注意2。
前回書くのを忘れていたのですが、この物語は『殺人貴』にとっての『月姫』です。
つまりはアルク・トゥルーエンド後の話、ってわけです。
しかし、この中の『殺人貴』はアルクェイドを見つけておらず、救えていません。(『月蝕』体験済みです)
ていうかプロローグと1はちょっとネタバレですね。コンプ推奨。
そのへんを踏まえてちらとでも読んでみていただけると幸いです。
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アサシンの固有能力に「単独行動」はない。
故に主である魔術師からの魔力供給が断ち切られれば、当然、その体は希薄になり、終にはこの世から消滅するだろう。
通常のサーヴァントならばおそらく一刻ともたぬだろう。
しかし奇妙な偶然かはたまた悪運か。
もとよりこの身は死に近い躯ということが逆手となり、最小限の魔力で行動することができるようだった。
(……これなら一日は保つな……)
契約を断ち切ってから既に半日。じき陽が昇り、新たな一日が幕を開ける。
道ならぬ道を記憶をたよりに突き進む。
目指す場所。それは、
――――遠野志貴にとってかけがえのない出会いをした、あの草むら――――
Stay Knight Assasin,ver
second
目的の場所には、既に先客がいた。
小さな少年と、赤髪Tシャツの女性が草むらの上に並んで座っている姿を、気配を遮断して遠目から見る。
―――決して見えるわけではない。
ただ使用できない視覚の代わりに、気配と嗅覚、聴覚。そしてそれにも勝るデジャヴによって、あの夏の一日を視ている。
少年が大声をあげ、女性がそれから長く、とても大切な事を告げている。
思えばそれは、あの一週間の最後の日なのだと察することができた。
教訓とも言える大切な事を教授する女性と、それを真剣に聞く少年。
その様子を視ながら、ふと考えた。
そういえば、彼女はあの少年にはわからない方法で去っていった。
今、自分がそれを見極めるのは容易いかもしれないが、それでも追いかけるという余計な手間がかかる。
なんとかこちらに、彼女から気づかせなければいけない。
(――――――!)
考えてみれば、今の自分に残っている方法は、ただ一つだった。
その一連の、遠野志貴にとって重要な通過儀礼の終わりがけ。
彼女が子どもから離れるのを見計らって、ポケットからナイフを取り出し、
―――「気配遮断」を解除し、魔眼殺しを拭い取って彼女を見つめた。
距離はあるが、はっきりと彼女の細い体に走る死の線が視える。
おそらくはこれで否が応でもこちらの存在に気づくはず。そう、考えた。
―――刹那。
周囲の空気が一斉に変化し、視界から彼女の姿が消え失せた。
「―――っ!」
次に感じたのは、まぎれもない純粋な殺気。
ただ何も考えずに左へ跳躍し、右手のナイフで首を防御し―――
「―――がっ、は、」
そのナイフの上から巨大な鈍器で殴りつけられ、思惑以上に左へ吹き飛ばされた。
「く――――!」
なんとか無事に着地したのも束の間、さらなる気配を感じて後方へ思いきり跳ぶ。
そこへ―――
「―――っらえ!!」
轟。と、トランクが打ち下ろされた。
トランクは鈍い音と僅かな砂煙をたてて、ほんの四半秒前に足場にした地面を、まるで月のクレーターのように掘り起こしていた。
……冗談じゃない。
あんな攻撃、人間も魔術師もサーヴァントも関係ない。
最初の一撃だって、ナイフで防御してなけりゃ首が吹っ飛んでいてもちっともおかしくない。
いったい、トランクに何入れればあんな威力になるっていうんだ。
……しかもトランク壊れてないどころかキズ一つついてないし。
どこかのばかおんな並みの馬鹿力をありありと見せつけた彼女は、オマエハコロスというような睨みをきかせて口を開いた。
「どこの誰だか知らないけど、あの子は殺させないわよ。
……ったく。言ったそばからこの調子じゃ、先が思いやられるじゃない」
毒づく彼女の声は―――自分が覚えているものよりも迫力が七割増しだったが、それでもやはりあの人の声だった。
「……俺はあいつが目的なんじゃない。あなたに、用があって来た」
いつ殺されてもおかしくない状況で、かなり遠まわしだが命乞いをする。
しかし、
「あら。私に用だなんて珍しい。私を蒼崎青子と知っての言葉かしら」
それは遠まわしすぎて、彼女には宣戦布告と受け取られたようだった。
ていうか、なんかどんどん死の線が薄れていってるんですけど……。
「本当に、何処の誰だか知らないけど、せっかくのところを邪魔してくれるなんて。
言っておくけど、私かなり本気で怒ってるわよ?」
……うん。それはわかってる。ひしひしと感じてる。
息を吐き―――その仕草だけで殺されそうではあったが―――ナイフを落として両手を高くあげる。
赤髪の女性は、一瞬ピクリと肩を揺らしたが、こちらに戦意がない事を悟ったのか、その左手のトランクこそ離しはしなかったものの、右手で髪を梳いて殺気を(二割ほど)緩めた。
「なに、勝機があるから挑んできたんじゃないの?」
その表情には、こう……なんというか。
『せっかくおもいっきり暴れてやろうと思ったのに』
的な、肩透かしを喰らったようなものが混ざっていた。
……まあ、それは置いといて。
「俺はただあなたに普通の用事があるだけです――――先生」
彼女はしばらく訝しがるように眉をひそめていたが、突然何かを思い出したかのように蒼い瞳孔を広げた。
「―――まさか、君……その魔眼は―――」
え、え? と先刻まで居た草むらとこっちを交互に見つめた後、
「―――志貴、なの……?」
おそるおそる、といった様子で、彼女はその名を口にした。
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注意3。
志貴が冒頭のように自由に行動できるかはわかりません。
あまり気にしないで読み飛ばしてください(お