Fate/with The knight (シリアス interlude 1-2


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1: HIRO‐O (2004/03/08 01:13:17)


     第1章   Encounter with the knight

   interlude 1-2




「胸糞わりい……」

 繁華街。その人々が賑わう中を、文字通りすり抜けて移動するランサー。
頭に浮かぶのは当然先の一件。

 理解はしている。                      サーヴァント
いかに、受肉し、意思をその身に戻しているとはいえ、所詮この身は奴隷。
マスターの存在があって初めて自分がいる。その全てを分った上で此処にいるのだから。
 だが―――

(いい加減、我慢も限界だろ、これは―――)

 とにかく全てが気に食わない。
 思い返せば初めから気に食わないことの連続だった。
 出会いからして、意にそぐわない契約。
そう、あの神父、言峰綺礼は本来彼のマスターなどではない。

『では、命じよう。俺をマスターであると認め、令呪に従え』

 元々のマスターを騙まし討ち、令呪を奪い、その絶対命令権を利用して
新たにランサーのマスターとなった、いわば偽物のマスター。

 それでも、よかった。
 まだ聖杯戦争がはじまる前に、他のサーヴァントと一度も手を合わせることなく消えることを考えれば。
 戦えるならば、よかった。
 何の不自由もなく、正々堂々と、世界に名だたる英雄達と剣を合わせることが出来るのなら。
この程度の不愉快や不自由など、取るに足りぬことだった。

―――なのに。

『おまえは全員と戦え。だが倒すな。一度目の相手からは必ず生還しろ』

 二度目の命令もこれまたやっかいで。

 気が昂ぶって、せっかく決着をつけられそうな機会に恵まれても、身体に令呪が重く圧し掛かり、
中断せざるを得なくなること幾たび。

 最初にアーチャー。
 後にセイバーのマスターとなる少年の登場で、戦闘は中断された。
もしあのまま、少年なぞ気にせずに、あの場で仕留めることが出来れば、少しは気が晴れたであろうか?
 否。恐らく、あの男にはまだ隠し玉があったはず。アーチャーというクラスにもかかわらず、
結局宝具――弓を見せてすらいなかったのだから。
         ゲイボルク
 ランサーも結局、宝具は使うことのないままで、アーチャーの真髄を見ることもできなかった。

 次にセイバー。
 今残っている中で、彼女だけが健在だといっていい。
セイバーとの決着だけは、あの十年前のアーチャーとやらに渡すわけにはいかない。
 言峰が何を考えているのかは知らないが、もしこの意にそぐわないときは
契約を破棄して叛くしかないだろう。

(今思えば、あの坊主には感謝、だな)
 二度も仕留めそこなったのは少々、というか結構屈辱ではあったが、
あの少年を殺すこと自体、本当は気が向いていなかったのだから結果として良かったと言える。
 あれから一週間以上。セイバーが強力なサーヴァントであるとはいえ、よく生き延びたものだ。
 意外と、少年のほうもイイ感じに育っているかもしれない。
 そう考えると、楽しみがまた一つ増えた気がした。


 空を見やると、その青さに目が眩む。
 気が向いたので、ビルの壁を沿うように高層の屋上まで一気に移動した。
 屋上に残っている激しい戦闘の痕。そして感じられる強力な魔力の残滓。
それに身をゆだねながら、ランサーは受肉し、給水塔の上にゆっくりと腰掛けた。

 そのまま目を瞑り、順に戦った相手を思い返す。
 次はライダー。先日の流星はセイバーと彼女がここで激突した時のものであるらしい。
 ランサーにとっては結局、たいしたことのないサーヴァントとしか認識できなかった。
 相手の本当の姿を見ることすら出来ていない―――これが、何より悔しい。

 そしてバーサーカー。兎に角規格外だった。一つ一つの攻撃をあしらうことすら危険に満ちていて、
遥か太古、巨大な魔犬や、湖の怪物と対した時よりも、心がざわめいた。
 もう一度対戦した時、あの化け物を如何やって仕留めるかを考えるのは、とても楽しかった。

 遠くに目をやると、小高いお山と、その頂上にある寺の一部が見える。
 寺――柳洞寺を本拠とする魔女と、門番。キャスターに、アサシン。

 アサシン―――彼がセイバーとごたごたやっている時にキャスターに挨拶を済ませ、
その帰り道に出逢った、恐ろしく長い、剣―――否、刀の使い手。
 佐々木小次郎と名乗ったこの国の英霊。
 訊いたこともない名であったが、その刀技は流麗にして神速。
 数十を超える合を打合って、お互いかすり傷をつけることすら適わず。
 いい加減離脱するべきかと悩み始めたとき、

「ふむ、いい加減飽きてはこないか? その赤き槍、その程度のものでは在るまい?」
アサシンはこちらの様子見には付き合いきれぬ、と、そう言った。

「喰らいたいのか? 真の必殺を」
「無論。この身はただ、それだけの為に此処に存在するもの」
 自分に似ている―――アサシンの理由にランサーは誰よりも共感できた。 

「―――ふう。なら仕切り直しといこうか。残念なことにマスターの意向でね、
今全力を見せるわけにはいかないときてる。

 ―――だが、次にまみえるときは、我が全力を持っておまえと相対すると誓おう」

「なるほど、何処も似たり、か。お互いマスターの性悪さ加減にはほとほと参っていると見える。
我が主も似たり寄ったりでね。いやいや、あの女狐にもなかなか可愛いところはあるのだが」

