その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その3 M士郎


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1: kouji (2004/03/03 22:06:40)

5凛視点

「……リン?」

「セイバー立てる? 逃げるわよ!!」

外の音に気がついたのか、私とアーチャーの会話に目を覚ましたのか、
セイバーが私に声をかけてきた

「リン、シロウは?」

「知らないわよ、とにかくアーチャーがひきつけてる間にここから逃げるわよ、
で、士郎と合流、いい?」

自分よりマスターを気にする、サーヴァントの鑑みたいなセイバーの台詞に答えながら
身振りでセイバーをせきたってる
アーチャー一人じゃこの数しんどいだろうし、
ここに私たちがいたら宝具も使いにくいだろう

(アイツが持ってる宝具にもよるだろうけど)

士郎と合流と言うのは建前だ、
最悪、アーチャーがいなくなったときの戦力の確保
彼には悪いけど、私とセイバーの間で再誓約することも考えておくことにする
二人が了承するかは解らないけど、私なら正しい契約でセイバーを維持できる
それで士郎を護れるなら、彼女も文句は言うまい
もっとも、あいつが生きてたらだけど
まぁ、理想を言えば、アーチャーが敵を倒してくれて、
士郎がセイバーにちゃんと魔力を供給できればいいわけなんだけど

「リン…………申し訳ない」

立ち上がるセイバー、項垂れているのは、自分のふがいなさのせいか……
最高のサーバントでありながら、彼女は多くのハンデゆえに、その力を発揮できずにいる

半人前の魔術使いである衛宮士郎は彼女と誓約したものの、
魔力を供給できず、はては、わが身を省みずにサーヴァントを護る始末
正直、理解不能の謎の自己再生がなければとっくの昔に死んでいるだろう

お陰で彼女は、現界時に持っていた自身の魔力と、わずかに自分で生成できる魔力で
やり繰りしないといけない、

要は、ただ働きで貯金が目減りしている状況な訳だ
普通はマスターから魔力と言う給与が支払われるわけだけど
衛宮士郎はそれが出来ない、そして彼女の宝具――要は切り札は、
非常に燃費が悪い、無論それだけの効果のあってのものだけど
供給もとのないまま宝具を使った代償は、
かろうじて現界しているだけの今の彼女の姿であったりする

あぁ、なんてこと、なんてもったいないんだあの男は、

ののしりたいのは山々だけどココはひとまず退散しよう
そう思ってセイバーの手をとったところで

「見つけたわ」

目の前にローブをかぶった女が現れた

「ちっ」

発している魔力で解る
こいつは人間じゃなく、聖杯を欲して現れた魔術師の英霊、

キャスターのサーヴァント

大口叩いた自分のサーヴァントに文句を言いたくなったが
外の音を聞く限り、こいつの使い魔の相手で手がふさがってるみたいだ

ああもう、使い魔が使い間を従えるなんて反則じゃないの!!

「リン、私がひきつけている隙に逃げてください」

「そうしたいのは山々だけど、見逃してもらえそうもないのよね」

ポケットの中の宝石に手をかけながら答える
とにかくココから逃げないと、
ココでリタイアなんてしたくないし、
こっち二人なら兎も角、士郎とアーチャーが残ったなんて目も当てられない
あの二人は仲が悪い、とにかく悪い、
それが、考え方故なのか、性格故なのかは、解らないけど
あの二人で聖杯戦争を生き残るのは無理だろうと断言できるほどに

いや、むしろ、あの弓兵は聖杯戦争と無関係に衛宮士郎を殺しかねない

そんな気がする
そう思いながらジリジリと後退する
と、そこへ、

カシャカシャ

ガシャ

「げっ!!」

廊下に視線を送ると無数の使い魔に囲まれていた

万策尽きたな、ココでリタイアか…………

らしくないけど、みっともなく足掻いてみるとしましょうか

「       」

結論を言おう
勝負は一瞬でついた
私が何かをする間もないまま、私とセイバーはキャスターに弾き飛ばされていた
襖を突き破って隣部屋に転がる、
どうやら死ぬほどじゃなかったみたいだ
あ〜でもたてないや、

「くっ……リン」

本調子なら平然としていたであろうセイバーも無様に倒れている
あぁ、くそこれでホントにおしまいか…………

「さてっ…………」

そうほくそえみながら呟くと、キャスターは歪な短剣をとりだした
あれは恐らく宝具だろう、立つ事もままならない相手に
ワザワザ宝具を使うのもおかしな話だ
だとすればあの宝具には何か秘密が?
ヤバッ、もし想像どうりの物だとしたら、すごくヤバイ

その時

「そこまでだ、糞野郎」

正義の味方が現れた


6士郎視点

「そこまでだ、糞野郎」

ギリギリで、間に合ったらしい、
目の前では、ローブをかぶった知らない女が、
セイバーに奇妙な剣を突きたてようとしていた
こいつがキャスターか、

「ちっ、役たたずめ」

俺の足止めに使った一成のことだろう、短くののしると、キャスターは俺に向けて魔術を放つ

「喰らうか!!」

叫びながら転がりつつキャスターにけりを入れてやる

「ちっ!!」

セイバーからキャスターを引き離した
よし、上手くいった

「遠坂、大丈夫か?」

「えぇ、何とかね」

立ち上がった遠坂にセイバーを預け、キャスターと二人の間に立つ

「シロウ」

「遠坂、セイバーを頼む」

「ばか、アンタじゃサーヴァントに勝てるわけないじゃない」

「今のお前らよりマシだ」

言いながら、撃鉄を起こすイメージをくみ上げる
サーヴァントに勝てるわけない?

