これは間違いに気付き修正したものです。
ご迷惑をかけ、申し訳ございません。
求めを受けた。
送られる魔力により、実体化する体と構築される意思。
求めに従い、この世に顕現して――
突然、眼下に広がる壁。
「――――!!??」
バ−−−−ン!!
それを突き破ると、広い部屋に出た。
家具らしき物を何個か巻き添えにしながらも、難なく着地する。
伊達に英霊ではない。この程度の危機など造作もない。
一息ついて、辺りを見回すが。目に入るのは壊れた家具の群に、降ってくる瓦礫ばかり。
はて。誰かの求めに応じて、私は呼ばれたのだが。ここには誰も居ない。
おかしいな、と呟きながら、倒れている食器棚らしき物に腰掛けた。
すると――
だんだんだんだん!
慌しく階段を駆け上がる音。
ガチャガチャガチャ!!
何度も回る、この部屋のドアノブ。だがドアはゆがみ開かない。
バキィ−−−−!!!
蹴破られ吹き飛ぶドア。
その見事破壊されたドアの後から、彼女は入ってきた。
「…………」
半場放心して部屋を見詰める彼女。
当たり前だろう。ドアを開けた? ら、瓦礫でメチャクチャになった部屋に、見知らぬ男がいる。……まあ、まともな状況じゃない。
「…………」
今度は無言のまま、自分を睨む彼女。
観察すると、魔力が洩れている事から、彼女がマスターなのだろう。
「…………」
彼女は次に時計を見て、なにか納得したのか。
「…………また、やっちゃった」
額に手を当て、心底後悔しながら呟き。
「……やっちゃった事は仕方ない。反省」
あっさり立ち直る。
感受性が豊かなのだろう、観ているこっちが面白い。
そして彼女はこちらに。
「ところで。アンタ、なに」
なんて事を言ってきた。
「閉口一番それか。これまた、とんでもないマスターに引き当てられたものだ」
やれやれと首をすくめ、「これは貧乏くじを引いたかな」と本気で呟いてみた。
彼女のこめかみがピクッ、と動くのが見えた。
だが抑えたらしく、こちらをジロジロと観察する。
女の子に観察されるのは気恥ずかしいが、表には出さない。
「――――――」
初め疑り深かったその視線は、こちらの魔力量に気が付いたのだろう、次第に驚きに変わる。やはり面白い。
彼女は、多少気圧されながらも確認してきた。
「―――確認するけど、貴方はわたしのサーヴァントで間違いない?」
それに多少、皮肉も含めて返した。
「それこそこちらが訊きたいな。君こそ私のマスターなのか。ここまで乱暴な召喚は始めてでね、正直状況が掴めない」
「わたしだって始めてよ。そういう質問は却下するわ」
「……そうか、だが私が召喚されたとき君は目の前にいなかった。これはどういう事か説明してくれ」
「本気?雛鳥じゃあるまいし、目を開けた時にしか、主を決められない、なんて冗談は止めてよね」
む、と顔をしかめる。腹立たしさと正当性に感心する微妙な気持ちだった。
少し思考していると、向こうが切り上げてきた。
「まあいいわ、わたしが聞いているのはね、貴方が他の誰でもない、わたしのサーヴァントかって事だけよ。
それをはっきりさせない以上、他の質問に答える義務はないわ」
心で溜息をついた。
「……召喚に失敗しておいてそれか。この場合、他に色々言うべき事があると思うのだが」
「そんなものはないわよ。主従関係は一番初めにハッキリさせておく物だもの」
「――――む」
資質はあるが。まともに召喚さえ出来ない者が、生意気にも大口を叩いている。
二人の間に暗雲がたちこめた。
しばらく討論をしたが。話は平行線をいくばかり。
なんとも活きがいい。いや、元気のあるお嬢さんだ。
「――――はあ。強情なお嬢さんだ、これでは話は進まんな。
