「―――――――」
嫌な気分のまま目が覚める。
……いや、昨日のセイバーの不穏な発言のせいではなく、10年前の夢を見たからだ。
胸の中に鉛がつまっているような感覚。
額に触れると、冬だと言うのにひどく汗をかいていた。
「……ああ、もうこんな時間か」
時計は六時過ぎを指している。
それに、耳を澄ませば、台所からはトントンと一定のリズムで包丁の音が聞けてくる。
「桜、今朝も早いな」
感心してる場合じゃないな。
さっさと支度して、桜の手伝いをしなければ。
「士朗、今日はどうするのよ。土曜日だから午後はアルバイト?」
「いや、バイトは入ってないよ。一成のところでなんかやってると思うけど、それがどうかしたか?」
「んー、べつに。暇だったら道場の方に遊びにきてくれないかなーって。わたし、今月ピンチなんだ」
「? ピンチって、何がさ」
「お財布事情がピンチなの。誰かがお弁当作ってくれると嬉しいんだけどなー」
「あー、今日は無理だけど明日からは別にいいぞ。セイバーへの弁当のついでだけど」
「え、おっけーなの? でも、つでか。それなら納得かな」
「とにかく一緒に作るからな。それでいいだな」
「う、うん。お願いね」
アルトリアが加わったこと意外、いつも通りに朝食は進んでいく。
はじめがどうなるか、と思ったけど案外すぐ馴染むもんだな。
……ただ食事に夢中になってるだけなんてことはないだろう。
「そう言えば士朗。今朝は遅かったけど、何かあった?」
みそ汁を飲みながらこっちに視線を向ける藤ねえ。
アルトリアも視線を向けてくる。
「昔の夢を見た。寝覚めがすっげー悪かっただけで、あとはなんともない」
「なんだ、いつもの事か。なら安心かな」
アルトリアはまだ分かってないようだな。
絶対、後で訊いてくるな。
「先輩。今日の夜から月曜日までお手伝いに来れませんけど、よろしいいですか?」
「? 俺に断る必要ないよ。でも丁度良かったかも。最近物騒だからさ」
「何かあるときは道場に来てくださいね」
「判った。何かあったら道場に行くよ」
「はい、そうしてもらえると嬉しいです」
桜、藤ねえが部活に向かった後、予想通りの質問が来た。
「昔の夢とはなんでしょうか。マスターの体調が崩れる原因なら知っておきたいのです……話しづらいことなら話してもらわなくても結構ですので……」
後半は気を使ったのか小さくなっている。
「セイバーは俺のパートナーだろ、気を使うことないよ。
昔のことだよな、昔…
………
……
…
という訳なんだ……ってもうこんな時間、アルトリア学校行ってくるから」
「あ、はい。行ってきて下さい」
「うん。いってきます」
学校到着っと。
さて、とりあえず遠坂に放課後会う約束取り付けたいんだけど……いた。
謀ったようなタイミングだけど気にしたら負けだ。
「おはよう、遠坂」
「おはよう衛宮くん。ところでなにか用かしら」
「ああ。放課後話がしたいから、屋上に来てくれないか? 聖杯戦争と言えば分かると思うんだけど」
「――――ッ!」
「そういう訳だから、ちゃんと来てくれよ」
少し、驚かせたみたいだけど、これなら来るよな。
まだ、遠坂は来てないようだな。
とりあえずもしもの時のために、
「I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)――投影(トレース)、開始(オン)」
よし、成功。
"全て遠き理想郷(アヴァロン)"があればまずやられることはない。
「来てあげたわよ、衛宮くん。聞きたいことが色々あるけど先に話したいことを話して頂戴」
来たか、サーヴァントも連れてるし。
「そう殺気立たないでくれ。別に殺り合おうってわけじゃない」
全て遠き理想郷(アヴァロン)を投影して正解だったな。
「殺気立ちもするわよ! こっち側じゃないと思っていた人間にあんなこと言われたら」
その言葉傷つくぞ、特に後半。
「それは気付かなかったお前が悪いんじゃないか。たしかに魔術師としては半人前だけどさ」
「そんなことは後でいいの。話したいことっていうのを話して」
ここからが勝負だ。
「遠坂と協力したい、要約するとこんな感じだ」
「――本気で言ってるの?」
「本気だ。俺は出来るだけこの聖杯戦争で犠牲者を出さないために早く終わらせたい。だから協力者が必要なんだ」
