アーチャー(弓兵)】
クラス別能力:「制約」
普段の行動に、一定のルールを課して縛っていると
いざというとき、ランクを2倍、3倍とするような
爆発的な力が得られる。
――それは極限までひきわけられた強弓から矢が放たれるかのように
【制約】 a limitation
「―――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
わたしは―
魔術師・遠坂凛は、言葉を言霊にする。
それに従い、世界はマナを実体化させる
そして―――
「はい?」
我が目を疑う。
えーっと……
今まで溜めてきた宝石の半分を消費して
エーテルをさんざぶちまけたあげく。
目の前の魔方陣の中には、なんの姿も影もカタチもなし。
実体化しているモノなんて、欠片もない。
加えて。
なんか居間の方で爆発音してるし。
「なんでよ――」
なぜだか破壊された扉を蹴飛ばして
居間に入って―
遠坂凛の視界にはいったのは
瓦礫の山と化した、我が家のリビングと
その中でふんぞりかえっている紅い外套を着た、見たこともない男だった。
その瞬間。すべてを理解した。
こいつ下手人だ。
まちがいない。
となれば、あっちは加害者、こっちが被害者
することといえば、小1時間問い詰めて反省させるのみ―!
「―それで、あんた、なに?」
「…にべもない。開口一番がそれか。いやはや、とんでもないマスターにひきあてられたものだな」
小一時間説教をかまそうとした威圧的なわたしの一言をうけて
赤い外套を着たソイツは、やれやれとおおげさに首をすくめた。
オマケに「これはとんでもない貧乏くじをひいたかな」なんてこと呟いている。
断言しよう―
――こいつ絶対、性格悪い。
開き直るにも程がある。
だがだまされるな。
ぱっと見、人間の姿をしているその男。
そいつから流れてくる魔力は、人間の桁をはるかに超えている。
あれは間違いなく、人間以上のモノ。
人の身でありながら精霊の域に達した『亡霊』だ。
スイッチをきりかえて「キッ」とにらむように問う。
「なんなのよ。アンタ」
「単純なコトだ。そんなこともわからないのか。
私は誰かに召還されたサーヴァントだ。ま、どこの誰かに呼びだされたのかはわからないがね」
にやにやと見下したように答えるサーヴァント。
カチン
決定。
こいつ、ほんっっとーにやなヤツだ。
こんなヤツに遅れをとっていたんじゃ遠坂凛の名がすたる。
ここはイッパツ、ガツンとやって主従関係をはっきりさせておかないと。
「寝ぼけたこといってくれるわね。呼んだのは私で、呼び出されたのは貴方。
つまり、私はマスターで、あなたは私のサーヴァントってわけ。了解?」
「威勢のいい発言だが…お嬢さん。君が私のマスターであるって証はあるのか?」
さらに、いやな笑いをうかべて戯言を口走るサーヴァント。
こいつ、マスターの証とやらでわたしが慌てふためくと思っているに違いない。
が、甘い。
「―――カンタンなコトね。ほら、ここにあるでしょ」
右手の甲に浮き出た令呪を「どうだ」といった感じで見せ付ける。
令呪。
サーヴァントを律するマスターだけが持ちうる呪印。
すると瓦礫に横たわったサーヴァントは目を白黒させて
「正気でいっているのかキミは…?令呪はただサーヴァントを律するだけの道具だろう。私が聞きたかったのは君が忠誠をふるうにふさわしい人物かどうかだったのだが…」
そんなことをいって肩をすくめながらため息をつく。
…う…そうきたか
予期せぬ展開に、こっちがどうやって反論しようか超高速で思考をめぐらせている
と
「まあ、いい。私を呼びだしたのは確かに君のようだ。マスター。これからは君に従うとしよう」
と、意外にもあっさり態度を変えたのだった。
あれ?なんか拍子ぬけ。
「ようやく素直になったわね…」
「根が素直なモノでな」
ウソつけ。
と心のなかで思ったけど、口にださないでおく。
いろいろムカツクこといってきたけど、マスターと認めてくれて
こっちに素直に従ってくれるというのなら、まあ許容範囲だろう。
それに案外「根が素直」ってのもホントかもしれない。
あ、そういやわたし、コイツのこと何も知らないや。
…あてずっぽうで召還したようなモノだからなぁ
いろいろ訊いていかないと……
「なかなか言うじゃないの。じゃあ最初の質問」
そこで言葉をきる。
が、そこで
「―――――ん!?」
なにやら今までにないような、怖い表情で眉をひそめるサーヴァント。
なになに?なにか拙い事いった?
