「そういう訳で一成はマスターじゃなかった。」
いささか強引な方法だったが致し方あるまい。
容疑を晴らさないと赤いあくまに夜道で襲われる可能性大だ。
「どうやって確認したの衛宮君?」
「脱がした。」
「そう、じゃあ当分その方針でいくしかないわね。」
「へ?」
「だから怪しい奴らを片っぱしから脱がしていくのよ、剥ぎ取りゴメーンて。」
「遠坂?」
「魔術師は脱がーす!!」
「そういう訳で怪しい奴らを片っぱしから脱がして呪文のかけら・・・もとい令呪を探すことになった。」
遠坂の作戦をセイバーに伝える。
「・・・。」
彼女の沈黙が痛い。
「作戦としては下策ですが、現状では仕方ありません。まあ聖杯戦争では確かに常套手段ではあるのですが。」
「そうなのか?」
「はい、マスターを特定してサーヴァントで暗殺するのが最も手っ取り早い方法ですから。」
「じゃあ、オヤジも・・・。」
「・・・聞きたいですか?」
「いや、やっぱりいい。」
「キリツグは大衆浴場の番台で・・・。」
「いいってば!」
「彼は勝つためには手段を選ばなかった。」
俺の中でオヤジのイメージと理想がガラガラ音をたてて崩れていった。
「しかし、脱がすっていってもどうすりゃいいんだよ。」
「シロウが学友にしたように力づくでいけば良いでしょう。」
「人聞きの悪いこと言うなよセイバー。あれは合意の上だった。」
「そうですか、合意の上なら問題ありません。」
「何かその言い方だと問題ありまくるような気がする。」
「気のせいでしょう。」
淡々と語るセイバー。もう少し別の反応を期待するのは俺の心の贅沢でしょうか。
それにしても一歩間違えれば犯罪者だ。聖杯戦争の残りの期間を鉄格子の中で過ごすはめになりかねん。
「まあ、手早くやるしかありませんね。」
「手早くって、セイバー・・・。」
「刃物で脅して身動きを取れなくしてから衣類を剥ぐ、というのも有効です。」
「まんま犯罪者だな。」
「シロウは甘い!もしその人物がマスターだった場合は確実にサーヴァントと戦うことになるのですよ!そんな悠長な事を言うようなアマちゃんは私のマスター失格です!」
やけにノリノリなセイバー。楽しんでません?
「こんちわー、シロウもうご飯できてるー?」
「あの先輩、もうお料理終わっちゃいましたか?」
藤ねぇと桜が来た。これ以上この会話を続ければ衛宮士郎の株は暗黒の金曜日を迎えるだろう。
「セイバー、この話しの続きは後で・・・。」
「チャンスです。あの2人を実験台にしましょう。」
ぶっ!!!!
なにを仰るセイバーさん?
「幸いあの2人なら警戒されません。ここで練習をして本番でしくじらないようにしなければ。」
「な、ななな何言ってんだよセイバー?藤ねぇは俺の姉貴みたいなもんだし、桜は大事な後輩だぞ?」
「あの2人を簡単に剥ぎ取れないようでは、聖杯戦争に生き残れません。」
論理がぶっとびすぎませんかー?
「それに桜はマキリの家の者でしょう?」
「だけど魔術師は一子相伝なんだろう?だったら慎二とライダーはもう戦線から脱落したぞ。」
「リンはシンジには魔術回路が無いと言っていましたが。」
むっ、確かにそうだ。遠坂は慎二には魔術回路が無いと言っていた。だとすれば後継者として選ばれたのは実は桜なのか?
「シロウ、サクラが今回の聖杯戦争に関わっているかどうか確認する必要があると思います。」
確かに桜が聖杯戦争と関わりがあるかどうか確認しなきゃならない。もし何らかの形で関わってしまっていたら対応策を考えなければならないだろう。
「・・・わかったよセイバー。」
「では私がタイガを脱がしますからシロウはサクラをお願いします。」
・・・ってええええーー!!??
「何か問題でも?」
「いや、だって桜は大切な後輩だし、親友の妹だし、俺の平穏な日常の象徴なわけだし!!」
「そうですか。では私がサクラを担当します。シロウはタイガを。」
藤ねぇを脱がす?
それ絶対ムリ。
いろんな意味で。
「そっちはもっと無理っぽい。」
「では、やはりシロウがサクラ脱がすしかありませんね。何、大丈夫です。サクラはシロウに好意を抱いているようですから誘えばホイホイついていくでしょう。」
「ば、馬鹿言うな、セイバー!桜はそんな女の子じゃないぞ!!それに俺達はただの先輩後輩で、好きだ嫌いだなんてことは・・・。」
「シロウは愚鈍ですね。」
ニヤっと嫌な笑いをするセイバー。最近赤いあくまの影響を受けすぎて困る。
「まあ、アフターケアをしっかりやれば大丈夫でしょう。その点キリツグは上手かった。」
「なんだよ、アフターケアって?」
「・・・聞きたいですか?」
「いや、やっぱいい。」
オヤジィィーー!!
