もう一度、君に 3


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1: lac (2004/03/07 08:07:19)

深夜—————
明かりの消えた屋敷の中で

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

少女の声が響く。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
ただ満たされる刻を破却する」

その声は一点の澱みも無く呪文を紡いでいく
        セット
「——————Anfang」

それは何かの合図だったのか、少女を取り囲む空気が一変した。あたりを濃密な魔力が覆い、少女の方へと流れ込んでいく。
その異質な感覚に苦痛を感じているのか、少女の表情が変わる。しかし———

「——————————告げる。

それでも呪文の詠唱は止まらない。

「——————————告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

その呪文が唱えられた瞬間、召喚陣を中心に、人の目では捉えることのできない強烈な力が集まりだす!

「誓いを此処に。
我は常世総ての全となる者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ——————————!」

呪文の詠唱が終わり、すべての力が陣へと集い、召喚陣が発動する—————————!!
文句の無い出来だったのか、少女は会心の笑みを浮かべ、閉じられていた目を開いた。そこには——————————
「はい……?」
なにも、なかった。そして

ドガシャーーーーーーーーーーーーーン!!

なんていう爆発音が、居間の方から聞こえてきた。
少女は
「なんでよーーーーーーーーーー!?」
なんて叫びを発して、今の方へと走り出した。





ドガシャーーーーーーーーーーーーーン!!
そんな破壊音とともに、私は現界を果たした。
「つぅっ・・・・・・いったい何事だ?」
このような形で現界したのは、さすがに初めてだ。正直、状況がまったくつかめない。
落ち着け——————まずは、周囲の状況を確認しよう。
そう考え、辺りを見回す。ここは・・・・・・屋内?どこかの家の中?
部屋の大きさから察するに、かなり大きな屋敷のようだ。ここは内装—————といっても、私が落下してきた衝撃で、ほとんどの物が破壊されているが—————から見て、どうやら居間のようだ。そして、なぜ自分が呼び出されたのか。落ち着いて頭の中を整理すると、現界の理由、自らの役割や必要な知識が浮かび上がってきた。そう、今回の俺の役割は—————
と、そこまで確認したところで
「なんでよーーーーーーーーーー!?」
なにやら、そんな叫び声が下の方から聞こえてきた。
「ふむ・・・・・・どうやら、私がこのような現界を果たした原因は、この声の主にあるようだな」
そう呟き、声の主がここに来るのを待つことにした。
まもなく、扉の前で人の気配がし、「扉、壊れてる!?」なんて声が聞こえた。
「———ああもう、邪魔だこのおっ・・・・・・!」
という声とともに、扉を蹴破って、一人の少女が入ってきた。
「やれやれ、乱暴なことだ」
少女に聞こえないよう、小さな声で呟いた。
少女は状況を把握しようとしているのか、こちらに話しかけてくる様子が無い。なのでこちらも、少女のことを観察することにした。年齢は———20にも届かんか。普通に考えれば、魔術師としては半人前もいいとこだ。よく私を呼び出すことができたな、そんなことを思う。少女の容姿は人並み以上だったが、それと魔術師としての力量は関係ない。
 「・・・・・・・・・また、やっちゃった」
