「ようこそおいでいただきました。凛・遠坂様に士郎・衛宮様ですね」
玄関で迎えてくれたのは執事のウィンフィールドさんだった。今日は俺もお客様扱いなので様付けである。
…あれ?いま…
と、ウィンフィールドさんがセイバーの事を視線で問う。あ、言ってなかったっけ?
それを受けてセイバーがすっと前に出る。
「凛のサーヴァントのセイバーです」
「セイバー様ですね。ようこそ」
「こちらこそ。貴方がウィンフィールド殿ですね。シロウより伺っています。大変優れた忠臣だと、いつかお会いしたいと思っていました」
堂々と述べるセイバー、身長差でセイバーが見上げ、執事さんが見下ろしているのに真逆に見えてしまうほどだ。さすがのウィンフィールドさんも目を見開いて軽い驚きを表し、徐に深々と一礼をした。
「有り難きお言葉痛み入ります。主に成り代わりまして御礼申し上げます」
うむっとばかりにセイバーも応える。
うわぁさすが王様…
普段は気にもしていないが、出るところに出れば貫禄というか威厳が違う。
遠坂もちょっとばかり毒気を抜かれたのか、客間に案内されるまでは少しばかり大人しくしていた。
きんのけもの
「金色の魔王」 第二話 完結編
ル キ フ ェ ル
「お嬢様、お客様をご案内してまいりました」
「そう、お通しして頂戴」
鈴を転がすようなルヴィア嬢の応え。声でわかる。あっちも気合はいりまくってるなぁ…
その声にぐっと気合を入れなおす遠坂、流石に声音で相手の気合がわかったのだろう。
ずんずんと音が聞こえるほどの勢いで客間に入り両者対面…
…
…
あれ?
…
…
いきなり静かになった。
俺はセイバーと顔を見合わせてそろそろと客間に入った。
凍っていた。
今日は家であるにもかかわらずドレス姿、つまり覚悟完了なルヴィア嬢はソファーから立ち上がり呆然としている。遠坂も同じだ客間に入ったそのままの姿勢で唖然と固まっている。
静かな室内、一人だけいつもと寸分も変わらない執事さんがお茶を入れる音だけが響く。
俺は今一度セイバーと顔を合わすと恐る恐る声をかけた。
「え〜「シロウ!」」
「士郎!」
二人が二人、同時に俺に叫んでくる。
「いったいどういうことですの!!」
「なんなのよ!これ!!」
そして今度は敢然と意思を込めた視線で両者にらみ合う。
邪眼って物質化するんだぁ…などと現実逃避しようとする俺を奮い立たせ、まずルヴィア嬢に向かって遠坂を紹介した。
「え〜と…ご紹介します。こちらが俺の師匠の遠坂凛女史です」
で、次に遠坂にルヴィア嬢を…
「で、こちらが俺の雇い主でこのお屋敷の主、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト嬢です…」
視殺戦が続いている…俺は天を仰いで言った。
「……言ってなかったっけ?」
俺はとてもお間抜けな事を言ったらしい…
「「聞いて(おり)ません!!」」
俺は二人の物質化するほどの密度を持った邪眼に貫かれた。
なんとか全員席について小一時間後。
執事さんがいつもと寸分変わらぬ態度で、セイバー以外は誰も口を付けぬうちに冷めてしまった紅茶を入れ替えた。
ちなみにセイバーはケーキのお代わりを頂いている。実に幸せそうだ。いいなぁ…
ここでようやく遠坂が口火を切った。
「ミスエーデルフェルト。本日のお招き有難うございます。貴女からご招待いただけるなんて夢にも思いませんでしたわ」
