Fate/In Britain きんのけもの第二話−3


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1: dain (2004/03/05 09:26:39)


赤い狐かぁ…
いや、確かにあかだよなぁ
吊り目だし…きつねっていやぁきつねだよな。
あ、きつねってのも結構かわいい動物だよな、うん
俺は引きつる頬を必死で抑えながら現実逃避していた。



     きんのけもの
    「金色の魔王」 第二話 後編
     ル キ フ ェ ル




「なにを固くなっていらっしゃるの?シロウを叩きのめすわけでは有りませんのよ」

ルヴィア嬢が不思議そうな顔で話しかけてきた。

「いや、別に、ぜんぜん、まったくそういうこと考えていたわけじゃないぞ、うん」

俺の当を得ない、というかあからさまに狼狽し混乱した返答に、ルヴィア嬢は眉をひそめた。

「シロウ、何か隠し事でもしていらっしゃるのではなくて?」

目を半眼に、さらに眉を顰めルヴィア嬢が迫ってくる。

いかん!落ち着け!俺
平常心、平常心…


… I am the bone of my sword. 


違う!

俺は危うく固有結界を発動しそうになるのを押さえた。
危ない、危ない。今、間違いなく発動できるくらいテンパってたぞ…

「あ、考えていたんだ。ほら、ルヴィアさんがどんなもの作ったのかなって」

俺は落ち着くために紅茶に口をつけ、かき集めた言い訳を捲し立てた。

「ルヴィアさんが徹夜してまで仕上げたんだろ?そりゃ凄いもんなんだろうなって、色々想像してたんだ」

ルヴィア嬢は本当ですの、と不審そうに呟きながらも何とか納得してくれたようだ。
そして今度は何か新しい玩具を見せびらかしたい子供のような顔で俺に告げた。

「ご覧になりたい?シロウ」

即効で頷いた。実際、ルヴィアさんがここまで相好を崩して見せたがる物に興味も出てきた。

「じゃ見せて差し上げますわ」

ルヴィア嬢はにっこり微笑み、両手でティーカップが入るくらいの大きさを示して俺に指示した。

「工房の中央作業台にこれくらいの大きさの宝石箱がありますわ。それをここに持ってきてくださる?」

俺はよしきたと工房へ降りた。
工房はかなり広いものの大部分が各種の魔器具やら薬品棚、厨房じみたシンクや作業台に占められている。さらに小物や魔術書、メモやクリップが雑然と散らばっていて、かなり狭苦しい。
最新のワークステーションなんかもあるにはあるが埃やメモに埋もれていて使っている形跡はない。どうやらこういった物は余り得意でないようだ。
片隅に置かれた瀟洒なドレッサー廻りだけはきちんと整理されていて、ルヴィア嬢の上での生活を僅かばかり窺わせる。
そんな魔境を掻い潜り俺は中央の作業台にたどり着いた。
あった。宝石の削りくずや羊皮紙に埋もれるように鎮座している宝石箱、多分これだろう。俺は両手でそっと抱えるとルヴィア嬢の待つ書斎へ向かった。

「これでいいのかな?」

「ええ、それですわ」

ルヴィア嬢は俺から受け取った宝石箱をそっとテーブルの中央に置くと、慎重に箱をあけ「それ」を取り出した。

「うわぁ…」

それは華だった。

紅玉と紅水晶、そして紅瑪瑙で作られた手のひらに乗るほどの大きさの薔薇。
花びら一枚一枚が精巧にカットされた宝石。それがいま摘み立ての花であるかのように煌いている。
遠坂の影響で宝石は結構見ているが、これはそんな中でも稀に見る逸品だ。
勿論、ただの宝飾品であるわけがない。華の中央に小さな台座がある。ここに魔力を込めた宝玉を置き完成するのだろう。
俺は無意識のうちに構造の解析をしていた。
中央の台座から無数の魔力線、これが各花びらに通じている。そこに魔力の流れをシミュレートする。ここに魔力が通ると全体が淡く輝く仕組みだ。だが、それだけではない、淡く輝いた宝玉はカットの形で屈折され花びら一枚一枚に小さな魔方陣を浮かび上がらせる。さらにその魔方陣がの組み合わせが平面的でなく立体的に絡み合い、中央の台座の上に炎の幻影を浮かび上がらせる。
驚いたのはそれだけで終わらないことだ、その幻影の炎がさらに宝玉のカットに屈折されて新たな魔方陣を形作り、最後には…