「タイガ、話があります。ちょっとこちらに来てください。」
「なーに?セイバーちゃん?私お腹が減って力がでないよう。早くご飯がたべたいよう。」
「私もそうですが、すぐ済みます。」
もう、とぶつぶつ呟きながらセイバーについていく藤ねぇ。
「ああ、サクラ、シロウが大切な話があるそうです。」
振り向きざまに爆弾発言をサラッと落とすセイバー。
「せ、先輩?大切な話しって?」
「ああ、そのここじゃ何だから俺の部屋で話そう。」
確かにここじゃまずい。桜に悪いし、藤ねぇの竹刀が光速を越えて襲い掛かってくるだろう。
「はっ、はい!」
やけに緊張している桜。セイバーが大切な話なんて言ったからだ。
きゃー!!
絹を裂くような女性の叫び。
な、ななな何すんのようセイバーちゃん!?
ええい、じっとしてくださいタイガ!
おのれ乱心めされたかって、ちょっとマジやめてー!!
ええい、よいでわないか!よいでわないか!
あれー!!
・・・・・・。
助けにいくべきだろうか。
いや、そんな事をすれば藤ねぇの裸を拝むはめになるかも。
それだけは避けなければ。
「せ、先輩、早く行きましょう・・・。」
何だか桜にはあの虎とライオンの雄たけびが耳にはいってないような。
何故自分の部屋でこんなに緊張しているのか?
桜が真っ赤になりながら俯いているからだ。
薄々俺の意図を感づいているのか?
やっぱり桜はマスターなのか?
ええい、ここで躊躇っていてもなんの解決にならない。
ズバッと言うべきだろう。
「さ、桜?」
「は、はい先輩っ!!」
俺に話しかけられるのを待っていた桜が即答する。
「その、・・・脱いでくれないか?」
「はい。」
一瞬で裸になる桜。
なんですか、そのスピードは?
時を止めた?
「・・・先輩。」
うう、上目づかいでみないでくれ。
理性を総動員して令呪があるか調べる。
その、何と言うか成長したね桜。
「そ、そんなにジロジロ見ないで下さい!・・・恥ずかしいです。」
あー、そういうこと言うの禁止。
「桜、その後ろを向いてくれないか?」
「は、はい!」
くるりと後ろを向く桜。
あー、胸だけじゃなくてお尻も・・・。
いや、違う。
後、確認しなければならないのは・・・。
「桜、足の裏も見せてくれないか?」
「・・・先輩、フェチなんですか?」
チラッと抗議の目を向ける桜。
ちょっと躊躇ってからおずおずと足を上げる。
あー、そんな風に足を上げると太腿とか他のものが見えて・・・。
ぶんぶんと頭を振って雑念を追い出す。
しかし何ていうか桜はコワク的だ。何か吸い寄せられるようなものがある。
ともかく、桜の体には令呪らしいものは無かった。
「よかった。桜ごめん、もう服を着てくれ。」
「次は先輩の番です。」
「え?」
「私だけだなんてずるい。先輩の裸も見せて下さい。」
「さ、桜、何を言ってるんだ?」
「魔術師の取引は等価が原則です。先輩も魔術師の端くれでしょう?」
「魔術師って、桜、お前やっぱり!?」
「細かい事はどうでもいいんです。早く裸になって下さい。」
「バッ、バカッ!!こんな密室で健康な男女が裸で向き合ったりしたら!!」
「先輩。」
「落ち着け桜!」
「私、産みます。」
産むって何をーー!?
「一姫二太郎。」
具体的スギーー!!
「うっ、うっ、うっ、お姉ちゃん汚れちゃったよう。」
泣きじゃくる藤ねぇ。その脇でずずっとお茶をすするセイバー。
・・・藤ねぇ、俺もだ。
今日は憧れの優等生とかオヤジの理想とか平穏な日常の象徴とか純潔とか色んな大切なものを失った。
「うう、もうお嫁にいけないっ!セイバーちゃん、責任とってもらうからね!」
「私でよければ。」
「えっ!?」
セイバーはつっと三つ指を立ててお辞儀をする。
「ふつつかものですがよろしくお願いしますタイガ。」
「えっと、そんな、セイバーちゃん?」
やけに男前なセイバーの顔。ありゃ女ならだれだって惚れちまう。
金髪碧眼の美少女にぐいっと引き寄せられるタイガー。
「必ず、貴女を幸せにする。」
ずっきゅーん!
