この話しを読む方へ
そのいち 正直ジャンルがわかりません、この話。
そのに いまさらですが、多分セイバーEND後だと思われます。
そのさん 個人的には彼女は身長50cmくらいの表情が変わるやつを希望(だからどうした)。
その日、何の前触れもなく奴は、
「ただいまー」
俺の前にやってきた―――!
「ふふふ、まってたわよ!シロウ!」
自立駆動型戦闘機動兵器さーばんと
第二話『その日、うんめいに出会う』
「イリヤ、一応聞くけど何の真似だ、それ」
俺の目の前には見るからに悪役ルックなやたらと派手で露出度の多い黒い服に身を包んだイリヤ。
いや、どっから持ってきたそれ。
「ふふ、聞けばシロウ。あーちゃー君を倒したぐらいでいい気になっているようね」
うん、聞いちゃいねぇ。
「ふがいないリンに代わって、今日は私がシロウの相手をしてあげるわ」
という事は何か。
例の『さーばんと』の2号が完成したというのか?!
「さあ、でできなさい!」
手を挙げて、すかっ、と指を鳴らさないイリヤ。
……うん失敗したんだろう。
どどどどどどどどどどどど。
だが、それでもイリヤの声が聞こえたのか、
どこからか地響きのような音が―――――――――ってなんだありゃ―――――っ!!!
俺の視線の先にはあーちゃー君。
それはいい。
あんなやつ別に、一匹二匹いた所で脅威ではない。
だが問題は――――――。
「ざっと100匹はいるぞ!こいつら――――――――っ!!」
「ふふふ、これぞ私たちの更なる研究の結果!『あーちゃー君 03改』よ!!」
くっ、まさかもう量産化に成功していたとは!
っていうか『あーちゃー君 02』は何処へ消えたんだ!
「ちっ!ここは不味いか!」
いくら木製だとは言っても、あれだけ大勢にぴしぴし叩かれてはさすがにたまらない。
なんとかあーちゃー君の波を押し分け、身を整えられる広い場所に出なくては!
無我夢中で駆け抜ける。
途中ぺしぺしと、なんだか妙にむかつく擬音で叩かれたがなんとか中庭に場所を移す。
「よし!ここなら―――――」
と周りを見渡す。
だが、あれだけ大勢いたはずのあーちゃー君はもはや一人たりとも姿が見えない。
―――――なんだ。
酷く、嫌な予感がする。
「あははははは!掛かったわね!シロウ!」
「なに!」
イリヤの声が周囲に響き渡る。
「どこだ、イリヤは……上か!」
きっと見据えた屋根の上。
そこに悠然と佇むイリヤ。
きっと俺があーちゃー君から逃げている間に必死に登ったんだろう。
服がよれよれになっているのが、涙ぐましい。
「イリヤ…どういうことだ?」
「ふふ、シロウはまんまと罠に掛かったのよ。
そう、あのあーちゃー君はシロウをここにおびき出すための布石に過ぎなかったのよ!」
「な、なんだと…!」
それじゃあ、ここに真打がいるというのか。
慌てて辺りを見回す。
「な…こ、これは、まさか」
それはすぐに見つかった。
いや、何故今まで気づいてなかったのかの方が不思議だ。
中庭のちょうど真ん中に佇む黒い山。
あーちゃー君など比較にならない、いや俺さえもはるかに凌ぐ巨体を持つそれはまさしく……。
「バーサーカー…!」
「そう、自立駆動型戦闘機動兵器さーばんと、その完成型が1つ!『ばーさーかー まーくつー』よ!」
「な、あ…あれが?!」
馬鹿な!
何であんなに普通なんだ!
2回目ぐらいはもっと情けない敵が出るんじゃないのか!こういうのは!
ゆっくりとこちらに向かって歩き出すばーさーかー。
その圧倒的威圧感は本物に匹敵する。
「くっ…!」
思わず気圧される。
当然だ、俺にはあれに勝てるイメージが全く想像できない。
手に持ったその剣が、木製のものであるとしても、
バーサーカーと同じ力で攻撃してくるなら容易に致命傷となる!
