運命の輪 6 (傾 ほのぼの


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1: (2004/03/05 16:57:28)


悪い予感がする。嫌な考えが頭を過ぎる。
どうか、この予感が本当にならないよう、願った。

   ◇


――運命の輪―― 6話 ”Good to Eat or Not Good to Eat”


   ◇

朝、特に何も無くいつもどうりの朝が過ぎていった。
一つ言うならば、藤ねえが久しぶりに飯をたかりに来た。それだけ。
その際、今日から朝練が中止になると聞いた。十人以上二十人未満の怪我人が出たかららしい。
キャスターは消え、もう魔力を奪われることは無くなったはずだが?

珍しく、桜が弁当を作ってくれた。中々嬉しい。
さりげなく弓道場で昼食を食べませんか?と遠回しに言われているのに気が付き、承知しておいた。

   ◇

学校、授業が終わり昼休みになった。

 「さてと、」

立ち上がり、廊下に出る。早く弓道場に行かなければならないのだが――

 「あ」

遠坂に会った。会った途端にソレは失礼ではないか?

 「遠坂、人の顔を見てそれは失礼だろう」
 「う、別にいいでしょう。いきなり出て来るから驚いただけ」

どうなのだろう?まあ、いいか。

 「それよりも、話したいことがあるから屋上に行きましょう」 
 「スマン、弓道場で昼飯を食う約束があるから無理」

早く行かねば、桜の不機嫌度が徐々に増えてしまう。限界になると凄いんだよ、無言の訴えが。
そういう訳で先を急ぐ。

 「放課後、俺も用事があるから後で話そう」

駆け出した。早く行かねば間に合わぬ。
後ろから叫ぶ声が聞こえるが、廊下には大多数の生徒が居る。
皆の前で、精々恥をかくがいい遠坂。

   ◇

弓道場では、やはり桜が待っていた。
美綴も居るが、別にたいしたことでもない。

 「おっ、衛宮の旦那。珍しいね」
 「旦那ってなんだよ、俺は桜と一緒に飯を食おうと思っただけだ」
 「ええっ!?」

俺の発言に桜が動揺している。朝に自分で誘ったのに、何故恥ずかしがるのだろう?

 「衛宮〜、随分と恥ずかしいことを言ってくれるねえ」
 「せ、先輩。そういうのはチョット」
 「?」

よく分からない。そんなに恥ずかしいことを言ったのだろうか?
……まあ、いいか。
急須を持ってきて、お茶を淹れる。
弁当の箱を開けると、恐らく二人分と思われる量が入っていた。

 「衛宮。それは作り過ぎだろう」
 「作ったのは俺じゃない、桜だ」

そう指摘すると桜は恥ずかしそうに俯いてしまった。
自分でも分かっていたのだろう。
そんな。和気藹々とした雰囲気のなか昼食を始めようとすると、
ガラガラと音をたて弓道場の扉が開いた。

 「あれ?綾子に…桜?」

遠坂だった。しかし、その手には何も無い。
昨日もそうだったが、こいつは昼飯を他人にたかっているのではと思う。

 「遠坂、どうしたんだ。ココに来るなんて珍しいじゃないか。もしや、衛宮の旦那をお狙いで?」

ニヤニヤ笑いながら言う美綴、変なことを言うのはいい加減にしてほしい。

 「違うわよ、お昼忘れちゃったから綾子のを貰いに来ただけ」
 「お前に譲るような無駄飯は無い。スマンな」

一言で遠坂を切り捨てる。今日の美綴は毒舌だな。

 「遠坂、俺の丁度二人分あるんだが、俺一人ではどうにも処理しきれない。遠坂も手伝ってはくれないか」

助け舟を出してみる。
遠坂は一瞬、桜の方を見て

 「止めとくわ、貴方のために作った桜に悪いし」

そう言って去ろうとするが、

 「せ、先輩ッ。べ、別にわたしは構いませんから」

桜にそう言われ、渋々輪の中に入ってきた。

よく考えると凄いメンバーだ。女三、男一の割合は明らかにおかしい。
それも、何故か猫被りモードではない遠坂と、一年の中でも人気がある桜、おまけで美綴。
この中に俺が居るのは酷く場違いではなかろうか?
その事実に気が付いたのは、チビチビと俺の弁当を突付いていた遠坂が満腹になると同時でした。

   ◇

放課後、遠坂と会う。
その遠坂に連れられるまま、商店街の一角に向かう。
そこは魔窟。紅州宴歳館、泰山。
俺の中国料理に対する苦手意識は、この店が原因だったりする。
地獄的な辛さ。人の食すモノではない。
店長は通称ちびっ子店長だし、謎の中国人だし。
語尾にアルアルとつけるのは完璧なエセ中国人だと思う。