それに桜のためにも姉妹の関係になってほしい。
「本気ってことは分かったわ。で。協力して私になんの利益があるの」
「うーん……マスターの情報でどうだ。ひとり確認したんだが」
「ちょっと弱いわね」
やっぱりか。
「………………」
「まあいいわ。協力、おっけーよ。で。その――」
「凛。そんなに簡単に決めていいのか?」
「――って、アーチャーなに出てきてるのよ」
邪魔するなよ。
「この状況で出らずにいられるか。相手、相手のサーヴァントを知らないのだぞ」
「う、たしかにそうだけど…」
あの完璧超人が押されてる。未来の俺、万歳。
でもこれじゃ俺が不利だから、
「遠坂。じゃあ、俺と俺のサーヴァントの実力を教えるよ」
「お願い。うちの捻くれてるから」
「分かった。俺のサーヴァントはセイバー。真名はアルトリア――アーサー王のほうが分かりやすいかな」
「なにバカ正直にサーヴァントの真名まで教えてるのよ。最終的には戦うことになるのよ?」
「それに関しては問題ない。初めから真名は知られているから。な、そうだろう? 衛宮士朗」
「衛宮くん。なに――」
「ばれていたか。でわ私の目的も分かっているだろう?」
「――って、え!」
「分かっているよ。でもこの時点で俺とお前は決定的に違う。そうだよな?」
「ああ、そうみたいだ。しばらく様子を見て決めることにするよ」
「話が見えないんだけど…」
「つまりだな遠坂。アイツは俺が英霊になったものなんだ。サーヴァントが未来から来ても不思議じゃないだろ」
「とはいえ、アイツと俺は今の時点ですでに違う路を歩んでいるがな」
「分かったわ。でも、アーチャー。さっきの話が本当なら貴方は私を騙してたってこと?」
あの笑顔はヤバイ。いやなにがヤバイってとにかくヤバイ。
アーチャー俺のコンプレックス(身長)を解消してくれてありがとう。
お前のことはしばらく忘れない。
「り、凛。私は嘘などついていない。そ、そうだ。ソイツを見て思い出したんだ」
アレじゃ無理だ。でも、ここは借りをつくるのも悪くないかな。
「と、遠坂、俺について話してなかったけどいいのか」
「うーん、いいわ。アーチャーに訊けばいいし」
「じゃあ、協力ってことでいいかな」
「ええ、私の返事は変わらないわ」
「じゃあ、約束のマスターのこと。マスターは……間桐桜、知ってるよな」
知らないはずがない。
「ええ、良くしてた後輩よ、でも桜か〜」
「別に不思議じゃないだろ、間桐――マキリの次期当主なんだし」
「まあ、そうなんだけど。って最初から疑問だったんだけど貴方どこまで知ってるの?」
「それは秘密……正直に言うとちょっと複雑なんだ、説明できない」
「うーん、前にも同じようなこと言われた気がするけど。まあ、いいわ
最後になるけど貴方、結界に気付いてる?」
「いや、気付いてないけど……学校にあるのか!」
朝、学校に入るときの違和感はこれか。
「ええ、そうよ。自称してたとはいえ本当にへっぽこね。まあ、それはいいわ。協力しての最初の仕事はこれでいいかしら?」
「ああ、問題ない。で。いつからやるんだ?」
「学校から生徒がいなくなってからよ」
あの後、一旦解散になった。
アルトリアの昼食を作るためだ。
協力する話をすると、すんなりと賛同してくれた。
……俺ってそんな頼りないか? たしかにセイバーとのレイラインないけどさ。
そして、陽が暮れた後。
セイバーと一緒に約束の場所に赴く。
まず、
「へ〜、アーサー王って女の子だったんだ〜」
「今はそんなこといいだろ、結界を調べるぞ」
どうでもいい話をした。
そして。
結界はと言うと、
「血の要塞(ブラッドフォート)、かなり悪質なものよ。でも、私の手に負えるものじゃないわ」
「はあ? 遠坂、結界の撤去なんてすぐじゃん、ちょっと見せろ」
「何言ってるんだか。無駄だと思うわよ」
視覚を閉じて、触覚でストーブを視る。
―――途端。
結界の全てが解る。
あとはこの点を突くだけ。
「遠坂。ナイフかなにかないか?」
「ないわよ」
しょうがない。
「――投影(トレース)、開始(オン)」
何の変哲もないナイフを投影する。
そして、ストン
「遠坂終わったぞ」
「アンタ、なにやったのよ!」
「話してる暇はないようです、リン」
後書き
次はなにが登場するのか!?
