂がなんらかの原因によって桐生砌の肉体に入り込み、同化した。
……まあ、ぼんやりとそういうことじゃないかなー、なんて考えていたりするわけだ。
この事については確かめようもないし、自分自身、桐生砌だという事が認識できているのだから、大した問題ではない。
そう、問題は――――
――やり直しが出来てしまうこの状況。
――時を遡った魂。
それに対して俺自身がどう動くか。
かつて、聡明たる王に。いや、凛々しく、可憐な彼女に言い切った言葉を思い出す。
『やりなおしなんか、できない。
死者は蘇らない。起きた事は戻せない。そんなおかしな望みなんて、持てない』
そう、俺はそう言った。
俺が手を出さなければ、もう一度同じ結末を繰り返すだろう。
死に行く者は死に、聖杯は砕かれる。
――そして、衛宮士郎は、また彼女に別れを告げるのだ。
「駄目だ、そんなのはだめだ」
思わず考えが口に出る。
そうだ、また始まっていないこの状況なら、やりなおしじゃない。
起きていない事ならば、おかしな望みなんかじゃない。
そう思い、俺は目の前の問題に対して、自分の出来ることをする決意を固めた。
――だが、状況に浮かれていた俺には、それがどんなに困難で、どこまでも歪な願いだって事も分かっていなかったんだ。
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中々内容が進みませんが、次からは一気に飛ばせると思いますので、楽しんで読んでいただければと思います。(ぺこり