聖杯戦争も終わって2ヶ月、ロンドンからの追及もなくなり平穏な日々を過ごしている。
元は俺のサーヴァントだったセイバーは遠坂との再契約によって今もこの時代に残っていることができている。
セイバーは遠坂のサーヴァントなんだから遠坂の家で過ごすべきなんじゃないのか?と遠坂や俺は言ったのに、
律儀にも
「シロウのサーヴァントではなくなったにしろ、貴方の剣になるという誓いはまだ続いています」
なんて言って衛宮家にある離れに居座っている。
まぁ、遠坂も納得してくれたし、俺としてもセイバーと過ごせるのも楽しそうだから住み着く事は嬉しかった。
今日までは・・・・・
「奪え!士郎の愛」
「何やってるの!二人とも!!」
唐突な叫び声で目が覚めてしまった。
「どうしたんだよ遠坂。朝から大声出して」
「―――――なっ」
・・・なんだ?遠坂の肩がプルプルと震えてる。
「ちょっ、どうしたんだよ?遠さ―――か?」
立ち上がって話しを聞こうとする俺の服を引っ張るなにかが・・・
「―――うそ」
頭の中が真っ白になって・・・
同時に顔が真っ赤になっていくのもわかってしまった。
「んっ・・・シロウ」
そりゃ俺だって健全な男の子なんですからそんな無防備な格好で
そんなこと言われたら思わず抱きしめ―――――
いや、そうじゃなくって
「なっ!なんでセイバーが俺の布団で寝ているんだ!!」
もう何がなんだかわかりません。
お互いに服を着ているんだからあんなことやこんなことをやってしまったなんてことはないだろうけど・・・ハッ!
もの凄い殺気が部屋を充満しているのがわかる。
なんていうかイリヤと初めてあった夜の時に似た空気の緊張感が・・・
それなのにセイバーときたら
「ダメ・・・シロウ」
うぅ、ダメだなんて言われたら余計に―――――
だから、そうじゃなくって!
「ちちち、違うんだ遠坂!俺がセイバーとナニしたとかそんな事実は一切なくて」
未だプルプル震えながら殺気を漂わす遠坂に向かって言い分けをしてみる。
・・・まぁまったく聞こえちゃいないだろうけど。
ふぅ、死んだかな?俺。まぁ、ここまで決定的な現場を見られたら(何もしてないけど)仕方がないか。
(ごめん、親父。正義の味方になれなかったよ。)
なんて考えながら最大級のガンドがくるのを待ち構えていたのに遠坂ときたら
「士郎のバカ・・・」
なんて泣きながら走って行っちゃったよ。
「・・・・・えっ?」
泣きながら?あの遠坂が?
まさか!いつもいつも勝ち誇ったように俺を虐めてくる、あの遠坂が?
そんなことって・・・
「―――――あるよな」
そうだ。どんなに気丈に振舞っていても遠坂は女の子だもんな。
「俺って本当にバカだ」
今の遠坂の気持ちぐらい誰にだって分かるよな。
きちんと弁明と謝罪をしに行こう。
でもとりあえずその前に
「セイバー、起きてくれ」
俺の横で未だに眠っている少女に理由を聞かなければ。
「・・・うぅん」
かっ可愛い。このままじゃ理性が吹っ飛びそうになって―――――
いかんいかん!!同じことを繰り返しているじゃないか。
しっかりしろ!俺!!