え、解るって?
そんなこと言う人嫌いです!
給水塔の上。
十メートルの距離を隔てた上空で、そいつは俺たちを見下ろしていた。
そいつの情報が流れてくる。
多すぎる。
すぐには処理しきれない。
………
……
…
アルトリアに抱えられる瞬間、意識が浮上する。
戦いを有利に運ぶため遮蔽物のない広いフィールドに移動してるようである。
「お嬢ちゃん、本気でいい足だ。坊主も気が付いたようだな。敵がいるのにボーとするのは関心しない」
「ああ、そうだな。セイバーありがとう。降ろしてくれ」
アルトリアは降ろしてくれる。
「それとクー・フーリン。ちょっと話がある」
「なに」
遠坂が驚いてるようだが今はかまってやれない。
「仲間にならないか。お前ほどのサーヴァントを失うのは惜しい」
遠坂は黙っててくれてるようだけど、
「何を言ってるんですか!」
騎士のプライドがあるからな〜
「そうだぜ。それになんで俺の真名を知ってやがるんだ!」
悪いが、アルトリアが入ってくると話がややっこしくなる。
「それは仲間になった後教えてやる、セイバーも後だ。で、どうするんだ。俺にはその術がある」
「俺の目的は戦うことだ。マスターが2人のサーヴァントを従えるとなると俺が満足に戦えない」
「その心配は杞憂だ。俺とセイバーの間にレイラインはない。だから俺はお前ひとりに魔力を供給することになる。それにお前、今のマスターについてたらまともに戦うことなんてできない。今、お前に与えられてる命令があれだからな。俺はお前をむやみやたらにしばったりしないぞ」
「全てお見通しって訳か、正直言うと今のマスターはやり方好きじゃなかったんだよな。流儀に反するが、お前をマスターと認めよう。で、どうするんだ?」
「簡単なことだ。――投影(トレース)、開始(オン)……これをお前に刺すだけだ」
「なんだよ、それ。気味悪いぞ。大した魔力感じないし刺してもたいしたことはないと思うけどよお」
「大丈夫だって……じゃあ、いくぞ」
ストン――ひぅぉぉおおん
「どうだ。俺の魔力、感じられるか?」
「ああ、前と違う魔力が流れてくる」
「令呪もあるし、最初の命令」
「なんだよ。しばる気がないんじゃなかったのか」
「ないよ。命令は、前回のマスターの命令を破棄せよ、だよ」
「そりゃ、ありがてぇ」
「さっきまで黙って見てたけどアンタ本当に何者よ。なんでそんなに詳しいの!」
「んー、それも家でってことでいいか? 結界を消した方法もそのとき話すから」
あとがき
今回はここで切ります。
あと書き忘れてましたが、
セイバーは普段ラスト時の服装です。
次の次の次くらいに凛からデフォの服はもらいます。