夢を継ぐ一人の男 8,祖国の英雄 M:凛 傾:バトル


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1: Hyperion (2004/03/02 22:18:40)

*すいません。送信エラーで途中で途切れてしまっていた事に
先程気がつきました。
本当に申し訳ありません。再度投稿させていただきます。

*読むときにFateを持っている方は
BackMusicとして「激突する魂」をかける事をオススメします。
私はそれをかけながら書きましたので。




8、祖国の英雄

風の如く走り抜ける。
強化した脚は途方も無い速さを得て、ライダーの後を追う。

「ライダー、・・なの?私はこの辺で・・・・だけれど」
「もうすぐ、・・・・・・・・・からそれを感じています。
リン、近づいてみて判りま・・・、サーヴァントの一人と一緒にいる人は、
・・・のようですね……それも・・・・はあなたに・・・・でしょう」

俺は三人を追うことに精一杯で本来なら耳を傾けなきゃならない話も頭に入ってこない。
何か大事な話をしているみたいだけど、途切れ途切れにしか聞こえない。
鍛錬をしていたとはいえ、今の衛宮士郎の体では一つのことに集中するのが限界だ。
そして気付いた時には洋館に着いていた。

「衛宮くん、言った事ちゃんと守ってよね」
「はぁ……っぁ…解ってるよ遠坂、それに今は先行したところで役に立てそうに無い」
「大丈夫ですか、先輩。先輩は無理しないで後ろに付いていてください」

そうして扉を開ける、広い洋館の入り口の先、階段を上った先には
忘れられるはずも無い青い男と。
遠坂に似ている、あのお嬢様が立っていた。

「ほぉ、どんな泥棒かと思えば中々の奴等じゃないか。
嬢ちゃん、協力すると言ったからには、俺がアレと全力で戦ってもいいのだろう?」
「そうね、構わないわ、ただ殺すのは控えて頂戴。後味が悪いことに変わりはないでしょうけれど」
「わかったよ、俺の槍を受けて生きていられたらの話だけどな」

そう言って男の手に魔槍が握られる。
瞬間、ライダーが俺たちを庇う様に前に出た。

キィイン

槍と短剣が交叉する。だが俺に見えたのはそれまで、
青い槍兵は退いたかと思えば、その勢いを利用してライダーにさら迅い一撃を入れたようだった。
それを防ぐためか桜が何か魔術を放つ。
それに助けられたライダーは不意の突進をなんとか受け止めた。
人には見えることのない速さで人を超えたものが打ち合う。

「な、なんで……なんでここにランサーがいるのよ」

遠坂が呆然として呟く。桜はライダーの援護で手一杯のようだった。
「あら、ミストオサカ御機嫌よう。
あなたも参加しているとは知ってはいましたが、初戦からあなた方を潰す事に
なるとは思ってもいませんでしたわ。
先程届いたばかりのトーナメント表を見たときは、うれしさで全身の魔力が震えましたわ。
競技場であなたの醜態を晒して差し上げるのが本望ですが、泥棒に入られたとあっては仕方がありま

せんわね。
泥棒猫の退治をしなくてはなりませんわ。
まぁ、長話は後にしてもらいます」

そう言って、呆然とする遠坂にルヴィアゼリッタ嬢はガンドを撃ち込まんと構えをとる。
瞬間、本気になった遠坂と同じくらいのガンドが放たれた。

「遠坂!!」
疲れきっていた脚だったが、ガンドが遠坂に命中する前に動いてくれた。
遠坂を跳ね飛ばして横に転がる。あのとんでもない大きさのガンドは、
何も無い絨毯に大きな穴を空けるだけで済んでくれた。
「馬鹿やろう!何ぼぉーとしてるんだよ!いいかげんに目を覚ませ遠坂!」
そう遠坂を平手で打つ。
そんなことしたくなかったが、今はそれが最善。
「……っ!?何よ、叩くことないでしょう!?解ったわよ!やれば良いんでしょうやれば!」
我に返った遠坂は、そういってお返しと言わんばかりのガンドを、ルヴィアゼリッタに向かって放っ

