聖杯はきみへの・・・7
「あの小僧にあのような力があったとは・・・」
暗い部屋に響く声。
その正面の巨人はピクリとも動かない。
見れば、左腕が付け根のあたりからなくなっている。
あの斬撃はすさまじいものだった、バーサーカーはあの一撃により
宝具の効果を無効化されていた。
<一瞬でも体をずらすのが遅かったならば、今頃は・・・。>
本来、存在しないはずのバーサーカーの理性までもが警鐘を鳴らしていた。
老人が醜く唇を歪める。
「のう、バーサーカーよ、その腕を補うには素材が足らんのじゃ。」
あの戦いの犠牲になった一般の人はいなかったらしい。
剣を振った先に家がなくてよかったと思う。
あの剣の正体が何であったかも、よく理解できていない。
あらゆる宝具の源である物の具現。
あるいは人々の願いそのもの。
すべての剣の宝具を寄り合わせた物。
どれだとしても、人の身で成すにはあまりに大それた物であったことには違いない。
大体にして、魔力が足りなくなるだろう。
世界にだって修正を受ける。
世界と契約でもしていない限り。
帰り道を歩きながらありえないものを見た。
堂々と商店街を闊歩するキャスター。
ローブと買い物かごがチャームポイント、
1メートル範囲内に誰もよせつけていない。当たり前だ。
周りの人たちがざわざわしているのにも気づかないみたいだ。
・・・見なかったことにしよう、
きっと魔力の使いすぎで疲れているんだ。
家に帰ってぐっすり眠れば回復するだろう。
キャスターがこっちを見た、なんだか相対距離がどんどん縮まっている。
勘弁してください。
「あらアーチャー、マスターについて行かなくてよかったの?」
朝食を終えくつろいでいた遠坂が、皿を洗っているアーチャーに声をかける。
士郎は自分が壊した町の状況を確認しに行った。
昼間、戦わないのは聖杯戦争のルールの一つだが、
律儀に守るほどマメなサーヴァントばかりではないだろう。
アーチャーと私の関係はかなり微妙なものだといっていい。
前回マスター、現在協力者。
どちらも気にするほどまともな精紳をしていないのが救いだけど。
「ああ、必要なら声をかけるだろう、後は自己責任だ。」
いまいち放任主義である。
士郎も戦闘にならば遅れをとる事もそうそうないだろう。
それにあの正体不明の剣はなんだったのか。
聖杯戦争のために各地の英霊の剣だって勉強したはずなのに
あんな剣見た事もなかった。
アーチャーだってあの剣が気になってるし、
自己責任とかいいながら事が起これば
真っ先に助けにいくに違いない。
「まあいいけどね。」
ふふっと含み笑いをしながらアーチャーの回答に同意する。
「食後の紅茶をお願い。一番いいのを使っていいわ。」
「了解した。」
まさか他のサーヴァント、家に連れてくるとは思いもしなかったわ・・・。
頭痛で痛む頭に手をやる。
帰ってきた士郎の後ろにはキャスターがいた。
何でも商店街でばったり会ったらしい。
他のサーヴァントを調べに行かせていたランサーも呼び戻したから
現在の居間は、英霊三人にマスター二人。
そろってお茶を飲んでいる姿はシュールと言えなくもない。
ランサーはカップラーメンだったけど。
「で、何の用があって来たのよ?」
まさかお茶を飲みにきた訳では、ないだろう。
「取引よ。」
アーチャーにお茶のおかわりを要求しながらキャスターが答える。
「聖杯が必要なら呼び出すこともできるわ。」
私にはもう必要ないもの、とキャスター。
キャスターのカップにお茶を注ぐアーチャー。あれは私のお気に入りのやつだ。
「要求は?」
「とりあえず身の安全の保証ね。」
「それだけか?」
あんまりつつましい要求だったんでびっくりして聞き返した。
そうねぇ・・・なんて言いながら頭を悩ますキャスター。
なんで余計なこというのよ馬鹿!!と言いたげな遠坂の視線。
何か思いついたのか、急にポンと手を叩くと、
「セイバーちゃんにかわいい服を着せること!!」
瞬間、時が止まった。
気がつけばその場にいる全員の視線が俺に注がれている。
「わ、わかった。」
思わず頷いてしまった。 セイバー復活後フリフリドレス化決定。
すまないセイバー、俺には力が足りなかった・・・。
「確認するけど本当に聖杯を呼び出すことができるの?
魔力集めに町の人を襲うなんて言ったら士郎納得しないわよ。」
「少ない魔力でも手間をかければ発動する大魔術はいくらでも存在するわ、
勉強不足ね、可愛らしい魔術師ちゃん。」
照れたのか怒ったのか遠坂の顔が赤くなっていく。 危険だ。
とりあえず取引は無事に成立した。
ついでだから疑問に思っていたことを口に出す。
「どうしてアサシンだけ門に残したんだ?」
「さあ?本人が、約束がある。と言って動かなかっただけよ。」
あのアサシンがそこまで拘る理由、決闘の約束でもあったのだろうか。
俺たちが襲撃する前に誰かと戦っていたみたいな口ぶりだったし・・・。
その言葉に感じるものがあったのか今まで無言でカップラーメンをすすっていた
ランサーが口を開く。
「あいつは妙に満足そうに消えてった、約束って奴は果たしたんだろうさ。」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
もう一度お茶をおかわりしたあと、
キャスターは帰っていった。
聖杯を呼び出す準備を始めるらしい。
残りの敵はライダーとセイバーか・・・。
「残りのサーヴァントは見つかった?ランサー。」
「いや、少なくともこの周辺にはいない。」
「いままで隠れてたんだ、案外弱い英霊だったりしてな。」
ランサーが軽口をたたく。
「いや、おそらく正体が割れると致命的な弱点を持つ英霊なのか
なんらかの策略として隠れているんだろう。」
あのライダーの宝具だってかなり強力なものだった。
油断は禁物だろう。
負けるわけにはいかないのだから。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
はい、七話です。終了予定のはずがなぜか
まだまだ続きそうな感じになってしまいました。
5000突破できたでしょうか?
フリフリドレス・・・。新しい衣装を持って
キャスターが毎日、家に来るらしいです。
セイバールートのキャスターってセイバーに興味があるー
みたいなことを言ってたなぁ、と思いついた着せ替え。
士郎が喜ぶのでセイバーも満更でないようです。
つーかそれで短編書きました。
この長編終わったらお見せできると思います。
コジローが戦った相手の正体は今のところ秘密・・・・。