そんなことを思いつつ、わたしは質問をはじめた。
「アナタ、クラスは?」
「私はアーチャーだ」
あ、ちょっと感心
こいつひょっとしたらいいヤツかも。
1対1の自己紹介で「私は〜」なんてつけるヤツめったにいない
「だったら特技は弓ね?その他にもあるかしら?特技」
「ぎ………?」
弓ね?
のトコロでうなずくと、アーチャーは右手を口元にあてて少し考え込む。
そして
「ぎ……ぎ…ぎ…………ギターだ」
アーチャーがポツリと言った瞬間。
それまでの時間が止まった。
は?
今、なんてことぬかしやがりましたかこの男は
特技ギターですか?
アナタ生前はギタリストですか?
でもそれが戦いにカンケイあるんですか?
ああ、それとも
ひょっとしなくても
このオトコ
わたしを……
おちょくりヤガッテマスカ―――!!?
そう思っているうちに、わたしの奥底から
破壊されちゃったリビングのこととか
コイツを呼び出すために、ついさっき消費した宝石とか
いままでたまっていたモノとか、イロイロ
ふつふつと沸きだして
爆発した。
「誰もそんなコト聞いていないじゃない!そんなこと戦いに何の関係もないじゃないの―」
と、小爆発して、そこですこし冷静に。
おちつけ凛。
ひょっとしたらこの回答は、アーチャーのマジメな回答だったのかも―
だったら――
「――じゃあ、ギターはどれくらい弾けるんですか?」(にっこり)
「かじる程度だ」(即答)
「ダメじゃん!」
――マジメじゃなかった
ぜんっぜん、マジメじゃなかった。
こんなヤツを一瞬でも、いいヤツだと勘違いしたわたしが馬鹿だった。
ああ、もうだめ。
「なに馬鹿なこといってるのよ!人より得意なのが特技!なんかないの!?特技!」
「ギリシャ語だ」
ぷちん
ああ、なんか自分がヤバイ音たてて激昂しているのがわかる
「だから、そういうのは戦いにカンケイないって言ってるでしょ!バカにしているのかしら!?」
「ラテン語もだ」
ぷちん。ぷちん。ぷちん。
「―――だったら…さぞ、りゅーちょーに喋れるんでしょうねー。いったい、どれくらい喋れるのかしら?」
「来週からスクールに通う。期待するといい」
――――――ぷつん
イッタイナンナンデスカ、コノヤロウハ
「いい加減にしなさいよね。アンタ」
ああ、わかる。
わたしの身体から魔力ではないオーラが。
怒りのオーラがカタチとなって
不死鳥の炎のようにでているのが理解る。
だってギリシャ語とラテン語に関しては、まだはじめてもないんだもの――
「たかがこの程度のことでアツクなるとは…これではこの先、戦いが不安だな。」
やれやれと
ちょっとしたジョークじゃないかといった感じでのたまうアーチャー。
あーだめみたい父さん。
わたしもう、臨界です。
最後通牒だしてみます。
「……何度も言うようだけど。貴方、私のサーヴァントよね……?」
「根っからのサーヴァントだが、なにか?」
くらっと
その答え方に目眩がした。
ナンデスカ、ソレハ?
ネッカラデスカ?
アンタ、ウマレタトキカラ「サーヴァント」デスカ?
