「おっはよー!あれー、なんで葉崎君がいるの?」
「帰るのが面倒だったから、泊めてもらったんだ。」
朝も晩もこの虎に餌をやってて、衛宮家のエンゲル係数はどこまでいってるんだろうか。本気で心配になってくる。
「あ、そうそう、葉崎君。あなた、卒業できないわよ。留年だから。」
藤村が猛烈な勢いで食い始めたがそんなことはどうでもいい
留、年?留年って事はつまり、ダブり?ダブりって事はこいつらと同じ学年?いやそこはいい。そこは今問題にするところじゃない。
「藤村、何で俺が留年なんだよ。」
「出席日数足りないから。」
うわ、遠坂はすげえ楽しそうな顔してるし、士郎は『ああ、この人なら』って顔してるし、桜は俺がキレると思ってるのか不安そうだし。
出席日数?確かにだいぶサボってるけど、まだ半分くらいのはずだし。赤点も何とか切り抜けた。そもそも留年が決まる前に追試とかあるべきなんじゃないのか?
「藤村、出席日数は足りてるはずだ。それに留年だって言うなら追試はどうした。」
「あのねえ、授業に出てるっていっても寝てたら意味ないでしょう。50分のうち30分寝てたら欠席扱いになるように校則変わったのよ。」
そう、いえば、一学期の始業式のときそんなことを言ってたかもしれない。
「なら追試は?」
「ふふん、助け舟を出してあげよっか?ただし条件が一つ。」
藤村は俺の質問に答えず、胸を張ってそう言った。
条件?昨日の貸しは藤村にとっては貸しじゃないからあれは対価にはならないだろう。ならいったい何が。
「条件って何だよ。藤村。」
カップを、遠坂が言うには良い葉を使った、紅茶を口にする。
「それよ。」
は?それ、藤村が指差す先には、カップ?
「藤村、紅茶が飲みたいのか?」
「ちっがーーう!!その言葉遣い。先生を呼び捨てにするとは何事ですか!!」
ああ、今藤村のバックにコミカルな虎が浮かんだ気がする。
「つまり、俺が藤村を先生と呼べばいいんだな?」
そうそう、とうなづきながら何枚目かもわからないパンを口にする。ひょっとしてこの家は一回の朝食で1斤、いや2斤ぐらい食ってるんじゃないか?
「卒業してからもさん付けは忘れないようにね。」
ああ、魔力を全部込めて殴りてえ。しばし考え込む。
「断る。お前を先生と呼んだら、お前を教師として認めることになる。それは一度とはいえ教職を目指そうと思ったことがある俺自身に対する侮辱だ。」
藤村及び周囲一同しばし呆然、しかし、口火を切ったのは遠坂だった。
「葉崎先輩。お気持ち、お察しいたします。」
遠坂に一番に同意されるとは思わなかった。多少気味が悪い。
「うん、俺もよくわかる。」
「ええ、私もその気持ち、わかります」
士郎はともかく桜まで同意するとは思ってなかった。こうなると逆に藤村が可哀相になってくる。
「え?う〜〜、セイバーちゃん!?」
先ほどから一言も発してないセイバーを味方に引き込もうとする。が、
「は?なんですかタイガ。その、申し訳ないが聞いてなかった。」
ああ、さっきから我関せずの態度をとってると思ったらそういうことだったのか。要するに必死こいて、いや夢中になって食べていた、と。
「で?藤村,追試はいつだ。」
もう藤村の助け舟なんか要らない。一夜漬けでも赤点はまぬがれられる。
「ああ、あれ?実は嘘。一度でいいから葉崎君に先生、と呼ばせようと思って…、ね。」
藤村が俺のさっきに気付いたのか急に笑顔を振りまく。けど、もう遅い。
う、そ。嘘か、そうか嘘なのか。今まで藤村とは何度かやりあったが、これ程殺意を抱いたことはない。今このときならブルー並みの破壊すら出来そうな気がする。というか、したい。してみせる。
「ふ、藤ねえっ、桜っ、急がないと朝練遅れるぞっ!!」
士郎、藤村を逃がすのか。なら、
「士郎、藤村を逃がすんならお前も俺の敵だぞ。覚悟はいいか?俺としては後輩を壊したくない。」
「い、いや、先輩。藤ねえが悪いって言うのは重々承知してるけどさ。ここは一つ穏便に、物が壊れたりするとあれだし、ね。」
そう話す間も士郎は藤村にアイコンタクトを送り続ける。
「安心しろ、壊れたら直してやる。直すのはあまり得意じゃないが死人以外は直せるだろう。」
「い、行ってきまーす!!士郎、戸締りよろしくねー。」
ちっ、逃げ切ったか。次に会うときは、
「リョウト、何かあったのですか?」
その言葉は、俺の殺意を、根本から砕いてくれた。
下々の者の言動を気にしない発言。
これが、王の貫禄なのだろうか。だとしたら、俺は、絶対に敵わない。
後書き?
一つ言えば、王の貫禄は関係ない。それは、確実に。