〜黄金の別離〜
「最後に、一つだけ伝えないと」
強く、意思の篭もった声で彼女は言った。
「ああ、どんな?」
精一杯の強がりで、いつも通りに聞き返す。
セイバーの体が揺れる。
振り向いた姿。
彼女はまっすぐな瞳で、後悔のない声で、
「シロウ----------このバットを地面に垂直に立て、先っちょに頭をつけてグルグル回ってください」
そんな言葉を、口にした。
「ああ、わかったよ」
言われた通りグルグル回る。
風が吹いた。
朝日で眩んでいた目をわすかに閉じて、開く。
「--------------」
驚きはなかったと思う。そんな気がしていたのだ。
別れは。
消える時は、きっとこうじゃないかと思っていた。
「ふふ、シロウ、どうしたのです。私はここですよ」
後ろから声がした。どうやらグルグル回ったせいで、セイバーがどこにいるか分からなくなったらしい。
「こいつぅ〜、やったなぁ〜、このお茶目さんめ」
「ほほほ、さあシロウ、捕まえてごらんなさい」
セイバーを捕まえたいのに足がもつれて追いつけない。
俺達は荒野になった境内を走っていった。
〜聖杯に飲まれながらシロウに天の鎖をまきつけるギルガメッシュ〜
「っ……、はっ----------」
目眩がする。体はもう踏ん張っていられない。
……死ぬ。最後の最後で、耐えられなかった…。
「-----って、舐めるな……!こんなところで道連れになんてされてたまるか!」
萎えかけた手足を奮い立たせる。この腕がちぎれるのが先が、やつの鎖がちぎれうのが先か、それとも奴が這い出してくるのが先か。
どっちだっていい。こうなったら最後の最後まで全力で抗って派手に散ってやろうじゃないか…!
”……ふん。お前の勝手だが、その前に右に避けろ”
「え?」
咄嗟に振り向く。視線は遠く、荒野になった境内に向けられる。
スコッ
頭になんかささった。
”ああ、何をしている!お箸を持つ手の方が右で、茶碗をもつ手の方が左だろうが!そんなこと間違えんなよぉ!?”
「バ----------バカか貴様ぁぁああああ……!」
俺はギルと一緒に穴に落ちてしまった。
〜藤ねえを人質に、セイバーに刃を突き刺すキャスター〜
「--------だめだ、止めてくれセイバー……!!!」
「な-----シロウ、令呪を----------」
セイバーの動きが止まる。
令呪という絶対命令権によって行動を封じられたセイバー。
そこへ
とすん、と。
雪に足跡をつけるような容易さで、短刀が突き立てられた。
「な-----------」
時間が止まったような錯覚。
セイバーは呆然と自らの胸を見下ろしている。
「キャスター、貴様」
「そう。これが私の宝具よセイバー。なんの殺傷能力もない、儀礼用の鍵にすぎない。
けれど--------これはね、あらゆる契約を覆す裏切りの刃」
「っ-----------!?」
赤い光が漏れる。禍々しい魔力の奔流。
それはセイバーの全身に行き渡り、彼女を律していたあらゆうるルールを破壊し尽し--------
俺と、セイバーの繋がりを完全に絶っていた。
「は、あ-----------!」
床に崩れ落ちるセイバー。
「セイバー、大丈夫か!」
俺は思わず声をかける。
「うるせえ!テメエ、牛乳ふいた雑巾の匂いがしてクセーんだよ!!!」
「な--------------」
なんかセイバーにヒドイこと言われた…
「驚いたかしら。これが私の宝具、”カップルブレイカー”。この世界のあらゆるカップルを別れされる、裏切りと否定の剣」
…イヤな宝具だなあ。
とりあえず皆でキャスターを袋にした。
〜花鳥風月〜
「----------------行け」
視線を合わせることなく剣士は告げた。
その言葉にどれだけ意の味が込められていたのか。
セイバーは剣を引き抜き、全速で階段を駆け上がっていく。
「ふ--------美しい小鳥だと思ったのだがな。その実、獅子の類であった」
呟いて、それも当然、と剣士は笑った。
燕でさえかわせぬものをかわしたのだ。それが愛でるモノである筈がない。
「---------ふむ。女を見る目には自信があったのだが。どちらも修行不足という事か」
一人ごちて、剣士を肩を竦めた。
そのカタチ-------雅な陣羽織は、既に色を失っている。
腹を突き破られ、鮮血に濡れた足元さえ希薄。
それを事も無げに見下ろし、さて、と石畳に腰を下ろす。
「ほぁぁああああああ!!」
剣士は痛がっている。
「ふ、そうであったな、私はキレ痔であった。こんなに勢いよく座っては痛むのも当然か」
木々が揺れる。
山頂からの吹き下ろしが雑木林を揺らしていく。
花が散り鳥が消え風が止み、虚空の月さえ翳った頃。
そこにいた筈の剣士は、その存在自体が幻だったかのように、跡形もなく消え去っていた。
〜レイン〜
……ぎこちなく桜を抱く腕。
今はそうするしか出来ないとしても、決心したものだけは、揺るぎのない本物だった。
「先輩、わたし----------」
「もう泣くな。桜が悪いヤツだってコトは、よくわかったから」
「---------------」
息を呑む音。
罪悪と後悔が混ざった桜の戸惑い。
それを否定するように、精一杯の気持ちをつげる。
「---------だから、俺が守る。どんな事になっても、桜自身が桜を殺そうとしても--------俺が、桜
を守るよ」
「せん、ぱい」
「約束する。俺は、桜だけの正義の味方になる」
「じゃあこれからの先輩は『お花見戦隊 サクラマン』ですね。メンバーはサクラレッド、サクラブルー、サクラブラック、サクラピンクでどうですか?活動はやっぱり春だけでしょうか」
「いや、サクラだけ、っていうのはそういう意味じゃないんだが…」