「ええ、ミストウサカ。わたくしも貴女をお招き出来るなんて望外の思いですわ」
まずはジャブ…世界戦でもこんな緊張感は無いだろう。
「私と貴女の仲ですもの、すぐに本題に入っても失礼にはなりませんわね?」
「そうですわね。その為のお招きしたのですから。わたくし達の間で余計な気遣いは無用だと思いますわ」
『無駄口叩いてる暇なんぞねぇんだ!ちゃっちゃと本題入るぞ!』『当たり前だ、余計な事言うんじゃねぇ』
俺にはそう聞こえた…
遠坂もルヴィア嬢も淑女の笑みで受け答えをしている。もちろん目は笑っていない。写真か絵にすれば昼下がりの午後、静かにお茶を頂く美女三人で凄く絵になるんだろうが、実際にそこに身をおくものとしては神経を鑢がけされている気分だ。
「お世話になっている不肖の弟子についてお話しがあるとか。私の弟子であることはご存知で無かったようですが?」
「ええ、確かにわたくしの所の従者が貴女に師事していることは存じませんでしたわ。ところで…そのお弟子さんの主が何方であるかは勿論ご存知でしたわね?」
二人とも…怖いよ…
「あの、よろしいですか?」
凄まじい緊張をものともせずにセイバーが割り込む。さすが王様。
「あら、貴女は?」
「凛のサーヴァントのセイバーです」
「ああ、貴女が」
この静かな決闘のさなかでもルヴィア嬢はセイバーに興味を持ったようだ。
それはそうだろう、使い魔といってもセイバーはサーヴァントだ。つまりは英霊。かって英雄として活躍し死後人々に祭り上げられた精霊以上の亜神。これに興味を持たない魔術師などありえないだろう。
「はい、今日は凛とシロウの付き添いで参りました。凛とのお話中失礼と思ったのですが、私も聞いておきたいことがあったので割り込ませてもらいました」
「わたくしに?よろしいですわ、お話になって?ミストウサカ。貴女もよろしくて?」
「ええ、私もセイバーがどんな事を聞きたいか興味がありますわ」
セイバーはそれでは、と紅茶を一飲みしてルヴィア嬢に聞いた。
「ルヴィアゼッタ嬢はシロウを弟子にしたいと聞きました。ですがシロウはすでに凛の弟子。魔術師のことは良く分からないのですが、こういったことは良くあるのですか?」
いきなり直球で本日の核心を突く。さすがセイバー。
二人ともセイバーの言外の意味を汲み取ったかいささか苦い顔になる。早い話がとっとと話を進めたらどうか?と言われたのだ。
遠坂の肩からふっと力が抜ける。ようやくお茶に口をつけたルヴィア嬢がセイバーに応えた。
「めったに…というよりまず普通はありえませんわね」
「師匠が途中で死んじゃうとか、そういった場合くらいね。まぁ他の魔術師に講師を頼むこととかはあるけど」
どっかと座りなおした遠坂が後を続ける。
「幾人もの師を渡り歩く方もいらっしゃいますけど、そういう方は余り大成しませんわね」
「弟子を取り合う魔術師なんて聞いたことも無いわ」
「わたくし弟子を下働きに出した魔術師というのを最近、聞いたことがありましてよ」
「私も他の魔術師の弟子を下働きに雇った魔術師を知ってるわよ…」
なんか妙に息が合ってないか?お前ら
話題がどんどんずれていくのをルヴィア嬢が仕切りなおす。
「ともかく、わたくしはシロウを買っていますのよ。特異な属性というのはそれだけでも価値がありますわ」
あれ?
