his healing hand will pull her out of fire3


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1: らむだ? (2004/03/04 21:13:38)

藤村に拉致されたのがきっかけで久しぶりに士郎の料理を食べるが、うん、確かに腕は上がってるな。こっちもそれなりに腕を振るわなくちゃ面目が立たないだろう。
「葉崎先輩、お久しぶりです。」
桜は相変わらず礼儀正しい。引退してから弓道場には足を運んでないから何ヶ月ぶりだったか。
「おう、久しぶりだな、桜。美綴は頑張ってるか?」
「はい、先輩が戻ってきてくれればもっと楽になるのに、っていっつもこぼしてます。」
そういいながら士郎のほうを見る。ふむ、強権発動と行くか。
「士郎、先代部長命令だ。弓道部に戻れ。」
「え、先輩それは勘弁して欲しいんですけど。」
「週1で勘弁してやる。行け。」
言外に『お前に断る権利はない。』と伝える。部長時代からの技だ。
「うう、わかりました。頑張ります。」
当然士郎も自分に断る権利はない、と認識している。
「ちょっと士郎、コントやってないで紹介して欲しいんだけど。」
「コントなんてやってないぞ遠坂。」
「現に今やってるじゃない。」
俺にはこいつらのほうがよっぽどコントに見える。
「ふん、先代弓道部部長、葉崎凌斗だ。確か、遠坂凛だったな。そっちはセイバー、でいいのか?」
「はい、よろしくお願いします。リョウト。」
「そう、あなたが。綾子がよく言ってたわ。士郎と部長がいれば全国制覇だって狙えるって。」
遠坂が俺を睨んでる。その中に迂闊だった、って感じが含まれてる。藤村がいなくなったら確実に突っ込まれるな。負ける気はしないが。
「そうよねえ、あの頃はホントに向かうところ敵なしって感じだったのに。」
「藤村、弓道は自分と向かい合うためのものだと俺は認識しているが?」
「葉崎君、ムラッ気の塊みたいなあなたにそんな事言われるとは思わなかったわ。」
藤村の癖に生意気な。
「ああ、悪かった藤村。お前みたいな猛獣が剣道ならともかく弓道部の顧問やってること自体がおかしいんだ。」
猛獣と言うところに特に力を入れて言ってやった。
「むっ、それってどういう意味よ。葉崎君。」
無茶苦茶な勢いで飯を食べながら藤村が反論する。
「なんだ、英語の授業ばかりやって日本語を忘れたか。まあ、お前が教師をやってること自体が俺には不思議でたまらんがな。」
これは弓道部ほぼ全員の意見だ。あ、桜そんな目でこっちを見るな。これは誰かが言わなきゃいけないことなんだ。多分。
「士郎ー、葉崎君がいじめるよぅ。お代わり。」
「リョウト、いくらなんでも言い過ぎです。シロウ、私もお代わり」
……こいつら、なんなんだ。
「士郎、この家のエンゲル係数はどうなってるんだ?」
「言わないでください。最近はそれが一番の悩みなんですから」

「はあ、おいしい。」
あの店で食べたケーキも絶品だが、このシュークリームもたまらない。食べ終わって視線に気付く。リョウトがずっと私を見ていたのだ。
「リョウト、食べているところをそのように見つめられると恥ずかしい。」
「ん、ああ、悪いな。店でも思ったが本当に美味そうに食うな、と思っただけだ。」
「はい、リョウトの作るデザートは美味しく食べてもらいたい、と言う気持ちがこもっていて本当に美味しい。」
リョウトはそういう風に言われると照れるな、頭をかいている。
「店でも、って、ひょっとしてあなたアーネンエルベのパティシエ!?」
「なんだ遠坂、知らなかったのか?有名だぞ。」
「ええ、弓道部でもよく部活が終わってから食べに行きます。忙しくなかったらサービスしてくれますし。」
「まあ、知らないのも、モグモグ、無理ない、モグモグ、かもね。ゴクン、あのお店って、モグモグ、何度も、モグモグ、本に、モグモグ、載ってる、モグモグ、けど葉崎、モグモグ、君って、モグモグ、取材とか、モグモグ、断ってるらしいし。」
「藤村、食うかしゃべるかどっちかにしろ。それから、5,6個いっぺんに食うな。」
「いいじゃない、美味しいんだから。」
「美味しいから、とかそういう問題じゃない。というか、そんな喰い方したら不味くなる。」
リョウトの言うことは一理ある。カスタード、生クリーム、イチゴクリーム、プディング、これだけの種類を一度に食べたら味が混ざって食べられたものではない。
「葉崎先輩、どうして取材を受けないんですか?」
「雑誌に載ると色々と忙しくなるから載りたくないだけだ。」
ああ、確かに私もワイドショーなどで美味しそうなお店が出ると行きたくなってしまう。

