一人、また一人・・・・
—————やめろ
自分の前で人が死んでいく。
—————やめてくれ
眼前には見渡す限り死体の山。足元は血でできた海が広がり、踏み出すたびに足を濡らす
—————もう、もう嫌なんだ
死体の中には若い男がいた。妊婦もいた。一人では動くことすらできない老人もいた。子を救うため、自らの命を捨てた女もいた。幼い兄弟もいた。ほかにも、たくさん———
—————とめてくれ
それらすべての死体が、絶望をその顔に浮かべていた。
—————誰か、とめてくれ
それでも、繰り返される殺戮殺戮殺戮—————————
そんな光景を延々と見せ続けられる。
—————もう、みたくないんだ
それが、他人によって作り出された光景なら耐えられたかもしれない。しかし————
—————もう、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
それは、自分自身が作り出してしまった光景だった。
「—————っあっはあっはあっはあ・・・・・・・」
ふと、意識が戻った。最悪の気分だ・・・・・
どうやら、また過去の体験を見てしまったらしい。
「ふぅ・・・・あのような光景に、動揺してしまうとはな。あれくらいのもの、何度も見てきただろうに――」
そういって、自嘲の笑みを浮かべる。
—————そう、何度も、何度も繰り返してきたはず。それなのに—————
いまだに、あの光景を見て、動じてしまうことがある。なぜだ————
「ふん・・・・まだ、私の中にあいつと同じ甘い心が残っていた、ということか。」
あいつ、という言葉の中に、限りない怒りと憎しみを込めつつ、そう呟いた。
あいつ—————そう、かつての、愚かだった自分自身—————
この、英霊の座に押し込まれて、どれだけの時間がたったのだろう。————いや、もはやこの身には、時間の概念など存在しないのだ。それを思い出して、苦笑を浮かべた。
ここには、私という存在以外、何も存在しない。飢えも乾きも無く、時間と空間という概念すら存在しない限りなく無に近い世界。そこに存在する私も、限りなく無と同意であり、ただ、守護者として召喚されることを待つことしかできない。
それでも、自己の意識が存在するのは、自らの器を越えた奇跡を願った「英雄」という存在に対する呪いなのだろうか—————そう思うことがある。
「だとすれば、これは最悪の呪いだ————」
私は、そう吐き捨てた。
そう、守護者には確かに自分の意思がある。だが、自由意志は存在しない。
いくら、意味の無い殺戮を拒もうとしても、守護者として呼び出されれば、ただ機械的に殺戮を繰り返す—————そして私は、生み出された惨劇を見ることしかできない。
「くっ、くくっ・・・・」
滑稽だった。
契約を結んだあの時、あのころの私はこれで死んでも人を助けれる、人を幸せにすることができる—————そんな風に思っていた。
守護者、霊長の抑止力—————その言葉が意味することも、知らずに————
霊長の抑止力————それは、世界が人の手によって滅びようとする時、その原因を排除するための力—————
そんなものが、人を救えるはずが無い、悲劇をとめることなど出来はしない。
なぜなら呼び出された時、すでに悲劇は起きた後なのだから—————
守護者が行うのはその後始末、その場にいる人間のすべてを排除することのみ。
————正義の味方、そんなものはただの夢物語だ—————
そう思うまでにさしてかからなかった。
もはや、心は磨り減り、記憶も薄れ、最後に信じていたものも否定された———
私に残されたのは、こんな呪文のみ。
—————体は剣で出来ている。
そう、この身は人ではない。
—————血潮は鉄で 心は硝子。
暖かき血など流れてはいない。人の心など当の昔に失った。
—————幾たびの戦場を越えて不敗。
ただの一度も敗走は無く。
ただの一度も理解されない。
他人の理解など必要ない。そいつもいつか、私を裏切るのだから。
—————彼のものは常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
そう、私は常に一人だった。他の人間はすべて、私が殺してしまうのだから。
—————故に、その生涯に意味は無く。
その体は、きっと剣で出来ていた。
私————エミヤ シロウという人間の生涯に、意味など無かった。大切なものは自らの手で捨て去り、その心にあったのは借り物の理想。そうして、すべてを捨てても貫いてきたその理想すらも偽物だった—————後に残るは、ただ人を殺し続けるためだけの存在のみ。
「くく・・・・くくく・・・・・・」
内より湧き出てくる衝動に身を任せ、笑い続けていると—————
—————ふと、金色の髪の少女の顔が、脳裏をよぎった。
「あの娘は、誰だっただろう・・・・・・」
もうはっきりとは思い出せないほどの過去—————そう、愚かだった自分にとって最も大切なはずだった存在—————
—————心のどこかが、ちくりと痛んだ。
「—————なぜだ。」
なぜ、心が痛むのだろう。かつての自分、エミヤ シロウの心など、とうに捨て去ったはずの自分が、なぜ—————
そのわけを、知りたかった。
この英霊の座についてから、初めて持った、後悔や憎しみ以外の感情だった。
「・・・・・・ん?」
また、呼ばれているのを感じた。
「またか・・・・・・」
ふぅ、とため息をつく。また無駄な殺戮をすることになると思うと、心が重い。いっそ、自分という存在を消してしまいたい、そう思う。
しかし—————
—————あの娘に、会えるかもしれない—————
そんなことを思った。
理性では、そんなことなどまずありえない、とわかっていた。しかし、もしかしたら、もしかしたら—————
そんな奇妙な期待感が心を占める。
この召喚でなくともかまわないいつか、いつかきっと—————
—————そう、私には時間の概念など存在しないのだから—————
「ではまあ、いってみるとするか」
そう呟き、私は今回の召喚の地へと、意識を向けた。
あとがき
つ、続けてしまった・・・・・(汗
・・・え、え〜今回は、英霊となった後の彼の話を書いてみました。いかがでしたでしょうか。
誤字脱字、この文はこんな感じのほうがええで〜〜〜などの意見がございましたら、ぜひメールをください。で、できれば感想なども・・・・
続き物になってしまったので、たとえお一人でも呼んでくださる方がいれば、続けたいと思っています。では、この辺で。