ならば後は、あれが本物よりも劣っている事を期待するしかないのだが……
「ふふふ、シロウ。それは期待するだけ無駄ね。
あれはあーちゃー君のような出来損ないじゃないわよ。
バーサーカーと同じく12個の命、すなわち宝石を仕込んである。
つまり!実にあーちゃー君の12倍の能力を秘めているのよ!
あなたにばーさーかーが12回、倒せるかしら?」
なっ…、あーちゃー君の12倍?!
そんな化け物に…敵うはずがない…。
「ようやく分かったようねシロウ。
あなたがどれほど愚かな事をしたか、私たちを敵に回したことを後悔しなさい。
それじゃ、やっちゃえ、ばーさーかー」
その命令と共に、黒い轟音が一気に迫ってくる。
疾い!
そのスピードは本物に勝るとも劣らない!
ものすごい烈風を巻き起こしながら、その剣が振るわれる。
「くっ――――――!」
咄嗟に後ろに飛びのく。
だが、かすりともしなかったというのに、その風は容易に俺をズタボロにした。
その衝撃を殺しきれる筈もなく、俺は地面に叩きつけられる。
「――っか、はっ」
情けなく地面に横たわる。
背中を打ちつけたせいか、ろくに呼吸もままならない。
そんな俺を見下すように、
ゆっくりとばーさーかーが迫ってくる。
くそ…こんな、ところで…。
ばーさーかーがその剣を振り上げる。
だがもう俺には、動く力も残されていない。
覚悟して目を閉じる。
すぐに来る衝撃にそなえて、歯を食いしばる。
……だが、その一撃はいつまで経ってもやってこなかった。
「………?」
なんでだろう。
さすがにイリヤがやめてくれたんだろうか。
ゆっくりと目を開ける。
――――そこには。
「―――――セイバー……?」
俺の目の前に、まるで俺を守るように立ちはだかった後ろ姿。
見間違えるはずもない、
その透き通るような金色の髪も、
鈍く光る銀色の甲冑も、
例えあーちゃー君のような人形の姿であったとしても、
それは、間違いなくセイバーだった。
「大変よイリヤ!!」
「リン?!これは一体どういうこと?!」
「素敵地下工房から突然『せいばーちゃん 00』が逃げ出したのよ!」
「な、なんですって……!」
2人の焦り声が聞こえる。
だが、こっちはまだ余裕がある訳じゃない。
なんといってもセイバーは鎧こそつけているが丸腰なのだ。
ならば―――
「―――――――投影、開始」
するべき事は決まっている。
やる事は以前といっしょだ。
セイバーが武器を持っていないのなら、
俺が使える剣を用意する――――――!
目の前にばーさーかーが立ち塞がっている以上、悠長な事は出来ない。
その工程を一気に済ませ、セイバーの剣を完成させる――――!
「―――――――投影、完了」
俺の右手には一振りの剣。
かつてセイバーの使っていた、黄金の剣カリバーン。
一息で済ませた割には、今までのどの投影よりも優れてさえ見える。
うん、愛の力だ。
「セイバー!これを!」
せいばーちゃんに剣を手渡す。
せいばーちゃんはそれを手にとって、
ぽて
こけた。
「……………へ?」
思わず間の抜けた声を漏らす。
せいばーちゃんは、剣の下敷きになってそこから抜けようと必死にもがいている。
「こ、これは……?」
「あははははは!残念だったわね、シロウ!
その『せいばーちゃん 00』はまだ未完成!箸より重いものはもてないのよ!」
「な、なんだって――――――っ!!」
判明する恐るべき事実。
なっ、なんてこった。
唯一の望みまで絶たれてしまったというのか…。
俺の足元には、いまだもがくせいばーちゃん。
「―――――――――くそっ」
くっ、せっかくセイバーが助けてくれたのに、
こんなところで諦めてたまるもんか!
セイバー、お前が剣を持ってないなら、俺が使える剣を用意する!
その剣をお前が使えないっていうなら―――
俺が使えるようにしてやる!
俺のやるべき事は一つしかありえない。
本来、衛宮士郎にはそれしかないと思っていた、その魔術――――!
「―――――――同調、開始」
セイバーに手を掛ける。
その構成を理解し、セイバーに魔力を流していく。
「イリヤ!まずいわ!」
俺のやろうとしている事がわかったのか、遠坂の叫び声が聞こえる。
だがもう遅い、
「ばーさーかー!やるのよ!」
イリヤの命令が響き渡る。
だから、もう遅いって言ってるのに。
すでにこの魔術は、
「―――――――全工程、完了」
強化の魔術は、完成している!
