Fate/return over M:独自キャラ 傾:シリアス、If


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1: 晴海 (2004/03/07 04:44:20)




 その人は、土倉に差し込む月明りの下で、銀色の鎧を輝かせていました。
 金糸の髪は肩に掛かるほど長さで、邪魔にならないように首筋で一纏めに括られています。

「問おう」

 彼の口が開き、凛とした声を出します。
 歳頃を計れば、わたしと同じか少し上。でも、その声音には、

「君が僕のマスターか?」

 年齢に不釣合いとまでいえるほど、人を惹きつける何かを帯びていました。
 その声と、真っ直ぐな翠の瞳に捕らわれたわたしは応えを返すこともできず。
 ただ呆然と、突如として目の前に現れた騎士に見入っていました。


 それが、わたしと彼の出会いでした。




Fate / return over




10年前。焼け野原。


赤い世界の中で、わたしは一人、家族のことを考えている。

 崩れてしまった家の下には、お父さんとお母さんが居る。

ついこの前、新しい家族ができるのだと教えてもらったばかりなのに。

 熱気に焼けた咽は、声を出すことをせず。ひゅーひゅーと毒のような空気を肺の中に送りつづけています。

妹か弟かもわからずに、一緒に歩んでくれるはずの存在を、失った。

 同じ事ばかり考える頭を見放したのでしょうか。火傷と煤で赤黒い体はどこいく宛てもなく、家(おはか)の前から離れていきます。

脚を進めるたびに、わたしが壊れる音が聞こえる。

 目に見えるのは正視に堪えない風景、赤くて熱い地獄を、怨嗟と呻きが埋め尽くしています。

お姉ちゃんになるんだから、しっかりしないと。わたしがまもってあげないと・・・。


 疵は皹、

 火傷は変色、

 煤は埃。

 今、わたしという置物は、元の姿からかけ離れた外見をしている。もう人としての形も機能も無い。
 それでも、入るはずだった中身を探して、彷徨い続けている。

 ふらふらと倒れるように歩く。

 家を離れてからどのぐらいの時間が過ぎたのか。
 肩に感じる痛みに、雨が降り始めたことを知りました。
 皮が焼け落ちているいまのわたしには、その雨は命の恵みではなく、最後の道行きを進める針の矢雨。


「    」

 でも、何か周りでも自分でもない音が聞こえて、雨が止みました。

「          」

 顔を上げると、男の人が一人、泣きそうな顔でわたしを見つめていました。


 そして、わたしはとても哀しくて暖かい人に出会ったのです。

 その人は宝物でした。

 わたしが失ってしまったモノの場所を、埋めてくれたのですから。




1月30日。昼休み。学園。

「ごめんなさい。衛宮さん。今日は遠慮させていただきます」

 お弁当を持っていないのでと、遠坂さんが言います。

「だから言っただろ、由紀っち。遠坂を誘うんだったら弁当を用意しておかないと」
「ならば私たちが学食に移動すればよいであろう」
「だめだめ。弁当派が学食に行くと、場所取りのヒエラルキーから白い目で見られるって言っただろ」
「難儀なことだな」

 蒔ちゃんと氷室んの掛け合いに、一喜一憂してしまうわたし。

「衛の字は毎日弁当であろう。それならば、多少の量を増やすことで解決できぬか」
「お、それならあたしの分も作ってきてくれないか」
「蒔寺、おぬしには言っておらん」

 でも、それは出来ない。
 自分が作ったお弁当を他の人に食べてもらうには、とても大きな問題があって。

 それは・・・。

 人においしいって言ってもらえる食事を、作る自信がないことだった。




1月31日。朝。衛宮邸。

「いってきます」

 挨拶が、いやに大きく響く。
 声が大きいというとか、そういうことじゃなくて。

 今、この広い屋敷には、他に音を出すものが無いというーーー。

  単純にそれだけの理由でした。




1月31日。夜。新都。

「あれ?」

 アルバイトの帰り道。わたしはおかしなものを見つけた。

「遠坂さんだ。なんであんなところに居るんだろう?」

 それは、高層ビルの屋上から地上を見下ろすクラスメートの遠坂凛さんでした。
 遠坂さんの視線は、しっかりとこっちを向いています。
 地上に居るわたしが見えているのかな?

「でも、遠坂さんって、高いところが似合うなぁ」

 あまりにぴったりな想像に、ほにゃ、と笑うわたし。




2月1日。夜。学園

 わたしは、夜の校庭から誰も居ない校舎へ、必死に走った。

 今日は陸上部の後片付けに助っ人としていたために、日が暮れるまで学園に残っていた。

なにか、胸騒ぎを感じていたのは、毎日休まず行っている魔術の鍛錬の賜物か。

 そろそろ帰ろうと荷物を纏めて、校庭に出た。

自力では遺憾ともし難い何かが動き始めているのを、自分のどこかが感じていた。

 そこで見たのは、人とは思えないほど激しい戦いを行う二人の男の人。

 暫く見入っていたわたしに、なにやら槍を構えていた人が、


 急に殺気をぶつけてきたーーー!