      ハンドオブグロウリー
「凄い…これ『栄光の手』じゃないか…」

俺は思わず呻いてしまった。
そう、これは宝石で作られた『栄光の手』だ。
今ではめったに手に入らなくなった絞首刑された罪人の手で作られる金縛りの魔具。
同じ効果を発揮する魔術や魔具は結構あるものの、ここまで精緻でローコストの魔力で魔術を編めるものめったには無いだろう。

「…しかも悪どい…」

そう悪どい。一見は燭台、効果も最初は燭台なのに数刻おくれて金縛りの効果が生まれる。
つまり…かなり悪質なトラップでもある。

「シロウ…」

いろいろな意味で驚愕していた俺にルヴィア嬢の声が掛かる。

「貴方…何故それが判るの?」

冷ややかな声だ。二月前、同じこの部屋で俺の心臓にガンドの狙いをつけた時と同じ、冷酷で非情な魔術師の声だ。

「ルヴィア…さん…」

「お答えなさい。何故それが『栄光の手』だと解かったのかしら?」

「ま、魔術師だったら見たら魔力の流れで…」

「解からないわ。普通の魔術師では解からないはず、そう作ったのですもの」

もはやそれは人の体温をまったく感じさせない声音だった。瞳には疑惑と怒りが宿っている。

「ええ、まる一日かけて道具を用意してじっくり解析したのなら解かるでしょうね。でもねシロウ、一目見て解かるなんてまずありえませんわ…さぁお答えなさい。何故わかりましたの?」

ルヴィア嬢は一切の韜晦を許さない口調で重ねて聞いてきた。俺は息を呑み冷や汗にまみれながら説明した。
構造の解析、魔力線のシミュレート、魔方陣展開の予測、幻影展開、さらなる魔方陣の展開…一つ一つ順を追って克明に説明した。
ルヴィア嬢は最初は憮然と、ついで唖然と、最後には呆然と俺の説明に聞き入った。

「シロウ…貴方それがどういうことか分かってらして?」

「あの…全く…」

大きく溜息をついてこめかみを手を当てるルヴィア嬢。先ほどまでの冷たさは消えたものの呆れる余り不機嫌にさえなってきたようだ。

「シロウですものね…いいです最初からきちんと説明しますわ、ちゃんと聞いているのですよ」

ルヴィア嬢は真剣な顔で説明を始めた。

「いいこと、普通の魔術師ではこれを見て宝石の中に魔方陣が浮かぶのがわかるくらいですわ。優秀な魔術師ならさらに魔方陣を解析して幻影の炎までは読み取るでしょうね。ですが、その幻影の効果を計算して更なる魔方陣の構成を読み取ったり、その効果である『栄光の手』まで読み取る魔術者なんて…時計塔でもそう幾人も居りませんわ」

そこまで言うとルヴィア嬢は視線でお茶のお代わりを要求した。俺はあわててお茶を給仕する、わたしくしだっていきなり初見だったらわかりませんもの…とぶつぶつ呟きながらルヴィア嬢はお茶に口をつける。

「でも俺は魔方陣を解析したり計算したわけじゃないぞ、そんな知識は無いし頭だって廻らない」

そう、俺は魔方陣の解読とか効果の計算とか出来たわけじゃない。たんに構造からシミュレートしただけだ。
あくまで解析しただけで理解したわけじゃない。

「その方がよほど恐ろしいですわ!いいですかシロウ、貴方は普通の魔術師が何年も研究してようやく身につけられるような事を瞬時に解かってしまうのですよ!
まったく…才能は無いくせにどうしてこうもとんでもない資質をお持ちなの!貴方は!」

ほとんど悲鳴に近い声でルヴィア嬢が怒鳴る。最後のほうは何かとても失礼な事を言われた気がするが何時もの事なので気にしないことにした。それよりも話を聞いていると不安になってきた。

「つまり…俺が変だって事なのかな?」

「変なのはシロウのその能天気な態度です!!」

とうとう爆発してしまった。

「いいですか…貴方のその能力はとても特異で貴重なものですのよ。他の魔術師がそれを知ったなら、半分は貴方の脳をホルマリン漬けにして研究したがるだろうし、残り半分はその能力を利用するために貴方の自我を乗っ取ろうとしますわ」