藤ねぇの中で長年眠っていた回路が繋がったようだ。
「うう、お姉ちゃんに春が来たよう、士郎!」
いや不毛な冬の到来だと思うが・・・。
「良かったですね、藤村先生。」
ホロリと桜が泣いている。
「先輩、私たちもセイバーさんと藤村先生に負けないぐらい幸せになりましょうね。」
訂正。俺が今日失ったのは残りの人生全部。
「タイガ、新婚旅行は中国がいい。私は満漢全席というものを食べてみたい。」
「うんうん、サラ金でも何でもいいからお金を借りてくるよう。」
それが目的か結婚詐欺師。
「・・・チクショウ、何のつもりだよ、遠坂・・・。」
目に涙を溜めて私を睨む蒔寺楓。
彼女は糸一本身につけていない。
その日に焼けた肢体といい、きつい顔で涙ぐむ表情といい女の私でもくらくら来る。
「悪く思わないでね。これも私たちが日本に帰るため・・・じゃなくて冬木市の平和の為だから。」
「覚えてろよ、絶対復讐してやるからな・・・。」
ああ、なんでコイツはそういうツボをつくセリフを吐くかな。
後味の悪い思いをしながらその場から離れる。
「全く、正気とは思えんな、凛。」
「ちょっとアーチャー、あんた覗いてたの?」
「まさか、あさっての方向を見ていたよ。私に覗き趣味は無い。」
「ふん、私だってないわよ。」
「それにしても、恨まれたものだな、凛。」
「当然でしょう。あんな事されれば誰だって。」
「それでも君はやる。魔術師の鏡だな。」
あんな変態行為を魔術師の鏡なんて言われても、からかわれているとしか思えない。
いや、実際からかっているんだろうコイツは。
「先程の犬のような娘なぞ脱がされただけでは不満そうだったぞ。」
うう、絶対コイツ殺す。
「士郎の方は大丈夫かしら?」
まあセイバーがついているから警察にしょっぴかれるようなことは無いとおもうが・・・。
「アーチャー?」
「いや、だいじょうぶですじょ?」
何だかカクカクしている。
おまけ
その頃のキャスターさん
「できましたわ宗一郎様♪」
エプロン姿のキャスターが料理を運んでいる。
質素な美人なのでエプロン姿が妙に似合う。
「すっぽん鍋に鰻と蝮の蒲焼か。」
「はい♪私の故郷の郷土料理です。」
「嘘だな。」
「・・・はい、すみません。」
シュンとうなだれるキャスター。
「別に責めたわけではない。ただ確認しただけだ。」
何の感情を込めず淡々と語る葛木宗一郎。
「宗一郎様・・・。」
完全にのぼせあがるキャスター。
「では、いただく。」
宗一郎は礼儀正しく一礼すると黙々と食事に集中する。
宗一郎の作法は完璧なだけでなく、何か神聖さすら感じさせる。
美味しいとも不味いとも言ってはくれないがキャスターは幸せだった。
「お前は食べないのか、キャスター。」
先程からキャスターは箸すら持っていない。
「は、はい、私は、その後で宗一郎様から魔力をいただければ・・・。」
嘘だった。彼女の魔力は他人から吸い取っている分で充分足りている。
「そうか。」
彼女の嘘に何の反応を見せない宗一郎。ただ1人で全て食べて良いのかという事を確認しただけなのだろう。
宗一郎が鍋のスープの最後の一滴を飲み干して食事は終了した。
いそいそと後片付けをするキャスターは、つと手を止める。
「マスター、聖杯が手に入ったら・・・。」
「私は何も叶えたい願いなど無い。お前が好きに使うがいい。」
ああ、とキャスターは胸を押さえる。
この人は本当に叶えたい願いなんて無い。
金にも権力にも名誉にも興味が無い。
なのに、自分のために魔術師でもないのに、この聖杯戦争に参加している。
彼に望みがあればいいのに、と彼女は思う。
それがどんな俗な願いであっても彼女は全力でそれを成し遂げる。
そうでなければあまりに不平等ではないか。
「それで、お前は何を望む。」
「え?」
「何を望むかと聞いている。」
「は、はい。」
俯くキャスター。
「あの、聖杯の力でこの世界に残れるようなって、・・・それでご迷惑でなければ、その宗一郎様の傍に・・・。」
「そうか。」
ただ事実のみを肯定する返事。
キャスターは己のマスターの胸にもたれ込む。
「私、宗一郎様の赤ちゃんが欲しい・・・。」
顔を赤らめながらキャスターはつぶやく。
「何人だ。」
やはり淡々と答える葛木宗一郎。
「あの、男の子2人と女の子を1人・・・。」
かつて叶わなかった幸せな家庭を持つという夢。男の裏切りで打ち砕かれてしまった夢。そして自分で汚してしまった夢。
「・・・一姫二太郎か。」
宗一郎は初めて困った顔をした
「宗一郎様?」
キャスターは不安そうに主を見つめる。
「うむ、こればかりは神仏の決めることだからな。」
大真面目に答える宗一郎。
キャスターは笑った。こんなに心地よく笑ったのは久しぶりだった。
つまり2人はらぶらぶだった。
士郎・凛・アーチャー「納得できるかーー!!!!」
後書き
おまけが一番楽しく書けました。