注意
・ネタバレを含みます。クリアしていない方でネタバレが嫌な方はご遠慮ください。
・藤ねぇが出てきますが、しんみりした感じです。そんな藤ねぇ見たくないと言う方にはお勧めできません。
・話は凛ルートのアーチャーが士郎をかばってギルガメッシュの攻撃を受けたあとから始まります。
そこには英雄王の攻撃を受けて、消えかかっている独りの騎士が居た。
アーチャーと大河
アーチャーは英雄王の攻撃を受けてなおこの世に留まり続けていた。
瀕死のダメージを負ったもののまだあの少年と少女の手助けは出来るだろう。
この聖杯戦争を振り返る。
自分はこの聖杯戦争で様々な事を経験した。
感慨にふける。
その時、ひとつの気がかりが生まれた。
藤ねぇは大丈夫だったのだろうか?
自分が生涯、姉としてもっとも慕い、信頼していた人。
凛は健康だから大丈夫とは言っていたが、不本意にもこの聖杯戦争に巻き込んでしまった。
もっとも本人はそのことを知らないだろうが。
キャスターも死んで呪いも解けているはずだ。
彼らが英雄王と戦うまでにはまだ時間があるだろう。
少しの寄り道くらい許せるはずだ。
アーチャーは藤村家の前にいた。霊体であるけれども。
藤ねぇはこの時間部屋に居るだろう。夜も深い、寝ているに違いない。
アーチャーは藤ねぇの部屋に行く。
藤ねぇは起きていた。それも
「むむぅ」
とさも難しいこと考えてますよー。という感じに。
「なんか変なのよねー士郎。あれはきっと何かに巻き込まれているはね絶対。
そして私がやめなさいって言っても、“これだけは譲れない。”なんて言いうんだ。
それも私がなにも言えなくなるような顔して。
そして無理しちゃうんだなー。そういうところはちっとも変わらないんだから」
藤ねぇの独り言は前から知っていたが。ここまで口にするのはどうかと。などとアーチャーは思う。
それにしても藤ねぇの心配はありがたい。
藤ねぇに凛、そして桜もいれば、私は道を踏み外すことはないかも知れない。
普段どおりの藤ねぇがそこには居た。だからアーチャーは安心して立ち去ろうとした。
「士郎、どこにも行っちゃ嫌だからね。」
突然の藤ねぇの弱々しい声。
アーチャーは振り返ってドキリとする。
そこには哀しそうな顔して涙で頬を濡らしている藤ねぇの姿があった。
アーチャーは藤ねぇがあんな顔して泣いているのを一度しか見たことが無い。
それは衛宮士郎が中学の頃の話だ。
親父が死んだ。俺の憧れていた魔術師・衛宮切嗣が死んだのだ。
俺は親父の死を前にして何も出来なかった。
それでも藤村の爺さんに話をしてなんとか葬式だけはすることが出来た。
そのときだ。藤ねぇが泣いていたのは。
俺は自身の事で一杯だったので何もすることが出来ずただ見ているしかなかった。
藤ねぇはいつまでも棺おけの前で泣いていた。
それを藤村の爺さんが叱ったんだっけ。
「大河、いつまでも死んだ奴に泣きつくんじゃねえ。切嗣の奴も往生できねぇじゃねえか。」
それを聞いて藤ねぇはさらにわめき出した。
その時は藤村組の家政婦さんが藤ねぇを宥めてくれたおかげで
親父を送り出すことができたんだ。
それ以来藤ねぇのあんな涙を見たことが無い。
「私、もう好きな人と離れ離れになるなんて嫌よぅ」
それは予想外の告白。
アーチャーは藤ねぇを凝視する。
藤ねぇの目からは止め処なく涙がこぼれる。
アーチャーはこれから死地へ向かわなければならない。
そして、ここによったのはただ元気な藤ねぇを確認したいだけだった。
だから、姿を現すつもりはなかった。
だけどアーチャーは藤ねぇの前に姿を現した。
「誰?」
藤ねぇは目の前にいるアーチャーを見る。
「藤ねぇ。俺はきっと帰ってくる。
だから藤ねぇはいつもどおりに俺を迎えてくれ」
アーチャーは藤ねぇを安心させたい一心で言葉を紡ぐ。
「士郎・・・なの?士郎どこにもいっちゃ嫌」
藤ねぇがアーチャーに抱きつく。
「藤ねぇ、俺は藤ねぇの知っている衛宮士郎とは違う。
だけど、藤ねぇの知っている衛宮士郎は俺が必ずここへ帰す。
だから藤ねぇ安心してくれ。いつだって俺は藤ねぇのところに帰って来たろう。」
「士郎。それは本当?」
「ああ。だって俺たち家族だもんな。家族の元へ帰るのは当たり前だろう?