思いっきり怒鳴られて睨みつけられてしまった。ただ、ようやくルヴィア嬢が怒っているだけでなく憤っている理由がわかった。無論、こんな能力をいままでほっておいた事に憤っているのもあるが、それ以上に俺がその重要性を理解せずにのほほんとしているのを心配してくれているのだ。

「なんだってわたくしがこんな事でシロウを叱らなくてはいけないの!まったく…こんな事は貴方の師匠が………ッ!」

文字通り頭を抱えながら愚痴りだしたルヴィア嬢だが、ここへきて黙り込んでしまった。
驚いたように俺の顔を眺め、俯いて考え込み、そしてまた俺の顔を睨みつけながら真剣に考え込んでいる。

柱時計の音だけが響く中、時間だけが過ぎていく。空気が余りに緊迫していて動くに動けない。
それでも俺はなんとかルヴィア嬢に声をかけた。

「あの…「シロウ、貴方わたくしの弟子になりなさい」」

ほぼ同時に俺を見つめて静かに告げるルヴィア嬢。

へぇ、弟子?
…誰を?
…シロウって俺だよな…
…誰の?
…わたくしってことはルヴィアさんか…




「なんですとぉーーーー!!!」

俺は飛び上がった。そら、もうお屋敷の高い天井に届くくらいの気持ちで飛び上がった。

「ええ、住込みになって頂くから今日からはもう帰らなくてよろしくてよ。ウィンフィールドに言って部屋を用意させます。ああ、工房の手配もありますわね…」

「ちょ、ちょっと待ってくれルヴィア!なに言ってるんだよ!俺には何がなんだかわからないぞ!!」

俺は敬称も忘れるほど混乱してルヴィア嬢に突っ掛かった。いきなり弟子だとか住込みとか、わかるはずが無い。

「わからない?まぁ…シロウですものね…いいですわ、説明して差し上げます。そこで突っ立っていないでお座りになって」

こちらの混乱をよそに実に落ち着いた物腰でルヴィア嬢が促す。俺はとりあえず腰を下ろし、冷めた紅茶を一気に飲み干した。

「理由は簡単です。いまの貴方の師匠はシロウにふさわしくありませんわ」

「な!」

「だってそうでしょ?貴方の力は特殊だわ。それに気づかないのは問題外、そして、それに気づいていてシロウに指導や注意をしないなら…」


「シロウ、貴方は騙されていますわ」


一瞬頭が真っ白になった。瞬間に頭に血が上り、あやうくルヴィア嬢の胸倉をつかんで怒鳴りつけてしまいそうになった。
だが、そんな激昂もルヴィア嬢の顔を見て引いてしまった。余りに真剣で本当に真摯に心配してくれている。それは魔術師でなくルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトという少女自身が衛宮士郎を心配して見せた表情だった。
こんな顔をされては怒るわけにはいかない。だから俺は息を整え落ち着いた気持ちでルヴィア嬢に対した。

「いや、それはない。前にも言ったろ?あいつはそんな奴じゃないって」

落ち着けばルヴィア嬢の心配もわかる。さっき彼女が言ったように、俺の解析能力は他の魔術師が知ったらそれこそホルマリン漬けの人体実験レベルなのだろう。普通に考えて師匠がその事を知っていて弟子が知らなかったら、利用されていると思うのが自然だ。
だが遠坂の場合は…
あれ?あいつそのことに気がついてないぞ…

遠坂にとって俺の能力で気をつけなくてはならないのは「固有結界」なのだ。それを知っている為に解析能力の特化に気がついていない。なにせ俺の「固有結界」は見た剣のすべてを複製して内包する世界なのだ、遠坂には俺の解析能力は当たり前の事として処理されているのだろう。
こういう間の抜け方は実に遠坂らしい…

「うん、あいつは気付いてないし、気付いても大した事だと思わないぞ。だから心配しなくて良いって」

俺はルヴィア嬢を安心させようとそう言った。遠坂なら大丈夫、あいつは俺をホルマリン漬けにしたり解剖したりはしない…………多分…
なのに、ルヴィア嬢はますます頭を抱え込んでいた。