た。
その特大のガンドを前にルヴィアゼリッタ嬢は動こうとしない。
と、思いきや。絨毯にめり込んだ筈のガンドが、
息を吹き返したかのように遠坂のガンドに衝突する。
大きな炸裂音。閃光こそなかったもののその力の大きさが表れていた。
「何でよ!?何でガンドがまだ生きてるわけ!?」
「あら、あなた程の方が、これが何に因るものかも解らないというのですか?
まぁ所詮その程度と言った所でしょうか」

そうして、遠坂を挑発しながら第二弾が放たれる。今度は先程の物よりも小さい。
あんな特大のガンドを撃ち続けていたら、すぐに魔力が尽きると解っての事だろう。
だが、どうすればいいのか、俺たちはあれが自由自在に動かせるものだと、さっきの一撃で知ってい

た。
だが、それを防ぐ術も先程の一撃で解っていた。
「くっ!避けられないなら……相殺するしかないだろう!!」
先の一撃で破れていた絨毯を瞬時に強化して盾の代わりにする。
強化された絨毯はその一撃を見事に防ぎきり、その役目を終えて崩れ落ちた。
「遠坂、ルヴィアの相手一人でできるか?」
そう、無茶だと解って遠坂に聞いた。
「当ったり前じゃない!あんたはさっさと桜の手助けに行きなさいよ!」
「遠坂……勝てよ!」
言いながら走り出した。階段の上では桜とライダーがランサーを相手にしていた。
後ろで遠坂が、叫ぶのが聞こえた。
「もぉぉぉ!あんたって奴は人使いが荒いんだから!」
後で絞られそうだが、今はそんなことを気にしている暇はない。
ランサーに、一撃を見舞えるのはきっと俺の持つ剣だけだから。



「ミストオサカ、私に勝てるとは心外ですわね。見縊って頂いては困りますわ」
「ふん、見縊ってなんかいないわ、ルヴィアゼリッタ。
あなたを舐めているのですわよ。そんな小細工だけで私に勝ったおつもりかしら」
「っく!言わせておけば、あなたって人は!」

ルヴィアゼリッタが再びガンドを放つ。
……視えた!
そう思いながら放たれたガンドに寸分違わぬガンドをぶつける。
だが、あいつが同時に放っていた二段目がその後ろから現れた。
意外だったけれど都合がいい。どうせいまから相殺は無理だし。避けるしかない。
地面を思いっきり蹴って、命中する寸前に体を右に飛ばす。
ガンドはいきなり曲がることができなかったのか。背後にあった壁にめり込む。
だが、さっきと同じならまだ生きているはずだ。
あと少しでまた私を追跡し出すのだろう。
「壁の直前で避けるとは考えましたね。ですがそう何度も続く芸当でもないと思いますが」

その通りだ。そんなことは解ってる。私が確かめたかったのはあいつの指が
ガンドを動かすこときに動いているかどうかということ。
結果は見事に的中。

「悔しいけれど、そのようね……。
ルヴィアゼリッタ、私が空になるのと貴女が空になるの、どちらが早いかしら?」
「あら、私と総力戦をしようっていうのかしら。
無謀にも程があるわミストオサカ。後何度、私のガンドを撃ち漏らさずにいられるかしらね」
そして、壁にめり込んでいたガンドが私を突き刺さんと、飛んでくる。

やっぱり、あの指がいったん術者から離れた魔力を留めさせ、対象を追い続けさせるのだ。
種が解れば後はその指についた指輪を壊すだけ。
だけど、それをしたらランサーがこっちに戻ってくる。
そうなったら、ライダーが追い討ちをかけることが不可能だし、まず私が殺られる。
そんなことはごめんだ。どうにか時間を引き延ばして、さらに彼女の弱点を見つけなければ。

それを片腕で撃ち落して、もう片方でルヴィアにガンドを見舞う。
けれど、あいつはそれをいとも簡単に避けた。
そうだ、態々相殺せずとも避ければいい。私のものはあいつのもののように追跡はしない。

