聖杯戦争 冥徒(中略)ひっすぃ〜Ver. 第01話


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1: 冥徒二十七祖四位洗脳探偵ひっすぃ〜 (2004/03/05 22:34:16)

 あの後一波乱あった。

 アルトリアが同じ部屋で寝ると言い出したのである。

 確かに一理ある、攻められたら大変だ。

 しかし、俺の平穏のために隣の部屋と言う妥協案で手を打ってもらった。

 ……最後には思いっきり不機嫌そうな顔で「…判りました」なんて仰ってましたが。





「…………、ん」

 窓かた差し込む陽射しで目が覚めた。

 陽はまだ昇ったばかりなのか、外はまだ仄かに薄暗い。

「……さむ。さすがに朝は辛いな」

 朝の冷気にまけじと起きあがって、手早く布団をたたむ。

 時刻は五時半。

 どんなに夜更かしをしても、おおむねこの時間に起きる。

「そういえば、昨日アルトリア――いやセイバーか、を召喚したんだよな……おいしい朝飯を作ってやらないと」

 桜がやってくるまえにササッと支度を済ませてしまおう。



「よし、こんなんでいいか」

 そろそろ六時。

 思ったより早く終わったんで時間を持て余してしまう。

 さて、余った時間で何をしたものか。

「――そうだな。これだけ時間があれば一汗流せるか」

 アルトリアとの手合わせも悪くないが、彼女はまだ眠っている。



「……さて」

 魔術師と言えど体の鍛錬を怠ることは出来ない。

 優れた身体の力を持つ、という事も魔術師の条件の一つだ。

 腕立て伏せとか腹筋運動とか柔軟とか…、一通り体を動かす。

 親父が死んでからはこんなものである、部活等でやってる練習と変わらない。



「おはようございます先輩。今夜はもう済んでしまいましたか?」

 道場に行っている間に、桜が来ていたようである。

 間桐桜――遠坂家より間桐家に養子に出された、間桐家次期当主である。

 本当はそんな運命から開放してやりたい。でも俺なんかに解決できる問題ではないのである。

 今はとにかく俺の家族として平穏の中にあって欲しい、それに俺も彼女と一緒にいたい。

「あ――ああ、朝食の支度なら済んでる。あとは食器の支度と、魚に火を通すだけ」

「あ、それならお手伝いします。食器の支度は任せてください」

 むん、とはりきる桜。

 そんな健気な後輩の後ろを、

「あ、この匂いは士朗の卵焼きね。そっか、今朝は士朗の朝ごはんなんだー」

 藤ねえがのんびりと食卓に移動していく。

「……まあ、アレはほ放っておいて。桜、皿は真ん中のヤツを使ってくれ。その方が旨く見えるから」

「え……? あの、この表面がブツブツのですか?」

「それそれ。焼き物は皿にも気を配らないと片手落ちだからな」

 よいしょ、と棚の奥に手を伸ばして皿を取り出す桜。

「――――」

 身を乗り出す桜の手首に、令呪のようなものが見えた。

 あれは令呪だよな。

 アルトリアは霊体になれない以上、桜に普段の生活でも見られることになる。

 そうである以上このことに触れないほうがいいな。



「シロウ、おはようございます」

 その言葉に場の空気が凍った。

 自分の間抜けさが嫌になる。

 桜と藤ねえにアルトリアが会うのは判っていたのにその後の事態を考えていなかった。

 ここは、

「あ、ああ、セイバーおはよう。桜、藤ねえ紹介忘れてたけど、昨日の夜親父を頼って訪ねてきた遠い親戚」

 誤魔化す。





「親戚ってなによーーーーーー!!!!!」

 虎が吼えた。

 しかし、ここで引くなんてことはできない、誤魔化し通さなければ。

「だから親戚だよ、親父への客人を無碍にはできないだろ」

「そんな作り話信じられないっ。だいたいね、仮にそうだとしてもどうして衛宮の家に来たのよ。切嗣さんに外国の知り合いなんている筈な――――」

 い、とは言い切れまい。

「―――ないとは言い切れないけど、それにしたっておかしいわ。あなた、何の為にここに来たのよ」

 む、セイバーを睨む藤ねえ。

「いや、だかたそれは」

「士朗は黙ってなさい。えっと、セイバーさん? わたしはあなたに訊いてるんだけど」

 やばい、アルトリアにこんなことになるなんて話してない。

 それに、俺の嘘に合わせられる器用さがアルトリアにあるとは―――

「さあ。私は切嗣の言葉に従っただけですから」