「そうかしら?属性の関係上戦闘に特化しがちな難点があるわよ?」
「それは考え方次第じゃなくて?こと”戦い”に限れば応用範囲はかなり広いですわ」
「類感で打撲武器や投射武器、感染で盾や防具。近代兵器は無理。そこまでは確認済みね」
「”道具”というクッションは必須ですの?上位属性まで遡って直接外界へ魔力を通す道がありそうですけれど?」
「そこが問題なの士郎は『創る人』なのよ、だからそれ以外の用途での上位属性へのパスがえらく狭いの」
ウェポンスミス
「『武具製作者』と言ったところですわね。その為の用意は出来ますの?」
「ええ、ご安心くださいミスエーデルフェルト。本家本元のシュトラウスの工房に伝がありますのよ」
「あら?シュトラウスは少々無骨すぎましてよ?わたくしならアトラス院の流れを汲む伝がございますわ」
「アトラスの流れなんか汲んだら秘密漏洩で闇に葬られかねないじゃない!」
なんか俺の知らないところで俺の進路が決められそうな勢いである。
しかし…
「楽しそうですね」
セイバーがポツリと呟いた。
あんなに青筋立てて、こめかみを引くつかせてはいるが、確かに二人とも楽しそうだ。
考えてみれば二人ともずっと対等の存在とは無縁だったのだろう。遠坂はたった一人の魔術師として、ルヴィア嬢は常にエリートの頂点として。いや、遠坂のほうがましかもしれない。少なくとも魔術師以外なら本当の友人を持っていた。勝負は徐々に遠坂に傾きつつあった。条件が対等ならやはり奪うより守るほうが有利だ。
「ところで、ミスエーデルフェルト。何でこいつなの?魔術師の才能ないし半端ものよ?貴女がほしがるようなもんじゃないわ」
暗に俺は無価値だぞと言いながら遠坂が言う。半分は本当だが半分は嘘だ。遠坂は俺の「固有結界」を知っている。だがルヴィア嬢は知らない。
だからこそ、ここで俺を無価値だと宣言して勝利を決定付けるつもりなのだろう。
だけど…まずい
それはまずいぞ、遠坂…
「本気ですの?」
ルヴィア嬢の空気が変わった。真剣な、憤りさえ感じさせる表情だ。
ああ、そうか。
ルヴィア嬢は相手が遠坂だと知った時、俺の資質に付いて分かっているものと判断したんだ。
だから敢えてそのことに触れなかった。
なのに…
「本気よ、まぁそれでもコイツを出来るだけ引っ張ってくつもりだけどね」
あからさまに呆れたように言う遠坂。だから…それはまずいんだって…
「本当に…本気ですわね…」
ルヴィア嬢は心底落胆したように呟くと、執事さんを呼んだ。
「ウィンフィールド、あれを」
執事さんは流れるような動作で彼女に宝石箱と眼鏡を渡した。
ルヴィア嬢は箱を開け例の紅玉の薔薇を取り出すと、眼鏡をかけ数枚の花びらを微調整する。
遠坂は自分の仕掛けの手ごたえに当惑した様子で、そんなルヴィア嬢を不審そうに見ていた。
「本当は明日の講義でお見せするつもりだったのですが…ミストウサカ、これがなにか解かりまして?」
ルヴィア嬢は紅玉の薔薇をテーブルの中央に置くと遠坂に問い掛けた。
遠坂はしばしその魔具を眺めた後、本当に不審そうに言った。
「また高い宝石使って詰まらないものを…燭台でしょ?魔力を通すと魔法陣が浮かんで中央に幻影かな?そりゃ細工は良いけれど…」
そんな遠坂の言葉に冷ややかに頷きながら、ルヴィア嬢は薔薇の中央に魔力石を置きコマンドを呟いた。
ほのかに光りだした宝玉は魔方陣を浮かび上がらせ…
はっとしてルヴィア嬢を見る。あの眼鏡…いつもの遮魔眼鏡…まずい!