……仕方あるまい。仮に、私が君のサーヴァントだとしよう。で。その場合、君が私のマスターなのか? いやまあ、あくまで仮の話だが」
「あっ、当ったり前じゃない……! 貴方がわたしのサーヴァントなら貴方のマスターはわたし以外誰がいるっていうのよ……!」
なにやら興奮気味の姫君を更に煽り、彼女を試す。
「ほう。そうか、まあ仮の話なんだが、とりあえずそうだとしよう。
それで。君が私のマスターである証拠が何処にある?」
果たして、彼女は本当に私のマスターに相応しいのか。
すると、彼女は自信に満ちた様子で、右手を挙げた。その右手の甲に令呪が浮き出ていた。
「納得いった?これでもまだ文句言うの?」
どうだといわんばかりに、こちらに令呪を突き出してくる彼女。
彼女を試すだけのつもりだったが……本当に困った。
「……はあ。まいったな、本気でいっているのかお嬢さん」
「ほ、本気かって、なんでよ」
動揺する彼女。
「その考えがだ。令呪があればマスターなのか?令呪などサーヴァントを律する道具にすぎないだろう。
まったく。そんな形だけのものでマスターぶるとはな。
私が見たかったのは君が忠義を揮うに相応しい人物かどうかだったのだが」
彼女は口をパクパクさせて。
「……なによ。それじゃあわたしはマスター失格?」
少し不安げに訊いてきた。
「そう願いたいが、そうはいくまい。令呪がある以上、私の召喚者は君のようだ。……信じがたいが、君は本当に私のマスターらしいな」
幸先が思いやられる。やれやれと肩をすくめた。
「…………」
無言の彼女。
「まったく持って不満だが認めよう。
とりあえず、君は私のマスターだ。だが私にも条件がある。私は今後、君の言い分には従わない。戦闘方針は私が決めるし、君はそれに従って行動する。
これが最大の譲歩だ。それで構わないなお嬢さん?」
ハッキリと、こちらに従えといった。
「――――――――」
ゆらりと、こちらを見る彼女。
「……そう。不満だけど認めるくせに、私の意見には取り合わないって、どういうコトかしら? 貴方は私のサーヴァントなんでしょ?」
その声は震えていて、感情が見えなかった。
「ああ、カタチの上だけはな。故に形式上は君に従ってやる。だが戦うのは私自身だ。君はこの地下にでも隠れて、聖杯戦争が終わるまでじっとしてればいい。それなら未熟な君でも、命だけは助かるだろう」
足手纏いはいらない、お守も御免だ。
「――――っ!」
「ん、怒っのか? いや、もちろん君の立場は尊重するよ。私はマスターを勝利させる為に呼ばれたものだからな。
私の勝利は君の物だし、戦いで得たものは全部君にくれてやる。それなら文句なかろう?」
「――――――――、あ」
プチッ、となにかが切れた音が、聞こえ。
「どうせ君に令呪は使えまい。
まあ、後の事は私に任せて、君は自分の身の安全、を……!?」
「あったまきたぁ−−−−−!
いいわ、そんなに言うなら使ってやろうじゃない!」
突然、彼女の怒りが爆発。なんてものじゃなく、彼女の怒りが噴火する。
「――――Anfang(セット)……!」
彼女は令呪を突き出した。
「な――――まさか……!?」
「そのまさかよこの礼儀知らず!
Vertrag(令呪に告げる)…………! Ein neuer Nagel(聖杯の規律に従がい、) Ein neues Gesetz(この者、我がサーヴァントに)Ein neues Verbrechen(戒めの法を重ね給え)――――!」
彼女の命令に従がい、令呪からこちらに向けて、絶対命令が送られてきている。
「ば…………!? 待て、正気かマスター!? そんなことで令呪を使うヤツが……!」
「うるさーい!