「このぉ!もうヤケよ!どうにでもなりなさいよ!」

間髪いれずに小さなガンドを連射する。だが、それも易々と防がれるだけ。
この戦いが長引けば私が先に尽きるのは明白だった。




しかし、神様は私を見捨てはしなかったみたいだ。
この戦いは元々一チーム三人で戦うものだ。
それなのにさっきから、あっちは彼女とランサーだけ。
後二人、必ず屋敷の何処かに二人が隠れているはずだ
私が連射したガンドは、ただ闇雲に撃っただけじゃない。
彼女の行動パターンを調べるために撃ったものだった。

ルヴィアゼリッタは何故か一箇所だけ、大きな窓の下、束ねられたカーテンの前には、
決して立とうとしなかった。

あそこに誰かがいる。戦いが苦手な誰かが。

「ルヴィアゼリッタ、私の方が不利と判っているなら、
少しぐらい手加減してくれたっていいんじゃなくて?」
「あら、いいですわよ。あなた方がいますぐ、この戦いの負けを認めて、
私の召使いで生涯を過ごすというのでしたら、今すぐにでもやめて差し上げますわ」
「っ!今いったこと、後悔させて差し上げるわ!」

そういって、彼女から放たれたガンドをひたすら撃ち落す。
「まだ、持つだろうけれど……さっさと決着つけなさいよね士郎」

そう呟いて、相殺しきった後、ルヴィアゼリッタの懐に走りこむ。
それと、同時に、彼女は自身の拳を強化した。

まさか私が懐に飛び込んで接近戦を挑んでくるとは思っていなかったのか、
エーデルフェルトのお嬢様は、身を翻して私との距離を離そうとする。

彼女が私から目を離したその一瞬、加減をしたガンドをカーテンに撃つ。
チェックメイト。
後は、適当に時間を引き延ばすだけでいい。
そうして、エーデルフェルトのお嬢様との格闘戦が始まった。






間に合え、間に合え。さっきから感じているランサーの魔力は聖杯戦争のときとは段違いだ。
前回で例えるなば、セイバー、バーサーカー、クラス。
あいつをあそこまで強くしたのはいったい、なんなのか。
早くしなければ、一秒の遅れがライダーと桜の運命を決めるかもしれない。
階段を走りあがりながらその手に干将と莫耶を握る。
少し頭痛がした。慣れたとはいえこれほどの名刀を投影したのだ。
鍛錬を重ねてきたとはいえ、ダメージがないということはない。
ことが、急を要するとはいえ切り札を最初からみせるわけにはいかない。
あれを使うのは本当のチャンスが来たときだけだ。
この剣ならば、後方での援護も可能なはずだ。
あの時アーチャーの腕から流れてきた記憶を辿る。
「ランサーーーー!!」
そう叫びながら奴の注意をライダーから惹く。
同時に両手に携えた剣を投げる。
「!?」  「先輩!?」
ライダーはギリギリのところで耐えていたようだった。
魔眼を開放したライダーでさえてこずっている様子。
そのせいか俺に注意を払うこともできなかったようだ。
「小僧!そんなものでこの俺を倒せると思っているのか?
小賢しいわーーーーーーーーーーー!!」

一旦ライダーから身を離し。
ランサーは手にした槍で迫る双剣を弾き飛ばす。
速い。元々が神速。それにさらに磨きが掛かった彼の速さはどう表現すればいいのか。
そうして、双剣を払った後に再びライダーへと突進する。
そこに桜の魔術が被弾するも、ダメージはなかったようだ。
だが、今の一撃も大魔術に近い一撃。あの時のランサーとは思えない。
なんという対魔力、それはセイバーに迫るのではないか。
「そんな!今の魔術何節だと……」
そんな言葉に目も暮れず、ランサーはライダーへと攻撃を再開する。
その振る舞い、まるでライダーしか戦士と見ていぬかのようだ。

ライダーは短剣の鎖を利用しながら、どうにか槍の一撃を絡みとって防いでいた。
鳴り響く轟音、軋む鎖、ライダーは力では決してランサーに負けていなかった。
だが、あの速さの槍に翻弄され、ジワリジワリと後退していく。
それでもライダーの目を見ることは叶わない。
こちらにその気を向けていないとしても、そこにあるだけでそれは体を重くする。
それを直視してはならない。

