運命の輪 5 (傾 ほのぼの


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1: (2004/03/02 22:01:00)


 「修行が足らぬ。精進精進。色即是空、色欲断つべし!」

雑念、邪念を振り払い、布団に潜る。
一成の口癖を使ってしまうほど切羽詰っていたようだ。

   ◇


――運命の輪―― 5話 ”A Cold?”


   ◇

夢を見た。それは子供の頃の夢。
今の俺では十年以上経っているのだが、世界では十年前の事。
酷い火事だった。自分以外の者達は全て死んでいった。
助けられる者も、俺は見捨てて逃げ去った。心に出来たのは空虚。
人を見捨てて逃げ去った俺には、正義の味方という幻想に憧れるしかなかった。
しかし、ソレも間違いだと知った。
俺がソレを追い求めても、辿り着くのは絶望だけだと、アイツが教えてくれた。
それなのに

――今日の夢は違っていた。

夢の中の空には、黒い太陽があった。
夜なのに太陽があることも、太陽が黒いことも、特別不思議に感じない。
周りの全てはあべこべだった。
酷く熱く、恐ろしく寒い。
沸点を越えたらぐるりと回って凍結温度。
燃える血はすぐに固まり止まる、目に映るものはあべこべ。
だからそれぐらいは、逆になっていても当然だと思った。

しかし、逃げ出す。コわくなって逃げダした。
火は怖くは無い。
あの黒い影に比べれば、焼け死ぬのはニンゲンらしくて正しいことだと思った。
逃げた。
アレに捕まったら、もっと怖いところにツれて行かれるに決まっていたからからだ。

――――そこからは何時もと同じ。

ぼんやりと空を見て、雨が降ると知って、伸ばした手はゆっくりと地面に落ちて――

目が覚めた。
いままでに何度も見た夢だったが、それは昔の話だ。
しかし、あれはなんだったのか。あんなものは、初めて見た。
知らないし、憶えていない、そもそも見てもいない。

 「っ――――」

……吐き気に襲われる。眩暈がして、体が倒れそうになる。
体は汗だくだった。早く起きて、着替えて朝食を作らなければと体を起こす。
が、力が入らなくて、立ち上がれない。

 「あ……れ?」

喋るのもままならない。手を額にあてると、少し熱かった。

 「風邪、かな」

風邪なんて引いたのは初めてだ。少し驚く。外傷は軽いのから、酷いものまで絶えなかったが病気は初めてだった。
風邪を引いているならおかしな夢の一つや二つ見るだろう。

 「―――、あ」

その考えが浮かんで一つの光景を思い出した。
それはもう一つの夢。世間一般で淫夢と呼ばれるものだった。
しかも年齢制限あり。色々と、ヤバイ。
なにしろ相手はあの遠坂で、しかも余りにもリアルだったからだ。

 「っ、なんで、どうして、どのように!?」

身を起こし、色々確認する。
だるいとか、風邪だとか言ってる場合ではない。どんな状態であっても確かめなければならないのだ。
なにかあれば秘密裏に証拠隠滅、すみやかに漂白・脱水しなくては今後の発言権に支障をきたす。
つまり、我が家での俺の地位が大貧民クラスになってしまう。

――良かった。別にそうゆうコトは、ないようでした。

ばふりと倒れる。
その音に気付いたセイバーが襖越しに声を掛けてくれた。
これだけで気付くんだ、あれはただの夢。俺の妄想の産物だろう。
襖が開きセイバーが入ってくる。

――さて、朝飯のことを我が家のエンゲル係数の悪魔にどう説明しよう…。

   ◇

俺の熱は三十七度六分。朝飯の調理は免除となった。
桜の方は熱が引いて、もう大丈夫だそうだ。
それで、俺の熱は桜から移ったものだと考えたらしく。
藤ねえに、熱が移るような真似をしちゃったの?と言われ、少しこの馬鹿虎を何とかして欲しいと思う。
その後、誤解は解けたが、俺にそんな甲斐性はない、と侮辱されました。
藤ねえを見送り、部屋に戻るとなにやら深刻な顔をした桜がやってきた。
俺の看病のために学校を休むそうだ。
有り難い提案だったので、昼食の事とかを色々頼んでおきました。

午前十時、お粥を食べて体は元気になった。
学校に行くぐらいのことはできる。
ただ、栄養が極度に足りなくなっただけじゃないか?と思い始める程だった。
桜に絶対安静と止められてしまったのだが。
その後は、布団を換えたり、着替えを持ってきてもらったりで桜の完璧な看護ぶりに感動し、

 「遺伝子にスキルが組み込まれてるんだー!」

と負け惜しみを言ってみた。

桜はリンゴを剥いて持ってきて、俺はそれをおいしくいただいて横になっている。
実際、もう元気なのだが、何かする度に桜に叱られたので大人しくしている。
俺に世話を焼いてくれる桜の姿を見て、あることに気がついた。
この家がいつもキレイだったこと。
使わない部屋も手入れされていて切嗣(オヤジ)がいた頃のような活気、生活の匂いがしていた理由。
全て桜のおかげだった。桜は俺以上にこの家を守ってくれていた。
あんまりにも当たり前すぎて気付かなかった事。
藤ねえと俺だけでは得られないものを、桜は運んできてくれたのだ。

