Stay Knight assasin,ver 7 M:遠野志貴・蒼崎青子 傾:シリアス


メッセージ一覧

1: こきひ (2004/03/07 08:46:42)




 呆然と過ごせば、夜が更けるのは早かった。
 あの後、たしかめに赴く勇気もなく、遠野の屋敷近くに戻ってからすでに半日。
 今はこうして、街の建物の上から街路地をただ眺めている。
 眼下には、ガードレールに腰をかけた一人の少年。
 体調不良なんていう理由で学校を早退した貧弱な少年。
 その、かつての自分が今何を思っているのかなんて、見当もつかないが―――
 (……彼女の事を考えているんじゃ、ないんだろうな……)
 脳裏にほんの一瞬だけ、夕焼けの少女が映る。
 しかし、それはほんの一瞬にして膨大な感情に塗りつぶされた。
 なぜならば、

 「―――アルクェイド……」
 
 今彼の目の前には、その金髪の女がいるのだから。















 Stay Knight Assasin,ver















 seventh

 たしかに感じる、彼女の気配。
 どれだけ離れていようが、間違えるはずがない。
 あれほどまでに焦がれ、愛し、そして失った彼女が、今確かにここにいる。
 「―――っ」
 彼女が今ここに居る。
 彼女の姿を見たい。
 彼女の声が聞きたい。
 彼女に触れたい。
 抱きしめて、今すぐにこの場から連れ去りたい。
 その全ての衝動をことごとく認め、そして―――殺していく。
 今この魔眼殺しを外せば、彼女は間違いなくこちらの存在に気づくだろう。
 それでは意味がない。
 自分がここに居ることの意味。
 過去を糺す事。
 あいつに、きちんと色々なことを見せてやるために『トオノシキ』の手助けをする事。
 それが、昨晩もこの身に刻んだ、自分の成すべき事。
 そうして彼女の気配を見送ること数秒。
 次に感じた気配は、狂気にも似た殺人衝動。
 その塊が、今この場を去っていった彼女の後を尾行ていく。
 「――――――」
 無言で立ち上がり、霊体となってその二人の後を尾行する。
 この行動に意味はない。
 たとえ、自分が行かなくても、この先を歩くアイツは、人生最初の体験をすることになるだろう。
 それを止めるつもりも、後押しするつもりも毛頭ない。
 しかし、と思う。
 もしもできることならば、彼女と、こんな関係ではなく、もっと普通の出会いをしていればそれはどんなに―――

 胸中に浮かび上がった考えに、自然と口元が歪む。



 「―――あいつと普通に知り合うなんて、それこそありえないことなのにな」



 独り呟いた言葉は、周囲の雑踏の中へ消えていった。










              ◆◆◆◆◆










 それは外で待っていれば、たったの数分で終わる出来事だった。
 マンションの六回の一室。
 そこで、異常なまでに殺気が膨らんだかと思うと、それが一気に萎み、その数分後には少年はマンションを出て行った。
 自分という存在の誕生の瞬間とも言えるその時を、ただ外で傍観していた。
 「………………」
 不意に、その場所へ行ってみようかという誘惑に囚われる。
 しかしその馬鹿げた考えを即座に切り捨て、少年の後を追う。
 少年の足取りは、重い。
 重いが、それは速い。
 ナニカから逃げるように、ひたすらに歩いている。