少女は時計のほうを見ながら、そんなことを呟いていた。どうやら時計が狂っているのを忘れて儀式を行い、自分の魔力のピークを見誤ったようだ。このような間違いを起こすとは、やはりまだまだ未熟なようだ。それにしても、この少女どこかで見たことが——————そんなことを考えていると、少女は私を睨みながら、
「やっちゃったことは仕方ない。反省———————それで。あんた、なに」
などと口にした。そのあまりに礼を欠いた問いかけに
「開口一番それか。これはまた、とんでもないマスターに引き当てられたものだ」
つい、そんな皮肉めいた口調で返してしまった。
しまった。ここで怒らせるべきではなかったか。そう思ったがいまさらなので、態度は変えず、相手の様子を伺う。少々表情が険しくなったみたいだが、質問を続けてきた。
「————確認するけど、貴方はわたしのサーヴァントで間違いない?」
「それはこっちがききたい。こんな乱暴な召喚は初めてでね。正直、状況がつかめない」
正直に答えてやってもよかったのだが、こうも尊大な態度をとられると、応えてやりたくなくなる
「わたしだって初めてよ。そういう質問は却下するわ」
そう答えられ、なおも反論しようとしたが、自分が柄にも無くムキになってることに気づき、頭を冷やす。
「・・・・・・・・・わかった。何故こんな離れた場所に召喚されたかなど聞きたいことはあるが、まあいいだろう。それで?聞きたいことは?」
少女は召喚のことを聞かれ、少々むっとしたようだが質問を続けてきた。
「だから、貴方はわたしのサーヴァントかって、そうきいてるの」
「ふむ、確かに私は君のサーヴァントとして呼び出されたようだ。しかし、君に本当にその資格があるのかな?」
私は口元に笑みを浮かべながらそう応えた。
「あ、あるわよ!資格ってこれのことでしょ!」
と、右手の甲を私に向けた。そこには確かに令呪————サーヴァントを律するための紋章————が浮かんでいた。
「はぁ・・・・・・・・・・・・それは本気でいってるのか?お嬢さん」
「ほ、本気かって、なによ?」
どうやら本当に私の言っていることがわからないようだな。そう思うと頭が痛くなる。
「令呪など、ただの道具にすぎんだろう?私の聞きたかったのは、君が本当に忠誠を誓うに値する人間かどうか、ということだったのだが」
「あ—————う」
ようやくわかったようだな。そう思うと同時に、この少女はパートナーとして使えない。そう判断を下す。
「な、なによ。それじゃあわたし、マスター失格?」
「そう願いたいが、そうもいくまい。令呪がある以上、信じがたいが君は私のマスターだ。まったくもって不満だが、認めよう。だが私にも条件がある。戦闘方針は私が決める。それが最大の譲歩だ。それでかまわないな?お嬢さん」
戦力になるならともかく、こんな未熟な魔術師では足手まといにしかならんしな。
弱点にしかならないのなら、屋敷にとどまっておくほうがまだ安全だろう。
「君は地下室にでも隠れて、聖杯戦争が終わるまでじっとしているといい。それならば命だけは助かるだろうよ。・・・・・・ん?どうした?ああいや、もちろん君の立場は尊重するよ。私は君を勝利させるために呼び出されたのだからな。私の勝利は君のものだし、手に入ったものも総て君のものだ。それなら文句あるまい?」
————————ん?なんだか、彼女の体が震えているようだが。
少々気になったがさらに言葉を続ける。
「どうせ君には令呪は使えまい。まあ、後のことは私に任せて———————」
「あったまきたぁーーーーーーー!
 いいたいこといってくれちゃって!
いいわ!そんなにいうんだったらつかってやるわよーーーー!!」
       セット
「—————Anfang」
いきなり爆発したかと思うと少女は、魔術発動のキーとおぼしき呪文を口にした。
「な————まさか」

