夢を継ぐ一人の男 9,忠告,眼鏡の意地 M:士郎 傾:バトル


メッセージ一覧

1: Hyperion (2004/03/07 01:05:16)

9、忠告、眼鏡の意地


エーデルフェルトの洋館から帰ってきて、俺達はすぐに休むことにした。
桜はライダーの援護で精神的に参っていたみたいで。
遠坂は遠坂で、『まだ余力はあるけど、明日の相手を考えると今しっかり寝ておかないと
勝てる気がしないわ』と、言い残してそうそうに自室に戻っていった。
最後に扉を閉める前、遠坂が言い残した次の対戦チームは『代行者』。
不安を感じていたけれど、それは夢の中で考えることにした。
遠坂は余力があると言っていたけれど、俺から見れば空っぽだったからだ。




競技場につくと、なんとも言い難い光景が広がっていた。
周りには大観衆。これだけたくさんの使い手たちがどこに隠れていて、どうやってここに来たのか。
それほどまでに、競技場は人で溢れかえっていた。
現在までの大会進行状況、と書かれた大きな古めかしい掲示板には、
残り17チームと記されていて、トーナメント表どおりにいかず、
イレギュラーによって脱落していったチームが延々と綴られていた。
たったの一夜で48ものチームが脱落したことに、桜は戦慄していた。

その中で一際目立ったのは、何故か決勝戦までシードになっている。
チーム、『遠野家と部外者』。
なんとも微妙なネーミングセンスと相まって、競技場にいる全ての人々の
注目の的であった。
だがその他にも注目を集めていたチームがあった。
________チーム、『遠坂家と下僕』……

「……確かに、あの家は特別な血が流れているのだけれど……」
なんて遠坂はぶつぶつと言っていた。

そうして俺を驚かせたのは戦闘部門よりも一足速く、終わってしまったらしい、
ユニーク部門と芸術部門に連ねられた名前。

ユニーク部門 優勝チーム『ルヴィア様同盟』
芸術部門 優勝者 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト

俺達のチームが注目を集めていた第二の理由がここで解った。
それは既に終わっていた二つの部門の優勝者で構成されたチーム。
それを破ったということのようだ。
嫌、いや、あれは俺達のチームと信じたくない。
なんだ、『下僕』って……それはやはり俺のことを指しているのだろうか。
遠坂にチーム名を任せたのが不味かった。


俺達の二戦目が始まるまで後二時間。
その途中、時代錯誤なメイド服を着た女の子とか、いかにも日本人っぽい割烹着をきた女の子が
あたふたと動き回っていたのはきっと気のせいだろう。
なぜか、ほうきや虫眼鏡やら持っていた気がしたけれど、きっとそれも気のせいだろう。

そうして第二戦は始まろうとしていた。
俺達が競技場の中心に向かう途中。
すれ違った一人の女性を前に俺達は暫くの間、体を失い、心を奪われた。

「あなた達。代行者なんて名前に踊らされて、舐めてかかると痛い目を見るわよ。
その内二人は、その精鋭なんだから」

女性はそう告げて去っていった。
アレが、自分達が恐怖していたモノ。

なんと美しい、そう思ったのは俺だけではないはずだ。
圧倒的な力の差を前にしても、ただそう思うことしか出来なかった。
彼女なら先程の一瞬で俺達を全滅に導くこともできたのだろう。
だけどそれをしなかった。
遠坂と桜はただ黙って進んでいった。
あのとき動くことができたのは、ライダーだけだったのではないだろうか。

そうして、アノ女に魅入られる中、戦いへの扉の前にたった。

「桜、衛宮くん、これから戦る敵の中には六つとんでもないのがいるわ。
一人は私でも運が良ければ倒せるかもしれないけれど、
後の五つは桁違いよ。特にその内の一つはライダーに任せなさい。
アレは私達ではどうしようも出来そうに無いわ。
かといって三人目も私と同程度と考えておいて頂戴」
「士郎、相手が勝ち抜き戦か3on3か、どんな戦闘方法を提案してくるかわかりませんが、
決して、私が指示したモノ以外には仕掛けないで下さい、無論、桜もです。
リンと私に駆け引きは任せて、あなた達は悪魔で生き残ることを考えてください」