 男はそう笑って、鞘に刀を納めた。

    ゲッシュ
 結局、誓いは果たされぬまま。
 佐々木小次郎の秘剣、本来の姿を見ることはなく、
 彼を討ち果たしたときには教えようと思っていた真名を語ることもなく、

      オレ
『アサシンは我が打倒した。自分で始末を命じておいて、それはなかろう?』

 極上の獲物は、横合いから奪われる羽目になった。

「くそったれ」
 あの金髪の男の顔を連想しただけで、また気分が悪くなる。
 そのまま何の当てもなく新都をふらふらと漂おうとして、鉄柵の上に跳び移った。
 そこでふと気が付き、目線を遥か下にやると、見覚えのある建物が視線に入る。
最初のマスターがこの国での根城と定めたマンションはこのビルのすぐ近くにあった。


 思い出す。本来彼を使役し、聖杯に臨むはずであったマスター、バゼットと出逢った日のことを。






 外界の感覚を取り戻したとき、彼が認識できた存在は、目の前に居るこざっぱりとした女ただ一人だった。
「――――アンタがオレのマスターってことでいいのかな?」

「いかにも。私が君を呼び出した魔術師に間違いはない。で、早速だけど、君のクラスを教えてもらおうか」

 その言葉に男は自らの宝具を手に浮かび上がらせる。
「見ての通り。ランサーだ」

「……そう」
 ランサーというクラスにか、それとも彼が手にした槍に感じ入るところがあったのか、
女は深く息を吐くように返事をした。

「自己紹介しておこう。私の名はバゼット・フラガ・マクレミッツ。
この左腕の印の通り、君のマスターよ。
 では、マスターとして、最初の質問――――君の真名は?」

  緊張と期待が入り混じった面持ちで尋ねるバゼット。

「我が名はクー・フーリン。そしてこいつがオレの宝具、ゲイボルクだ」
 すると、ランサーの真名を聞いた彼女は柔らかく破顔した。

「よかった。そのピアス、本物だったみたいね」
「―――――――オイ、ちょっと待て。……理解った上で呼んだんじゃないのか……」

 一応は、と前置き、
「いやさ、我らが大英博物館の貯蔵品といえど、それが真に大英雄クーフーリンのものである確証は全然なかったんだ」
「――――けれど本物だった。これで我々の勝ちは揺るぎないものとなったよ」
 
ランサーの手を握るため、真っ直ぐな眼差しと、右手を差し出してきた。






 彼女が言峰に片腕と令呪を奪われたのに関して、自分に落ち度はなかった。
アレは間違いなく彼女自身のミスだ。
 しかし、それでも、もし――――
(――仮定の話は無意味、か)

 一瞬頭を掠めたそれは、本来あるべきマスターと共に、戦っている自分の姿。
 対戦相手はなぜかアーチャーで、自らが打合う中、互いのマスターも激しく戦いを繰り広げている。

 ―――そんな、幻想。

 その都合のいい考えを振り切って、頭を揺り動かす。
気持ちを入れ替えようと、マンションの中段階を見ていた目線をふと下ろすと、
ちょうど今頭に思い浮かべた顔によく似た人物を発見した。


 しばらく黙って観察していると、マンションを伺う―――と言うより、睨みつけている怪しい人影が、
そのマンションの入り口玄関に入り込むのが見えた。
(不審者、発見。ってか)
 
 あの少女なら少し楽しいことになるかもしれない。
そんな期待を込めて、ランサーは霊体に戻り、軽く、高層ビルの屋上から身を躍らせた。




 近くにきて確認すると、その人影はやはりアーチャーのマスターであった少女。

『―――彼らが組んでバーサーカーを掃討。だが、アーチャーはその犠牲となった―――』

 言峰の発言が正しいのなら、恐らく彼女はもうサーヴァントを使役していない。
 実際、あと10mもないこの距離でランサーに気がつかない――教えてくれるサーヴァントが近くにいない。
それこそがいい証拠であると言えよう。
 それでも、こうしてパゼットの隠れ家を突き止め、何かを為そうとしている。
 それは、アーチャーを失った少女が、まだマスターであることと、
このランサーと言うサーヴァントを意識していることに他ならなかった。

 彼女は602号室の扉の前に立ち、ほんの数秒だけ思案したかと思うと、間髪いれずに部屋へと侵入する。
 それに続くように扉をすり抜けた。




「なんて、こと」
「10日前から2週間てところ、か」 

 部屋の中央に跪き、残っている遺留品から鑑識している少女に、受肉すると同時に声を掛ける。

 「ふむ、いい読みだ。―――正解だぜ、嬢ちゃん」

(――――さて、どんなコトになる?)

 何かを予感させる邂逅に、心が躍る。
ランサーは今、自らが拠点を飛び出した不愉快な出来事を頭の中から消してしまっていた。


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