「そのまさかよ、この礼儀知らず!
 令呪に告げる          聖杯の規律に従い         この者、我がサーヴァントに               
 Vertrg……! Ein neuer Nagel Ein neues Gesetz Ein neues
戒めの法を重ね給え
Verbrechent——————!」

「くっ、礼儀知らずはそちらだろうに—————!ま、まて、正気かマスター!そんなことで令呪を使うヤツがあるか————!!」
「うるさーーーい!あんたは、わたしのサーヴァント!だったら私に絶対服従にきまってるでしょうがーーーーー!!」
「な、なんだとーーーーーーーーー!!」
ま、まさかここまで見境が無いとはーーーーー!!
そう後悔しつつも、私は自分のマスターである少女のでたらめな行動に、奇妙な懐かしさを感じていた。




「・・・・・・じゃあ、さっきの令呪は無駄だったってこと?」
あの後、あの居間では話しづらいので彼女の部屋に上がり、令呪の力、重要性を簡単に説明し終えた後、彼女はそう聞いてきた。私はため息をつきながら
「・・・・・・通常ならそうだったのだがな。どうも、君の魔術師としての素養は桁が違っていたらしい。本来、あんな令呪では少々心変わりさせることしかできんのだが、今の私は君の言葉に強い強制力を感じている。それに逆らうと、そうだな・・・・・・ランクが1つ、おちるようだ」
そう答えてやった。まさか、こんな結果になるとは・・・・・・予想外にもほどがある。
「—————えっと」
まだよく理解できてないようだな。まだ少々不安が残るが——————
「前言を撤回しよう。年齢はまだ若いが、君は卓越した魔術師だ。子供と侮り、戦いから遠ざけようとしたのは私の誤りだった」
そう、この魔力量、強制力。彼女が類まれな才能を持っていることは間違いない。
私の謝罪に対し、彼女は照れたように
「ちょ、やめてよ!たしかにいろいろ言い合ったけど、あんなの喧嘩両成敗って言うか————」
「そうか、話のわかるマスターでよかった」
私は彼女の言葉を最後まで聞かず、そういった。
「な、なんかきりかえし早いわね。あんた」
「まあいいじゃないか。これはうれしい誤算だ。私への魔力提供量、さきほどの令呪、どれをとっても君はマスターとして間違いなく一流だ」
「——————ふ、ふん!いまさらほめたって何もでないけどね!」
私が素直に自分のことを認めたのが意外なのか、彼女は気恥ずかしそうにそっぽを向いた。気を取り直したのか、質問を続けてくる。
「で、あなたはなんのサーヴァント?」
「ん、見てわからないか?ああそれは結構」
少しからかってみる。思ったとおり、彼女は少しムッとし、質問を変えてきた。
「・・・・・・わかった。これはマスターとしての質問ね。貴方、セイバーじゃないの?」
「あいにく、剣は持っていないな」
一応、武器は剣なのだがな———————心の中で付け加える。
彼女は明らかに落胆した様子だった。
「ドジったな。あれだけの宝石を使っておいてセイバーじゃないなんて・・・・・・」
そのセリフにカチンときた。
「悪かったな、セイバーじゃなくて」
「え?あ、うん。たしかに痛恨のミスだけど、それはわたしのせいだし—————」
ますます聞き捨てなら無いことをいう。私を召喚したのがミスだと!少々傷ついた。
「ああ、どうせアーチャーでは派手さにかけるだろうよ。ふん、いいだろう。その暴言必ず後悔させてやる。そのときになって謝っても遅いからな」
・・・・・・む、我ながら子供っぽかったか。
「は?・・・・・・もしかして、癇に障った?アーチャー」
むむ、そんな風に聞かれると、後には下がれない。
「触った。見てろ、必ず自分が幸運だったと思い知らせてやる」
正直、かなり恥ずかしかった。マスターとはいえ、こんな少女にこんなところを見せてしまうとは!———————————不覚だ。
そんな私の葛藤を見抜いたのか、彼女は軽く笑みを浮かべ
「そうね、必ずわたしを後悔させて、アーチャー。そうなったら素直に謝らせてもらうから」
そう私に答えた。
「ああ。忘れるなよ、マスター。己の召喚したものがどれほどのものだったか、知って感謝するがいい。もっとも、そのときになって謝られてもこちらの気は晴れんが」
見透かされたことへの照れ隠しもはいって、少々嫌味な口調になってしまった。私も修行が足りんな。そう思った。



「で、アーチャー。貴方、どこの英霊なのよ」
そう聞かれ、どう返答しようか迷った。彼女が期待しているのは、おそらく伝説に名を残すような英雄であることだろう。だが、自分は違う。私の名など誰も知らない、だれも憶えようとしなかった。そんな英雄のことなど、知っている人間がいるだろうか。そんな英霊がサーヴァントだとしれば、彼女はまた落胆するだろう。そんな姿は、正直見たくなかった。それに—————————なぜだかはわからない。わからないが、彼女に私の真名を知られたくない———————心のどこかでそう思う自分が存在した。
せめて、今の間だけでも。そう思い、とっさに嘘をついた。
「―――――それは、秘密だ。なぜかというと、自分でもわからない」
彼女は当然「なんでよーーーーーー!」と怒ったが、召喚の事故を原因にすることで、なんとかごまかすことができた。
「まったく!あんたの強さがわからないんじゃ、戦うことなんてできないじゃない—————!」
「何を言う。私は君の呼び出したサーヴァントだ。ならば、最強でないはずが無いだろう?」
私は笑みを浮かべながらそういった。この言葉は、彼女の怒りを鎮めようとした訳ではなく、本心から出た言葉だった。それを聞いた彼女は、なぜか顔を真っ赤にしていた。
なぜ顔が赤いんだ?私は首をひねった。