遠坂とライダーは本気だ。
真剣に、この状況を告げていた。
「解った。この戦いの方針は遠坂とライダーに任せる。
桜はともかく乱れ撃ちで援護。俺も不味いと思ったら奥の手を使う、それでいいんだな?」

ええ、とそれだけ遠坂は言った。
俺が固有結界を使うのを否定しない時点で、これから戦う相手がどれほどのものなのか
見て取ることが出来た。

時は正午を回った頃だったろうか、扉を開ければ唸り上がる歓声。
あいつらはこれをショーとしか思っていない。
だから、この命のやり取りが、軽く見えてしまうのだろう。

『死ね、死ね、殺せ、コロセ、戦え、キヅツケ』

脳裏に響いてくるのはそんな醜い歓声だけ。
コロセウムを思わせる造りのそこには見渡す限りの観客が詰め寄せていた。
闘技場の中心に立つと、司会者らしき人物が現れた。

「さぁ、やって参りました、魔術大会バトルセクション!!二回戦、第六試合。
この時を待ち望んでいたデンジャーな方々、お待たせしました!
さぁ、まずは対戦チームのご案内!
北の入り口から颯爽と現れたのは、今大会、もう一つの注目チーム、『トオサカ家と下僕』!!
こちらもジャパンの名門魔術師、トオサカ家から参加!
なんと、トオサカ姉妹は、知る人ぞ知る、あの聖杯戦争の生き残りだっていうから仰天だー!
そして仕えるは、その弟子、エミヤ!
知性派、絶世の美女、使い魔、ライダー!!
今大会では彼女の隠れファンクラブができているらしいぞ!
入りたい奴らは試合前に配られたパンフレットを要チェックだ!」

司会者らしき女魔術師はマイクを持った手で堂々と、仕える弟子エミヤ。
と、そう言い捨てた。ライダーは後付説明ありなのに俺は何もなしか。
それに俺だって一応聖杯戦争の生き残りなんですけど……
いや、確かに公開はされてないだろうけど……
「_______まぁ、解らせて見せるさ……」
鬼気迫る歓声の中、一人悲しく呟く。

「あれ、士郎。どうしたのよ怖い顔して」
遠坂はさっきの緊張した面持ちとはまったく違う様子で
こちらを見て腹を抱えて笑っている。
これから、死合うってゆうのにこれはいかがなものか。
「姉さん!いつから先輩の師匠になったんですか!
先輩を教えるくらいだったら私だって出来るんだから!」

桜、それは突っ込むところが違うのではなかろうか……

「続いて、南から入場は。チーム、『代行者』!!
代行者なんて言葉に、なんだ……っと思ってる方々、ご安心あれ!
代行者は代行者でもこっちは格が違う!
なんてったってあの教会の異端狩り!少数精鋭の埋葬機関の奴らが、
二人も参加しているっていうから驚きだ!
少女二人に、子ども一人だからといって舐めたらいけないよ!
第七聖典の後継者!元死徒、
その身のうちに、隠す黒鍵はいったい何本なのか!?
教会、埋葬機関の弓、シエル!
我が協会の天才魔術師、封印指定の捕獲屋!
こちらも片腕になりながら、惜しくも破れたが聖杯戦争の生き残りだ!
協会の代行者!バゼット・フラガ・マクレミッツ!
見かけは天使のような子ども!だがしかし、その実態は死徒!
その四肢は自らが使役する四大魔獣!フォーデーモン・ザ・グレイトビースト!
埋葬機関、第五位!メレム・ソロモン!」

埋葬機関。その中の二人が俺達の目の前にいる。
子どものような奴はメレムといったか、奴の四肢は魔獣であると聞いた。
だから、奴から五つもの巨大なものを察知していたのだ。
だが、それよりも驚いたのはあの片腕の魔術師だ。
司会者の女魔術師は彼女が聖杯戦争の生き残りだといった。
前々回の聖杯戦争の生き残りとも取れるが、恐らくは言峰に討たれたという、
ランサーの元マスターなのだろう。
あいつが生かしたまま見逃したとは驚きだが、それも納得できる。
他の二人が凄すぎるからか目立たないが、
あいつは遠坂レベルの実力者だろう。
それよりも、ちょっと上をいくであろう物が少年の右足。
他の三つに比べれば、どうしようもなく劣っているといえた。

