タイガー道場異聞 傾:恋愛 M:アルトリア


メッセージ一覧

1: タケ (2004/03/08 11:56:04)


「―――はい。強く願えば、同じ夢を見続けることも出来るでしょう。私にも経験があります」


――騎士の言っているが偽りであるということはわかる


「そうか、そなたは博識だな、ベディヴィエール」


だが、死を間近にした私を勇気づけようと

王に対する不実を覚悟で、嘘を教えた彼を責めることが誰に出来ようか

私は、感心したように頷いて見せた

もはや、騎士の顔を見上げるほどの力もなく、自らが呼吸をしているのかすらもわからない

「ベディヴィエール。我が名剣を持て」

掠れた声で、何とか最後の命令を口にした

「よいか。この森を抜け、あの血塗られた丘を越えるのだ。その先には深い湖がある。
そこに、我が剣を投げ入れろ」

「――――!王、それは……!」
それがどういう事なのか、騎士にもわかったのだろう

今まで、王の身を守り、王の証であったこの剣を手放すということは、アーサー王の終わりを意味するのだから

「――――行くのだ。事を成し得たのならばここに戻り、そなたが見たことを伝えて欲しい」

騎士はその命に二度に背き、三度目でようやく、私の命を成し遂げてくれた

「―――湖に剣を投げ入れてまいりました。剣は湖の婦人の手に、確かに」

――これで終わる

「・・・・・・そうか、ならば胸を張るがよい。そなたは、そなたの王の命を守ったのだ」

――これで、アーサー王としての私は終わった
なら、最後は一人の少女として眠りにつこう

「―――すまない、ベディヴィエール。今度の眠りは、少し、永く―――」

願わくば、愛しき少年の夢を再び見られるように――――
私の意識は、そこで途絶えた




タイガー道場異聞





「なにやってるか、このばかちーーーーーーーん!!!!」

意識が再び浮上したとたん竹刀でしこたま打ち据えられた

この声は・・・・?痛む体と、再び遠のきかける意識を何とか繋ぎ止める

「そんな悟ったようなこと言っても、死んじゃったら意味無いじゃない!
セイバーちゃんも女の子なんだから、もっと自分にわがままに生きなくちゃダメでしょ!!
まったくもう、ダメダメ子ちゃんなんだから。おね〜さん困っちゃうわ〜」

目蓋を開く
視界に映り込んだのは怒れる虎の姿
「タイガ・・・・・?」

私の口からそう零れると、タイガはにっこり笑ってこう言った
「タイガー道場へようこそ、セイバーちゃん。もっとも、あんまり褒められた事じゃないんだけどね」
タイガがやあねえもう、といった風に顔の横で手を振る

「タイガー道場・・・?」
わからないことばかりだ
私は、シロウの夢が見られるようにと祈って、死んでいったのに
こんな夢を見るなんてあんまりだ

「そっか、セイバーちゃんは初めてだもんね。本当は士郎のためだけにやってたんだけど、セイバーちゃんがあんまりにもダメダメな選択したからつい一言もの申したくなっちゃって」

「ここはね、士郎が間違った選択をして死んだ時に、さり気なく士郎をいたぶりつつもアドバイスをしてあげるっていう、TYPE-M○○Nが生み出した救済措置機関なのよ。えっへん」
タイガが誇らしげに胸を張る

「師匠!そこはオフレコッス!」
イリヤスフィールまで出てきた

「・・・タイガ、私はどうなったのですか?」
なんとか起きあがり、タイガに尋ねてみる

「へぇ〜、セイバーちゃんは起きられるんだ
士郎はいっつもぶっ倒れてたから、起きられないものだと思ってたんだけど」

「タイガ、質問に答えてください」

「ん〜、言いにくいんだけどセイバーちゃんはもう死んでるわ。
私たちは、死んでからじゃないと介入できないんだし――――
そうそう、介入で思い出した。私たちは、セイバーちゃんにアドバイスをするためにここ呼んだのよね」

「アドバイス・・・?」

「そうよセイバーちゃん。あなたの士郎が好きだったって気持ちは嘘だったの?」

「なっ――、そんなことはない!私はシロウを愛していた。死ぬ間際にだってシロウの夢を見られるようにと――」

「セイバーちゃん!!」

ビクッ
タイガが本気で起こっている
――他でもなく、私のために

「―――本当にその人を愛しているのなら、自分の立場だとかつまらないことは考えなくていいの。悟ったような気持ちで自分の死を受け入れても意味がない。死んだらそこで終わり、なら死にものぐるいで生きて愛する人と共に歩める道を探した方がいいでしょ?」

「ん〜、つまり諦めるなってことですか、師匠?」

「そういうこと。自分が死ぬ間際に望んだものが、士郎と一緒にいられる世界というのなら、それがあなたのホントの気持ち。
つまらない王の意地だとか役目なんてほっぽっちゃって、最初から士郎の胸に飛びこんじゃえばよかったのよ」


王として誇りを持って死ぬ道と、少女として愛する人と共に歩む道

私の前に現れた分岐点
私はそのどちらを選んだのであったか

「ようやくわかったみたいね。――そう、あなたはそこで選択肢を間違えたの
世界にはご都合主義って言葉があるんだから、最後まで希望にすがりけばよかったのよ
・・・・・普通なら、選んだ選択肢でその人の人生は固定。やり直すことなんてできないんだけど――――」