俺はなりふりかまわずに飛び出し、魔具から宝石を叩き落とした。
「ルヴィア!」
さすがに俺も怒鳴りつける。こいつ…遠坂を固める気でいやがった。
「そんなに怒鳴らないで頂戴。貴方が飛び出してくるのはわかっていましたわ。だってシロウは知っているでしょ?」
「そんなこと問題じゃない!騙し打ちだぞ!これじゃ!!」
余りに平静なルヴィア嬢の受け答えに俺の激昂は募る。しかし、こちらを向いたときの彼女の瞳に映る寂しげな光に怒りは静まっていった。
「ごめんなさい、シロウ。謝りますわ。でもね、これは必要なことなの。ミストウサカにこの事をお知らせするためにはね」
「ミスエーデルフェルト…貴女…」
ようやく事態に気がついた遠坂が殺気の籠った魔術師の目でルヴィア嬢を睨みつける。だがルヴィア嬢は哀しげとも言える様な瞳でそれを封殺する。
「ミストウサカ。今なら貴女にもこの魔具が何かお解りですわね?発動直前までいったんですから」
「ふざけた真似をしてくださるわね『栄光の手』のトラップだなんて…」
片手を上着のポケットに入れ、今にも魔術を解き放とうと構えながら遠坂が詰め寄る。
だが、ルヴィア嬢は相変わらず遠坂を寂しげに見詰めるだけだ。
そして、ポツリと呟いた。
「でもねミストウサカ。シロウは一目で見破りましたわ」
瞬時に遠坂の顔色が変わる。その一言だけでルヴィアが何を言いたいか悟ったのだろう。
そっとポケットから手を出す。微かに震えた手には何も握られていない。ちらりとだけ俺を伺う目に一瞬泣きそうな影がよぎった。
だが、ルヴィア嬢は容赦しない。
「今はまだ半人前ですけど、シロウは間違いなく人並みはずれた資質を持った魔術師ですわ」
さらに続ける。責める声はあきらかに高くなっていく。
「構造解析能力とでも言ったらいいのかしら?一目でこれだけ複雑な魔具の最終効果をはじき出しましたわ。魔力の流れから魔法陣の形、その効果、さらに波及効果まで…読んだ訳でも解読したわけでもなく瞬時に『解かった』のですわ」
淡々と、だが決して防御できない部分に突き刺さる。
「この能力と彼の特化した属性、これらを考えれば明らかですわね?シロウは間違いなく専門魔術師として大成しますわ。少なくともわたくしなら大成させられます」
そして、悲鳴のような響きでルヴィア嬢が止めの一撃を放った。
「ミストウサカ、師である貴女が何故それをご存知でないの?」
お前は師として弟子の最良とも言うべき資質を見抜けなかった。彼女は遠坂にそう言ったのだ。
つまり…お前は師として失格だと。
遠坂はそれでもルヴィア嬢を睨みつけていた。
何か手は無いか、どこかに付け入る隙は無いか…最後の最後まで粘りぬくつもりだろう。だが同時に自分が取り返しの付かないミスをしてしまったことにも気がついている。
だが最後の言葉は遠坂が言わなければならない。ルヴィア嬢は最後まで攻め手を休めないだろう、彼女は魔術師なのだから。
だがその一言を言えば遠坂は折れてしまう。ルヴィア嬢も同じようなものだ、ようやく手に入れようとした好敵手はここで消える。明日からはまた一人だ。
これで積みだ。
遠坂は最後にしくじった。
俺を『才能の無い半端もの』と断定した時点で負けたのだ。
いまさら俺の「固有結界」を持ち出しても手遅れだろう。ルヴィア嬢なら遠坂以上にこの秘密を厳守するだろうし、「固有結界」を知らずに俺の資質を買ったルヴィア嬢と「固有結界」を知っているが故に俺の資質に気がつかなかった遠坂ではそれこそ勝負にならない。
魔術師であればあるほど、遠坂は追い詰められる。魔術師であればあるほどルヴィア嬢は遠坂を追い詰め無くてはならない。