いい、アナタはわたしのサーヴァント! なら、わたしの言い分にも絶対服従ってもんでしょう−−−!?」
「な、なんだと−−−−−−!?」
信じられなかった。こんな事で令呪を使うなどと。
「か、考えなしか君は……! こ、こんな大雑把なことに令呪を使うなど……!」
彼女は後悔の色を浮かべたが。
一つ、令呪が消えていった。
――――で。
場所を移して彼女の部屋。
「……なるほど。君の性質はだいだい理解したぞ、マスター」
さっきの行動から。少なくとも、怒るとなにをするか解らない。
「念の為に訊ねるが。君は令呪がどれほど重要か理解しているのか、マスター」
「し、知ってるわよ。サーヴァントを律する三回きりの命令権でしょ。それがなによ」
彼女は、多少居心地が悪そうに答えた。
やはりわかっていない。
「……はあ、いいかね令呪は――――」
彼女に令呪の特性、長所、短所を詳しく説明する。
「う……じゃあ、わたしのさっきの令呪は無意味って事……?」
気まずそうに訊ねる彼女。
「……通常ならそうなのだが。どうも、君の 師としての性能はケタが違ったらしい」
「?」
予想外に優秀なマスターの事を考えると、顔に隠し切れない喜びと、呆れに関心が混じったものが浮かぶ。
彼女は意味が掴めずきょとんとしていたが。わかったらしく訊いてきた。
「ケタが違ったって――――もしかして。
ちょっと貴方。自分がどんな状態か、正直に話してみなさい」
彼女に令呪によって、心変わりはしないが。彼女の言葉に強い強制を感じる事、逆らうと体が鈍くなる事を説明した。
「――――えっと」
彼女は想わぬ成功に驚いていた。
「前回を撤回しよう、マスター。
若いながら君は卓越した 師だ。
子供と侮り、戦いから遠ざけようとしたのは私の過ちだった。無礼ともども謝ろう」
居を正し、頭を下げて若いマスターに敬意を表する。
「え―――ちょっ、止めてよ、たしかに色々言い合ったけど、そんなのケンカ両成敗っていうか……」
「そうか。いや、話の解るマスターで助かった」
なら遠慮はいらないと、態度を戻す。
「……なんか、切り返し早いわねアンタ」
「なに、誤算は誤算だったが、嬉しい誤算というヤツだからな。これほどの才能があるなら、君を戦いに巻き込むことに異論はない」
「え――――?」
彼女は少し困惑した後、訊ねた。
「じゃあ令呪抜きで、わたしがマスターだと認めるのね?」
「無論だ。先ほどは召喚されたばかりで馴染んでいなかったが、今では完全に繋がった。 師であるなら、契約による繋がりを感じられるだろう」
彼女は早速確認しだす。
「魔力供給量は十分だ。経験的に問題はありそうだが、君の能力はとび抜けている。
普通の 師ならば、サーヴァントを召喚した瞬間に意識を失っているだろう。だというのに君は活力に満ちている。
先ほどの令呪といい、この 量といい―――マスターとして、君は間違いなく一流だ」
正直な感想を述べると、彼女は頬を赤く染め、視線を逸らす。
「っ―――ふ、ふん。今さら褒めたって何もでないけど」
そして気を取り直したか、本題を訊ねてきた。
「……で? 貴方、何のサーヴァント?」
「見て判らないか? ああ、それは結構」
少し彼女をおちょくる。
「……分かったわ、これはマスターとしての質問よ。
ね。貴方、セイバーじゃないの?」
「残念ながら、剣は持っていない」
しばしの沈黙が訪れた後、彼女が言った。
「……ドジったわ。あれだけの宝石を使っておいてセイバーじゃないなんて、目も当てられない」
「む。悪かったな、セイバーでなくて」
「え? あ、うん、そりゃあ痛恨のミスだから残念だけど、悪いのはわたしなんだから―――」
「ああ、そりゃあアーチャーでは派手さにかけるだろうよ。
いいだろう、後で今の暴言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないからな」
「……はい?」
「なに?癇に触ったアーチャー」
「触った。見ていろ、必ず自分は幸運だったと思い知らせてやる」
じっ、と睨みつけ無言で講義する。
「そうね。それじゃあ必ずわたしを後悔させてアーチャー。
そうなったら素直に謝らせて貰うから」
「ああ、忘れるなよマスター。己が召喚した者がどれほどの者か、知って感謝するがいい。
もっとも、その時になって謝られてもこっちの気は晴れんだろうがな」
絶対に謝らせてやると、心に誓う。
「まあいいわ。それでアンタ、何処の英霊なのよ」
とうとう来てしまった。
さっきまでの余裕が消える。
「アーチャー? マスターであるわたしが、サーヴァントである貴方に訊いているんだけど?」
「――――それは秘密だ」
「は……?」
「私がどのようなモノだったかは答えられない。何故かと言うと―――」
「あのね。つまんない理由だったら怒るわよ」
「―――――――それは」
どう言ったらいいかと思案して、重い口を開いた。
「―――何故かと言うと、自分でも分からない」
「はああああああああ!? なによそれ、アンタわたしの事バカにしてるワケ!?」
大声で騒ぎ立てる彼女。
「……マスターを侮辱するつもりはない。
ただ、これは君の不完全な召喚のツケだぞ。どうも記憶に混乱が見られる。自分が何者かは判るのだが、名前や素性がどうも曖昧だ。……まあさして重要な欠落ではないから気にする事はないのだが」
「気にする事はない―――って、気にするわよそんなの!