「セイバー!起きるんだ」
「シ・・・ロウ?」
やっと起きてくれた。
「おはよう、セイバー。早速だけど、どうし―――――」
「しししししし、シロウ!!なぜ貴方が私の布団にいるのです!!」
ずざーっと一瞬のうちに布団を持って距離を置かれてしまった。
・・・ちょっとへこむかも。
「それは俺が聞きたい。ここは俺の部屋だしその布団だって俺のなんだから」
「そんな!・・・っまさか」
「俺が連れてきたとかいうのは無し。そんなことしたら藤ねぇに瞬殺されかねない。第一セイバーだって気がつくだろ?」
確かに、それに私なら0.1秒かからずに動けなくさせます。と言わんばかりに頷くセイバー。
気をつけよう、この家には俺が倒せる人物は存在しない。
「まさかとは思うけど、セイバー寝惚けて俺の所に?」
「えっ、シロウ、あの」
セイバーが遠くの方を見ながら挙動不審になっている。
・・・そんな事ってマジであるんですか?離れにいる人がわざわざ俺の部屋まで来るなんて。
「そっその、以前はシロウの隣の部屋で寝ていたのですから勘違いでその・・・」
それにしたって俺の布団に入るのはおかしいと思うんだけどセイバー。
「はぁ、遠坂になんて言えばいいんだろう・・・」
やばい、気が遠くなってきた。
「凛がどうかしたのですか?」
真剣な顔に戻ったセイバーがそう聞いてくる。
「あー、俺とセイバーが同じ布団にいたところを見られたんだよ。それで怒ってガンドでも撃ってくるかな?ぐらい殺気だってたんだ。けどそのまま泣いてどこかに行っちゃった」
「なっ!!それは本当ですか!!」
そりゃ驚くと思った。なんと言ってもあの遠坂が泣いたんだから。
「迂闊でした。いくら寝惚けていたとはいえこんな・・・シロウ!今すぐ凛の所へ行きましょう。事情をすべて話すのです」
あぁ、俺もそのつもりだ。その為にセイバーを起こして理由を聞いたんだから。
二人で遠坂の部屋の前まで来た。
その間ずっとセイバーは申し訳なさそうに俯いていた。
「遠坂いるのか」
ノックと同時に声をかける。
『五月蝿い、バカ士郎。アンタなんかお呼びじゃないんだから』
なんていうか遠坂の声に張りがない。
「凛、すべて私が悪い。だからシロウを許してあげてもらえませんか?」
『―――――っ!』
遠坂の息を呑む音が聞こえた気がする。
「あれは一種の事故です。私が、その、もっとしっかりしていればあのような事は起きなかったのです。ですからシロウは悪くない。私に責任があるのです」
そこまで庇ってもらうと逆に俺の方が申し訳なくなってくるんだけど。
『ふん。士郎は結構嬉しそうだったわ。そうよね、セイバーみたいな可愛い子といっしょに寝られたんだもの。』
遠坂、その言い方は誤解を招くから止めてもらいたいのだが。
「セイバー、ここは俺と遠坂の二人にしてくれないか?」
「ですが・・・わかりました」
「ありがとう」
セイバーは何も言わずに戻っていってくれた。
さて
「遠坂、なんて言えばいいのかな」
ドアにもたれながら床に座る。
あの夜、墓地で遠坂と背中合わせに話し合った時のように―――
「俺、遠坂が好きだ」
『なっ!なに言ってんのよアンタ』
突然の告白に戸惑ってるみたいだな。
まぁ、こっちも頭のてっぺんまで赤くなってそうなぐらい恥ずかしいんだけど。
「うん、好きだ。俺ってバカだけどそれだけは自信がある」
『・・・だからどうだって言うのよ』
だいぶ落ち着いてきたのか遠坂の声に力強さが戻ってきた。
「えっと、だからさ。無理矢理かもしれないけど・・・俺を信じてくれないか?」
本当に無理矢理だなーって自分でも思う。
けど俺にとっての一番は遠坂だから、そのことは絶対に信じてほしかった。
『―――ふん、そんなこと言われなくても判ってるわ。』
あー、今遠坂が恥ずかしそうにそっぽ向いたような気がする。
よし、今だ!ここで今朝の事の釈明だ!
「じゃあ、今朝のことは―――」
『それとこれとは別問題!』
ダンッ!とドアを思い切り蹴とばされて釈明失敗。
・・・せっ背骨が!!!