これは戦いなのだ。魔術師は魔術師になった時から命を掛ける事を強いられる。戦うという事は命を掛けるということなのだ、魔術師たるもの初めからそんなことは分かりきっているはずのものなのだ。
なのに…
なのに何故俺はあの二人をこうまでに痛々しく感じるのだろう。
俺は何も出来ずに二人を見ていた。
魔術師なら当然だ、俺に出来ることは無い。
三人の魔術師はただ結末を待つしか出来ることは無かった。
ふと、視線に気がついた。セイバーが俺を見据えている。
やさしく厳しい目で俺を見据えている。
あなたには出来ることがあると、衛宮士郎には出来ることがあると。
執事さんも俺を見ている。
いつもとは違う、私の眼鏡違いだったのかな?とでも言いたげな視線だ。
だけど魔術師である限り俺には何も…
あ…
俺はようやく間違いに気がついた。
だから言った。遠坂がきっと顔を上げ何かをつむぎだす前に言った。
「遠坂、そこまで強くなること無いだろ?」
一瞬で場が変わった。遠坂とルヴィアの二人があっけに取られたように俺を見ている。遠坂のほうは…あ、赤くなってきた。
俺は立ち上がって二人の間に立った。
「ごめん。俺やっぱりルヴィアの弟子にはなれないよ」
「シロウ?」
あっけに取られて俺を見上げるルヴィア嬢は何か小さな子供のようだった。俺は彼女に諭すように言った。
「ルヴィアも今ので分かったと思うんだけど、遠坂ってここ一番で抜けてるだろ?だからさ、俺が傍で付いててやらないと、どこかで転びそうで見てられないんだ」
呆けた顔でみるみる真っ赤に染まっていく遠坂を一瞥し話を続ける。
「遠坂はさ、魔術師だからきっとうんって言う。うんって言って胸を張って家に帰り、そこで泣くんだ。
遠坂を泣かせたくないから。ごめん、ルヴィア。俺は君の弟子になれない」
「士郎!」
遠坂が真っ赤になって立ち上がる。でもごめんな、まだ遠坂の相手は出来ない。
「卑怯ですわ…」
今度はルヴィアが俺を睨む。なんだか泣きそうにも見えるのは気のせいだけじゃないだろう。
「でも、ルヴィアだって嫌だろこんな相手のプライドを盾にとった踏みにじるような勝ちは」
「勝ちは…勝ちですわ…」
ルヴィアは拗ねるように視線をそらす。
「違うだろ、ルヴィアがほしい勝利っていうのは遠坂に心底『参った』って言わせる勝利だろ?
こう、仁王立ちして高笑いしながら遠坂を見下ろして『許して差し上げますわ』とか言うような」
「そ、そんなこと言うわけありませんわ!馬鹿にしないで頂戴!」
真っ赤になって反論してくるルヴィア。でも…一瞬視線そらせたよな…もしかして…こういうこと考えてたのか?
「うん、でもこんな勝ち方だときっと後悔すると思うから。今日は勘弁してほしいんだ」
「そんなにわたくしの弟子になるのが嫌なの?」
確認するように俺をまっすぐ見据えてルヴィアが聞いた。
「嫌じゃない、ルヴィアの弟子になって色々な事を学んだり憶えたりするのはきっと愉しいことなんだろうと思う。ルヴィアのこと嫌いじゃないし。むしろ好きだぞ」
「シロウ…」
「士郎!!」
なにか随分と趣の違う声音で二人が同時に俺の名前を呼ぶ。
「…シロウ…」
あ、セイバーも一拍遅れて呆れたように呟いた。
俺は真っ赤になってむくれる遠坂に一度笑い掛け、どこか呆けたような顔のルヴィアと向かい合った。
今まで伝えていなかったけど、これだけは伝えておかなければならないことだった。
「それとね、ルヴィア。俺、本当は魔術師になりたいわけじゃないんだ」
ルヴィアは今度こそ本当に驚いて俺を見上げる。遠坂は俺が何を言いたいか気がついたか呆れたよう顔をしている。
「俺はね、『正義の味方』になりたいんだ」
「あ〜もう、なに馬鹿言ってるんだか…あ〜馬鹿、本当に馬鹿、とんでもない馬鹿」
遠坂が脱力したようにどすんとソファーに腰掛けた。