あんたがどんな英霊か知らなきゃ、どんなに強いか判らないじゃない!」
「なんだ、そんな事は問題ではなかろう。些細な問題だよ、それは」
「些細ってアンタね、相棒の強さが判らないんじゃ作戦の立てようがないでしょ!? そんなんで戦っていけるワケないじゃない!」
「なにを言う。私は君の呼び出したサーヴァントだ。それが最強でない筈がない」
視線を逸らさず、マスターを見据え、絶対の信頼を口にした。
「な――――――――」
絶句する彼女。
「――――――――」
徐々に赤くなる顔。
なぜ。そこで、赤くなるのだろう?
「……ま、いっか。誰にも正体が分からないって事には変わりないんだし……敵を騙すにはまず味方からって言うし……」
彼女はそう言って顔を背けた。
「分かった、しばらく貴方の正体に関しては不問しましょう。
―――それじゃあアーチャー、最初の仕事だけど」
「さっそくか。好戦的だな君は。
それで敵は――――」
何所だ、と続ける私に、彼女はぽいぽいっとほうきとちりとりを投げてよこした。
「――――む?」
思わずほうきとちりとりを握る私に、彼女が言った。
「下の掃除、お願い。アンタが散らかしたんだから、責任もってキレイにしといてね」
「――――――」
呆然とする事十秒。
なんとか復活し、ほうきとちりとりを握りながら、彼女に講義する。
「待て。君はサーヴァントを何だと思っている」
それに彼女はあっさりと。
「使いまでしょ? ちょっと生意気で扱いに困るけど」
なんて言ってきた。
「――――――――」
サーヴァントに掃除をさせるマスターなど。単なる馬鹿なのか、旗や大物なのか。一重に判断が付かなかった。
かといって、こちらも黙っている訳には行かない。
「異議あり。そのような命令はことわ――――」
「いいの? これ、マスターとしての命令よ? マスターの方針に逆らったら体が重くなるんだっけ?」
「む」
「ま、貴方はその程度じゃどうって事ないだろうけど、そのペナルティは居間を掃除するまで続くのよ? そんな状態で、明日から戦っていくのは危ないんじゃない?」
「むむむ」
ほうきを握り締め、考えること数秒。
これを打開する術が見付からず。目を閉じ、忌々しく思いながら。
「了解した。地獄に落ちろマスター」
潔く、命令に従う。
部屋から出る時、彼女は大きな欠伸をしていた。
かちゃ、かちゃ。
「なんで、私がこんな事を……」
グチを言いながらも、ほうきで割れた食器を掃く。
最初は乗る気ではなかったが。やり始めると、見過ごす事ができず。つい、手に力が篭る。
だが。掃除をしていても、今の状況の確認は怠らない。
名前や素性が曖昧と彼女に言ったが。まったく思い出せない訳ではない。
彼女には済まないが、嘘を付いたのではないのだからいいだろう。
今の状況と記憶の照合。それから導き出される答え。
「とうとう。この時が来たか……」
口から出る声は決意と憎しみ、それと悲しみだった。
待ちに待った。いや、待ったかは分からないが。廻って来たチャンス、砂粒ほどの奇跡。
――――運命は、ここから始まる。
「私には運命など、すでに興味はない。ただアイツを―――」
―――っと。
コ−−ン。
「痛ぁ!?」
降ってきた瓦礫が頭に当たった。
「――――――――つ」
頭をさすりながら、痛みで歪む天井を睨んだ。
そして。
「……はあ」
溜息と共に掃除を再開させた。
この夜より、騎士と彼女の戦いが始まる。
続く。
こんにちわー、yamです。この作品は掲載した後、確認をしなかった私の詰めの甘い性格の責任です。はぁ〜。でも他の人の作品が面白いからいけない―――
『偽螺旋剣(カラドボルグ)』――――チュド−−−ン。ぐったり。
やったか? いや、まだ生きてるか