「遠坂……あの子どもの右足は俺に任せてくれ」

「いえ、勝手に仕掛けないで衛宮くん。あのガキ、とんでもないもの。
それに今はまだやる気がないみたいよ。まずは女の方を何とかしなきゃならないわ」

「そうですね、あの少年はまるで動く気が無いようだ。
残りの二人に任せて静観するつもりでしょう。
引きずり出すには、まず彼女達をなんとかしなければならないようですね」

そんなことを話している内に司会者はなにやらサイコロを投げた。
現れた数字は7。

「奇数ということは、戦闘方式は『代行者』チームに委ねられます!!
さぁ、リーダーのメレムさん。戦闘方式を提案してください!!」

「戦い方?そんなことはどうでもいいさ。好きな様にすればいい」

そう、天使のような少年はいいきった。

「……そうですか、それではトオサカさん。いかがしますか?」

「そうね。勝ち抜き戦でいいわ。ただし、一戦交えた後に交代するのは許可するわ」
遠坂はライダーと相談した上で出していた結論を言う。
『ライダーは正規のルールで戦う場合、どうしても桜とセットでなければならないから。
勝ち抜き戦なら、先鋒には魔力量が底なしの桜とライダーを持ってくるのが一番よ』
ということだそうだ。

「解りました!トオサカさんの戦闘方式で決定します!!
それでは、両チーム、先鋒は前に出てください!」

桜とライダーがリングに上がる。
『代行者』チームは先程、シエルと紹介されていた、女がリングに上がる。

「それでは二回戦、第六試合!先鋒戦!始めっっっ!!」

黒い法衣を着たシスターが地を蹴る。
人間とは思えない勢いで空に舞い上がった、その手に携えられているのは三本の黒鍵。
あいつは言峰と同じ剣を使うようだ。
剣はライダーへと投擲された、それを短剣で軽々と弾く。
あの法衣の女が狙っているものはライダーのみ。
それに本来あの剣は物理的な威力よりも概念的なものが勝る。
射止めた獲物に発動する効果もそれの一種なのだろう。
ライダーは一気に距離を詰める。遮蔽物等の全くないこのリングの上ではライダーは普通のままなら不利だ。
あの鎖のついた短剣を活かした戦闘方法は無きに等しいだろう。
だが、それを許さぬとばかりに黒い法衣から黒鍵が投擲される。
黒鍵を弾く音がリングに何度も鳴り響く。あの可憐な体に纏った法衣に、
シエルと呼ばれる女の子はどれだけの剣を隠し持っていたのか。
今までに弾かれた黒鍵はゆうに二十を越えようとしていた。
それを見て、キョトンとしている桜。驚いているから、ということもあるだろうが、
今は魔力を出来るだけライダーに供給することに徹しているようだった。
だが、弾くだけがライダーではない。
ランサーとはいかないものの、その持ち味は速さにある。
それに彼女が魔眼を開放していないことからも余裕が見られる。
いかに相手が教会の殺し屋だとしても分はライダーにあるだろう。
投擲に阻まれながらもジリジリと距離を詰めていく。
そうして、放たれる神速に近い一撃。
だが、それを黒衣の殺し屋がよしとする筈もない。
どうにか、その短剣から逃れようと身を捻る。

しかし、いったん距離を離したライダーの短剣には血糊がこびり付いていた。
「くっ……」
少女が痛みを声にして漏らす。
どうやら完全に避ける事はできずに、左腕に傷を負わせられたらしい。
「シエル、秩序に縛られることがなくなった君では辛いだろうが、
頑張ってくれたまえ、これも一応仕事だからな」

リングの外にいた筈の天使のような少年はいつの間にかいなくなり、
その場には初老の勤勉そうな司祭が残されていた。

「遠坂あいつ、どこいったんだ」
「さぁ、私に聞かないでよね。私だって戦いを見るのに集中してたらいつの間にか、
ああなってるのに気づいたんだから」
はぁ、と片手で気分が悪そうに顔を覆う。

