死線の一 第三話


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1: ちぇるの (2004/03/08 02:04:48)

『死線の一 第三話』

 自分の形だけは初めから決まっていた。
 それは一番初めの私だ。
 だけど自分たちを創ったヒト達は自分を決定付ける因子を持っていなかった。
 だから、外からその魔術師を呼んだのだ。
 何年もかけて造られた意思と魔術回路の形。
 それらを完全に決定するためにやってきた魔術師の名前を    と言った。

 だから、そのガラス管の中で見たものはそんな魔術師の笑顔。
 ただ、自分と言う存在が在ることを祝福してくれた何物にも代えられぬ輝くもの。

 その笑顔だけを覚えていた。
 最初に見た笑顔を覚えていた。
 例えそこから先、ただの一度もその顔を見れなかったとしても。
 悲しい生き方だったけど、少女にはそれしかなかった。
 目を閉じれば、ほら。
 ほら。
 もう霞んでしまってろくに見えやしない笑顔が。

 だから、少女の願いなんて単純。
 手足を切り取って。人形にして。
 絶対に自分の前から逃げないようにして。

 ただ、その笑顔をずっと眺めていたかった、ってこと。

 ああ、なんて当たり前で、実は小さな願い。
 バカ、そんなことは言えばよかったんだ、と俺は思って。

 赤い瞳を持って生まれてきた少女のことを思い出して。

 眼を覚ました自分の頬が当たり前みたいに濡れていることに気付いた。


 一晩明けて、遠坂からみっちりと吸血鬼についてレクチャーされた俺はようやく自分のおかれた状況ってものはを理解し始めた。
 真祖と呼ばれる、用は人間じゃないもの。英霊すらも手玉にとれるその化け物の中でも最強といわれた白い月姫。それが昨日であったアルクェイド・ブリュンスタッドだった。
 話を聞けば聞くほどなんで自分が生き残っているかの理由が分からない。
「まあ、運が良かったのよ」
 とあっけらかんと言う遠坂も自分のその台詞にどことなく納得できていないようだ。
「結局今夜から志貴ってのの手伝いするのか?」
「そうね、その通り。それが一番効率よく敵を退治できるんだから。なんだか知らないけど偽者とは言え真祖の姫君を一撃で殺す概念武装を持ってるんだから」
 そういって遠坂はふぅ、とばかりに昨日のビーフストロガノフの残りを平らげた。
「ねえ、士郎。ここにいると体重が増えて時計塔に行くと体重が減るの。なんでかしら」
 それについてはセイバーから聞いたことのある台詞で明確に答えよう。
「向こうの料理は雑だからじゃないのか?」

 そんな下らない会話を終えて暇をつぶした俺たちは、夕食を食べて藤ねぇに見送られ遠野邸へ向かう。
「で、遠野ってのはどんな家柄なんだ? どうも魔術師とは違うけどまっとうじゃないように見える」
 人間的にと言うよりもヒトという種として、まっとうじゃない。
「うん、その表現は至って的確ね。人外の寄せ集めグループのそのトップ集団。いくら極東とは言っても侮れる力ではないし、魔術師の管轄外。何より、この街で私の腹の立つようなことをした記憶は無いわ。だから私は気にもしない」
「じゃあ、いい人達なのか?」
「どうかしら。志貴ってのは貴方と同類だと思うけど」
 どういう意味だよ、と言おうと口を開きかけた瞬間、たどり着いた遠野邸を見て開いた口がふさがらない。
「いや、参った。さすがにアインツベルンの別荘のお城見たときもびっくりしたけど、こんなものが未だに日本に残ってることにもびっくりだ」
 なんだろう、日本の経済って美味しいところにはしっかりたまってるんだなぁ。
「まあ、そうよね。こんなところにいるからあんなお金をぽんぽこ出せるのよね。う〜ん、もう少し交渉の余地あり、か」
「遠坂。ヒトとしてどうかと思うぞ。それは」
「う、悪かったわね」
 少々ばつが悪そうにしながら遠坂は呼び鈴を鳴らした。
 しばらくすると、この前のメイド服の少女がやってきて俺たちを館の中に案内してくれる。
 出迎えてくれた秋葉嬢はやっぱり凛としたお嬢様で。
「ゆっくりしてください。兄さんも流石にここまでお膳立てしておいたものを省みないで一人で行くことはないでしょうから」
 と志貴との仲良しぶりをアピールしながら悠然と佇んでいた。
 そんな秋葉とともに志貴を待って待ちに繰り出したのが午後九時。
 十二時には帰ってきてください、と門限を決められた志貴は苦笑しながらもそれを守るらしい。

 そんな警戒初めて一日目。
 昨日の今日でありえないだろう、と思っていた矢先にそいつは現れた。


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