だから俺は藤ねぇのところに帰ってくる。」
藤ねぇの涙も止まり、顔が和らいでいく。
「うん。士郎。約束だからね。約束破ったら私どうしていいかわかんなくなって
針千本使って士郎のこと蜂の巣にしちゃうんだから。」
それはなかなか恐ろしい。約束は絶対に守ろう。
「ああ。きっとだ。」
藤ねぇは安心したのかそのまま眠りにつく。
アーチャーは藤ねぇを布団に寝かせ、その落ち着いた顔を見た。
自分の姿を見せてしまったことが問題にならないだろうか考えたが、
この様子なら夢と間違えてくれるだろう。
そして藤ねぇはいつもと変わらず、俺を迎えてくれるはずだ。
アーチャーは死地へ向かう。
答えを提示した少年と愛しい少女の助けをするために。
そして大切な姉の下へ自分を帰すために。
interlude〜藤村大河〜
Answer
藤村大河は原因不明の睡眠状態を続けていたらしい。
つい先日、その眠りからさめた。とはいえ眠くなるもの。
普段どおりに寝てみたのだが良くない夢をみた。
それは虫の知らせで見たら必ずといっていいほど士郎が怪我をすると言うものだ。
その夢を見た私は目が覚めてしまう。そして愛しの弟のことを思う。
士郎は気づかれていないと思っているが、士郎が夜中にこそこそやっているのは知っている。
最近はなにか良くないものに引っかかっている気がしてならない。
士郎は自分の身を心配すると言うことに関して感情が欠けている。
だからかなり心配だ。
ぶつぶつ言いながら士郎のことを心配する。
心配しながら、士郎の身になにか起きたらどうしよう?なんて気になってくる。
もしかしたらこのまま士郎と会うことが無くなるかもしれない。
そんなことを思ったら思わず涙が出てきてしまった。
「士郎、どこにも行っちゃ嫌だからね。」
思いの丈を口にする。
口にしたとたん。より深い哀しみに襲われた。
それはあの時以来、弟には見せることの無かった彼女の心の弱さだった。
あの時、藤村大河は大泣きした。
私の好きな人、衛宮切嗣が死んだのだ。
私は切嗣が居なくなったことを哀しんだ。
その時はどうしようもなく哀しくて泣いた。
おじいさまに叱られて、切嗣が死んだんだって思っったらたまらなくなって思い切り泣いた。
家政婦さんに宥めてもらってなんとか切嗣とはお別れすることが出来た。
その時は士郎のことは考えられなかった。
その後、おじいさまに人の死について教えられた。
人はいつか死ぬんだってこと。
残された人間はその人の意思を継がなきゃいけないってこと。
みんな哀しいんだってこと。
私は考えた。衛宮切嗣は孤児である士郎を引き取った。
そして士郎のことを大事に育てていた。
さらには衛宮士郎は私にとってよい弟分だった。
きっと士郎は父親の死に哀しんでいるに違いない。
なら姉貴分である私が哀しんだままで居ていいはずがない。
私は士郎の前で二度と泣かないことを誓った。
そして、強く、そして弟思いの姉になると誓ったのだ。
だけど、士郎が居ないときは時に哀しんだ。
大好きだった切嗣が死んだことを思い出しては涙した。
そして今は士郎がどこかへ行ってしまうような気がしてならない。
私はあの時のことを思い出す。
「私、もう好きな人と離れ離れになるなんて嫌よぅ」
私の本心を口にする。涙は止まりそうにない。
今夜はずっとこの調子かもしれない。と思ったとき
大人になった士郎がそこに居た。
朝。私は目覚める。
夢の私は涙していたようだけど、今は心は安らいでいる。
それは夢の中で士郎が約束してくれたからだろう。
“藤ねぇのところに帰ってくる。”
ならば私は強く、弟思いの姉でいよう。
それはいつものことだ。
そして楽しい日常だ。
「うーん。今日もいい天気。さーて、今日の朝食は何かしら?楽しみ!」
あとがき。
あ〜なんでこんなSSになってしまったんだろう?
このSSはキャスターに襲われた大河をアーチャーが心配するシーンを見て
アーチャーと大河が出会っていたら?というのをやりたくて作りました。
本当はギャグにしたかったのですが、なぜかシリアスになってしまいました。
しかも、展開はどこぞにありそうなベタベタの作品。
これって、アレじゃない?って作品を知ってるなら教えてほしいな〜なんて思ってます。
自分の大河のイメージとはかなり違い、こんなのいいのかって不安なSSなのですか、
これはこれで大河なのかもって思う自分が居て、割と嫌いになれず、
こう一石を投じるべく投稿しちゃいました。
あと、本編への裏づけはしてないので本編とちょっと設定が違うかも。
もし違いがあったらそこは平行世界ってことで黙認してください。
感想を待っています。