「ふん!生前は戦いの女神なんぞに敗れた女風情が、この俺に敵うと思っているのか!?」
そう、叫びながらランサーは距離を離す、
洋館の広い廊下に出たランサーの位置は、ライダーまで間合いにして10m弱。
そうして、あの時と同じ。
その槍には信じられないほどの魔力が吸い寄せられていった。
刻が止まる、そうして今まさに槍は放たれようとしていた。
「我が必中の槍、受けてみろ!!」
ランサーがそれを助走としてライダーに迫らんと走り始めた。
神速を超えた一撃、放てば必ず当たる因果の逆転。
それを防ぐ術はライダーにはない。

だが、その背後。
弾き飛ばされた干将・莫耶が奴の心の臓に再び狙いを定めて翻る。
________貰ったか……!?
「何だと!?」

突如、走り出していたランサーはライダーに背を向けて、
見てすらいなかった背後に迫る双剣を、再びなぎ払う。
普通ならば、絶対に避けえることのできぬ一撃。
それをもこの男は成した。それは彼に掛けられた、女神の加護に因るものだったのか。

だが、その隙をライダーが逃すはずも無い。
彼女はその隙に自らの宝具である騎英の手綱を。
そして、俺も、この時の為に我慢していた、螺旋剣をその手に創り出す。
今日で二度目の投影。普通のものならまだしもこれ程のものを二度も投影した魔術回路は、
焼き切れるかのようにギィギィと泣き声を上げていた。
「先輩!?そんなもの、そんなに何回も投影したら!」
桜の声がするがそんなことは気にしていられない。
桜を守るためにも、これしか俺がこいつに打ち勝つ方法が思い浮かばなかった。
事は一瞬、騎英の手綱の狙いをランサーへと定めるライダー、
そして俺も螺旋剣を携え、その力の矛先を奴に向ける。
そうして、一旦場は静まり返った。

「ちっ!こんな小僧に裏をかかれることになるとはな。だが、しっかりと弁えているようだな」

ランサーが槍を投げようと向けた先には無防備に立つ桜の姿。
奴はその一瞬の内に自らが不利だと判断して、次なる手を打っていた。

「俺がこの槍をそこにいる娘に投げるのと、お前たちの手にする武器が俺を捉えるのと、
いったいどっちが速いかな?」

奴は投げる気なんてさらさらないんだろう。
あいつの性格から考えるに、そんなことはしないはずだ。
奴はこの状況を仕切りなおす為にそれを利用しようというだけ。

「いや、何。お前が手にしているそれも、そこの英霊が持っているものも厄介みてぇだからな。
お前が、それのゆかりのものでなかったとしても、俺に与える損害はでかいはずだ。
どうだ、小僧。そこの娘を助けたいんじゃあねぇのか?」
「お前の言うとおりだ。こちらは武装を解く。だからさっさとゲイ・ボルクを
桜に向けるのをやめるんだな」
「______ちっ!それを出してきたときから検討はついてたが、てめぇ。
どこの野郎だ。何故、俺の正体を知っている」
「それこそ野暮だ。俺はお前に会ったことがある。
無論、お前はそんなことは覚えてもいないだろうがな。
だが、何故だ。俺たちが知っているお前はここまで強くない。
それに_______なによりお前がここにいる理由が判らない」
そうはっきりと口にした。遠回りないい方はこいつの神経を逆撫でするだけだ。

「会ったことがあるだと……?
ハハハッ!そりゃぁいい、つまりお前は俺の全てを知っているというわけか。
いや、確かに。ないとも言い切れんな」

そう豪快に笑いながら、ランサーが帯びていた戦意が薄れ。
桜に向けていた魔槍を降ろす。

「どうやら、下でも俺の嬢ちゃんがお前の相棒に一杯食わされたみてぇだな……
小僧、今回は俺らの負けだ。だが、命までは奪わねぇんだろう?
俺もそこの娘を助けてやったんだ。それぐらいは許されると思うんだがな。
お前がそこの娘が大事なように、俺も下の嬢ちゃんが気に入っていてな。
お前の疑問も答えてやる」