「士郎じゃないんだけど、誰だって幸せを望んでる。セイバーちゃんと士郎が幸せになることをたくさんの人が願ってる。
――――それに、セイバーちゃんは今まで頑張ってきてたからね。この一回はお姉さんのサービスよ」

「っ――――」
体が透けていく

「その選択をもう一度、やり直させてあげる。今度は間違えちゃダメよ、セイバーちゃん?」

「待ってください、タイガ!あなたは――――」

「そっちの藤村大河と私はまったくの別物だけど、あなた達のことを心配しているのは一緒。士郎にも、辛くなったなら保護者を頼りなさいって伝えておいてね」

タイガがにっこりと微笑んだのが見えた
それを最後に、私はこの世界から消えた










「――――行っちゃったか、今度こそ幸せになってくれるといいけど」
天井を仰いで呟く

「師匠。わたし、セリフが二行しかなかったッス」
傍らのイリヤがぽつりと呟いた

「出番があるだけ、凛よりもましだと思わない、イリヤちゃん?」

「う・・・・そうっスね」

「師匠」

「ん?」

「あの二人、幸せになれますかね?」
イリヤがそう聞いてきた

「当たり前でしょイリヤちゃん――――」

「――――あの二人は、私がアドバイスしてあげたんだから」


そう、私がアドバイスしてあげたんだから二人には幸せになってもらわないと!











そうして、私はまた戻ってきた

宝具によって破壊された荒れ地

遠くには、夜明け。
地平線からは、うっすらと黄金が射している――――

目の前には、愛する男性の姿

「シロウ、貴方に伝えたいことがあります」

そう、私が間違えてしまった選択はここ

最後に伝えるということは、自身で望みを捨て去ることに他ならない


「・・・ああ、どんな?」

シロウの声

別れてからさほど刻は過ぎていないのに、涙がこみ上げてくる

私は、こんなにもシロウのことを欲してたいたのか


「――――シロウ、貴方を愛しています。私は、いつまでも貴方の側にいたい――――」


そう言って、シロウの胸に飛びこむ

体で感じる彼の鼓動
そして、私を包み込んでくれるぬくもり――――

私はなんと愚かだったのだろう、このぬくもりを自ら手放そうとするなんて

私はもう二度と彼から離れない

彼を失うことの辛さを知ってしまったから

彼の地にて、私たちを祝福してくれる人がいるのだから――――――










それはどんな奇跡だったのか

聖杯が消えた今、消え去ろうとしていたセイバーが俺の胸の中にいる

彼女からは、消え去ってしまいそうな儚さは感じられない

聖杯が消えてしまったのに何故―――いや、理由を求めたって仕方がない

愛する人が、俺の側にいてくれている

どんな奇跡だろうと、彼女がここにいてくれるのならばそれでいい

今は、ただ彼女のぬくもりを大切にし、伝えるべき言葉を告げよう――

「――セイバー、俺もお前を愛してる。いつまでも、俺の側にいてくれ」

彼女は嬉しそうに笑って、はい。と答えた―――









桜の季節、桜並木の下をセイバーと共に歩く

それがどんなに奇跡的なことなのか

それがどんなに、望んでいたことなのかは言うまでもない

「――でもさ、どうし、セイバーはとどまり続けることが出来たんだろうな―――」
呟くように言う、それがセイバーに届いたのだろうか彼女は振り返っていった

「――これは受け売りですが、世界には幸せになりたい、幸せになって欲しいといった人々の思いが満ちているのだそうです。一つ一つは小さな思いですが、時としてそれは大きな奇跡を生む――――。
私たちの幸せを望んでくれた人たちが、そして、私たちが幸せでありたいと思ったから今の私たちがあるのではないでしょうか」

「・・・そっか。うん、セイバーが言うならきっとそうなんだろうな」

「ええ―――ところでシロウ、私はセイバーではなくアルトリアと呼んで欲しいと言ったのですが・・・?」
ヤバイ、怒ってる

俺は、セイバーでもアルトリアでもどちらでも気にしてないんだけど、彼女にとっては大切なことらしい

「ごめんな、アルトリア。機嫌直してくれよ、な?」

「いーえ直しません。あ、あんなところに屋台がありますよ?何か買ってくれるのでしたら、機嫌が直るかもしれませんね」
そう言って、アルトリアは屋台に向かって駆けていく

「シロウーー!早く来てくださーーい!!」
アルトリアが手を振って俺を待っている

俺は、アルトリアに向かって駆け出した







シロウがこちらに走ってくる

セイバーと呼ばれることは別段イヤではない

セイバーと言う名も、彼との絆の一つだから

ただ、ありのままの、アルトリアという少女の名で私を呼んで欲しい

そう思ってしまう私はわがままなのだろうか


―――大丈夫よ、セイバーちゃん。女の子のそのくらいのわがままは、十分許容範囲なんだから


ふいに、声が聞こえた気がした

「どうしたんだ、アルトリア?」
気がつけば、シロウが私の隣に立っている

「いえ、なんでもありません。そんなことより、早く行きましょう」
そう言って、彼の腕をとって歩き出す

シロウと共にいられる幸せを
シロウと歩んでいける幸せを感謝しながら―――――



                                               <FIN>
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タイガー道場は、もっぱら士郎のためだけに使われ気味ですが
聖杯戦争で様々な選択をしてきたのは彼だけではないハズ、という思いを込めて書いてみました

ジャンルとしては、一応セイバーGOODENDモノ、ということになるのでしょうか?


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