それから色々とあって、今日見た夢のことを聞かれた。
どうにか、こうにか誤魔化して脱出する。
正直、死ぬかと思いました。

   ◇

昼食後、後片付けをしていると、セイバーに俺の魔力が不足していると言われた。
柳洞寺に魔力を奪うような仕掛けでもあったのだろう、とはセイバーの言い分。
まあ、そうだろうと納得してテーブルを拭いておいた。
案外、セイバーと桜は仲がいいようだ。和気藹々としている。
そんな二人の後姿を見ていると午後一時、昼休みにはちょうどいい時間になった。
そして、イリヤに明日も会おうと言っていたのを思い出し、コソコソと家を出た。
書置きは残しておいたので大丈夫だろう。

公園にはイリヤは居なかった。いや、居たのだけど俺が気付かなかった。
夕飯のおかずの材料を買うついでに買っておいた、たい焼きを献上した。
謝罪の気持ち、誠意というやつだ。
会話の途中でイリヤの住んでいる場所を見せてくれることになった。
本当は知っているが、好意は大事にしておきたかった。
イリヤは、魔術で俺の視覚を他のものに移し、道順などの説明をしてくれた。
”意識の転移”というらしい。
眼球から脳に繋がる神経を、眼球からではなく『違うもの』から脳に繋げる。
これの応用が遠見や憑依の魔術だそうだ。
いつかの遠坂の魔術講義で聞いたことがあった。
その時も同じ事をされたが、やはり気持ちが悪い。
それから、魔術講義らしきものを説明され、聴いていた。

午後三時。一時間が経った。
また明日も会おうと約束し、家に帰る。
その返答にイリヤは嬉しそうに笑って、去っていった。

   ◇

玄関で、怒れる二人の婦女子に出迎えられた。
書置きには二時に帰ると記しておいたが、二時間も遅くなってしまった。それが理由のようだ。
セイバーは俺の鍛錬をしてやろうと言っているし、桜も賛成している。
選択肢は一つしか残っていないらしい。

それから後は道場で剣の稽古を数時間はしていた。
セイバーは俺の実力を賞賛していた。
まだ五回に一回、セイバーに攻撃が当たれば良い方。
これから訓練すれば、それなりの強さにはなれるそうだ。

遠坂から電話があり、怒鳴られた。
無断で学校を休んだために、他のマスターに殺られたと思ったらしい。
明日は絶対に学校に来いと命令され、電話を切られた。

居間に居た桜に、遠坂からの電話を俺が喜んでいると言われた。
そんな事はないのだが…?

   ◇

朝、昼のお礼で、夕食は俺が作ることになっている。
調理の最中に来客があった。
桜が玄関に行ったが、胸騒ぎがして俺は玄関の様子を見に行った。
桜が鍵を開けると、扉を乱暴に開いて慎二が家に入ってきた。
桜は慎二に殴り飛ばされ、尻餅をつく。
まだ殴りかかろうとする慎二を止める。
慎二は侮辱する言葉を、止めることなく吐き散らす。
その傍若無人な態度に、いつか心に留めた暗い感情。殺意が溢れ出した。
桜の前で投影を使うわけにはいかない。両の拳を『強化』して殴りかかる。
しかしそれは、

――またも、桜自身に止められた。

慎二は去り、夕食の支度を再開する。
そして、桜が倒れた。
風邪が治りきっていなかったのだろう。酷い熱があった。
風邪気味の体で無理をしていたせいだ。
先程のことで、心身ともに疲労が限界に達したのだろう。
また抱き上げて客間に連れて行く。

桜を寝かしつけて、部屋を後にする。
夕飯のメニューを変更してお粥を作ってやらないといけない。

十時前。夕飯を終え、巡回の支度を始めている時間になった。
しかし、桜の事が心配でそんな事をする気にはなれなかった。
セイバーはあっさりと提案を受け入れて、引き下がってくれた。
俺の体調も思わしくないために、無理をされて倒れられたら困る。
そう言ってくれたのは嬉しいが、褒美を要求されると、それ目当ての賛成と思えて仕方ない。
まあ、『お茶うけをください』という意思表示と判ったから良いのだが。

   ◇

投影の訓練中に桜が土倉に来た。
投影した武器を慌てて隠し、振り返った瞬間、固まる。
そんな桜の姿は見た事が無かった。変な意味ではなく『私服の』という意味だ。
しっかりとした足取りでやって来る、熱は引いているようだった。
眠れないようなので、少し話し相手になってやる。
昔の話から今の話まで、何気ないことを話し合う。
そんななか、

 「もしわたしが悪い人になったら許せませんか?」

ひとつの質問が酷く心に残った。
どういう意図かはわからないが、正直に答えておこう。

 「ああ。桜が悪いコトをしたら怒る。きっと、他のヤツより何倍も怒ると思う」」

その質問の後、桜は客間に帰っていった。
その質問の意味を考え、少し俺は不安になってしまった。
悪い予感がする。嫌な考えが頭を過ぎる。
どうか、この予感が本当にならないよう、願った。


to be Continued


あとがき

本編(原作)と同じように進んでます〜、突拍子も無い考えは無いかな〜?どうも鴉です。
六日目が終わったが、オリジナル性が足りない!どうしよ、マジで。
次の回で挽回したいな。

副題の意味は『風邪?』です。(たぶん)

次回、ランサーは助かるのだろうか!? お楽しみに♪


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