完全に寄りかかっていたせいで蹴りの衝撃をもろに受けてしまった。
仕方がない、こうなったら使いたくないんだけど最終手段を使うしかない。
「魔術師の基本は等価交換か・・・」
今俺は人間(俺)にとって最大の禁忌を犯そうとしているかも。
「なぁ遠坂。今朝の事をなかった事にしてくれ。そうしたら遠坂の言うことを一回だけ何でも聞くから」
これで俺が人間として生きる事を否定されるかもしれない。
けどまぁ仕方がないか。悪いのは俺、じゃないけど俺が悪いみたいなもんだし。
さすがにできない事は言ってこないだろう。
なんて考えが甘かった。相手はあの遠坂だ、それに今は御立腹中。
『――――――』
遠坂はしばらく無言でなにか考えていたけど
『そうね。それじゃあ暫く考えるから居間にでも行っておいて』
と言ってなにか作業をしだした。
そういえば朝食もまだだし今日って学校があるじゃないか。
朝から遠坂のことでいっぱいだったからすっかり忘れてた。
後で桜にきちんと謝っておかないと。・・・さすがに本当の事は言えないよな。
セイバーと寝ていたなんて。
「分かった、とりあえずごめんな。朝食食べに来いよ」
さて、遠坂がどんな無理難題を言ってくるか恐ろしいけど今は朝食の準備、は桜がやっているだろうから着替えて学校の準備をしよう。
居間では桜がエプロンをはずして座ろうとしていた。
「先輩、今日はめずらしく起きるのが遅いですね」
よかった、セイバーは何も言ってないみたいだ。
横目でちらりとセイバーを見ると「凛はどうしたのですか?」と心配そうな目でこちらを見ている。
大丈夫じゃないけど「なんとか大丈夫」と笑いかけると安心したように胸元で両手を合わせていた。
うん、嘘ついちゃったけどなんとかなるだろう。
藤ねぇと桜、セイバーと俺がいつもの定位置について暫くしてから遠坂がやってきた。
―――笑顔で。
「遠坂先輩、いいことでもあったんですか?」
違うぞ桜。あれは最大級の悪巧みを実行する前の笑顔だ。
ほら、セイバーだってそれに気がついて固まっているじゃないか。
藤ねぇは我関せずって感じでもくもくと飯食ってるし。
「そうねぇ、桜。とってもいいことが起こるわよ」
ニヤッと俺の方へ視線を送る遠坂。
うっ!背筋が凍る。否!!背筋どころか全身が凍りつく。
こっ、こんな時はセイバーに助けを、ってなんで飯食ってるんだよ。
そんなぁ〜この状況を俺一人で打開しなくちゃいけないのか。
「ななななな何が、おっ起こるのかな?」
「先輩、なんだかどもりすぎてません?」
うっ、明らかに動揺してしまっている。ここは平常心で
「そうよ、衛宮君はなにをそんなに怯えているのかしら?」
「ばっ!なにも怯えてなんかないさ」
それならいいのよ、なんてニヤつきながら自分の指定席(上座)に座る。
少し違和感があったけどそのまま朝食の時間を何事もなく過ごした。
はずだった。遠坂のあの一言を聞くまで
「今日から士郎は私の物だから」
えっ?なんですかその突然の発表は?
ほらみんな何がなんだか分からないって顔してるじゃないか。
「あの、遠坂先輩。それはどういう意味でしょうか。」
桜がきょとんとした顔のまま遠坂に尋ねている、俺も同意見だ。
「どうもこうも今日から士郎は私の物よ。いいでしょ?士郎」
うん、まったくもって説明になってない。
未だ呆然とする俺に遠坂の顔が近づく
「貴方がなんでも言うことを聞くっていったのよねぇ」
あぁ、確かにそう言った。でもそれは―――
「駄目です!!そんなの駄目です!!!」
「どうして?士郎が納得してるのならそれでいいじゃない」
「まだ納得してないけど・・・」
「いくら先輩が納得しても私が許しません!」
「いや、だから納得なんてしてないって・・・」
「あら、桜の許可を得る必要なんてあるのかしら?」
駄目だ、聞いちゃいない。セイバーに助けを乞うように視線をむけると・・・
睨んでる。もの凄く睨んでいらっしゃる。なぜ?
「なぁ、セイバーちょっと助けて―――」
「知りません!」
うっ、せめて怒っている理由ぐらい聞かせて欲しい。
こうなったら不甲斐無いが藤ねぇに賭けるしか
「・・・あれ?藤ねぇはどこに行ったんだ?」
「タイガはもう学校に行きました」
ちょっと拗ねたようにセイバーが言う。
さり気無く時計を見ると
「・・・マジ?」
うん、やばい。なにがやばいってそりゃ
「遠坂!桜!時間がない!遅刻するぞ!!」
「「えっ?」」
二人の声が綺麗に重なる。
「ちょっと、どうしてもっと早く気がつかないのよ!!」
いや、そんな事俺に言われても
「先輩!早く!!」
仕方ないその件についてはまた後で聞こう。
「ほら!士郎もっと速く走って!置いてくわよ!!」
・・・遠坂のやついつの間に俺たちの前走ってるんだ?
ていうか必死だな。やっぱり優等生が遅刻するわけにいかないからだろうか。
桜のやつは・・・あれ?遠坂と並んで走ってるよ。
俺、最下位ですか?女の子二人に負けるなんてちょっとショックだな。
と思いつつも校舎に駈け込むのだった。