なら、勝てるものを用意するだけだ

勝てる力を作るだけだ

例えば、…………すべての誓約を破棄するもの、……すべての誓約を始まりに戻すもの
……令呪すら打ち消す歪な刃

…………目の前の魔女が持つ刃のような

そして
俺の手には、いつの間にか歪な短剣が握られていた


7凛視点

「「「な?」」」

私とセイバー、それにキャスターの声も重なった
士郎の手には、いつの間にか歪な剣が握られていた
それは、目の前の魔女が持つものと全く同じもの

「誓約破り、か、こんなの使われてたらやばかったな」

確かめるように短剣をふる
なんてインチキなヤツだ

「一体何者?」

キャスターの問いかけはこの場にいる全員のものだ

「何って、ただの半人前の魔術使いだよ、
どうしたキャスター、かかって来いよ」

ただの半人前? 冗談じゃない、
誰がそんなことが出来るか
投影魔術はないものを作り出す技術ではある
だけどそれはただの飾り、ものの形を真似ただけの、形だけのまがい物
そこには何の魔力も力もない
無い、ハズだ

「く、どうやら、ココは引いておいた方がよさそうね、
何をしてくるのかわからないまま相手したくないもの」

言うなりキャスターは姿を消した
あ、助かった、
外も静かになったみたいだ
アーチャーが戻ってくる

「大口たたいたわりに情けないわねアーチャー」

「ふむ、スマン、やつが策士であることを忘れていたようだ」

私の言葉が動揺している自分を誤魔化すためだと気づいたのか、
さらりと流すと、アーチャーは士郎の手の中のものを凝視した

「キャスターの宝具か、全く無茶をする」

「一寸アーチャー、アンタ士郎がやったことが解ってんの?」

「何、ただの『投影』だが? 凛、君が言っていたではないか、
“衛宮士郎の魔術はただの『投影』ではなく、何かの魔術が劣化したもの”だと」

そういったのは確かに私だ、でも何か腑に落ちない

“衛宮士郎の『投影』はただの『投影』ではない”

そう言ったのは確かに自分だけど、アーチャーは何か矛盾したことを言った気がする

「ぐっ……」

「シロウ!!」

二人の声に振り返ると、倒れかけた士郎をセイバーが支えたところだった
彼の手にはもう短剣は無い
額には脂汗を浮かべ、熱があるのか意識もはっきりとしていない

「チョット、士郎大丈夫?」

私も慌てて駆け寄る、無茶苦茶なことやったから魔術回路が焼ききれたかもしれない

「なに、少し神経が驚いているだけだ、見せてみろ」

言うなりアーチャーは士郎の背中に触れて何かを始めた

「こいつは魔術回路そのものが特殊でな、神経と一体化している、
今まで使っていなかった魔術回路を突然つないだので、
神経としての機能が麻痺したのだろう」

冷静に事態を説明するアーチャー

「アーチャーアンタなんでそんなこと知ってるのよ?」

「何、経験談だ、私も昔、同じような目にあってな、
…………さて衛宮士郎、説明してもらおうか?」

そう言いながら彼が指した先、そこには、

紫の髪をなびかせた、長身の美女が立っていた




「ライダー、何故貴女がここにいる?」

セイバーは問いかけながら疑問に思った

“このライダーは本当に同じサーヴァントか”と、

発している魔力量が桁違いだ、最初は自分が消耗している性だと思ったが、
アーチャーや凛の様子を見た限り、そうは思えない

「エミヤシロウとの取引です、セイバー、
私はマスターであるサクラの保護を彼に頼む代わりに、
貴女の代理を務めることを約束しました」

「む、それは違うぞライダー、桜を護るのは当然だし、
俺はむしろ、セイバーを護ってくれた方が助かる」

意識が回復したのか士郎が口を挟む

「シロウ、どういうことですか?
サクラとタイガは聖杯戦争とは無関係ではなかったのですか?」

桜達は士郎や凛にとって日常の象徴だ
それが解っているからこそ、巻き込まないように
彼女らを遠ざけた訳なのだから

「成る程ね、慎二のやつがどうやってサーヴァントを手に入れたのか不思議だったけど、
あの子から『借りて』使ってたわけか」

納得した、と凛が言った

「あの子も上手く隠蔽したものね、てっきり魔術回路の作り替えのせいで
役に立たないくらいに弱体化したのかと思ったけど、」

ため息をつくと、凛は一同に、桜が魔術師であり、自分の妹であることを説明した

「ライダー、話はこのくらいにして桜を連れてきてもらえるかしら?」

「えぇ、サクラはあの子に任せています、今呼びます」

言うなりライダーは天を仰ぎみた、すぐに白い光が空から降りてきた

「なるほど、幻想種にサクラを護らせていたわけですか」

セイバーが光を見ながら呟く
それが収まると、庭に天馬が立っていた
その背には馴染みの少女が乗せられている

「これって、ペガサス?」

「幻想種を使役できる英霊は多くない
ペガサスを使う君は、……そうか、
この国にはその姿はあまりメジャーではないからな、気付かんわけだ」

「えぇ、私の真名はメデゥーサ、ギリシャの女神アテナに追い立てられし魔女の末娘です」

アーチャーの言葉に頷き返すライダー

「セイバーの真名はもう解ってるし、これでライダーの真名も解った、
なぁ、遠坂、お前のサーヴァントって、何の英雄なんだ?」

「……知らない、悪いけど」

「あぁ、凛も人のことが言える様な召喚ではなかったからな、
生憎私は自分の真名が思いだせんのだ」

まぁ、そちら二人のような有名な英雄ではないだろう
と、アーチャーは答えながら桜に近づいた
一瞬、彼の顔に殺気に似た何かが浮かんだことに気がついたものは一人もいなかった


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