「さて、それじゃアーチャー。最初の仕事だけど」
「さっそくか。好戦的だな、君は。それで?敵は———————」
と、彼女はなぜか私に箒とちりとりを投げてよこし、
「居間の片付け、おねがいね」
そんなことを口にした。
———————————————————————————————————————はっ
どうやら10秒ほど思考が止まっていたらしい。
「おい、マスター。君はサーヴァントの事を何だと思っている」
言葉に静かな怒りを込めながら、彼女に聞いてみた。
「使い魔でしょ?ちょっと生意気で扱いに困るけど。」
———————————————————————————はっ
今度は5秒ほどで帰ってこれたらしい。
「ふざけるな。そのような命令は断固として拒否する!」
「ふ〜〜〜ん、そう。逆らうんだ。でもいいの?体、重くなるんでしょ?」
「うっ!」痛いところを突かれた。
「これから先、この命令聞かない限りはずっと続くのよね、これ」
「ううっ!」確かに、そうなのだが。
「あ〜あ、そんなんでこれからの戦い、やっていけるの?」
「ぐっ!」・・・・・・・・・結局、こうなるのか———————
「・・・・・了解した。地獄へ落ちろ、マスター」
「はいはい、じゃ、がんばってね」
・・・・・・・・・もはや、腹もたたん。
仕方ない、さっさと片付けてしまうか。————————妙に手馴れている自分が悲しい。



「——————————驚いた。よくここまで元に戻せたものね」
居間に入るなり、彼女はそう話しかけてきた。
「まあな、責任の多くは君にあるとしても、私が荒らしてしまった部屋だからな。
 ———————ああ、ついでに厨房のほうも片付けておいた。一人暮らしにしては、なかなか気の届いた厨房だったぞ」
・・・・・・・・・?なぜだ。彼女の私見る目が、まるで変なものを見るかのような視線に———————
彼女を見て、そこまでつらつら考えたところで、彼女の様子が少しおかしいことに気がついた。
「ふむ、どうやら本調子ではなさそうだな。まあ、無理も無いが。どれ、紅茶でよければご馳走するが?」
そういって私は棚から新しいティーカップを取り出し、彼女のために紅茶を淹れはじめた。彼女はどうも何かを言いたげだったが、何もいわずだまって、私が紅茶を淹れるところをみていた。
紅茶を淹れ終え、彼女の前に差し出し、反応をみる。
「あ、おいしい」
そういった彼女の顔がほころぶのを見て、私も笑みを浮かべる。
「ふむ、ふむふむ」
「ちょっと、なに笑ってるのよ、アンタ」
「いやなに。感想を聞きたかったのだが、その様子なら聞く必要もないかと思ってね」
「―――――――――っつ!」
・・・・・・・・・・・・どうやら失言だったらしい。せっかくよくなりかけていた機嫌を、思いっきり損ねてしまったらしい。次からは気をつけよう。



ひとしきり彼女の非難を受けたあと、記憶のことを聞かれたが、まだ戻ってはいない、ということにした。どうせいつかはばれるのだが、できるだけ遅らせたいと思ってしまう。・・・・・・・・・・・・いったいなぜなのだろう。
ほかにも、サーヴァントの持つ性質などを教えた。霊体にもなることができ、その状態ではまず発見されない・・・・・などなど。ひとしきり聞いて納得したらしく。
「じゃ、とりあえずついてきて。貴方の呼び出された世界を見せてあげるわ、アーチャー」
と言い出した。もちろんその言葉に文句は無いが、
「————————それよりマスター。君は大事なことを忘れている」
「え?大切なこと?」
どうやらわからないらしい。ため息をつきながら話し続ける。
「まったく・・・・・・君、本当に朝弱いんだな。契約において最も重要なことを忘れているぞ」
そこまで聞いて思い当たるものがあったらしく、「あ」と声を上げた
「そっか、名前」
「ようやく気づいたか。それで、マスター。君の名前は?なんと呼べばいい?」
彼女は、なんとも複雑な表情を浮かべながら、ぶっきらぼうに答えた。

「わたし、遠坂凛よ。貴方の好きなように呼んでくれてかまわないわ」

その名前を聞いた瞬間、古い古い、もはや思い出すことの無いはずの過去のことを、思い出した。

何も知らなかったおろかだった自分、聖杯戦争、彼女との出会い、短かったけど、それまで過ごしたどんな時間よりもかけがいの無い、あの戦いの日々———————
戦いは、苦しくつらかった。それでも、彼女たちと過ごした日々はとても楽しかった、幸福だった——————————
そう、その中に、確かにこの少女もいた。「遠坂凛」声に出してみる。そして

「では凛と。———————ああ、この響きは、実に君に似合っている」

万感の思いを込めて、その言葉を口にした。



あとがき
調子に乗って、さらに続きを書いてしまいました。
それでも、まだプロローグの前半・・・・進むのおそっ!
セイバーヒロインのはずなのに、いまだに出てこないし。
つ、次こそセイバーさん出して見せます。
後今回は、原作のセリフ等を使いすぎたこと、反省しております。
次からは少しづつオリジナルなルートにいけるようがんばります。


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