しかも、このわたし。
マスターである、この遠坂凛にむかって見下したような
その口調
その態度
あーだめみたい父さん。
わたしもう、臨界点突破してメルトダウンはじまって―――
「カンニンブクロの緒が切れたーー!!」
水蒸気爆発級の叫びとともに
わたしはアーチャーにむかって右手をかざした。
「―Anfang……!」
「た…タイム!タイムだ!とんでもないことをしようとしているぞ、君は!待て!マスター!ちょっとまった!」
アーチャーは慌てて身を起こすがそんなん知ったことじゃない
「タンマなし!この礼儀知らず!
Vertrag…!Ein neuer Nagel Ein neues Geastz Ein neues Verbrechen―――!
(令呪に告げる。聖杯の規律に従い、この者、我がサーヴァントに戒めの法を重ねたまえ)」
「ず…ずるいぞ、君は!そんなコトで令呪を使うヤツが………!」
そんなセリフ聞こえるもんか。
あやまったってもう遅い。
右手に刻まれた印がうずく
令呪は紅い光を放ち、アーチャーに「絶対服従」の戒めをかけた―――
「―――しりとり?」
廃墟みたいになった居間からひきあげて
わたしの部屋に移動してから
正座させたアーチャーを問いただし、でてきた言葉がコレ。
一瞬、理解できなかった。
だけど理解したら
おもわず左の指先から特大のガンドを撃ちたくなっちゃった。
それを見て、顔色をかえるアーチャー。
「理由をのべよう。落ち着いてくれマスター。じつは私―
つまりアーチャーには普段の行いや言葉遣いに『制約』をかけるという行為があるのだ。
これを行なっていると、戦闘の時などに普段の2〜3倍の能力を出すことができるという訳だ」
わかりやすくいうとランクがあがるということだろう。
それも爆発的に。
アーチャー曰く、弓兵のみの特殊能力。
イメージとしては普段からすこしずつ弓を極限まで引きわけていこうということっぽい。
ちなみにアーチャーが今回自分にかけた制約は
「しりとりで会話をする」
なんてバカな
それでいて、わりかし難度の高い制約。
だけどそんなことを知らないこっちからしたら
バカにしているか、からかわれているとしか思えないだろう
「…だったら、なんでそう言わないのよ」
答えは予想できているけど、あたしは不満を口にする。
「よくあることだ。このような制約は知られてしまっては意味がない」
やっぱり……。
「…いいわ、じゃあ最後に1つ聞かせて。
なんで『しりとり』だったわけ?」
予想どおりの答えが返ってきたところで
わたしは最初の。そして最大の疑問を口にする。
が
「けっこうおもしろそうだったからな」(即答)
ノータイムでかえってきたその答えに
わたしの中から怒りと力が抜けた
ああ父さん。
怒りを越えた先には
「脱力感」とか「虚無」とか「」とか何もないものがあるんですね。
わたし至ってしまいました。
そして
「なんでこんな『アホ』が召還されちゃったのよー」
(よー)(よー)(よー)
その場でへたりこんで
わたしの口からでたのは、遠坂凛らしからぬ泣き言。
なぜなら、マスターとサーヴァントは性格や属性が近しい者同士が
惹かれあい、呼ばれあう。
だが、わたしとしてはこんな「アホ」と近いだなんて思いたくなかったのだ。
「よくいうではないかマスター」
だけどそういって、アーチャーは、ぐんにょりとへたりこんでいる
わたしの高さまで視線を落とすと
慰めるかのように、そっと肩をたたいて
やさしい笑顔で言い放ちやがった。
「古来より―――『類は友を呼ぶ』」
「ぶつわよっっ!!!」
わたしの右手が光って唸り、アーチャーの頬をえぐったのは
魂の底から、わたしがそう叫んだのと同じ時だった。
―おわり
【さいごの戯言】
blueです。アンジャッシュすきです。
アンジャッシュの「しりとりで面接をする」
コントを思い出して書きました
っつーわけで
わらってながしてください。おねがいします
ちなみに最後までネタがわからなかった方は、最初から読み直していただけると
またおもしろいかと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。