 ―――ナニガチガウ

 記憶とかぶる、それを否定しながら歩いている少年の背。

 ―――ナゼヒテイスル

 こうしてまた平穏なセカイへ戻ろうとしている少年を見ていると、吐き気がする。

 ―――オマエニソノケンリハナイ

 自分のコトを、本当に理解してくれていた女の子を助けられなかった上、今この時においての見苦しさ。

 ―――キショクガワルイ

 そしてたった一つの約束さえ守れなかった、己の弱さ、未熟さ、愚鈍さ。

 ―――ヘドガデル

 知った時には全て終わっていた―――否、知ろうとしていなかった。

 ―――ナンテ、ヒドイアリサマ



 同族嫌悪、という言葉がある。
 その言葉の意味は、今まさに理解できる。
 今まで誰に感じたそれよりも大きい。
 間違いなく、殺人貴は―――



 ―――あのトオノシキという少年を、殺したがっている。



 「……こまったな」
 脳裏に甦る昨夜の先生の言葉。
 あの意味は、
 『自分の過去をすべて見て、その上で、何も手を出すな』
 という難問。
 「……ああ、本当に―――まいった」
 ただでさえ、これからあいつらは一緒に行動する。
 あいつの気配を感じるだけで、狂いそうだってのに、
 「……あの野郎が、一緒にいるなんて……耐えられるかな?」
 あの少年が今からなす事をすべて見ていたら、どうにも自分の衝動に勝てそうもない。
 「……ほんと、まいったな」



 人生最難関の課題を前にして、死のサーヴァントは、深く息を吐いた。










            ◆◆◆◆◆










 ゆらりと影が動く。
 先ほど少年と青年が立ち去ったマンションの隅で、彼女は大きく息を吐いた。
 「……ふう。てっきり止めようとするものだと思っていたけど―――」
 昨晩の自分の言葉が脳裏によぎる。
 「―――そのへんは、ちゃんとわかっていたみたいね」
 トランクを担ぎ、影から出てマンションを見上げる。

 ―――信じられなかった。

 おそらくはこの八年間、必死に守ってきたであろう彼女との約束を、彼があっさり破った事。
 その手順が、あまりにも手馴れていた事。
 そしてそれ以上に、
 「……本当に、真祖の姫を殺してしまうなんてね……」
 真祖の姫は、言ってしまえば歩く核兵器だ。地球の意思とも言える。
 そんな、考えるだけでもすさまじい存在を、ああもあっさりと『殺し』た。
 「……これなら、あの子の言ってた事も信憑性が増すわね」
 彼女のサーヴァントの話。
 ネロ・カオスとの戦い。そしてその消滅。
 ミハイル・ロア・バルダムヨォンとの戦い。そしてその消滅。
 それがこの後、一週間ほどの間に起きる。
 「……どっちにしたって、完全に消滅させきるものじゃないっていうのに」
 かたや666の生命を持つ混沌。
 かたや永遠に転生し続ける転生無限者。
 その、ある意味究極にも近い生命を彼は―――
 「……さすがは『直死』ってとこか」
 言いながら、視線を道ばたへ戻す。
 視線の先には、彼らの気配。

 ―――今の彼は気づいていない。

 これが彼自身の人生を大きく狂わせる事になっているという事に。

 ―――そして、彼も気づいていない。

 「……君の考えてる方法じゃあ、彼女は救えない」
 青子は呟く。
 「君なんかのチカラじゃあ、全然足りない。
  君は核兵器の扱い方を知っているだけで、その本当の威力を知らない。
  だから、自分だけで救えると勘違いしている。
  ……下手をすれば、君自身が消えてしまうのに―――」
 そこまで独白して、彼女は再びマンションを見上げた。
 六階の一室。
 おそらくそこには、今まで見たどの景色よりも紅い風景があるに違いない。
 数秒の間を置いて、蒼い魔法使いは忌々しげに吐き棄てた。
 「……やっぱり、私がやるしかないのかな……」
 だとすれば、それは―――



 「―――姉貴に手を貸すのと同じくらい厭なコトね」



 青子は、思わず顔をしかめた。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 注意8。

 自分の中では青子と橙子は本気で仲が悪いです。ええもう、出会った瞬間コロスくらい。

 さて、次回はめっちゃ話が進んでいきなり決着編です。
 ネロとかは出てきません。話がまとまらなくなるので(と言っても今もあまりまとまってませんが)。
 


記事一覧へ戻る(I)