怖くて。
頭の中が真っ白になるぐらい怖くて。

 全力で校舎に逃げ込みましたが、

「よく逃げたな。お嬢ちゃん」

 わたしの前には、校庭で見た青い鎧の人が、立っていました。


「まぁ、運が悪かったと思いな。せめて苦しまないよう、一撃で終わらせてやるからよ」


 青い人は、そう言って、

 朱い槍で、

  わたしの胸を、

      貫いた。




Interlude

「アーチャー!」

 自らのサーヴァントに追いついたわたしが見たものは、

「誰だ・・・? こいつは?」

 何故か憮然としているアーチャーだった。


 アーチャーが見つめている先に、視線を動かす。
 仰向けに倒れている制服。
 その顔を見る。

 私は息を止めてしまった。

 それほどの衝撃。


「なんであなたがここにいるのよ」

 強く、唇を噛締める。

「凛。この娘は君の知り合いか?」
「ええ。よく知っているわ」

 アーチャーの問いに短く答える。
 毎日顔を見ている相手なのだから、知っていて当然だ。

 頭に登りつめる怒りと血を制御して、思考を切り替える。

「ここはいいわ。アーチャーはランサーを追って。せめて相手のマスターが誰か突き止めないと、割に合わない」
「了解した」

 身を翻す赤き弓兵の背から、足元の彼女に視線を移したわたしは

「これほどまでに異なった世界に来ようとはな」

 外套のはためく音にかき消された、その呟きを聞き逃していた。


Interlude-out




2月1日。夜。衛宮邸。

 何故か助かったわたしだったけど、まだまだ不幸は続くみたいで・・・。


 再び、襲ってきた槍の人。


 際どい死線をくぐりお父さんの土蔵に倒れこんだわたしに、
 紅い穂先が、もう一度心臓を突き刺そうと伸びてきます。


 自分は死んでしまうんだと、理解した時、


わたしのなかで

  それがはじけたーーー



 光に眩んだ眼を開けると、


白銀の鎧を着た男の子が、立っていました。


そしてわたしは、


「問おう。君が僕のマスターか?」


運命と出会うーーー。


 これが、わたしーーー衛宮由紀香と剣の英霊セイバーの出会いでした。






『宿命を断ち切る反転』





※※※開戦の言葉※※※

「では、衛宮由紀香。君をセイバーのマスターと認める」

 神父さんが、厳かに宣言しました。



※※※剣の英霊※※※

「はっ? 半人前以下の魔術師である君が戦う? 幾度冗談を重ねれば気が済むんだ」
「うぅ〜〜。なにもそんな言い方することないよぉ・・・」



※※※新しい日常※※※

「あら? なに部屋の隅で小さくなっているのよ」
「えっと、あの・・・。おいしいですか?」
「ユキカは何に怯えているんだ」
「単に料理の味に自信がないんでしょ」

 ふふんと遠坂さんが意地悪な笑顔になる。

「いままで他人に食べさせたことがないから、自分の腕前に対する客観的な判断が出来なかったのよ」

 ずばりと言い当てられてしまいました。

「ほら、こっちに来て一緒に食べなさい」
「でも、その。え〜と・・・」
「安心しなさい。由紀香の御飯はちゃんと食べれし、おいしいわよ」
「リン、それは違う。物事を正確に表現していない」
「む。あんたまさか不味いとかいわないでしょうね」
「それこそ心外だ」

 セイバーは神妙な顔つきで、ゆっくりと頷いてから断言した。

「この料理はとても美味しいんだ」



※※※夢の約束※※※

――「うん。お父さんの夢は、わたしが適えてあげるよ」
――「そうか。それなら安心だ」

 安らかに、わたしの宝物が眠りに落ちていきました。



※※※星の光※※※

 エクス
「光り纏うーーー」
    カリバー
   「王者の剣―――!!!」



※※※様々な出会い※※※

 椅子に縛られたわたしの太股に、雪の女の子がちょこんと座りました。

「えっと、あの、イリヤちゃん?」
「おねえちゃんは、わたしのものになるんだよ」



※※※自らの意味※※※

 リリース、スタート
「――解放、開始――!!」

「ユキカ! その剣を僕に!!」



※※※迎え来る強敵※※※

「アーチャー、貴様! 何故現界している」

「久しいな。騎士王。貴様の面、十年越しにみても気分が良い物もはないがな」



※※※理想※※※

「セイ、バー・・・?」
「ああ、そうか。やっとわかったよ」

 あの意地悪なセイバーが、優しい顔でわたしを抱きしめます。


ーー君が、僕の鞘だったんだーー



※※※心からの真実※※※

「黙れ下郎! 僕はそんな物よりユキカが欲しいと言ったのだ」




巻き込まれたはずの戦争を前に、

  わたしは戦う決意をする



 世界の全ての悪を前に、

 世界創生の断絶を前に、

 わたしたちは

 リリース、エンド
「――解放、完了――!!」

  ユートピア
「遥か彼方の妖精郷!!」

 暖かな光の夢を翳した。




護ると決めたーーー。

  それがわたしの誓いだから。




※※※金色の告白※※※

皮肉屋の彼が、
 黄金の空を背にして、
  はにかんだ笑顔で、

「今までいじめてしまい、すみません」

 −−−君の困った顔が見たかったから。


 そんな、普通の男の子のようなことを言って、


真っ直ぐな翠の瞳に
 わたしだけを収めて、
  確かな心を表した。


「ユキカーーー。君を、愛している」






ーーーーー
後記
 盛大なif。もしも大火から救われた子供が、女の子ならーーー。そして、アーサー王のモデルとなる人物が、伝承通り男性であるならばーーー。
 なによりも『原作Fateが読みたい!!』という気持ちから書きました。製作側のコメントを読むと原作版は世に出そうに無いので、自前妄想です。
 セイバーの一人称や衛宮の性格などは、断片的な原作の情報から推測できる主人公コンビが、凛弓と被らない方法を拙い頭で考えた結果です。
 幻の原作では凛とアーチャー(英霊エミヤ)はどのようなキャラで役割だったのか、皆目検討もつかなかったので、ゲームより拝借・・・。
 結果として、このようなツギハギになってしまいました。
 お眼汚し、失礼致しました。お読みいただき、至極の感謝を。


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