「ますます心配になってきましたわ…やっぱりわたくしの弟子になりなさい。その方がシロウの為ですわ」

「いや、だから身の危険は無いって…」

「そちらの心配ではありません。貴方の魔術師としての将来の事ですわ!
……そうですわ。思い出しました。貴方の師匠はかなりのお人よしでしたわね…」

もう、思いっきり大きく溜息をつくと、ルヴィア嬢はもう一度表情を引き締めなおして俺に言った。

「貴方が御自分の師を大切に思っていらっしゃることは聞いておりましたわ。その方が間が抜けたところがあるにせよ、魔術師とは思えないほど人の良い人格者だということも」

なんかえらい言われようではあるが、その通りだ。あいつはとんでもなく優秀な魔術師であるが、同時に肝心なところで間が抜けたところがあるし、芯ではかなりのお人好しだ。
俺は素直に頷いた。

「人としては長所かもしれませんが…シロウ、それは魔術師として長所ではありませんわ。いいえ、短所と言ってもよろしくてよ」

ルヴィア嬢はきっぱり言った。

「良いですかシロウ、貴方は普通の魔術師としての才能はありませんわ」

これまたきっぱりと断言してくださる…

「ですが一つの道を突き詰めた専門魔術師としてなら話は違います。この道なら才能よりも資質が重要になります。シロウ、貴方の特化された能力と属性は間違いなく一級の資質ですわ。それに貴方が努力を怠らない人だということもこの二月で確認しました、逸材と言っても良いかもしれませんわね」

ルヴィア嬢は真摯な瞳で俺を覗き込むと、もう一度言った。

「シロウ、わたくしの弟子になりなさい。わたくしなら貴方を間違いなく一方の頂点まで導いて差し上げますわ」

「出来るでしょう」ではなく「出来る」
己の才知と俺の資質に対する評価、どちらについても絶対の自信を持っているが故に言える言葉だ。
異論は挟めない。ルヴィア嬢の自己に対する評価は正当だ、彼女が出来るといえば出来るのだろう。
間違いなく、俺がルヴィア嬢の弟子とし修行すれば、”剣”の魔術師として究極の一を極めることが出来るだろう。
俺がすでに「固有結界」という究極の一を手に入れている事を彼女は知らない。それを踏まえたうえで魔術師としての俺をここまで高く評価してくれたのはルヴィア嬢が初めてだろう。嬉しくないわけが無い。
だが遠坂だって魔術師としてはルヴィア嬢に劣るものではない。
ちょっと間が抜けてるけど…
それに…俺は…
だから、俺はこう言うしかなかった。

「ごめん、俺はルヴィアさんの弟子にはなれない」

ルヴィア嬢は暫しの間そんな俺の顔を見詰めていたが、小さく溜息を一つついた。

「そう……いいえ、そうでしょうね。シロウは安易に師を変える様な者ではありませんでしたわね。軽率でしたわ…」

納得してくれたのかルヴィア嬢は肩から力を抜いて微笑んでくれた。しかしその笑顔が余りに寂しげだったので、俺は思わず…

「では明日、貴方の師匠にお会いしましょう」

「はいっ?」

なんとも間の抜けた声を発してしまった。

「ですから明日、貴方のお師匠をこちらに招待しますと言ったのですわ。これ以上はシロウに何を言っても仕方のない話でしょ?直接シロウの師匠に理由を話して貴方を譲って頂くことにしましたの」

ルヴィア嬢は、なんかこう犬の子でも貰うかのような気楽さで仰った。

「あの…はい??」

「明日の午後のお茶でよろしくてね?ウィンフィールドに招待状を用意させますから、下がる時にお持ちになれば良いかしら?」

「で、でも!」

「何か問題がありまして?」

極上の笑みを浮かべるルヴィア嬢。これはあれだ、一切の反論を許さない鉄壁の笑みだ…

「ある訳ありませんわね。シロウのお話を聞く限り貴方の師匠はとっても良くできた方のようですから、きちんと理由を説明すればきっとわかってくださるわ。
シロウの為ですもの、わたくしにシロウを預けるのに嫌は無いと思いますわ」

いくぶん独善的ではあるが特に問題も無い論法である…
なにかものすごく不安ではあるが頷くしかなかった。

「良かった、明日が楽しみですわ」

ルヴィア嬢は屈託に無い華の様な笑みを浮かべた。

まぁ…大丈夫だろう。
遠坂ならルヴィア嬢にだって負けはしないだろう
うん、大丈夫。
俺は無理やり自分を安心させるとお茶の後片付けしてルヴィア嬢の書斎から下がった。