轟音を立てて振り下ろされるばーさーかーの剣。
だが、
ガキィィン!
それはあっさりと受け止められた。
自らの体よりも長いその剣を。
事も無げに片手で操るせいばーちゃんによって!
本能で危険を察したのか、身を引こうとするばーさーかー。
だが、それも遅い!
「セイバー!行け!」
俺の声にちいさく頷いて、
セイバーの体は一つの弾丸と化し弾ける様に飛んでいく。
それは正に流星が如し。
反撃は愚か、状況を理解する間さえも与えず、
放たれた一撃がばーさーかーの体をなんの手ごたえもなく斬り裂く―――――!
それでも、その勢いは止まらない。
翻された剣によって、
斬り払い、打ち下ろし、薙ぎ払い、突き、裂き、打つ―――――――。
その動作には一寸の淀みもなく、故に一切の無駄はない。
その流れは清流よりもなお澄んで、されどその剣撃は激流よりもなお激しく。
瞬きすらも許さぬ一瞬の間に、
十二の斬撃がことごとくばーさーかーの体を捉えきった――――――!
静かに、崩れ落ちるばーさーかー。
それは、この戦いの終わりを意味していた。
「そ、そんな、ばーさーかーが、負ける、なんて……」
「イリヤ!ここは引くのよ!」
「ばーさーかー、ばーさーかーが…」
「っ!イリヤ!ばーさーかーの為にも!私たちの戦いを、ここで終わりにするわけにはいかないのよ!」
「っく…!シロウ、今日の所はこのくらいで許してあげるわ…
でも覚えておきなさい!いつかあなたは私の手で倒してあげるわ!」
とおっ、って、ぴぎゃ!
な、なに屋根からとびおりてんのよアンタは!
ちょ、ちょっと!ちゃんと受け止めなさいよリン!
ふん、なんで私がそんなことしなきゃなんないのよ!ほらさっさと行くわよ!
な、なによなによ!元はといえばリンがせいばーちゃんを逃がしたりするからこんな事になったんじゃない!
な、なんですってぇ――――………
2人の声が遠ざかっていく。
だけど俺はその場を動けない。
後を追わなければ、とかそんな考えは全て何処かへ行ってしまっていた。
「セイバー……」
静かに、その場に立ち尽くす彼女の姿。
俺を守る為に、命を張って戦ってくれた騎士の後姿。
大きさこそ違えど、それは間違いなく、セイバーの姿だと思えた。
そうだ、まずはセイバーにお礼を言って、それから……
そう思ってセイバーに近づこうとした、その時。
音もなく、彼女の体が地面に倒れこんだ。
「!セ、セイバーっ?!」
駆け寄る、自分の体のことなんか考えもせずにただ駆け寄る。
「セイバー!どうしたんだ、セイバー!」
抱き起こした彼女は、ただ苦しげに目を閉じていた。
「セイバー?!一体……」
その瞬間、イリヤの言葉が頭に蘇る。
(その『せいばーちゃん 00』はまだ未完成!………)
「なっ…それじゃ、セイバー!」
そんな状態で、強化まで使って体を動かした。
本来、とても出来ないような無理な体の行使をした
そんな無茶にその体が耐え切れるはずもない。
「セイバー、それじゃお前は、俺の、為に…?」
俺の手の中で、苦しんでいるセイバーの顔が、少しだけ微笑んだ気がした。
それはまるで、守るべき主を守れた事を誇るかのように。
……自分のふがいなさに嫌気が差す。
俺はまた、自分のせいでセイバーを傷つけて、
こうしてセイバーを失おうとしている。
嫌だ。
そんなのは嫌だ。
そんなことは、絶対に嫌だ。
それなのに、俺1人ではセイバーに何もしてやれない。
なにが正義の味方になるだ。
俺はこうして、自分の一番助けたいものを助ける事も出来やしないくせに…!
「セイバー…俺は…俺はっ!」
もはや俺たち以外の誰もいなくなった衛宮邸。
俺はそこで、ただ叫ぶ事しか出来なかった………。