第一話 過去
過去・・・・・・・・・それは変えることのできないもの
過去・・・・・・・・・それは忘れることのできないもの
七夜は中庭の掃除を止めふっと顔を上げ空を見上げた
青い青い空と眩しい太陽がそこにはあった
「少し疲れちゃいましたね・・・・・・」
そう言って七夜は中庭の椅子に腰をかけた
中庭には誰もいない
志貴さんは学校に行ってしまわれたし、
秋葉様は成績がかんばしくないという事で寮に戻られてしまった、
翡翠ちゃんはいつもと同じで各部屋の掃除をしている
この世に自分しかいないと思えるほど静かだ
いつからだろう こんな世界になれたのは・・・・・・
過去の無い自分になれたのは・・・・・・
七夜は目をつむった
考える自分の過去を
無くしてしまった自分の過去を
忘れてしまった自分の過去を
けれどもそれを取り戻そうとは思わない
一度だけ志貴さんと翡翠ちゃんに昔の事を聞いたけどなぜか悲しい顔をされてしまった
もうあんな顔の志貴さんと翡翠ちゃんを見たくはないし なにより・・・・・・
知った後の自分が恐いだから思い出したくなんてない・・・・・・
「姉さん!」
自分を呼ぶ声が聞こえて意識が覚醒する
「ほぇ・・・・・」
いつの間にか自分の前に人が立っていた
「翡翠ちゃん?」
そう自分の妹である翡翠が立っていた少々息が切れている
落ちつきながら心配そうに
「姉さん どうかしたのですか?」
「ううん なんでもないのただちょと疲れて椅子に腰をかけてたら寝ちゃったみたい」
笑いながらそういった
「ならいいんですが・・・・・」
「でなんで翡翠ちゃんがここにいるのもしかしてお仕事終わったの?」
遠野のお屋敷は大きいからこの時間では掃除は終わらないはず
「いいえそのちょっと外を覗いたら姉さんが椅子に腰をかけていたのでなにかあったのかと思い中庭に来てみたんです」
無表情だが話しの内容から心配になって急いでここまできてくれたことがうかがえる
そのことがわかると七夜はくすくすと笑いだした
「姉さん 私なにか変な事言いましたか?」
少し怒りながら聞いてきた そんな翡翠を見て七夜は可愛いなぁと思う
「なにも変な事言ってませんよ」
「じゃぁどうして笑うんですか?」
ますますむっとこちらを見ている
そんな翡翠を見て笑いながら
「翡翠ちゃんは優しいなぁってで怒った顔も可愛いなぁって」
翡翠は少し驚くと真っ赤になって俯いてしまった
トドメといわんばかりにもう一言付け足した
「そんなところが志貴さんは好きなんでしょうね〜〜♪」
翡翠は耳まで真っ赤になった
「あぁ〜〜! もうこんな時間お昼ご飯の準備をしないと」
七夜はそういうと笑いながら中庭をでて屋敷に入っていった
その後翡翠にこっぴどく怒られたのは別の話
「うぅ〜〜 翡翠ちゃんに怒られちゃいました」
と独り言を言う七夜(だったら言うなって)
お昼を過ぎて今は夕方ただいま罰として洗濯物をたたんでいます
「うぅ〜〜 なんでこんなに洗濯物があるんでしょう? 私と翡翠ちゃんと志貴
さんしかいないのに・・・・・あぁ〜〜確か翡翠ちゃんがいつ分家の方々がお帰りになられてもいいように準備してありますって言ってけ」
そう独り考えながら作業をしているとあっという間に全てたたみ終えた
「後は洗濯物をしまうだけ」
七夜は分家のために準備した洗濯物をまとめてつかむと物置として使われている一室にしまった
「後は志貴さんと翡翠ちゃんと私の分だけさっさっと終わらせて夕食をでかしてしまおう」
すでに夕食のしたごしらえは昼にしてある( 翡翠ちゃんにやらせると生命が・・・・・・
まず自分と翡翠の洗濯物をしまう
で最後に現在ただ独りこの屋敷で生活しているものの部屋へを目指す
志貴さんの部屋に入る相変わらず机とベッド以外何も無いクロウゼットを開け靴下や下着をしまう
「おや?」
机を見ると鞄が置かれていた
「志貴さんお帰りになってるんですね・・・・・では志貴さんのためにも早く夕食を
準備しなくては」
そういうと七夜は素早く部屋を後にしてロビーに向かった
ロビーには二人の人影があった
「お帰りなさい 志貴さん」
そう一人は現在ただ独りこの屋敷に残っている志貴
「ただいま 七夜さん」
「姉さん仕事は終わったんですか?」
もう一人は自分の妹の翡翠
「聞いてください志貴さん 翡翠ちゃんたら志貴さんがいなくなると虐めるんです」
と泣きまねをする
「姉さん 志貴様の前で嘘をつかないでください」
少しムッとした顔で翡翠がいう
「琥珀さん嘘はいけませんよ」
と笑いながらかえす志貴
「酷い 志貴さん・・・そうですよね私の言葉より恋人の言葉の方が信用できますよね」
と少しからかってみる
すると翡翠は赤くなるし志貴は慌てだす
それを確かめると
「もうこんな時間ですし夕飯の準備がありますので・・・・」
と厨房に姿を消す
そんなこんなで食事も終わり今は屋敷の見回り中
(三人いしょに食事をとりました翡翠ちゃんの話では普通こんな事はしないけど志貴様が毎日頼まれついにはそうじゃないとご飯を食べないといわれついにこうなったらしい)
ふっと自分がまだいったことがない場所があることに気付く
(違う本能に近いレベルでそこを避けていた)
「ここも見回りしないといけませんね・・・・・」
(いけない そこに行ってはいけない そこには・・・・)
地下へと続くその階段を降りていく
(ヒキカエセ カエレ カエレ ソコニハ・・・・・)
階段がおわるとそこは黒い空間があったそこを明かりで照らす
「ここは・・・・・牢、しかも最近まで使われていた形跡がある」
その証拠に金属が錆びていない
「いったい誰が・・・・・っ!」
突如、頭を鈍器で叩かれた衝撃が走る、そして声が聞こえる
(あなたがやったんでしょう?)
(忘れることなんてするされない これは私の罪 )
「違う私じゃ・・・・・」
(いいえ やった私はやった あの人まで利用して)
(忘れることなんてゆるされない だから思い出しなさい 全ての・・・・・罪を)
「いや、 いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
こだまするその空間にそしてその木霊が消える
彼女は立っている
そこにいるのはもはや七夜ではない
琥珀そう呼ばれる人がいるだけ
琥珀は呟く
「私は琥珀・・・・・思い出しました」
目を閉じ
「私は死ぬことさえできない・・・・・」
「私は人形だから・・・・・だから今度は七夜を演じなくては・・・・私は人形だから」
にこやかに笑う楽しそうに
(そう私は自分の罪を生きて償わなくてわならない 愛していたあの人を傷つけ、殺した罪を・・・・・)
「四季・・・・・・」
懐かしむようなそれでいて愛しい人に囁くやくように
その場の壁に背を預けそのまましゃがみこむ
「うぐっ・・・・・・うっ・・・・・・うぐっ・・・・・」
泣いているただただ泣いている
「ごめんなさい・・・うぐっ・・・・・ごめんなさい」
泣き声と謝罪の声だけが牢に木霊する
そこはかつて遠野四季が入れられていた牢だった
その日は満月だったがここは地下、故に明かりは一つ七夜が持ってきた物そして今は琥珀を映し出す明かり
そう今日は満月だった