ただ、俺は忘れてしまったことがあった。
この日、ついに気がついてしまった事実。
それを、ルヴィア嬢が俺を弟子にするなんて言い出したからなのだろうか?忘れてしまっていた。
いや、憶えて居たくない為に忘れたことにしたかったのかもしれない。

ールヴィアリッタ・エーデルフェルトと遠坂凛は不倶戴天の宿敵であるー

という事を…


───────────────────────────────────

「フンッ…ここね」

翌日、エーデルフェルト邸を前にして遠坂凛嬢の第一声である。
服装こそごく普通の外出着だが心はすでに臨戦態勢、その服の下にいったいどんな物を隠しているか分かったもんじゃない。口元を不敵に歪め仁王立ちする様は、今まさに敵地に乗り込む戦士の如しだ。
ただその後に付き従っている俺とセイバーは別だ。気合の入りまくった遠坂とは裏腹にはなはだ不安である。

「シロウ…凛は少しばかり気合が入りすぎでは?」

「俺もそう思う…喧嘩にならなきゃいいんだが…」

「この館の主はそんなに剣呑な方なのですか?」

「剣呑といえば剣呑だけど…話して分からない人じゃないぞ、結構人のいいところもあるし」

「シロウがそう言うならば間違いないでしょうが…」

「そこ!ごちゃごちゃ言ってない!行くわよ!」

それこそ道場破りのような剣幕で遠坂は玄関をノックした。



前日、招待状を渡した時から遠坂はずっとこんな調子だ。魔術師間の通例なのだろうか、宛名も差出人も書いていない真っ白なカード、それを指先で弄びながら遠坂は極上な笑みを浮かべて俺を罵った。

「衛宮くん、これってどういうことかしら?」

「いや、どうって明日の午後、お茶に招待したいって…」

「そんなことは分かっているわ、感じるもの。私が聞いているのはね衛宮くん
……アンタを弟子にしたいってどういうことよ…」

後半、地獄のそこから沸きあがるような声で遠坂さんは軽やかに尋問された。
怖かった。昼間のルヴィア嬢も怖かったが遠坂さんはもっと怖い。

「いや、なんか気に入られて…お、俺は断ったぞ。ちゃんと師匠が居るからって、そしたらその師匠に直接話がしたいって…」

「ふ〜ん…女の子の魔術師に気に入られちゃったんだぁ…衛宮くん」

「女の子は関係ないって。遠坂、そういう言い方は意地が悪いぞ」

「まぁ酷い、衛宮くんったら私のこといじわるだって」

遠坂が極上の笑顔のまま拗ねる。

「凛、私もそういう拗ね方はちょっと貴女らしくないと思います」

セイバーが困ったような笑顔を浮かべながら助け舟を出してくれる。

「なによ、セイバーまで訳のわからない魔術師の味方するの?」

がらりと表情を変え、今度は思いっきりブンむくれてセイバーにジト目を送る遠坂。

「そういうわけではありません。ただ…」

セイバーが姿勢を正し柔らかな笑みで遠坂を嗜める。

「シロウのそばで多少なりとも時間を共にすれば、シロウに惹かれるのはごく自然ではないかと思います。
シロウは暖かいですから。
弟子にしたいという気持ちも分からなくありません。シロウはどこか危ういところがありますし」

「うっ…」

心当たりがあるのか遠坂も言葉に詰まった。

「それに、凛はシロウを渡すつもりではないのでしょう?だったら堂々と相手に対すべきです。それとも凛は自分が見もしない相手に劣ると思っているのですか?」

「そ、そんなわけ無いじゃない!士郎は渡さないし、私は誰にだって負けるつもりは無いわ」

ぐっと胸を張り高らかに宣言する遠坂。
いやぁセイバー…遠坂の扱い方うまくなったなぁ…

「よ〜し、行ってやろうじゃないの!士郎に手を出そうなんて奴は完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ!」

いや、話し合いに行くんだよ?喧嘩じゃなくて…

話の流れが妙な方向に向かってしまったため、俺は結局なんでルヴィア嬢が俺を弟子にしたがったかを話すことができなかった。後でそれが故にとんでもない事になってしまうのだが…
───────────────────────────────────
803 のきんのけもの 第二話ー3の最終部分が消えていたため、再掲載します。
                                  by dain


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