「馬鹿は無いだろ、馬鹿は」
せっかく決めたのにこうも馬鹿馬鹿言われると腹が立つ。
「本当に馬鹿ですわね、呆れ果てて…なにか…もうどうでも良くなってしまいましたわ」
さっきまでのウルウルは何処へやら、すっかり呆れ返ったルヴィア嬢が疲れたような笑いを浮かべる。視線がえらく冷たい。
でもセイバーと執事さんなら…
…やっぱり呆れている…
泣きそう…
「ミストウサカ」
「なにかしらミスエーデルフェルト」
「気が殺がれました。シロウをわたくしの弟子にと言う件、今回は取り下げますわ」
「了解しました、私もミスエーデルフェルトが起こしたちょっとした事故のことは忘れますわ」
しっかり借しについて言及するあたりはさすがだな遠坂。一瞬ルヴィア嬢の眉がぴくりと震えたが優雅な顔は小揺るぎもしない。
「あら、それは感謝しますわ。でもミストウサカ。わたくしがシロウの資質を買っているのは間違いなくてよ?彼は間違いなく貴重な人材、誤ることなく指導してくださいね」
「ええ、その点は安心してください。同じ間違いは二度と繰り返しませんわ、今後もきっちり指導していくつもりですもの」
あ〜つまりこれから俺の魔術の勉強は二人に監視されるって事だな…
「シロウ、貴方のために用意した部屋は残しておきますからね。分からない事や必要なものがあったら何でもわたくしに言ってくださいね」
ルヴィア嬢が艶っぽい視線を俺に送る。それ…わざとでしょ
「あら、ミスエーデルフェルト。御厚意は感謝しますがそれでは余りに士郎を甘やかしすぎますわ」
アンタ帰ったらじっくり話し聞かせてもらうわよっと遠坂がにっこり笑う。
「だって大切な友人のお弟子さんですのよ、便宜は出来るだけ計らいたいですわ」
まさか断ったりしませんよねっとルヴィア嬢が上品に微笑む。
頼むから…頼むから二人とも会話するときはお互い見ろよ。俺のほう見ないでさ…
───────────────────────────────────
喧騒をよそに、客間の一角ではセイバーが黙々とケーキを食べていた。
「ケーキのお代わりはいかがですか?セイバー様」
「ええ、頂きます。でも…いいのですか?あちらをほって置いて」
先ほどとは別の意味で不穏な空気に包まれつつある場所を指し示し、セイバーが尋ねる。
「ああ、衛宮君に任せておけば大丈夫でしょう。彼は期待に応えてくれる男ですから」
セイバーはその返答に納得して、コクコクとケーキを頬張った。美味しい、出来ればお土産もほしいところだ。眼前に繰り広げられる騒動を目で、まろやかな広がる甘みを口で味わいつつ、セイバーは幸福を実感した。
ふと横を見るとウィンフィールドが嬉しそうに自分の主を眺めている。そんな彼を見ながらセイバーは、幾つかの疑問が思い浮かんだ。彼は確か私たちが訪問したとき凛の名前を…
セイバーは直接本人に尋ねる事にした。
「ウィンフィールド殿?」
「なんでしょうセイバー様」
「もしかしたらなのですが、ウィンフィールド殿は最初からすべてご存知だったのでは?」
「難しい質問でございますね、セイバー様」
ウィンフィールドはいつもと寸分も変わらぬ物腰で応えた。
「こういうお答えではいかがでしょう? 私は執事でございます。常に主の最善を模索し、最善となるべく行動するよう勤めております」
いくぶん抽象的な答えであったがセイバーは納得した。確かに彼の主は昨日より今日、今日より明日のほうがより良く生きれるだろう。
それは士郎と凛に知り合ったセイバーが一番良く知っている事だった。
END
───────────────────────────────────
容量の関係で各節間の区切り等に一部お見苦しい点があった事をお詫びします
by dain