そんなことをしている間に黒い法衣の女の子の手には銀色の銃が握られていた。
「本来なら黒い銃身を用いたいところですが、これで我慢しましょう」
そう言う女の腕には、先程つけられた筈の短剣のキズは消えていた。

「自動治癒ですか、ですがそれにしては回復が早すぎますね。
一個人が掛けることのできる魔術にしては度を通り越しているとお見受けしましたが」
「あれ、あなたそうみえてもちょっとは魔術には詳しいみたいですね」
銃身から放たれる連撃を易々とかわしながら、ライダーは女と言葉を交わす。
「_____それに、貴女の許容量から察するに、普通の傷程度では何度でも治癒されてしまいそうですね。
ならば、死に至る攻撃をその魔術回路を統括する場所に叩き込むまで……」
「そんなに怖いこと言ってたら、せっかくのファンクラブの人が逃げちゃいますよ。
まぁ万年、シエルだからしょうがない。と言われた私とっては都合がいい事に限りがないのですが」
「理解できませんね」
「そうですか、でもいいんです。眼鏡っ子の座は私だけのものなんだから!!」

そう怨念染みた言葉を投げ捨てて、彼女はその腕にごっつい兵器みたいなものを抱えていた。

「おぉーと!シエル選手!なんと第七聖典を持ち出したぁーー!
今はその影もありませんが、皆さんご存知、彼女の切り札の概念武装です!!」

司会者の女魔術師が実況している。

「ちょっと……埋葬機関の七位っていうから、予想はしてたけど、
まさかこんなことにあんな物騒なもの持ち出すなんてあの人正気……?
ライダーにはあれ、厄介だわ、うん……」
あっちゃぁ……という擬音が似合うそぶりで遠坂が身悶えする。
どうやら、ライダーには余程厄介な物なようだ。

それを聞いたライダーは彼女に進めていた脚を止める。
「聖典を持ち出しましたか、何故かは解りませんが相当必死なようですね」
ライダーが女の子を挑発するかのように言い捨てる。
「魔眼殺しの眼鏡だかなんだか知らないけど、いきなり私の土地に侵略してきた
あなたに何が解るって言うのよ!!」

女は重そうな重兵器を抱えながらライダーの元へと疾走する。
ライダーは短剣の鎖でその兵器の自由を奪う。
と思うも束の間、その刃先に触れていた鎖の一部が突然に消えた。
ライダーとともに召喚された武器である短剣の鎖は、
第七聖典と呼ばれるあの重兵器の前に消え去ったのだ。
不味い、これは本当に不味そうだ。
あれと斬り合ったなら、ライダーの短剣は消滅してしまい。
直撃すれば、ライダーでさえも消え去ってしまうのではなかろうか。
それはたまらない、とばかりに逃れるようにライダーが宙へと飛ぶ。
それを追撃するかのように、黒鍵が投擲された。
俺は、何故か、投げられた瞬間に、今までの投擲とは違うのではないか、
と思っていた。
それをしょうがなく、ライダーは短剣で弾く。

_______それはどんな魔術行使だったのか。
黒鍵を弾いたライダーの体はもの凄い衝撃を受けて吹っ飛んだ。_______












しかし、長引くと思っていた戦いはあっけなくライダーの勝利で事なきを得た。
吹っ飛ばされて戻ってくる内に不味いと思っていたらしく。
ライダーは眼鏡を外して魔眼を開放した。
それを見てしまった殺し屋は動けなくなり、ライダーの勝ち。
無論、観客の一部は、救急班の治療をうけているようだ。




「作者の駄文 そのx」
すいません。これで駄文書くの何回目か覚えてません……
それはともかく、前回、今回ともに進展させてバトルを描いてみました。
全く自信がないのでなんともいえないです。
もう、ばっさりと切り伏せて急展開させてますがいかがでしょうか。
シエルとの戦闘が短すぎる!と思った方すいません(泣
投擲武器とライダーとの短剣でのいい戦闘描写が思いつかずに
1日迷った挙句に、この結果となってしまいました。
ごめんなさい。カレー先輩。眼鏡の座は奪われそうです……


記事一覧へ戻る(I)