 ―――あった、みたいだ。

「―――む。切嗣さんが士朗を頼むって?」

「はい。あらゆる敵からシロウを守るように、と」

 静かに。

 これ以上ない潔白さで、アルトリアはそう言った。

 ……反論することが誰に出来よう。

 たとえそれが嘘でも―――そう口にするアルトリア自身の心には、それが絶対の真実だった。

「………………」

 さすがの藤ねえも今の言葉には反論できない。

 藤ねえが納得すれば桜も納得するはず、これで―――

「……いいわ。そこまで言うんなら、腕前を見せてもらうんだから」

 ―――いかなかった。





 で。

 風雲急を告げるような効果音を背負って、藤ねえは俺達を連れ出した。

「………………」

 んでもって、壁に立てかけてある竹刀を手に取って、セイバーを睨み付ける。

 ……さて。

 我らが藤ねえは、いったい何を考えているのだろうか。

「あなた。士朗を守るって言ったわね。なら少しは覚えがあるんでしょ」

「―――私に剣を持て、ということですか」

「そうよ。あなたが私より強かったら許してあげます。けど弱かったら家に帰ってもらうからね」

「……構いませんが。それはどういった理屈でしょうか」

「士朗を守るのはわたしだもん! 士朗が一人前になるまで、わたしがずっと側にいるんだから!」

「――――――――」

 藤ねえが何が言いたいか、アルトリアにはよく分かっていないようだ。

 もちろん、周りのみんなもよく分からない。

「だーかーらー、わたしより弱いヤツはいらないの!
あなたがわたしより強いっていうなら、わたしより頼りになるでしょ。それなら士朗を任せてもいいわよーだ」

 拗ねたように竹刀を弄ぶ藤ねえ。

「―――解りました。貴方を納得させれば良いのですね」

「そうよ。けど、わたしを納得させるのは大変なんだから!」

 言うが早いが、ダンッ!と大きく踏み込んで、藤ねえはアルトリアへと竹刀をたたき込む……!

「うわあ、藤ねえメチャクチャだー!」

 不意打ちどころかアルトリアには竹刀すら与えられてないじゃんか、それでも教師かタイガー!

「?」

 藤ねえの奇襲に面食らったのか、アルトリアはぼんやりと立ちつくしている。

 そこに炸裂する、藤ねえの小手先胴――――!

「あれ?」

 不思議そうに首をかしげる藤ねえ。

 ……そりゃそうだ。

 端から見てるこっちでさえ不思議なんだか、当事者の藤ねえなんてバビロンの空中庭園なみに不思議だろう。

 でもアルトリアってホントに強かったんだな。

 情報では知っていたがあの藤ねえに武器無しで勝つんだからその実力は計り知れない。

「――――――――」

 アルトリアは突っ立ったままだ。

 奪った竹刀を構えてさえいない。

「あ………ほんと?」

 あくまで構えをとらないアルトリアを前に、藤ねえは固まったように動かない。

 目の前の相手が次元違いだと悟ってしまったのだろう。

「……構えろというのでしたら構えますが。そこまでしなければ判らない腕ではないでしょう」

「ぅ―――うう、はうはう、はう〜〜……」

 藤ねえはよろよろと後退し、へなへなと膝をついた。

「勝負はつきました。認めてもらえましたか」

「―――う。う、ぐすっ」

 がくり、と肩をおとしてうなだれる藤ねえ。

 それで大人しくなってくれたな、と思った瞬間。

「うわぁぁぁぁぁあああん!
ヘンなのに士朗とられちゃったーーーー!」

 回りにいる俺たちが目眩を起こすぐらいの大声で、わんわんと泣き出してしまった。



 ……結局、藤ねえは、納得してくれた。

 そして、その後、

「あーーん、士朗の朝ごはん食べ損ねたーーー」

 と言う言葉を残し、桜と一緒に学校に一緒で向かって行った。





 その後、

「シロウ、すみません。貴方に迷惑が掛かったようで」

 アルトリアがしゅん、となってそんなことを言ってきた。

「気にすることないよ。説明してなかった俺にも問題あるし……それに、初めからセイバーを二人に紹介するつもりだったしさ。それより、ご飯にしよう! セイバーを召喚して最初の食事だからさ少し張り切ってみたんだ」

「え……ええ、そうしましょう。しょ、食事はは重要な活力源ですから」

 少し赤みを帯びた顔で返答してきた。


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