「そういえば葉崎君って何か格闘技とかやってるの?」
馬鹿虎はシュークリームと紅茶を飲みながら、そうでなきゃ私が負ける理由がわからない。なんて抜かしてやがる。
「そうですね。確かにリョウトの身のこなしは何か武術を身につけている様に見える。」
セイバーは静かに紅茶を飲みながら藤村に相槌を打つ。むう、隠しているつもりでもばれるもんだ。
「なんだ藤村、俺が一年のときに体育の授業で負けたことまだ根に持ってるのか。」
ああ、今でもはっきりと思い出す。思い出すだに腹が立つ。
「え!?先輩って藤村先生に勝ったんですか?剣道で?」
「あ、俺聞いたことある。確か体育の授業で先生が出張のときに…、」
士郎がそこまで話して、藤村を見て止まった。たぶん暴走しないか心配してるんだろう。
「ちょっと士郎、最後まで話しなさいよ。」
「いや、せっかくだから先輩に話してもらおう。」
む、自分が藤村の暴走食らうの恐れて俺に振ったな。まあ、別にいいが。
「うう、英語のテストの点数おまけしてあげるからそれ以上言わないでよぅ。」
こいつ、そこまでしてでも話されたくないか。でもな藤村。
「藤ねえ、3年の学年末はもう終わって、後は卒業式を待つだけだぞ。」
とった授業の関係で学年末はなかった。いや、英語3のテストがあるはずだったが藤村の、テスト作るのめんどいからいいや、なんて一言で無しになった。
「葉崎先輩、そのときの話ぜひとも聞かせていただきたいのですが。」
うわ、遠坂がすげ得楽しそうな目ぇしてるよ。士郎も大変だな。こんなのに惚れたなんて。
「あ、私も興味有ります。」
桜も自己主張が強くなったな。今までが弱すぎたからな。いいことだ。
「うわーん、桜ちゃんまでひどいよう。」
「私もぜひ聞きたい。」
「うう、セイバーちゃんまで。ねっ、士郎、士郎はおねえちゃんの味方だよね。」
ついには士郎にすがり始めた。どこが『お姉ちゃん』なんだか。
「ごめん藤ねえ、たぶん藤ねえの味方したら殺される。」
む、正しい状況分析。士郎め、やるようになった。
「ううー、士郎の馬鹿ーー!!」
「藤村うるさい。士郎、茶、お代わり。」
士郎が席を立つ、ひょっとしたらあいつの入れる紅茶は店のよりうまいかも知れん。
「いいもん、それだったら条件があるわ。」
「条件ってなんですか藤村先生。」
身を乗り出すな桜、そこまで聞きたいか?
「セイバーちゃんと葉崎君が戦って、セイバーちゃんが勝ったら聞いていいよ。」
は?何だその条件は。
「藤ねえ、負け仲間作りたいだけだろ。はい先輩。」
「ん、負け仲間ってなんだ?士郎。」
「藤村先生はセイバーに負けてるんです。しかもセイバーは竹刀なしで。」
「はあ、藤村、お前何段だっけ?」
多少呆れと皮肉を込めつつ言った。こんなやつに段位、それも5段を与えたやつの顔が見てみたい。
「しゃらっぷ!!私はただどっちが強いのか見たいだけだもん。」
なるほど、ただの興味本位か。実に藤村らしい理不尽な理由だ。
「いいでしょう、私もリョウトの実力に興味がある。」
こっちは興味ない。まあ、セイバーのサーヴァント、それもアーサー王だ。かなり出来るだろうが。って、ちょっと待て。
「藤村、俺が勝った場合のことが決まってないぞ。」
「んー、そうね、どうしよっか。」
「じゃあ、俺が勝ったら藤村の悪行を全部ばらすとしよう。」
「え?え?えーーーーー!!ヤダーーーーー!!」
問答無用。

決着は一瞬でついた。と言うより何がなんだかわからなかった。
先輩は中段の構え、セイバーは脇構えで、しばらく微動だにせず相対してたかと思うと、先輩が打ち込み、セイバーが先輩の竹刀を弾き飛ばした。うん、そこまでは見えた。次の瞬間、セイバーは床に転がり、先輩の拳がセイバーの眼前に、セイバーの竹刀が逆袈裟の位置で止まってた。
「ねえ、士郎。今何があったの。正直言って見えなかったんだけど。」「俺も見えなかったけど、たぶん先輩が足払いをかけたんだと思う。」
剣道はどうしても相手の竹刀に目が行って足元がお留守になりやすい。それに、確か俺が聞いた藤ねえと先輩の戦いも足払いで先輩が勝ったはずだ。
「相討ち、だな。」「いえ、私の負けです。あなたは足払いをかける際、私の竹刀を右手で止めていた。もし足払いで無く、手刀でのどを突かれていればおそらく私は・・・、」
「相討ちにしとけ。勝負にもし、は無い。一つ一つの決着こそがすべてだ。判断を悔やんでも何にもならん。悔しいんだったらまた相手してやるよ。」
先輩は立ち上がってセイバーに手を差し出す。
「はい、確かにリョウトの言うとおりですね。……次こそは負けません。」「ふ、次も返り討ちだ。」
セイバーが先輩の手を握り返す。あ、二人とも笑ってる。
「うんうん、勝負を通して育まれる友情。これぞ王道だよねー。」
何の王道だよ藤ねえ。いい感じを台無しにするよなぁ、藤ねえって。
「そしてゆくゆくは友情はやがて……、きゃーーーっ!!」
藤ねえがどっかいってるけど…、もうほっとこう。


後書き?
彼は魔術師です。当然聖杯戦争のおおよそも知っています。単に興味が無かっただけ。その辺はまた次回。
ちなみに、中段の構えは基本的な構え、脇構えは相手の変化に対応する構えなのだそうです。


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