Fate/with The knight (シリアス interlude 1-1


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1: HIRO‐O (2004/03/08 01:11:33)


     第1章   Encounter with the knight

   interlude 1-1



    数刻前


「――――で」

 不機嫌な声が静謐な空間に雫を投じる。
「いつまで『待ち』を続ける? オマエの指令通り、サーヴァント全員への挨拶はとっくに済ませた。
 セイバーでも、アーチャーでもいい。そろそろ仕掛け時だろう?」

 そこは薄暗い地下室。小さな聖堂にはうっすらと光が差し込む。そして、そこに佇む二人の男。
 いらだたしそうに問い詰める騎士に対し、

「そういきり立つなランサー。今しばらくの辛抱だ」

そのマスターである神父は、全く表情を変えず、目線をランサーにやる事もなく、言葉を返した。

「はっ。その『今しばらく』をもう何日続けたと思ってる。
 別に、オマエの命令がなくてもかまやしないがな。
何つっても一応はマスター様だ。意見は尊重するさ。だがな、いい加減我慢も限界に近い。
逆にヤレっていうならそれこそバーサーカーやアサシンでもオレは一向に―――」

 構わない。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのサーヴァント、バーサーカー――ヘラクレス。
柳洞寺の門番アサシン――佐々木小次郎。
 共に簡単に御せる相手――どころか、ランサーが単体で挑む場合、
その強さや相性の悪さなどから、命を天秤に乗せなければならない者どもだと言える。
しかし、青き槍兵はそれすら介せず、相手が誰であろうと構わない――すなわち、勝つ――と断言した。

「ふむ。頼もしい限りだ。……ただ、セイバーはともかくとしても――」
 その言葉に、神父――言峰綺礼は満足そうに肯き、

「――アーチャー、バーサーカー、そしてアサシンの三名は既に現界してはおらんが」
その全てを否定した。

「―――なん、だと―――」

「なに、そう不思議がることでもない。アーチャーとセイバーのマスターは顔なじみだしな。
恐らくは、彼らが組んでバーサーカーを掃討。だが、アーチャーはその犠牲となった。
それだけの事だろう」
 絶句するランサーを余所に、淡々と続ける言峰。彼の言葉には一部の間違いもない。

「アサシンのほうは分からんが―――まあ、お前の報告通りキャスターに生殺与奪権が在った以上、
何がおきてもおかしくはないだろうさ」
 その言葉にランサーは声を失う。
 戦いを求める男にとって、あまりに不本意な事実がそこにあった。
 言峰がそう言うのであれば、恐らくその三名がもういないのは事実であろう。
だが、あまりに納得できないその真実が、本当に正確かどうかを問おうと、
ランサーが己がマスターに向き直ったその時、


  「嘘はよくないな―――言峰」


突如、上から声がかかる。
 二人の視線が集まる中、地下室の入り口から、金髪の男が、かつん、かつんと
硬い足音を立てて階段を降りてきた。

「―――誰だ」
 突然の闖入者に身構えるランサー。先ほどまで空手であったその右手には、
紅き魔槍が音も立てずに握られている。
 だが金髪の男はそれを全く意に介さず、歩み、喋り続け、
      オレ
「アサシンは我が打倒した。自分で始末を命じておいて、それはなかろう?」
親しげに、なあ言峰と、
そう、語った。




「……顔見せの予定は、まだ先だと言ったはずだがな、アーチャー」
 予定外の事だと諭しながら、神父に慌てたり責める様子など微塵も無い。
目の前にいる自分のサーヴァントに対し、誤魔化すこともせず、ただ淡々と注意を促す。

「アーチャー ―――だと……」
 絶句するランサー。しかし、そんな彼を他所に、言峰は金髪の男――アーチャーと会話を続ける。

「それに、嘘、とは心外だな。アサシンの性質上、先程言ったことは十分にありえたと思うが」

「―――おい……どういうことだ、言峰」
 流石に蚊帳の外にいるのは我慢ならなくなったのか。言峰を睨み、問いただすランサー。
その鋭い眼光を見て、やれやれと呟き、男はようやく自らのサーヴァントを見やった。

「―――仕方がない、紹介しようランサー。彼が十年前の聖杯戦争にて私のパートナーだったアーチャーだ」

「十年前、だと……」

「そう、前回の聖杯戦争において、聖杯に呼び出されたアーチャーのサーヴァントだ」

 十年前。
 サーヴァント。
 前回の聖杯戦争。
 そして、目の前の金髪。
 それらから導かれる関連性。
 答は、すぐ近くにあった。

「ハッ。なるほどな。そこのいけすかねえ部屋は、そいつのために在ったわけだ」
 ランサーが視線をずらすと、そこには聖堂には似つかわない横穴への道が。
 その場に居るのは、生かされまま、逝かされている何人もの供物。
 それ自体気に食わない事この上なかったが、
それが目の前にいる存在の為だと分かると、ことさら気分が悪くなった。
(―――まったく、反吐が出る)

「―――で、何故そいつの存在を俺に黙っていた」
 ランサーにして見れば其れこそが本題。先の内容は自分が当て馬、露払いに使われたことを意味するに等しい。


なにしろ、彼に下された命令――令呪は、

『おまえは全員と戦え。だが倒すな。一度目の相手からは必ず生還しろ』

で、あったのだから。
 男の英雄の誇りが汚された。そう考えてもおかしくはない。

「敵を騙すにはまず味方から、という言葉がこの国にはあってな。
アーチャーの存在はできうる限り秘匿しておきたかった。
アサシンは、おまえがやりにくい相手だとぼやいていたからな、
万が一を考え、相性のいい彼に行って貰ったまでだ。
 それにおまえとて、彼と肩を並べて共闘したかったわけではあるまい」

「まあ、確かに。こんなヤツと一緒になんてやってらんねえな。
戦う時にいちいち背中を気にしなきゃならないとあっては、気苦労が耐えん」

 軽口を言ってるかに見えて、目は笑っていない。それどころか男を強く睨んだまま。
 その視線に、今度はアーチャーが反応した。

「―――言峰。そこな獣にそう野卑な視線を向けるなと命じよ。つい殺してしまうかも知れんぞ」


    ピシッ  

「――――――――」
「――――――――」

 刹那、礼拝堂には恐ろしく冷気が満ちる―――否、途方もない殺気がランサーから発せられ、
それに呼応するかのごとく、間髪入れずにアーチャーからも同等の気が発せられた。ただ、それだけ。

「……余計なことで令呪など使わせてくれるなよ、二人とも」
それにはさすがにこの神父でも二人を止めに入った。
    オレ                              ......
「ふむ、我は構いはせぬが……いつまでその物騒な槍を手にしているのだ、クーフーリン」
 男が語ったのはランサーの真名。言峰が話したか、今までの戦いを覗かれていたのか。

「……は」
 目を軽く瞑る、と同時に魔槍は姿を消した。
 そしてそのまま踵を返すと、黙ったまま、階段へと歩を進める。

「――――ランサー」
                           ....
「分っている。まだ『待ち』なんだろ、承知しているさ、マスター」
 マスターへの返事をそう呟くと共に、ランサーは薄暗い地下室から颯爽と姿を消した。


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