 「ココに、入る、のか?」

何故か言葉を区切って喋ってしまうほど、体のほうが拒否している。

 「そうよ。だから昼の間に説明したかったのに」

遠坂も嫌なのだろう。何故か逃げ腰だ。
じりじりと差を詰めて扉を開ける。
客の来るはずが無いこの店に、一人黙々とマーボーを食べている男がいた。

 「む?来たか衛宮。時間があったのでな、先に食事を進めていた」

なんか、神父がマーボーを食ってる。

 「遠坂、これは、どういうことだ?」
 「アイツが貴方に会いたいっ、て言うからそれを伝えようと思ったの。ココには出来るだけ来たくは無かったけれど」

遠坂も顔が引き攣っている。
今、言峰が食べている麻婆豆腐の破壊力を知っているのだろう。
あれを平気な顔で食べられる言峰は、既にニンゲンの域を超えている。
茹った釜のような麻婆豆腐。その色は赤。これでもかっ!て位、赤!
おかしいよ。絶対にお国に叩かれるスパイスが入ってるよアレ!
アンナモノ犬モ食ベナイヨ、ゼッタイ。

 「ふむ、凛も来たか。まあいい。どうした、立っていては話にならんだろう。座ったらどうだ」

席に座るのを促され、ユルユルと席に座る。
その間も言峰の余りの食べっぷりに見惚れて?いた。
既に残りは二口分。本当に食べきるつもりだよコイツ。
緊張の瞬間に喉がなる。その音を聞きつけ、言峰の手が止まった。

 「――――」
 「――――」

視線が合った。
言峰はいつもの重苦しい目で俺を眺めて、

 「食うか――?」
 「食うか――!」

提案を切り捨てた。全力で、全身で拒否する。
まさかあのマーボーを勧めるニンゲンが居たとは。いや、そんなヤツはヒトではない、外道だ、人外だ。

 「落ち着きなさい」

遠坂の一言で我に返る。
俺の返答にがっかりしているように見える神父に、殺意が沸きました。

   ◇

その後の話は色々と吃驚する事実が満載だった。

一つ、キャスターはまだ消えていないこと。
――これは、倒される直前に何らかの魔術を使えば可能であろう。
一つ、俺達が柳洞寺に行った夜、アサシンが居たらしい。
――佐々木小次郎は居なかった。それも、言峰の言うアサシンと俺の知るアサシンは違う。
佐々木小次郎ではなく、他のサーヴァントが呼び出されたようだ。
俺にはそう驚く事では無かったが、遠坂にとってのもので、

 「私のランサーが柳洞寺でアサシンに敗れた。ヤツが消滅する寸前の映像を、マスターである私が回収したに過ぎん」
 「あんたがランサーのマスター!」
 「そうだ、しかしそれも昨日までの話だ。ランサーは消滅し、私は今回の聖杯戦争におけるマスターではなくなった。おまえたちの敵ではなくなったという事だ。
 これは情報交換だ。私の知ることは教えた。あとは代価を貰うまで。ここ数日の体験を教えてもらおう。ここ数日、何と出会い何を見た」
 「……」

答えしか許さぬと言うような言動に気圧される。
そして、俺の四日前から起こった事を出来るだけ詳しく話した。
逆行とかそういった部分は端折り、事実のみを伝えた。
これ以上詳しく知りたければ、代価となる情報をよこせと言っておいた。
遠坂も情報の代価には俺の体験で十分だろうと自身の体験したことを話さなかった。
…ずるいと思うぞ遠坂。

俺の話の中で、言峰が興味を示したのは、間桐臓硯という老人にだけだった。
間桐の魔術、臓硯の正体などを聞き、やはり臓硯は敵ということが解った。
そして、

 「アイ、マーボードーフおまたせアルー!」

――第二第三の麻婆豆腐がテーブルに置かれた。

言峰は、いつの間にかレンゲを持って準備が完了している。
あいつ、初めから御代わりを頼んでいたのだ。間違いない。

 「――――」
 「――――」

視線が合った。
言峰はやはり重苦しい目で俺を眺めて、

 「――食うのか?」
 「――食べない」

真顔で力の限り返答した。

   ◇

遠坂と二人、疲れた顔で店を出た。
遠坂は、用事があると言って何処かに行ってしまった。
仕方が無いので家に帰る。
俺はこのとき、背後に迫っていた襲撃者に気が付いていなかった。


to be Continued


あとがき

言峰マーボー遂に出ました、どうも鴉です。
少しオリジナルストーリーが入りました。
次は、どうしようか…

副題の意味は『食べれるか食べられないか』です。(たぶん)

次回、士郎に迫る襲撃者!


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