ランサーはそういって、俺にこの場を納める提案をしてきた。
遠坂の奴、本当にルヴィアゼリッタに勝ったのか……?
俺たちとしては初戦が勝ち進めるのは申し分ない。
「いいだろう、俺たちとしては戦いに勝てればそれで申し分ない。
だが、嬢ちゃん達ってなんなんだ?俺は下には遠坂とルヴィアゼリッタ嬢しか
いないと、記憶してたんだが」

「まぁ、戦力になるのは俺と嬢ちゃんだけさ。
後の二人は隠れて見守ってるだけだ。だがそれも憎めない奴らなんでね」

「まぁいいさ、それよりも。お前がここにいる訳を教えてもらえないのか?」
そうだ、不思議だ。聖杯に似たものが降りてくるとライダーは言っていたけど、
それでもこいつがまたここに召喚されているのはおかしい。
どんな確率だ、それ。

「おいおい、お前、俺の真名を知っているんだろう?
だったら言うまでも無いんじゃねぇのか?
俺は知っての通り、クー・フーリン。アイルランドの英雄だ。
まぁ、確かにここはその島じゃあねぇけどよ。
今はこの国には、その一部が含まれているのだろう?
だから、北部のみとはいえ、祖国を守るためにここに召喚されたってわけよ」

そうか、奴はアイルランドの大英雄。祖国が危険に晒されたとあれば
召喚されてもおかしくはないのだろう。
だから、その一部が含まれるこの国では、こんなにも大きな力を持っていたのか。

「ちょっと待て、お前が召喚されたってことは。つまり……」

「そういうことだ、この国で今、危機に晒されるほどの大事が起こってるってこった。
どこのどいつだが知らねぇが、大層なことをやらかそうしているらしいなぁ」

それはおかしい。これは悪魔で協会主催の魔術大会ではないのか。
それが何故この国の危機になるのだろう。




「はぁ、どうやら。大師父がなんかやらかしたみたいね」

そう溜息をつきながら、
遠坂が階段を上がって来た。
その後ろにはルヴィアゼリッタ嬢が、気に入らない様子で階段を上がって来た。
そしてそのサイドには何故か。ぼぉー、と顔を紅く染めた後田くんと高藤くん。
あぁ、彼らがランサーの言っていた憎めない二人というわけか。
それにしても彼らはユニーク部門ではなかったのか。

「そっちの嬢ちゃんは心当たりがあるみてぇだな。
小僧、それにそっちの嬢ちゃん。どうだ、この場の勝ちはくれてやる。
俺の目的はそれを止めることだからな。
_______それでも、俺達と決着をつけるか……?」

ランサーはエーデルフェルトのお嬢様が顔を真っ青にしているのも気にせずに、
俺達に問いかけてきた。
だが、奴の目は本気だ。
うん、と言わなければ誰かは帰れなくなるぞ。
そう、奴の獣のような瞳が告げていた。

「あら、私は別にランサーの言うとおりでいいけれど」

遠坂から返ってきたのはそんな答え。
妥当だろう。
これ以上戦闘を続けても意味が無い。
初戦を突破するという目標は果たしたのだから問題はない。

「先輩や姉さんがそういうのなら私も文句はありませんよ」
「そうですね、サクラ。私も賛成だ。
これ以上ランサーと戦闘を続ければ、無意味に戦力を削がれるだけでしょう」

桜とライダーも納得してくれたようだった。

「そうか、ありがとうよ。じゃあ、さっさと帰りな。
一応ここは、この嬢ちゃんの家だ。
それに、これ以上ここに留まっていれば、その恨み辛みを聞かされることになるぜ?」

ランサーはルヴィアゼリッタ嬢はこっちに任せてさっさと帰れ、と
手をひらひらとしながら、行け、とジェスチャーをしている。
真っ先に逃げ出したのは、何故かライダーで、それに続いて走り出したのは俺、
その後から、一番の標的になりそうな遠坂と桜が一緒に、エーデルフェルトの館から逃げ出した。


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